阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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あ、あの……もしもし……うん……注文入ったみたいで……
うん、そうです……パスタとサラダをって……なんだかすごい大きな音するね……えへへ
それでその……お願いしてもいい、かな……え?



今、酔っ払った鰐と鳩を相手に交戦中……?
ついでに蠍まで参戦してきて手が空かないから、すぐに援護を……?
このままじゃ先生の貞操が持たない時が来る……?



な、なんでそんな事になってるの……???



知るべきでない事或いは古関ウイの憂鬱なランチタイム

 

─── 先生へ協力を要請するのはやめておきなさい

 

 

 

「あの……それはどういう……?」

 

 このキヴォトスで『先生』と呼ぶのなら、それは『彼』の事になります。

シャーレの先生。

補習授業部の事も、アズサちゃんの事も、アビドスのみなさんの事も、今まで私達を何度も助けてくれた『信頼できる大人』。

彼と会って話したどの生徒に聞いたって、本当に困ったのなら彼を頼るべきだと助言されると思います。

それぐらい素敵な方です。

その彼に協力を依頼するな、と彼女は仰られる。

まるであの時受けた、黒服さんの忠告のように。

 

『悪し様な推測は……貴女はしない、わね。でも一応言っておくけれど、私がシャーレの先生に協力を依頼するべきじゃないというのは何も内心の含み、彼と敵対関係にあったからとかそういうのじゃないわ』

 

 それは確かに先ほどのお話にもありました。

でも彼女はその時に()()()()()、確かにそう仰いました。

注意と、調月会長が受け止めておられるのなら。

それはきっと彼と彼女の関係は先生と生徒(そういう事)ということ。

だからそういった意味で調月会長が先生の協力を拒否するだなんて思いません。

 

 何より、調月会長はナギサ様と同じぐらい*1間違いなく聡明な方です。

一つの自治区の代表者である生徒会長に、それもあのミレニアムの会長に選ばれた女性(ひと)*2

なら私に理解できないその言葉にもきっと大事な意味があると思いました。

 

 私は無言で続きを待ち続けます。

 

『……そうね、これはあくまで推測よ。それも経験則に基づいた、ね』

 

 それに彼女は歯切れの少し悪い前置きをしてから、話始めてくださいました。

 

『シャーレの先生はこれまでも多くの問題を解決してきた。能力も人格面も、これ以上ないほど我々が抱えている事態の解決に。ただ、それでも彼を聖杯戦争に介入させるべきじゃないと私は思う。勿論政治的な配慮というもっともらしい理由もあるわ』

 

 ただそれだけでは納得しないでしょう、と彼女は確認するように尋ねてくださったので、ゆっくりと頷きを返す。

 

 政治的な配慮、というのも何も自治区への内政干渉だとかそういう話ではないでしょう。

そもそも先生の立場は連邦生徒会直轄の連邦捜査部という()()()()()()の顧問。

組織の性質上、自治区の内外を問わない活動が連邦生徒会はもちろん各校及び自治区によって保障されています。

 

 ならその政治的な配慮というのはもっと複雑か、或いは本当に建前だけの物でしょう。

確かにそれを聞いても私には納得しがたい話でしょう。

だからこそ彼女は。

 

 

 

『……さっき言った、推測。それはあのヒマリがシャーレの先生を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を逆算して至った結論よ』

 

 

 

 私には分からない内容ではありますけど、建前ではなく本音でしっかりと語ってくれます。

 

『先生に知られてはいけない、或いは先生を介入させてはいけない理由をヒマリは知っている』

 

 明星ヒマリさん。

ユウカさん達が言うには『全知』*3というミレニアムの名誉学位を授与された天才。

そして調月会長とは長い付き合いのようです*4

 

 よく知っているお友達で私なんかじゃ及びもつかないぐらい頭が良いヒマリさん。

そんな彼女の行動から調月会長は違和感を感じ取ったのだと言います。

見れば、ユウカさんも少し困惑しつつも納得できる、そういう複雑な顔をされています。

信じていないとかではなく、まるで言われてみれば確かにと腑に落ちて、だからこそ信じられないと言わんばかりに。

 

『それが分かるまで、私達は先生に直接的な協力を依頼するべきではないわ』

 

 私は明星ヒマリさんをよく知りません。

彼女が何を思ってどんな風に行動して、そして今トキさんと敵対しているのか。

それを読み解くのは、多少の推測は出来ても直接お会いしたり情報を集めきっていない今の段階では無理があります。

 

 でも二人は、明星さんの為人を知っている。

これまで一緒に過ごしてきた彼女のお友達である調月会長やユウカさんは、彼女の行動に意味があると考えている。

明星ヒマリさんは先生に協力を頼まなかった。

若しくは()()()()()()

その理由が分かるまでは大々的に動くべきではないと、考えている。

 

 私は、私よりも明星ヒマリさんの事をよく知るお二人がそう考えている以上、私としてはその考えを尊重するべきだと判断しました。

先生にやっぱりまだ会えない、と思うとちょっぴり寂しいですけどね。

 

『もっともこれはあくまでも、私の推測。それもここでは提示できる根拠に乏しい……ともすれば妄想。信じてと、そう言う他ないわ』

 

 そう締めくくると私の返事を待たずに彼女、というかアバンギャルド君はキャタピラを動かしだす。

 

『行くわよ、ユウカ』

 

「へ?いえ、あのリオ会長、どちらへ?」

 

 慌てるユウカさんを気にせずアバンギャルド君は病室の扉を開けながら決まってるでしょと言う。

 

『もう良い時間よ?阿慈谷さんの分も含めてお昼を用意しなくちゃいけないわ』

 

 アバンギャルド君は介護や買い物補助でも需要がある*5程度には凡そ万能よ、とそう言って彼女はユウカちゃんを連れて部屋を出て行ってしまわれました。

 

 

 

 

 

 

 きゅらきゅらと、ゴムがリノリウムの上を転がる音に続く中。

控えめな声が機械へ向かって掛けられた。

 

「あの……会長、さっきの話は……?」

 

その言葉に調月リオは振り向かずに答えた。

 

『情報が確定していない以上、私から言える事はないわ。でも、もしそうなのだとしたら。私達が本当に必要なのは……私のやるべき事は探偵役じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「会長……一体何を?」

 

 解答は拒否。

そしてあまりにも抽象的過ぎた。

それを、自分の解答とユウカの反応に対して()()()()()とリオは内心で安堵する。

己の推理が正しいのならばどの道、もう()()()()()()()()

 

『マーリン、だったかしら。三つ目の秘密……なるほど、よく言った物ね。確かにこの秘密はあまりに重すぎる。私の予測のどちらが正しかったとしても、もしくはどちらも正しかったとしても。その事実は彼女達を傷つける』

 

 だが、と内心で考える。

果たして自分の推測は本当に正しいのだろうかと。少なくとも自分がマスターに選ばれなかった理由が、そして他ならぬ彼女が選ばれなかった理由が不明であり、だからこそリオの推測には反証の余地がまだ残っていた。

 

『……ユウカ、貴女がどういう決断をするのか、好きにすればいいわ。ただ少なくとも今、私の考えを話したところで貴女も私と同じ結論にしか至らない。それは貴女の能力がとかの話じゃない。もっと非合理的な部分の話』

 

 彼女にとってそれは事実だった。

早瀬ユウカはたとえ今、何を知ったとしても阿慈谷ヒフミと才羽モモイの味方をする。

アリスの時と同じで、そして今度はリオもそうだった。

だからリオの推測を語る必要はないと、彼女は結論を自分の中で下した。

 

『ただもしも、この戦いで彼女達が倒れたのなら……そうね、その時は』

 

 それでもその一言に踏み込んだのは早瀬ユウカという後輩への信頼からだろう。

語るべきでないと伝えたところで、ユウカはいずれ気づくだろう。

早瀬ユウカという人間はある種、自分を除けばあの病室にいた中で数少ないそれが出来る人間だとリオは信頼していたし、それをしてほしくないとも考えていた。

 

 だからこそ、己の意思を伝えておくのだ。

ハッピーエンドが叶わなかったその先で、もしもそうなってしまったのなら。

これ以上の犠牲を出さない為に。

 

 

 

 

 

 

『───私はトキの意思を継ぐわ』

 

 

 

 

 

 

 

彼女はそう、宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼時であった。

それ故に古関ウイは悩んでいた。

 

 ここ数日の業務*6やそれとは別途、請け負ってしまった案件*7を複数抱えている事もあって、ここ数日は自宅に帰れないで古書館に籠もりきりでいる。

 

 当初は休憩室に備え付けられた冷蔵庫にそこそこの食料があったが、それも今朝方には底を尽きた。

古関ウイは食事に頓着はしない風に見られるが、これでも一応は花の女子高生。

一端に美容にだって気を使うし、髪の手入れだって欠かさない。

食事はきちんと三食、一汁三菜。

美は内面とはよく言ったもの。

意外にも健康的な食事を摂っているのだ。

 

 とはいえ、それも今朝までの話だが。

なにせ、今冷蔵庫はすっからかん。

週末に作り置きした常備菜の類もすっかり切らしてしまっていた。

あるのは戸棚にある茶菓子ぐらい。

勿論、滅多にない来客用のそれを食べて今日を凌ぐという手は彼女の脳内で早々に思いついている。

 

 だが、滅多にないという事は裏を返せばごく稀にあるという話。

ましてやウイ自身は関係ないとしても聖杯戦争という特大の緊急事態にトリニティは見舞われている。そうである以上、いつ、ティーパーティから七面倒な仕事*8が舞い込むかなぞ分かった物ではなく、数少ない茶菓子を食べてしまってはその面倒ごとを持ち込んできた相手*9*10*11に出す物がなくなってしまう。

 

 かといって外に出る、という選択肢はウイには難しい。

まず暑い。

次に面倒。

最後に立ち上がるのが億劫。

実に出不精の極み。

それこそが日陰に生きる蔵知の隠者。

古書館の魔術師と呼ばれる由縁の一つでもあったのだから。

 

故に、古関ウイ17歳。

 

一世一代の挑戦。

 

 

 

即ち───食品配達サービスの初利用であった。

 

 

 

 そしてそれこそが古関ウイを悩ませていた。

アプリで注文した物はいいが、古書館の来館用出入り口に食品を置かれる訳にいかない。

そして裏口の委員用出入り口というのは立ち入り禁止なのは勿論、そもそも一部の例外*12を除けばどこにあるとも伝えていない上にやたら分かりにくい場所にあり、おまけに出入りには一々、電子と物理的な鍵の開錠を求められる無駄に厳重な場所。

そんな委員用出入り口に配達員を口頭で説明して誘導する、というのはあまりに不親切が過ぎる。

つまり置き配という選択肢はない。

更に残念なことに、配達員が来た時に鳴らすインターホンも古書館には存在しない。

 

 結論、彼女は配達員が到着した旨を伝える電話を待っているわけで、それ故に古関ウイは苦悩を抱く。

 

 会うのはいいのだ。

料金は既に支払い済み。

入口で配達員から弁当を受け取る、ただそれだけ。会話なんて感謝の五文字か十一文字。

秒数にして僅か2秒で事足りる。

 

 問題はその前、配達員が到着しインターホンがない為に注文者であるウイに到着した旨を伝える電話、その時に()()()()()

 

「(落ち着きなさい、古関ウイ……私は出来ます、出来る子です……)」

 

 頭の中を駆け巡るは幾多の駆け引き。

ウイは図書委員会の委員長だ。

その役職に見合うのは勿論、書を愛するものだからこれまで読んできた書物の量は膨大と称する他ない。

 

 凡ゆる専門職のスタッフすら舌を巻く知識量、必要なデータを確実に見つけ出す参考調査能力、そしてそれらを駆使して経験重ねてきた熟練かつ緻密さを極めた修復技術。

それこそが古関ウイの真骨頂。

 

「(まずは練習です……もしも電話がかかってきたら……いきますよ、いけますよ、よし……さん、はいっ)」

 

 つまり、コミュニケーションだって数多くの会話術、ビジネスコミュニケーション、果ては心理学の専門書を読破した彼女はコミュニケーションという分野においてもその知識量は一流というべきだろう。

 

 

 

 

 

 

「(こっんわっぴー!おべんと持ってきてくれてありがとにゃん!……駄目、こんなのドン引き……!)」

 

 

 

 

 

 

 まあ、だからといってその知識を活かせるかというと話は別なのだが。

 

 

 

「(暑い中、遠路はるばるお越し頂き誠にありがとうございます。つきましては……固すぎる!)」

 

 

 

 そう、そうなのだ。

才女、古関ウイ。

彼女には欠点があった、それもとびきりの。

 

 

 

「(おっつー!持ってきてくれてありがとねー!……くっ!今度は軽い……!)」

 

 

 

 面と向かってコミュニケーションを取る、それも全くの初対面で赤の他人と。

そういう経験が致命的に不足していたのだ。

 

 しかも今回のケースは、このキヴォトスで現在順調に利益を伸ばしつつある最新鋭のサービスである食品配達サービスの配達員との会話。

 

 

 

「(お弁当を置いて退がり給え───王の御前であるぞ?……どうしてそうなるのっ!?)」

 

 

 

 ないのだ、なかったのだ。

宅配の荷物を基本的に中央図書館宛に設定してきた古関ウイには配達員と会話する経験が、まったくない。

だからこそ、ウイは悩んでいた。

どんな風に電話口で出るべきかと。

 

 

 

「(古書館に持ってきてもらう以上、相手にはまず間違いなく私が注文している事が分かっている。たとえほんの少しの関わりとはいえ、図書委員会の古関ウイが頼んだ以上はあまり下手な対応は出来ない───!)」

 

 

 

 だが、無情。

電子音、鳴る───。

 

 画面を見たくなくなくて伏せていた彼女のスマートフォンから鳴り渡るコール。

戦慄が奔る。

宅配予定より明らかに早い時間の電話。

だが宅配業である以上、運送上でのトラブルが起きた連絡かもしれない。

少なくとも真昼間に、しかも狙い撃つかのようなこの時間に自分宛の電話。

 

ウイ、葛藤。

暫し、逡巡。

 

 

 

「(電話着ましたかなんて話しましょう救護騎士団からの蔵書依頼は処理しましたっけ諦めてせめてハキハキとお腹減りましたね明日は午後から定例会議ですねわっぴーここは落ち着いて深呼吸を二つもプリン食べちゃいます)」

 

 

 

 深呼吸一つ。

古関ウイ、決意を固める。

そっとスマートフォンを手に取り、だが焦りからか着信画面も見ないまま。

───電話に出た。

 

 

 

 

 

 

「ア、アツイナカアリガトウゴザイマスオベントウハソノママゲンカンマエニオイトイテクダサイ」

 

 

 

 

 

 

───ださい。

吸った息を全て吐き出す事で可能とした高速詠唱。

だが、僅か一息で伝えるべき要件を言い切った。

 

 

 

「(完璧……)」

 

 

 

そんなわけがない。

だが本人にとっては会心の一撃。

最早、彼女に恐れはない。

形はどうあれ言うべき事は全て口から放出したのだから。

さあ後は弁当をと革張りの椅子から立ちあがろうとして。

 

 

 

『……えぇっと、あの……古関ウイ先輩、ですよね?挨拶が遅れてごめんなさい。昨日、ヒフミちゃん達と一緒に伺ったミレニアムの才羽ミドリです』

 

 

 

「……ひょぇ?」

 

 思考は、止まった。

ウイの耳に飛び込んできたのは控えめな落ち着いた声。

その言葉を頼りに記憶を辿れば、なるほど手際よくアイスティーを用意してくれたミレニアム生が朧げながら浮かんでくる。

彼女が、配達員なのかと間延びした現実逃避を。

 

 

 

『すみません、今お時間頂けますか?』

 

「あ、はい」

 

『ありがとうございます、古関先輩。それじゃあ電話口になりますけど幾つか話を』

 

「……あのごめんなさい。少し、すぐ掛け直すからちょっと待ってて」

 

『え、はい、大丈夫です』

 

 

 

出来なかった。

ありがとうの五文字を伝えて、彼女は電話を切る。

深呼吸一つ。

ウイは。

 

 

 

「ぎぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

 

叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、つまり?魔力負担で血を吐いて倒れたヒフミさんに私とハナコさんとの間であった話も何もかもぶちまけて?」

 

『はい』

 

「その上で今回は伊落さんについても何か情報を持ってないか知りたくて?」

 

『そうなんです』

 

「しかも聖杯について私に何か思うところはあるか聞きたくて?」

 

『ぁはい、そうなんです……はい……』

 

「挙句に他のサーヴァントについての情報も教えて欲しい、と?」

 

スマートフォン、ではなくわざわざ持ってきたタブレットの画面越しに映る彼女達の姿と声に古関ウイは頭を抱えた。

どうしてこうなった、と。

 

「そこの。違います、態とらしく辺りを見回すんじゃありません。貴女ですよ、妖怪深夜水着徘徊女」

 

『うふふ♡どうしましたか?古関先輩♡』

 

口が裂けてもウイにはとても言えないスラング*13と思わずピースサインを手の甲側*14で向けそうになるが、ウイはこう見えてトリニティの淑女。

 

 そう、どんなに日頃から出掛けないし、お茶会にも碌に参加しないし、茶菓子すらティーパーティ用以外は適当な煎餅でも構わないと思っている彼女でも優雅なお嬢様学校の淑女。

他校の生徒の前で口汚く後輩を罵るには少しばかりウイの口は上品過ぎた。

 

「どうしたもこうしたもないです……なぁにがどうなってこんな事になったんですか……」

 

 頭が痛いと比喩抜きでウイは肩を落とす。

なにせ昨日の来訪の時点でウイからしてみれば青天の霹靂。

 

 

 

「仮にも私は貴女達の敵でしょうが……しかも伊落さんの協力者。最初から貴女達を騙してた人間に何を今更……」

 

 

 

 古関ウイはシスターフッドの、ひいては伊落マリーとランサーの協力者だった。

ヒフミ達に頼られた際も、彼女達が持ってきた『熱砂の欠片』。

あれを修復した時点でヒフミがマスターである事も大凡の予想はついていたし、その事についてもマリーに本人伝えている。

おまけにオーパーツ修復時に発生したランサーの記憶、その映像を見た事も黙っていた。

 

 頭の中で事実を並べて、ウイは嘆息する。

誰がどう見ても敵、それも裏切り者の立ち回りだと。

それなのに目の前の少女達ときたら。

 

『まぁまぁ、それを言うなら私もヒフミちゃんに魔力負担の話とか黙ってましたし』

 

「そういうことじゃ『そういうことですよ、ヒフミちゃんにとっても、私達にとっても』……面倒な後輩」

 

『はい♡面倒臭い貴女の可愛い後輩です♡』

 

 うざいと口にしつつ、また溜め息。

なんと言ってものらりくらりと交わしてくる後輩とこれから舌戦を交える未来に、糖分不足の脳が嫌そうな声を上げる。

 

「(もう勘弁してよ……これ以上こんな蝙蝠が何をしてあげられると思ってるの?この子達……)」

 

 ウイとしてはこれ以上の協力をしたくはない。

何せどんな形であれ、ウイは伊落マリーの協力者だった。

そしてその期間中にヒフミにも協力している。

 

───蝙蝠の働きは好かれない。

 

いくら、舌を幾つ持ってるのかとゲヘナ生に揶揄されるトリニティの学生とはいえ、そもそもウイはそういうのを得手としていない人間で、ただの図書委員。

 

 ヒフミやハナコ達に申し訳なさを感じてはいる。

それは決して間違いではないが、それ以上に罪悪感もある。

嘘を吐いた、それも命のやり取りをしている彼女達に、誇りを持っている図書委員という役職に対して協力依頼すらその仕事を捻じ曲げて。

 

 罪悪感と、それからほんの小さな罅に似た孤独感。

それだから彼女としてはこれ以上、聖杯戦争なんて物に関わりたくない。

 

 

 

『古関先輩……私達に協力して頂けませんか?』

 

 

 

 さてなんと言って断るか。

そう思って頭を悩ませていると、縋るように上目遣いでこちらを見てくる少女が一人。

 

「……もう一度言うわ。私、貴女達を騙してた人間よ、敵よ敵」

 

 その罪悪感をがんがんに煽ってくるそれに目を背けたいのを先輩の意地で我慢しつつ、ウイは答える。

その返答に肩を落とすように顔に影を作りながらミドリは言う。

 

『敵なんて関係ないんです!……どうしても駄目ですか?』

 

『それでも、です……えと、私達、ウイ先輩みたいな賢い方に手伝ってもらえたらすごくハッピーエンドに近づけると思いますし、その、みんなも喜ぶから……』

 

「ごめんなさい、才羽さん、花園さん……私は貴女達に協力する気はないの」

 

『ミドリって呼んでください、ウイさんっ……せめて、せめてその、教えて下さい……ハナコさんから聞く限り伊落さんがトリニティを離れた時点でウイさんはもう協力関係は解消されたんですか?』

 

消えるように儚げに、でもはっきりと聞こえるように。

哀愁すら感じる声の調子に対して、その割に随分とぐいぐい聞いてくるなと思いつつもウイは答えた。

 

「……まあ、そうだけど」

 

()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

『……へぇ』

 

 

 

 

 

 

 しまった罠だ、と。

ウイは決定的なやらかしを踏んでしまったとニコリと微笑む画面の向こうの少女の顔を見て気がつく。

てっきりハナコが会話を主導すると思っていたものだから完全にノーマーク、気が緩んでいたのだ。

 

『なら、昨日初めてあった私達は騙されてませんからノーサイドですね』

 

『ヒフミちゃん、達には協力できなくても……私達は別の陣営ですし……直接的な被害はないわけで……』

 

 笑顔の裏に言質取ったぞとミドリは語り、ユズもぽつりぽつりと補足する。

 

「貴女、それ……とんだ屁理屈だって理解してる?」

 

『勿論です。その上で改めて協力の打診を』

 

ニコニコと嬉しそうに、ミドリは告げる。

 

 

 

『私達キャスター陣営と一緒にヒフミさんのハッピーエンドを目指して頂けませんか?古関ウイ先輩』

 

 

 

 ウイは押し黙る。

目の前の年下の少女の提案、それが自分の言い訳を潰して()()()逃げ道を用意してくれた物だというのは分かっている。

 

 とはいえ一度裏切っている自分が、その裏切りの全貌も全部バレた上でどの面を下げて協力できるというのか。

そう悩んで。

 

『ユズ。なんでキャスター陣営だけなの?』

 

『えぇっと……うぅん……ぁ、あとで説明するね?』

 

『……むぅぅぅ、なによ、もう知らない』

 

『はいはい♡コハルちゃん、拗ねない拗ねない♡』

 

『拗ねてない!!』

 

目の前で毒気の抜けるやり取りをする後輩達を目にして力を抜いた。

長く、長く、わざとらしく、ため息を吐く。

色々思い悩む事はある。

裏切りという行為を働いた事実は消えない。

だが、呑気なやり取りをしている後輩を見ていたら、一々そんなことを考えるのも馬鹿らしくなって。

 

「(ほんと最悪……)」

 

 それよりさっさと手伝って力を貸す方がずっと良い気がしてしまった。

それからウイはうんざりした顔で、変わらず微笑んでいる後輩達に答えた。

 

「……いいわ。やってあげる」

 

『本当ですか!ありがとうございます、ウイ先輩!』

 

「……調子のいい。悪いけど、私の知ってる情報なんてこれっぽっちも。伊落さんの願いも他のサーヴァントについても貴女達以上の事は知らないし、聖杯戦争についてだって基本的な事しか教えてもらってない。伊落さんの話ならシスターフッド辺りで聞きなさい……ヒナタさんになら話通しておくから」

 

『ありがとう!……ございます……ウイ先輩……』

 

 律儀にちゃんと声を抑えようとする後輩(コハル)に何か声をかけようかと思ったが、ウイの口は結局開かなかった。

ちょうどいい言葉が思いつかなかったのだ。

代わりに出たのは小さな疑問。

 

「大体なんで私なわけ……私なんて一介の図書委員なわけなんですけど」

 

『ああ、それは何でもヒフミちゃんが夢で見たんだとか』

 

「……はぁ?」

 

 

 サーヴァントが外の世界の伝承や神話、つまりキヴォトスでは失伝してしまったような物語の英雄である以上、確かに古書館を頼るのは正しい。

だが聞けば既に大体のサーヴァントの真名は割れたのだとミドリ達は言う。

ウイには今更その状況で自分なんぞ頼りにする理由が見当もつかず、尋ねてみると、胡乱な答えが返ってきたものだから突飛な声をあげてしまった。

 

「……なにそれ。ヒフミさん、あの子夢占いか何かの趣味でもあったの?」

 

『いえいえ、なんでもセイバーさんの知古の方が夢を通して干渉したとかで。お名前はまた直接お会いした時にお話しますが……』

 

「別にいい。それでその、夢とやらで何を見聞きしたわけ?」

 

肘をついてぶらりと追い払うように手を振って先を促す。

もうウイは疲れていた。

頼りにされる理由の根拠がまさか夢とは、文字通り夢にも思わず。

この数分の話に殴られっぱなしのウイの思考はめちゃくちゃに翻弄され疲れていた。

 

 だから、さっさと聞いて、電話を切ろうとして。

 

 

 

 

 

 

『なんでもウイさんは先輩ですから、きっと導いてくれる……と』

 

 

 

 

 

 

 そのハナコの言葉に今度こそ思考を殴られて。

 

『……ウイさん?どうされましたか?』

 

目を見開いてから、それを閉じるのを繰り返して。

 

「……舐めてくれる」

 

暫くしてから。

 

「なんでもない……また調べ物なり協力出来る事があったら言って」

 

『ウイさん、何か……』

 

「別に。()()()()()()から……それじゃあ、ヒフミさんによろしく伝えて」

 

 それだけ言ってウイはタブレットの通話切って顔を机に伏せた。

ぐるりぐるりと回る思考。

思い悩む頭の中。

肌を冷やす風と暖かな温もりがちらつく情景。

この数分の中で情緒も思考もぐちゃぐちゃになって、彼女は力を使い切ったように突っ伏す。

 

 そんなウイを嗜めるように鳴る電子音。

数分前にも聞いたそれをまた画面も見ずに手に取って通話ボタンを押す。

 

「さっきの今でなに?もう何か頼みたいんですか?」

 

 伏せたままの曇った声で乱暴に()()()()()()()の通話に出る。

そう、その電話口の相手がつい先ほどまで話していた相手だと思って。

 

 

 

 

 

 

『すいませーん。ウーサーイーツでーす』

 

 

 

 

 

 

「はへぇ……?」

 

 悲しいかな、現実は違ったのだった。

ウイの予測を外れて聞こえてきたのは、ミドリ達は似ても似つかない声。

 

『ご注文された商品お持ちしましたので、玄関まで出てきてもらっていいでしょうか?』

 

「ぁ……あ、あの……あ、すみません、あはい、はい、いま……今すぐ行きます」

 

 へこへこと見えるわけでもないのに頭を下げながら椅子から急いで立ち上がって歩き出す。

通話を切り、一歩、二歩と歩いてから。

 

 

 

「……ぎぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 

羞恥で耳まで赤くしてそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、久しぶり」

 

「……そっか、ううん、大丈夫」

 

「明日なら会える……ならミレニアムで」

 

「こっちで手配しておくから」

 

「ありがとう。そっちも、気をつけて」

 

「───サオリ」

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

「どうしました?ミドリちゃん」

 

「いえ、その……言ってたSRTの人と連絡付かなくて……」

 

「忙しい、のかな?」

 

「とりあえずモモトーク残しといたら?また時間できたら見て折り返しするでしょ」

 

「うん、そうだね」

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、よかったのぉ?」

 

「……良いも悪いもあるか。休憩とはいえ我々は任務中だぞ、私用の通信なんか取れるか」

 

「……私用、じゃなくても良いんじゃないかなぁ?」

 

「私用ですよ。私達のやるべき事、優先事項は別なんですから」

 

「あり?おかえりー、もうバイト終わり?」

 

「はい。このウーサーイーツという食品配達サービスのバイトは中々勤務時間に融通が利いて良いですね。ロゴマークがウサギなのも可愛いですし」

 

「それはともかく!……首尾は?」

 

「問題なく───さ、交代の時間です。行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しゃらりと。

 

祭囃子の音が、青い空の向こうで鳴った。

 

*1
ヒフミさん……♡

*2
キヴォトス三大校とは即ちその自治区面積と経済力を筆頭とする高い自治区力、そして学籍登録者数が極めて高い水準にあるということ。即ちそれらの学園の生徒会長という立場に座るのはそのまま並外れた女傑である事が求められる

*3
ミレニアムサイエンススクール創立以来、その学位を手渡された生徒は僅か三名。事実として明星ヒマリという少女が如何に学問の分野で並外れているかの証左である

*4
調月リオ、明星ヒマリ、そして各務チヒロの3名はヴェリタス創設前からの付き合いとなる

*5
連邦生徒会主催の合同火力演習。その中で見かける機体の廉価仕様であるDXあばんぎゃるど君だが、意外な事にその卸先は福祉関係や幼児教育施設が多かったりする

*6
図書委員会の通常業務は勿論、図書委員長としての執務、そして古書館の運営業務が溜まっていた

*7
悲しいかな。ティーパーティ(上司)の命令には逆らえないのだ

*8
古関ウイの専門は古書の修復と解読。つまり粉微塵になったティーカップやら発掘したてほやほやのオーパーツの修復なぞまったくの門外漢である

*9
ヒント:ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ヒッ↓フッ→ミッ↓

*10
ヒント:꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)‪໒꒱

*11
ヒント:セクシーですまない

*12
ヒント:(˶ᐢ ᐢ˶)

*13
ヒント:クから始まってソで終わる言葉

*14
ヒント:トゥーコールドフィンガー





1じゃんね☆
次回は病室に戻って最後の午前中/お昼のイベントじゃんね☆
なっがい☆
でもこれでどうにかひと段落、また少しずつ進んでいくじゃんね☆

リオちゃんやらヒマリちゃんやら新しい面子ばっかり登場してるけど、次かその次に出てくる子に関しては顔馴染みじゃんね☆
3つあった初期プロットのどれにも影も形もないし、そもそもちょい役だったのに思えば遠くに来たもんじゃんね……

あ、あとお知らせじゃんね☆
三ヶ日終わったから夕方/夜の更新は20:25→18:18に戻ります、じゃんね☆

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