阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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いつかきっと、その日は来る。
私とお前が共に手を携える日がやってくる。
その日まで、私をどうか信じてはくれないか?



叶えたい願いの為に

 

 私という人間はどこまでいっても普通です。

今でこそ聖杯戦争のマスターなんて物をやってますけど、だからといって私が御伽話の主人公やアニメや漫画のキャラクターのように強くなったわけでもありません。

特別なすごい力に目覚めるなんて事もきっとないでしょう。

良くも悪くも、私はどこまでいっても普通のトリニティ生です。

そんな私が願う事。

この聖杯戦争という名の殺し合いの中で、それでもお友達と一緒に叶えたいと見つけた(決めた)物があります。

選んだ願い、昨日までの私は振り回されてばかりで徐々に見失いかけていた物。

それを最初にセイバーさんが守ってくれて。

モモイちゃん達が受け入れてくれて。

ユウカちゃんが抱き止めてくれて。

ナギサ様が拾い直してくださって。

アズサちゃん達が、また一緒に持とうと支えてくれた。

 

「私は、見たくないんです」

 

 彼を喚んだ時を思い出す。

彼と初めて話をしたあの夜の病室を思い出す。あの時、私は聖杯戦争なんてこれっぽっちも分からなくて、どうしたらいいのかなんて今のように考える事もままならなかった。

 

「私にとってセイバーさんは大切な人です。大事な、大事な人なんです」

 

だけどあの日のことの中でも覚えている、忘れてなんかいないことがあります。

忘れられるわけがない物があるんです。

 

「最初の夜にアズサちゃんは私を庇って怪我をしました。戦って傷ついて、それでも最後まで私を守り抜いてくれました」

 

 アズサちゃんが傷ついて、それがとっても辛かった事を。

アサシンさんに負けないと、認めないと叫んだ事を。

そんな私の行動を、「大切なこと」と言ってくれた彼との始まりを。

 

「誰かが傷ついて痛い思いをするのも苦しい思いをするのも、私は想像するのだって嫌です」

 

 辛い思いをするのは嫌です。

苦しい思いをするのは嫌です。

聖杯戦争なんか、お友達同士で傷つけあうことなんか本当は全然したくなんかありません。

 

「でも……一番嫌なのは」

 

 でも、今この瞬間、どうしてか私は嫌いになれないでいる。

蹲っていたいけれど、それでも歩いて行きたいと思える。

嘘じゃないんです。

変なことを言っている自覚はあります。

 

 だって大事な人が出来ました。

だって新しいお友達が出来ました。

知らない場所、知らなかった事、それをみんなで探しました。

大切なお友達とたくさん本音でぶつかりました。

辛いことも苦しいこともあって、でもその度に慰め合って前を向いて歩いてきた。

大事な時間、大切な仲間が今私の中にはたくさんあって、隣に並んで歩いてくれている。

 

「誰かが居なくなる事。そんな形でしか終われない、誰かを殺さなきゃ終わらない……そんな物語、私は絶対認めません」

 

そんな大切な人を、人達を。

奪うのも奪わせるのも、私がこの手で他の人の大切な人を奪うのだって───絶対に嫌です。

 

「私は私が嫌だからハッピーエンドを目指すんです。みんなで笑い合って手を取り合ってお喋りして、お茶を飲んで……そんな風な毎日をこれからも過ごしたい。そんな時間を大切な人と過ごしたい」

 

楽しい時間です。

幸せな時間なんです。

拒絶反応で身体は辛い、毎晩敵が来るんじゃないかと思う不安もあります、十四日目を越えても何も解決できないまま死んでしまうかと思うと怖くて涙も出ます。

 

 でも間違いなく私は幸せなんです。

大事な人に出会えて、たくさんお話して、たくさん遊んで、戦って。

そんな風に私達は過ごしてきた。

 

「サーヴァントの方は、セイバーさんもキャスターさんも、私にとって兵器なんかじゃない。大事な、大事な人です!それを同じように大切だと思っているマスターを少なくとも私は三人、知ってます!いいえ、マスターに限らなければもっといます!」

 

 モモイちゃんも、そして多分マリーちゃんも。

そして今目の前にいるミノリさんだって本当はきっとそうです。

 

「大事な人が戦争のせいで死んでしまうなんて、もし私だったらと思うと立ち直れません。奪われた人のことを思うと心が折れてしまいそうです。辛いです、苦しいです。そんな思い、誰にもさせない、させたくない。だって」

 

 大事なんです、大好きなんです、大切なんです。

それがたとえどんなに辛い道のりの中だったとしても、大好きな人ができたんです。

そんな人達がいなくなったら私は辛いです。

そしてそれを他の人に強いるのも嫌です。

 

「誰かが痛い思いをしたら私だって苦しいから!……そんな悲しいお話見たくもありません!」

 

 あの時、セイバーさんに言ったのと同じ。

あれから私の想いは変わってません。

取りこぼしかけて私が戦わなきゃってなって、いつの間にかハッピーエンドすらどんな物か分からなくなりかけたけど。

 

 アズサちゃんが傷つくなんて嫌だった。

あんな風に傷つく人が増えるのも私と同じ気持ちになる人が増えるのも嫌だった。

 

「私は私が嫌な事を人にしません!だから誰にも人殺しなんてさせません!そんな方法、そんな結末、絶対に認めてなんかやらない!」

 

 だから私は、戦うことを決めたんです。

ハッピーエンド。

誰もが最後には笑顔になれるような最高の物語、その結末を。

私一人ではなくて、私のお友達もちゃんと笑顔になれる終わり方を。

 

 

 

「───いいね」

 

 

 

これ以上傷つく人も悲しむ人も、ましてや笑顔になれない犠牲なんてやり方を私は許容なんて出来ない。

 

「私はそういうの、嫌いではないよ。ヒフミ」

 

 私が言った願いを、受け止めた彼女は笑っていました。

ベッドの上から降りて、彼女は立ち上がる。

ふらつく足取り、けれどその瞳には煌々と光を湛えている。

溢れるような生命力があります。

 

「所詮、闘争とはエゴとエゴのぶつけ合い。何処まで行っても己の正しさと貫き通すかどうかが肝要だ。なら君は、私の牙城(願い)をどう崩す?」

 

私の願いは彼女の言う通りエゴの塊です。

だったら私が返すべき御返事は一つきり。

 

 

 

 

 

 

「知りません!勝手にして下さい!」

 

 

 

 

 

 

 エゴの塊、それをぶつけ合うのが戦いだっておっしゃるんて仰るんです。

なら、私はそれを貫き通すだけ。

だって彼はそれが私の強さだと言ってくれたのだから。

 

「う、うん?」

 

 虚偽は許さないと言わんばかりに、睨みつけていると見間違えかねないほど力強かったミノリ先輩の視線が揺らぎます。

けれど気にしません。

はったりなんて必要ない。

駆け引きなんて関係ない。

エゴだなんだと言うのなら、調月会長が言った通り安易な言葉じゃ轢き潰されるなら。

───私の願い(エゴ)を直球でぶつけます。

 

「富の分配、結構です。それを願うのはきっとミノリさんが心優しい人で、私はそれを否定するだけの知識はありません」

 

「だったら私の願いを「でも!」……嗚呼」

 

「……でも誰かを、誰かの大切な人を……いいえ。誰であってもその人を犠牲にして、殺して、そうやって願いを叶えていいなんて話じゃありません!そんな話も道理も、このキヴォトスにはどこにもありません!」

 

 誰かが死んでいいなんて嘘っぱちです。

どこかの誰かも、誰かにとって大事な人なんです。

いなくなっていいなんて、そんな話はあっちゃいけないんです。

 

「そんなに貧富の格差を是正したいならご自分でやって下さい、デモでもビラ配りでもなんでもお手伝いします!ナギサ様とお話するお手伝いだってします!それでも駄目ならティーパーティにもセミナーにも一緒に掛け合いましょう!先生にだって一緒に頭を下げて、ミノリさんの願いを叶える方法を一緒に探します!だけど!」

 

 そうだけど。

いいえ、絶対にそう。

 

 

 

「サーヴァントの人を犠牲にする、ましてや私の大切な人や大事なお友達の大切な人を奪って叶える願いに私の願いは譲らない、譲りません!」

 

 

 

 この先どんな困難があって。

アルさんやマリーちゃんの願い、トキさんの命題がなんであってもそれが犠牲を強いるのだとするなら。

 

「私達みんなで決めたハッピーエンドを───」

 

 話し合って、考えて。

一緒に犠牲を必要としない道を見つけてみせる。

この戦いを犠牲なんて一つもなく終わらせる。

そのためになら、いいえ。

その為に私は戦うんです。

()()()()()()()

 

 

 

「私は絶対諦めません!」

 

 

 

大切な人達と一緒に笑顔で終わる為に、私は戦うんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝手にしろ、か。言ってくれるな」

 

 ミノリさんと、スパルタクスさん。

お二人が黙り込んでから、暫く。

口を開いた彼女は呟くようにそう仰いました。

 

「あ、あはは……いえ、その……」 

 

 勢いで言ってしまった放言でしたけど、思い返してみれば上級生。

しかもまだ深く関わりもない他校の方で、何より今協力を依頼している聖杯戦争のマスターに対してとんだ言い草になってしまいました。

思わず頭を抱えたくなって、口から出てくれるのも気の利いた言い訳ではなくしどろもどろとしたそれと諦め混じりの笑いだけ。

 

 そんな私に彼女は微笑ってくれました。

 

「よしてくれ。折角気持ちの良い啖呵を聞けたんだ。取り繕う必要はないよ、ヒフミ」

 

さっきまであった苛烈さの欠片もない、大人っぽくて柔和な表情は春の兆しを思わせました。

 

「ありがとうございます、ミノリさん。あれが私の本心です……私は、私の願いを譲りません」

 

取り繕う必要はないと、上級生相手に慇懃無礼な物言いをした私に対して寛容な態度を見せてくれた彼女にホッとしつつ、再度、自分の意思を伝える。決して曲げられない、折れる事はできない、譲る事はできない、と。

 

「私は私の願いを叶える為に、誰も犠牲にしない(殺さない)ですし、誰にも犠牲を出させない(殺させない)。それが私の誰も犠牲にしない終わり(ハッピーエンド)っていう願いで、それを叶えるための手段なんです」

 

 見れば他のみなさんも一様に頷いてくださっている。

今言った本心こそが私達全員の意思なのだと、言わずとも心で繋がってる事実に胸がじんとなります。

それをミノリさんは眩しそうに目を細めて言う。

 

 

 

「うん、それでいい。それならいい。そうでなくては()()()()

 

 

 

 彼女は見守るように、言い聞かせるように、そんな風に肯定してくださった。

 

「聖杯戦争は非常に原始的な戦争だ。その当事者はたった七人、僅か七騎に委ねられる。領土や利権といった政治的な要素も集団による正義も時にはあるかもしれないが、何よりも当人達の願い、当事者達の戦う理由こそがその軸になる。大義名分でも政治的な理由でも、ましてや義務感なんて物でもなんでもない。ただ一個人の願望を掲げ圧倒的な力をもってして執り行う闘争こそが、私達マスターやサーヴァントにとっての聖杯戦争だ」

 

 滔々と流れるそれは確認の意味がありました。

自らも含めて当事者だという彼女はどこまでも静かに語っていかれまふ。

 

「聖杯で叶えたい望みがある。それ自体やその副産物も含めて、参加者は願望を掲げて聖杯戦争という舞台に上がる。その願望は個々人のそれである以上、極めて純度が高い」

 

 同じマスターだというのに、彼女の語りはとても俯瞰的です。

まるで私や他のマスターとはどこか見ている場所が、()()()()()

そんな風にも感じました。

横を見ればモモイちゃんもそう思ったのでしょうか、どこか難しげな顔をしながら真剣に話を聞いています。

 

「他者の思惑が錯綜しない、絡まない。ただただ純粋に己が思い描いた願いを強く持ち、他者の願いと生命を排斥し勝利を貪欲に望む……それは戦争とは名ばかりの純粋なエゴ同士のぶつかり合い、社会性を吐き捨てる原初の闘争に近いだろう」

 

 エゴなのだと、彼女は願いのことを指して言う。

 

「ヒフミ。君の願いは優しく、人に寄り添い過ぎている。そんな心持ちで殺し合いに参加する、いや、参加してしまった事実に胸が痛くなるほどに。だからこそ、君の願いは危険性を孕む」

 

しっかりと私の目を見つめる彼女の瞳には言葉通りの色が宿っていた。

 

「自分の為じゃない理由は必ず()()()()()()()()()()()()。拠り所が自分の赤心でないのなら、必ずどこかで妥協が生じる。必ずどこかで破綻が生じる。他者を理由にした妥協は自らの行いを正当化し、破綻した願望は他者を理由に暴走を始める。その果てにあるのは腐り落ちた理想だったナニカだ」

 

自分の為ではなく誰かの為に行動できるのは素晴らしい。けれど誰かの為を理由にすると、その願いは途端に綻ぶのだと言った彼女は凛としながら、儚げを憂うようだった。言われて思い出すのは彼の顔。あの人も生徒の為と自己犠牲を厭わない方だから。それでも彼が頑張り続けられるのは、ミノリさんの言うようなきっと何か私達だけに依存しない『理由』があるのかもしれないなと頭の片隅でそんな考えがちらつきました。

 

「そして他者を理由にした願いは優しさと引き換えに酷く脆い。平時であればまだ良いだろう。だけど聖杯戦争は違う。ごく普遍的な筈の倫理観や道徳意識という当たり前を飛び越えてしまう状況の中で参加者が描いた強烈な自己に由来する欲望。それらを殺し合いの理由に焚べた戦いである以上、最早比べるまでもない。双方の願いという名の意思がぶつかれば、余程の特殊な事例を除けば必ず前者が敗北する」

 

続けてそうした他者を軸に据えた願いの脆さを指摘される。どうしても他人を理由にしてしまうと弱いのだと。だから負けて折れてしまうと。

きっとミノリさんはそう思ったから、この交渉の中で私の提案にもすぐ頷いて下さいませんでしたし、私が意固地になって思い切って叫ぶまで頑な態度を崩されなかったのでしょう。そしてだからこそ。

 

「でも君は、他人を理由にしなかった。自分の願いだと、自分が見たくないから、感じたくないからだと強く言い切った。私の願いに対して自分の願いを譲らないと言い切って退ける強さを私に魅せてくれた」

 

彼女は今私を信じて手を差し出してくれるんです。

 

「その願いの強さがあれば、きっと君は大丈夫だと私は思うし信じられる。どれだけの欲望や渇望と相対しても君はきっと自分の優しさを貫ける」

 

 差し伸べられたのは右手。

彼女の隣に立って支えているスパルタクスさんも無言のまま、それを見守っている。

 

「一応建前は交渉ではあったけれど、こうして本心から君の言葉を聞けて私もようやく腰をあげたいと思えた。君となら、ううん。剥き出しの本心(エゴ)をぶつけて理想(願い)を口にした()()()()、共に戦いたいと思えたんだ。今更に聞こえるかもしれない、だけどヒフミ。もし私でよければが……」

 

 少しばかり照れるように、はにかんでから。

申し訳なさそうにゆっくりと、ぎこちなく。でも温かい言葉を綴って。

 

「どうか君の考えるハッピーエンドへと向かう旅路に、私も加えてもらえないだろうか?」

 

そんな彼女の申し出に私は───。

 

 

 

「───はいっ!」

 

 

 

彼女に申し出に私はその右手をそっと両手で握りしめた。

 

「はいっ、はいっ!勿論です!こちらこそ、これからよろしくお願いします!ミノリ先輩!スパルタクスさん!」

 

 心からの喜びと感謝がこの両手と溢れた笑顔から伝わるようにと願いながら彼女に伝えると、ミノリさんも照れ臭さそうにしながら握り返して下さいました。

 

「ありがとう。あれだけ歯に衣着せぬ言い方をしてしまったからね、ちょっと心配だったんだ。改めてスパルタクス()共々、これからよろしく頼む。どれほどの力になれるかは分からないが、君の願うハッピーエンドに向かって私も力になろう」

 

「おゝ!峻厳を歩む少女達よ!今こそ我らは同胞とならん!……我が助力が必要となればいつでも言いなさい。我が同胞達と共にこのスパルタクスが、君が抱いた叛逆の導とならん」

 

 彼らの返答はとても力強く、午後の日差しよりなお輝いているようでした。

 

「っ!ありがとうございます!お二人とも!改めて!よろしくお願いします!」

 

まるで雪面を溶かす芽吹きを促す陽射しのように、朗らかなその言葉に私も嬉しくなってしまいます。

 

「あっ、そうです!ミノリさんさえよければ、私達の拠点を使って頂くなんてのはどうでしょうか?」

 

「拠点かい?そんな物まで拵えているとは……いや、単純に私達が悠長なだけか。うん、ありがたく使わせてもらおう」

 

「はい!なら是非これから一緒に!」

 

 この後はヴェリタスの方と話をする予定ですが、ミノリさんがご一緒してくださるなら体調の事も心配ですし一度拠点に戻ってというのもいいかもしれません。

そんな風に考えているとミノリさんは困った顔をされました。

 

「あー、すまない。その今やっている外壁工事があと二日はかかるんだ」

 

 言われてみると、確か今日含めて三日間は工事があるからミレニアムにいる予定という話でした。これまでの話で感じた人となりからも責任感がとてもあるように感じましたし、もしかすると早々に行動を共にするというのは難しいかもしれません。

 

「となると、合流は早くても明後日という話になりますか?」

 

 同じように考えたハナコちゃんがそうやって尋ねてくれて。

 

「いや、業務自体は私個人ではなくあくまで工務部で請け負った物だ。極端な話、大きなトラブルでも起きない限りは他の部員に引き継いでしまえるんだ」

 

ミノリさんはそれに申し訳なさそうに答えてくれました。

 

「実際、学業の都合だったりでそういう形で抜けたり入ったりは融通が効くようにいつもシフトを組んであるんだ。現場監督という立場もあるからなるべくなら私も離れたくないけど体調もあるし、何より聖杯戦争という緊急事態だ。話も事前に通してある」

 

 しっかりと今回の件のようなイレギュラーな自体にも備えているというミノリさんですがやはりあまり表情はよくありません。

少なくとも私には十分に準備されて、ミノリさんが私達に合流するのに問題があるようには聞こえませんでした。

もしかして、なにか修繕工事でイレギュラーがあったんでしょうか……セイバーさん()壊したモノレールステーション。

 

「(ヒフミ、ヒフミ。連帯責任だよ)」

 

 当然その抗議は無視してミノリさんの話を待っていると、彼女はスパルタクスさんと顔を見合わせてから小さな溜め息をつきました。

 

「ただ見ての通りでね、作ってある引き継ぎ書を渡して現場を委任するにしてもすぐ合流できるのは体調を崩した私と」

 

「私である!」

 

「……とまぁ、見ての通り元気一杯なスパルタクスだけだ。少なくともインカムか何かで現場を離れて指揮するにしても彼の手綱を握れる人間「お?叛逆かね?」うるさいぞ、スパルタクス。んんっ、とにかく寄越せる人材が体調不良の私だけでは戦力としては申し訳ないと思ってね」

 

 この通りだと頭を下げようとする彼女を慌てて止めつつ、彼女の言葉に疑問符が浮かびます。

何せ今の話を聞いた限り、どう考えても私達の陣営に加わるのがミノリさん達お二人だけの話には思えませんでしたから。

 

『……ちょっと待ってちょうだい。もしかしてだけれど、工務部の部員の方は……』

 

 調月会長にしては珍しいぐらい勿体ぶった、というか恐る恐るという表現が相応しい声の掛け方に、当然そんな事情は知る由もないミノリさんは。

 

「ああ、全員が私と共に戦うのを了承してくれている。ただ、工務部の業務もあるから行動を共にしてくれるのはざっと3()8()()()()だけどね」*1

 

 やっぱり申し訳なさそうにそう言いながら頭をかいていました。

その人数、うちの拠点に住むスペースあるんでしょうか。

 

 とりあえず二日後の午後には大所帯になること決まって何故か腕を振り回して声にならない変な叫びをしているアバンギャルド君こと調月会長と食材どうしましょうと頬に手を当ててるハナコちゃんと賑やかになるのを喜んでいるモモイちゃん達を眺めてから、ミノリさんは一度区切りをつけるように話し始めました。

 

「さて、私も次の予定があるしなんでも君達の言う病院での検査や治療も受けれるようだから、そろそろお開きにしたいところだ」

 

「ご、午後からならいつでもって話になってます……そ、そのミノリさんがよかったら……」

 

「ありがとうユズ。幾らある程度の軽減は出来ると言っても不必要に無理はしたくないからね。そういうことならお言葉に甘えよう」

 

ミノリさんはそう言ってから私の方を見て。

 

「君達の方針や願いは聞けた。まだこれまでの経緯なんかについても聞きたいところだけど時間があれだしね。質問がなければ解散としたいところだけど、何かあるかい?」

 

 急な質問タイムになりましたけど折角です。

お言葉に甘えて情報を共有できる範囲でしておこうと思案していると、アリスちゃんが元気よく手を上げました。

 

「はい!アリスは質問があります!ミノリは自分の願いがあると言っていましたが、それはいいのでしょうか?」

 

 言われてみると話の流れ的にすっかり置いてけぼりにした話題でしたが、ミノリさんの願いをどう叶えるかの問題が残っていました。

さっきも言った通り、聖杯では叶えられませんが何かしら力にはなりたいと思います。

 

「ん?ああ、あの願いか。()()()()()()()()()()()()

 

 どんなふうにサポートしようかと案が幾つか頭の中に並ぼうとしたタイミングでミノリさんはなんて事はないようにあっけらかんと答えました。

 

「富の分配と言っただろう?その願いは私の信念に基づく物だ。叶えたい物であり、いずれ実現させたいと心から願っている。万人が、すべての労働者にとってより良い社会となる事を私は望み、だからこそ社会的な財産は須く共有する事がその一歩になると私も工務部の子達もそれを信じているさ」

 

 聞く限り、彼女にとってその願いはきっと譲れないぐらい大切な物だという。

ならなぜ『不可能』と言い切ったのか。

 

 あまりそういった政治的、経済的な話には強くないせいで話が見えてこなくて困惑してしまいます。隣でもモモイちゃんはアリスちゃんと一緒に頭を抱えてうんうん唸ってますし、コハルちゃんはユズちゃんやミドリちゃんとお互い顔を見合わせて首を捻っています。

そしてハナコちゃんと調月会長はというと。

 

『……なるほど、合点がいったわ。呆れたわね。貴女、()()()()()()()()()()鹿()()()()()()

 

「……いえ、本当に。人の振り見て、という言葉もありますがここまでとは……スパルタクスさんも全て()()()()()?」

 

「失礼だな、これでも私は理想論者(ロマンチスト)だからね。何よりこんな私だが、慕ってくれる者もいれば、年相応な乙女心だってある。多少のワガママと 潔癖(綺麗好き)ぐらいは許してほしいな」

 

「無論だとも、自らと向き合う少女よ。私はスパルタクス、()()()()()()()()ミノリを同胞と呼び、共にその道を歩むと決めた。おゝ!これぞ叛逆!まさに勇敢なる闘士の道!」

 

そんな私達に向かって毅然と彼女は言い切りました。

 

「んんっ、話を戻そうか。兎にも角にもわたしの願いは富、つまりは()()()()()の分配だ。なら当然」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 一瞬、なにも分かってなかった私達の動きが完全に固まってしまいました。

 

「万能の願望器が真であるならそれは最早私財の域を越えた公的な財産であるべきだ。ならば聖杯という富は誰もが安全かつ平等に使えなくてはいけない」

 

その様子を見てミノリさんも、それからどうやらこの答えが分かっていたのかハナコちゃんと調月会長、それからセイバーさんとキャスターさんも苦笑いしています。

アズサちゃんですか?分かってないみたいできょとんとしてますよ、可愛いですね!*2

 

「富の分配を願う以上、私一人で独占するなどあってはいけない。だがそれは恐らく、この聖杯戦争というシステムでは不可能だ。何故なら叶えられる願いは私一人分。権利は分配できない、つまり私の願いは事実上、初めから()()()()()()()

 

 もう私達は呆気に取られて聞いている他ありません。

ミノリ先輩の言う富の分配。

それによって生まれると彼女が考えている労働される皆さんにとって幸せな世界。

その願い自体は間違いなく本物です。

そしてその願いを胸に戦うと彼女は決めておられます。

最初から叶わないと分かっている願いを掲げて戦うのだと嘘偽りなく言っておられるのです。

 

「そして独占せざるを得ないなら、願いとは矛盾する。なら破壊するなり破棄するなりが必要だろう?それに……それで良いんだ」

 

 胸に手を当て、自信に満ちた顔で前を向く彼女をスパルタクスさんは優しげに見ている。

まるで彼女の言葉を噛み締めるように、成長していく我が子を見守るような、そんな『庇護』と『誇り』がないまぜになったような顔でした。

 

「自分の願いは自分の努力で叶えるよ。君達のように、頼れる仲間を見つけて、志を同じくする同士と沓を並べて、生涯を掛けて挑む」

 

 まだ会ったばかり、今さっきやっと本音をぶつけられた相手です。

ミノリさんがどんな想いで、その願いを掲げて戦うという選択に至ったのかは分かりません。

私には一見して矛盾しているようにも聞こえます。

でも間違いなく、彼女の言葉に熱があります。

 

「いつか誰もが夢見たありきたりで絵空事のような平等に、一歩ずつ歩いていく。私の願いは、聖杯では叶えられないし、叶えさせるつもりもないからね」

 

口にされた願いは本物です。

だからきっと。

 

「私は私の願いを守りたい。自分達の手で叶える未来を守りたい。だからヒフミ、君と共に戦うと決めたんだ」

 

 微笑んで彼女は一つも名残惜しむことはなく言ってのけられました。

 

*1
程度、などの話ではない

*2
イマジナリーᓀ‸ᓂ「ありがとう。ヒフミもかわいいよ」





1じゃんね☆
というわけでミノリちゃん&スパさん+38名の工務部メンバー達が仲間入りじゃんね☆
……本スレ投下中のダイスでこの人数決まった時は頭抱えたじゃんね☆
1の腕では今でも同時に出せる人数ぎりっぎりなのに……これからどうなるかが怖いじゃんね……

今回のミノリちゃんの願いについては「富の分配」って形になったじゃんね☆
他の子の願いと違ってこっちはかなり1の独自解釈強め……だけど!個人的には自信作の願いじゃんね☆

ちなみにこの富の分配について触れた際にハナコちゃんとリオちゃんが言っていたのは、別に矛盾してるからが理由じゃないじゃんね☆
ぶっちゃけ正気じゃないだろってレベルの願いだったからドン引きしてただけじゃんね☆
勿論それを承知で工務部の子達もスパさんもミノリちゃんと共に戦うって決めてるじゃんね☆
そこら辺の話はまたおいおい……じゃんね☆ミーカミカミカミカミカミカミカ

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  • 4000文字〜5000文字
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