「な、ナギサ様……?」
ふふっ、そんなに怯えてどうされましたか?
「いえ、そのお手元の携帯に罅が……」
あら、本当。
少々力を入れ過ぎたようです。
ですが問題ありません、少し古くなっていたようですから。
明日にでも買い替えるとしましょう。
「ですが、あのお怪我の方は……?」
ありがとうございます、ですが問題ありませんよ。
セイアさんでもあるまいしこの程度では薄皮ひとつだって切れやしません、ええ、キレませんよ。
「そっ、そのようでしたら……差し出がましいことを……」
構いません。
日頃からの献身も含めて貴女には随分助けてもらっています。
些細なことで気になさらないで下さい───いつも、ありがとう。
「いえっ!そのような……!私には勿体無いお言葉です……!」
ふふっ、私は良き後輩を持ちましたね。
さて……少々お願いしたいことがあるのですがよろしいですか?
「はいっ!なんなりと仰って下さい!ナギサ様!」
ありがとうございます、では。
───今からミレニアムに宣戦布告します。
「ナギサ様っ!?」
あの下品に実った乳房ごと叩き潰して差し上げましょう。
「ナギサ様っ!?」
ええい!離しなさい!許しません!許しませんよ!調月リオ!
「ナギサ様っ!?」
今すぐミカさんを呼んでください!ミカさんの力でヒフミさんを取り戻すんです!
「ナギサ様っ!?」
ミカしゃん!ミカしゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!*1
桐藤ナギサ、乱心。
これは愛する少女を取り返す物語である。
トリニティの時計台。
トリニティ自治区の観光地ランキングでも常に上位に位置する人気観光スポットです。
自治区の中心部に住んでたり、デパートやショッピングモールなんかとは違って別にそんなに頻繁に来る場所でもないですからトリニティ生にすると馴染みはあってもそこまで内部の隅々まで詳しいという事はない場所。
とはいえ郷土史の講義なんかでも度々題材になったりするので、私含めてトリニティ生なら初めて見学されるお客様に簡単な説明ぐらいは出来ちゃいます。*1*2*3
「トリニティの時計台は高さ96.3mのキヴォトスでも有数、そしてトリニティでは最大の大きさを誇る四面時計台になります」
乳白色のステンドグラスで出来ている文字盤から射し込む午後の日差しは、厳粛な空間の中にあってもどこか牧歌的。
思ったよりも観光客の方が少ない時間*4だったのもあってか、石造りの壁に囲まれた時計台の厳かな雰囲気に包まれながら私は来るのが初めてだというユズちゃんとセイバーさんに向けての解説をしながら歩きます。
「歴史ある建物で中央ホールあたりなんかは現在でもティーパーティ専用の議会堂として使われています。本校舎の方は内政をする事務局、こちらは大きな決め事をする時の会議用って感じです」
時計台の内部というのはゴシック様式らしく細く大きな窓こそありますけど基本的にはそれほど明るくはありません。
そこから見えるトリニティの街並みも一段上がるごとに少しずつ小さくなっていきます。
「全11階構造は今みなさんと登ってる螺旋階段を歩いて大体30前後で最上階まで登れます……えぇっとその……」
後ろからユズちゃんのか細い息*5の声が聞こえてきて申し訳なくなります。
なにせこの階段以外に上へ上がる手段が物資運搬用のエレベーターしかありません。
だからどんなに苦しくても最上階まで歩かざる得ないんです。
ちなみに一応通信は繋げていますが今回は調月会長はお留守番をして頂いています。
運搬用エレベーターに乗ったら重量オーバーでしたから。
「も、もうちょっとですからみなさん頑張りましょー!」
「「……お〜」」
駄目です。
ユズちゃんから返事がありません*6
ちなみにセイバーさんとアズサちゃんはやはり健脚というべきかかれこれ20分近く歩き始めましたが元気なご様子です。
「そういえばヒフミ。時計台機構室から外は見えるのかい?」
「展望という事でしたらそれより上に約14tの鐘が設置された『鐘楼』、それから内部から行ける最上階にある『灯室』がありますね……ただ私も見学に行った事あるのは機構室までで……」
「なるほど、普段は立ち入り禁止というわけだね」
セイバーさんの質問に答えつつ、
遠く向こうには、ここからはまず見えませんが私達が来たミレニアムの方角はちょうどそちらになります。
そういえば、以前私がセイバーさんと出会った時に乗っていた*7電車が走っていた路線もちょうど東側でしたね。
「アズサ、外はどうだい?」
「悪くない景色だ。少なくとも見晴らしはいい。戦略的にも
「うん、いいね。僕も同意見だ」
二人だけで何か通じ合うように話されていて、なんだかあんまり嬉しくありません。
だからつい、つっけんどんにセイバーさんに言ってしまいます。
「なんですかお二人とも……内緒話ですか?」
「ははは……妬かない、妬かない。君のアズサを取ったりしないさ」
「またそうやってはぐらかして……そういう話じゃありませんよーだ」
すぐこうやって揶揄ってくるので困ってしまいます。
「ぜぇ……ひ、ヒフミちゃん……ま、まだ着かない、の……か、な……?」
「もっ、もうちょっと!もうちょっとです!ユズちゃん!」
「ユズ!辛かったら私が引っ張ったげるから!」
「あらあら、コハルちゃんったら♡」
頑張ってとはとても言えません。
この時計台、冬場なんかはイルミネーションと夜景が一望できるとあって観光客が賑わうという話ですけど、歩くだけでへとへとになるというのも有名な話です。
そういえば去年は特に大々的にツアーやイベントを開いていたとか。
こういう催し物はティーパーティの方や各委員会に所属されると優先的に招待券を貰えるとナギサ様から伺った事がありますけど、これだけ歩くのはちょっと大変ですね*8。
「そういえば先程の話に戻りますけど、機構室に着いたらまずそちらを調べられますか?それとも
「恐らくは問題ない、なんて安直に考えてしまうのは悪い癖だけど僕個人としては、ね。リオ、君はどう思う?」
『流石に何かしら別の手段だと思いたいわ。現実離れした話ですから』
「リオ会長が言われる通り、私としてもそう願いたいところですが、セイバーさんの直感はとっても敏感♡なようですから♡……ですが、そうなると一般観光客が入れる機構室を探すというのが丸いですね」
もうすぐ到着になりますけど、機構室を探索するかそれともそれより上に行くか。
「中央の機構室はそこまで大きくありませんけど、それを四辺に囲む形で文字盤と繋がっている回廊は結構歩かなきゃいけませんね……」
「6人いるし手分けするのもあり?」
「人の目が多い方が何かしらを見つけやすいというのはありますけど、恐らくヒマリさんのそれはまた違う可能性がありますからね。コハルちゃんの言うように人手を分けるというのも手です」
「ぜぇ……わ、わたしは……みんなで探すのも……ありかなって……ぜぇ……ヒマリ先輩関係以外の何か手掛かりとかも……あるかも!わざわざ!えらん……ぜぇ……だ理由……」
「ユズ。はい、お茶」
「ありあとぉ、ぉはるちゃん……」
さて、どこからどんな風に探しましょうか?
「ぉ……ぉじゃましまぁ……す……」
恐る恐るといった様子でユズが足を踏み入れたのは中央機構室。
時計台の心臓部である。
内部には誰もいないという話をリオから聞いていたが、それでも一応と誰に聞かせるわけでもなく入室の挨拶を一つ。
だが、そのか細い声はすぐにかき消えてしまった。
「はぁ……よかった、やっぱり誰もいないんだ」
そう呟いた一人言すらその音の前には霧散する。
ユズは人心地ついたと胸を撫で下ろしてから、ゆっくりとこの部屋を占領し重低音を響かせる音の主である巨大な装置を見上げた。
囲うように置かれたロープパーテーションを繋ぐのは上質な深みのある臙脂の縄。
太さだけならユズの腕ほどもある立派なそれで触れる事を禁じさせているだけはあって、その先にある機会は見るからに精密で、そしてミレニアムでは随分と見なくなって久しい骨董品だった。
こういうのが好きそうな自分の先輩*9を思い出しながらユズはざっと辺りを見渡す。
部屋はそこそこの大きさな上、よく見れば作業用の棚も見当たる。
情報を探すとなれば、ヒフミ達が想定した中ではもっとも細かい場所があるだけに一人では骨が折れるだろう。
「任せてもらったし、頑張らなきゃ……!」
柄にもなくガッツポーズを入れて頬を軽く叩いて、自身の意気込み具合を自分の心に見せつける。
『ユズよ、モモイ達は我に任せよ。お前は明星ヒマリと伊落マリー、そして⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎についてを頼むぞ』
『ごめんね、ユズちゃん。こっちはちゃんと見張っとくから……後はよろしくね!』
『ユズちゃんは機構室をお願いします。大変かと思いますが、細かい部分も多いのでユズちゃんにお願いしたいんです!』
『よろしくお願いしますね、ユズちゃん。何かあればすぐ近くにいますからいつでも声をかけて下さい』
『わっ私も!何かあったらすぐにハナコ引っ掴んで飛んで行くから!』
『ヒフミの言う通り、君はとても良い目を持っている。普段の細やかな気配りができるところも含めて、こういう場所の探索も安心して任せられるよ』
『危険は恐らくない筈よ。そして何かを得られるかどうかではなく貴方の目で見てあるかないかをハッキリして貰うのがお願いしたい内容……だから気負わずに探してきてちょうだい』
「頼ってもらってるんだ……!モモイ達の分まで、頑張らなきゃ……!」
始めはモモイとミドリが。
次にアリスと先生が。
そうしてユウカやトキやネル。
そして今はキャスターやヒフミ、そしてコハルやハナコ、アズサやセイバーが。
気づけばユズの周りには人が以前とは考えられないほど増えた。
元来、自己肯定感の低くある一件から心が傷ついて以来、余計にその傾向は増した。
人との付き合いも以前よりずっと苦手に思うようになった。
そんな自分が今、こんなにも頼りにされている。
頼りにしてくれる仲間がいる。
寄りかかって笑い合える頼りになる仲間がいる。
その事実を思えば、どれだけ疲れていようがユズの裡に自然と勇気とやる気が溢れてくる。
「が、がんばるぞー!……おー!」
一人呟くように言ったそれは機械の稼働音より遥かに小さくてすぐにかき消えてしまうほどだったが。
「───」
誰もいないこの部屋で、長い時間を刻んできた時計は確かにそれを聞いていた。
「ひ、広いわね……」
下江コハルは階段を上がり切った先で開いた扉の向こう側に広がる目の前の廊下を見て愕然とした。
見れば分かる、確かに広いし長い。
トリニティ最大の高さと面積を持つ時計台の一辺だ。
それなりの長さはある。
だがそれ以上にコハルを困らせていたのは。
「(思ったよりも何もないんだ……)」
時計台の文字盤。
乳白色のステンドグラスを通して淡い光が包む空間は眩しいほどに明るく、そして吹き抜けている。
その内側にある回廊は中央にシャフトこそ通っているがそれ以外には目新しい物は特にない。
そもそも時計台としての機能はもとより観光地としても有効活用されているのだ。
広いと言えど掃除は元より管理も観光客が目にしたり触れる範囲に関しては行き届いている。
なにかを隠したりメッセージを残せるような場所は一見するとコハルの目にはないようにしか思えなかった。
「どうしよう……」
巨大、というのはそれだけで人を畏怖させる。
古代において大木が信仰を集めたように。
羊飼いに斃された巨兵が恐るべき存在とされたように。
人間という生き物は途方もない物を前にした時、諦念を抱く。
文字通り、途方に暮れて思考が止まるのだ。
コハルの眼前に広がる長く白い廊下はそれだけでどこから手をつけたらいいのかと悩まさせるには十分な威容。
更にはこの暑さだ。
巨大かつ古い建造物という事もあって空調の効きが悪く、じりじりとコハルの体力を奪いながら思考を邪魔する。
ただ歩くだけでは意味がない。
かといって推理しようにもそもそも何を、そしてどんな形で明星ヒマリがメッセージを残しているのかも判明していない。
形のある物なのか、それとも場所自体に意味があるのか。
実際は建物の中には何もなく、最初に見ていた広場やホールの方にあるのではないか。
そんな考えが泡のように弾けてはコハルの中に幾度も芽生える。
「……どうやって探そう……」
歩き出していくが文字盤の裏の真っ白な回廊は、何も答えてはくれなかった。
当たり前だ。
物言わぬ建築物は何も語らない。
今この場に頼れる仲間は誰もいない。
コハルは一人で考えて、決めて、動かなくてはいけない。
諦めるのすら自由なのだから。
だからそう。
小さく溢した弱音に近い疑問。
そんなコハルの心細さに応える物があればそれはきっと。
───「もしも」の可能性を探ってこそ、発見できる物もあるので。
コハル自身の
思い出すのはいつかの夏。
出会った時は頼りにならないと感じていた彼女が魅せた力強い姿。
───調べると決めた以上、最後まで諦めるわけにはいかないんです。
大切な夏の思い出。
一夏の冒険。
そこで見た、教えてもらった彼女の言葉。
「……
それが今、コハルの中で闘志と結びつく。
「……頑張らなきゃ!こんな小さなことでくよくよ躓いてなんかやらないんだから!」
そしてコハルは己を鼓舞するように小さく吠えてから歩き出した。
下江コハルは決して特別な才能を持った生徒ではないだろう。
取り立てて優秀な生徒というわけでもない。
けれど真っ直ぐで努力を決して惜しまない。
そして、彼女は沢山の経験をして、沢山の人に恵まれて、何より本人が直向きな努力を惜しまなかった。
この一年でコハルはしなやかに伸びていた。
下江コハルが重ねた青春こそが彼女の力。
だから諦めない、誤らない。
たとえ何も見つけられなくとも、だからといって下江コハルは決して手を抜いたりしないのだ。
「さて、コハルちゃんは大丈夫でしょうか?」
目の前に広がる難問を目にして、真っ先に浦和ハナコが思うのは小さな友人の姿。
中々の広さに何より純白の回廊は、どこから手をつけるべきかの判断すら奪いかねない姿をしている。
「……ふふっ、なんて。そんな心配はいりませんね」
だが、ハナコは笑う。
これだけの広さだ、きっとあの子は困っているだろうと。
数瞬前まで感じていた心配が、ただの杞憂だとハナコは割り切った。
理由なぞ知れている。
「コハルちゃんも、ユズちゃんも、みなさん私よりずっと強い子達ですから」
信じている。
信頼している。
信用している。
大好きな
この程度の問題で足を動かさずに投げ出すなんてしないと理解している。
─── 助けるに決まってるでしょ。
自分よりずっと小さくて、でもとても心の強い友達が、そしてそんなに強くてかっこいいのに自分の味方になってくれた彼女がこんな事に負けるわけがないのをはっきり理解している。
だから心配なんて杞憂だと考えて、ハナコはその明瞭で鋭利な思考を走らせた。
「さて、私もそろそろ探し始めましょうか」
悠然と一歩を踏み出す姿はまるで花畑でも歩く乙女のように軽やか。
それでいて視線は鋭い。
浦和ハナコは自身が好んでいなかろうが事実としてその博学ぶりと思慮深さはキヴォトスでも有数。
ただ勉強が出来るのではない。
ただ優秀なのではない。
ある種、明星ヒマリと同じ際立った天才性を有した才女。
「(とはいえ、この場に限っては私にできる事は恐らくそうはありません。なにせ)」
そんな彼女だからこそ、あまり得意ではない戦闘や戦術的な視点での考え方についても、持ち前の洞察力のみで話についていける。
必然、セイバーやリオ、そして鉄火場慣れしているアズサと同じく。
「心配ですが、ヒフミちゃんかアズサちゃんが本命でしょうから」
その上でやるべきを成すとハナコは心に決めて目を光らせる。
自分だからできる事、即ち考えること。
可能性は決して高くはない。
だが、もしかすれば
そうして───。
「あら……これは?」
その目は確かに、過去からの手紙を受け取った。
『それじゃあ、アズサちゃん。上の階、よろしくお願いします!』
『気をつけて、アズサ。恐らくは
『えと……それはどういう?』
『ははは……後で話すよ、ヒフミ』
二人と別れて一人螺旋階段を上がったアズサは静かにガスマスクを被る。
それは戦闘の備え。
ここから先が死地だと自身に言い聞かせる為の祝詞でもあった。
「……クリア」
最上階。
大型の電灯が備えられたそこは、昼間である今はただ沈黙だけが包まれていた。
その場所に入ると共に
「(硝子と石壁がほぼ等間隔で配置。左奥と右後ろ階段手前に棚。ガス管の配線等はなし。灯りは……LEDだな。燃料等で暴発する危険性はないか)」
既にチャンバー内は確認し終えた彼女はすぐさま周囲を観察していた。
白洲アズサは警戒を怠らない。
まばらではあるが、下のホールには十数名の観光客もいるようなこの時間帯であっても、アズサとセイバーは
「(リオは前時代的と言っていたけど、限られた連絡手段の中で、アーチャー達が残せる方法があるとすれば二つだけだ)」
そして、この場所こそがその次善においては間違いなく都合が良かった。
アズサは知識と推測から、セイバーもまたその経験から、
「(最悪の場合……セイバーがそういう手段を知っていると踏んだ上でアーチャー陣営が罠に嵌めようとしているなら───本命は此処の筈)」
だからこそ、アズサは敢えてこちらを選んだ。
心配から一瞬渋りそうになったセイバーへと目線を送り、ヒフミには伝えないまま。
「(私一人なら大丈夫。螺旋階段ならどこから飛んでも最下層まで落ちる事はないし、十分に一人でも逃げ切れる)」
ヒフミの安全を願う、ただそれだけがアズサの想い。
何よりユズも含めた補習授業部の中でアズサだけなのだ。
真正面からサーヴァントと単身で戦闘をして生還したのは。
だからこそ、その脅威も自分との力の差も理解している。
故にこそ、己がその
明星ヒマリという少女を信じた上で、アズサがこの場所に立つのが一番、
どういう手段を取るかは分からないからこそ、アズサは一人此処で
同時刻、コハル達は各場所を探している間。
アズサは一人じっと、黙ってその時を待っている。
一分か、それとも十分か。
昼下がりの暑さから頬を伝って床に滴が落ちた。
そしてアズサの瞳が、光を捉えた。
「……ッ!」
破壊音、後に静寂。
それから小さく鳴り渡ったのはワンコール。
「……了解。撤退する」
辺りを警戒し姿勢は低く保ちながらアズサは、足早に灯室を後にしようとする。
足早へと階段まで戻り、遮蔽物に身を隠したことに僅かな安堵が思考に混ざる中。
アズサの視界の端に、ちらりと気になる物が映った。
「一応……確認してからにしよう」
階段を降りる最中。
振り返ってから、新たにこの戦いでサプレッサーを装備した愛銃の引き金を引く。
降りていた階段を再び、そして静かに身を隠しながら登り始める。
アズサの視界の先。
弾丸は狙い通り、螺旋階段を昇った先に備え付けられた棚の南京錠を弾き飛ばして、口を開けた小さなチェストが備え付けられている。
「……なんだろう、これ?」
中にあったのはなんてことのない物だった。
少なくともトリニティでそれを目にしないという日の方が珍しい。
だが、アズサはなんとなく気になってしまった。
自身を含めて当たり前に目にする筈の
「(夕食の後にでもセイバーやハナコに相談しよう)」
暫く開けていなかったのだろう、誇り塗れの棚の中にあった
何せ此処はまだ、『敵』の射程圏内なのだから。
「わぁ……改めて見ると大きいですね……!」
こんな時だというのに感動が先にきてしまいました。
機構室や回廊と違ってツアーでも普段は一般開放される事のない時計台の尖塔部分。
一日の誤差が一秒以内という巨大ながらも精緻な四面時計の心臓部が機構室だというなら、この時計台の歌声を奏でるこの場所は楽聖の喉というようにお呼びすべきでしょうか。
決して機構室にも劣らない、時計台にとって、そしてトリニティで暮らす学生や住民の方にとっても大切な場所。
私達に時刻を知らせ一日が刻まれていくのを教えてくれる鐘が目の前には大小幾つも並んでいました。
「見事な造詣の鐘だね。この地で音色を耳にした時も驚いたけど、これほどの大きさとは。僕のいた時代ではそれこそかの聖地ぐらいでないとお目にかかれないんじゃないかな」
セイバーさんも感嘆の声を漏らすその視線の先にあったのは重さ13.7tにも及ぶ巨大な釣り鐘とそれを囲む4つの鐘。
音階が異なるそれらが鳴り響く事で聞き慣れたメロディを奏でている事を今こうして目にしてなんだか高鳴るような気持ちになります。
「でも明星さんはどうして時計台を指定されたんでしょう?それにセイバーさんもどうして最上階や此処まで探すように言われたんでしょうか?此処も上の階も基本的には立ち入り禁止ですし明星さん達が入って何かメッセージを残すっていうは難しいんじゃ……」
たとえば霊体化をすれば立ち入り禁止なんていうのは関係なくなりますけど、あの状態のサーヴァントの方は基本的に物理的な干渉ができません。
霊体化中はお手紙とかそういうのを持ち運んだりは出来ない筈です。
だからメッセージとかを残されているなら、まだ下の階層のどこかに隠していると考えていたんですが。
そう訝しんでしまっているとセイバーさんはあっけらかんと答えてくださいました。
「まぁ、僕やアーチャーの時代だとわりとメジャーな連絡手段だったとはいえ、この時代ではまず見かけないしね」
「えっと……それは一体?」
セイバーさんが何事かを話し始めますが今一つ掴めず、話しながら私も辺りを探し始めようかと一歩踏み出したところで彼に腕を取られる。
「あぁ、ヒフミ。僕の背中から前に出ないで。そう、君はそうやって背中を壁につけておいて」
「あの、何を……?」
壁を何度か確認するように叩いた彼は、何回か頷いてからその叩いた場所より少しだけ離れたところに私を手招きしました。
そして身長でも測るように私を壁にしっかりとつけさせてから、彼は左手で『風』を掴んだ。
それを見て私もすぐに気持ちを切り替える。
てんで理由は分かりません。
多分聞いてからでは遅いのでしょう。
第一理由はなんであれ、この場で彼は聖剣を抜いた。
ならきっと、何かが起こるのでしょうから。
「キャスターを交えてアズサとヘリに乗る前に少し話をしてね。この高さがあれば十分に可能という結論が出たんだ。勿論、彼ほどの技量は必要だけど」
彼が見つめる先は東
「チヒロは電子的に不可能なら
先ほどまで私達がいたミレニアムがある方角を見据えて彼は剣を構え───。
「───ほら、来たよ」
瞬間、破裂音。
硝子一枚を砕くのではなく、捩じ切るように穿ち届けられたのは、私達の顔の横に突き刺さった一本の矢。
「……ふぅ。やれやれ、相変わらず良い腕だ。わざと石壁の脆い場所に刺して抜きやすくしてくれてるのも実に彼らしいよ」
私を庇うように螺旋階段まで歩きながら、ひょいとコルクボードに刺さったピンでも抜くように矢を引き抜くとセイバーさんは、呆気に取られる私に笑いかけた。
「さぁ、目当ての物は手に入れたし、騒ぎになる前に早々に降りようか?」
そう言う彼の手の中にあった矢はするりと霞のように消えてしまい、残っていたのは袋に入ったUSBだけでした。
1じゃんね☆
とりあえず短いけど時計台の調査は終了じゃんね☆
本スレ投稿時に時計台の緯度経度出したら元ネタすぐに答えてくれる人もいればチヒロちゃんとの会話からこの展開を当ててる読者さんいてちょっとニヤニヤしちゃったじゃんね☆
1話ごとの文字数で望ましいのは?
-
3000文字〜4000文字
-
4000文字〜5000文字
-
6000文字〜7000文字
-
8000文字〜90000文字
-
9000文字〜10000文字
-
10000文字〜12000文字
-
12000文字〜15000文字
-
15000文字以上