阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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む?ミドリか、モモイの検査は終わったのか?
……いや、私は別に一緒じゃなかったが。
セリナ、だったか?
モモイのやつ、随分注射という採血に手こずったみたいでな。
結局、辛いとは言え症状が出てる私が先に他のレントゲンだったりを回ってたんだ。
だからミドリが付き添っていると……待て。

───そういえば、あの子はどこに行ったんだ?




星空のヴェール(1)

 

 ラウンドトゥが硬質な音を立てて聖堂の中から響く。

控えめな残響が木霊する中、少しずつ夕暮れへと向かっていく斜陽が生んだ影の隙間を縫って現れたのは一人のシスター。

ともすれば礼拝とかの関係もあってティーパーティの御三方以上に私達一般生徒に馴染みのある方。

トリニティ総合学園シスターフッド現代表、そして。

 

 

 

───シスターフッド秘蔵のアイスティー

───今日の為にサクラコ様と何度も練習してみた自信作なのですが……

───いかが、でしょうか?

 

 

 

マリーちゃんが慕っていた先輩。

歌住サクラコ様、その人が聖堂から出てこられました。

 

「……いいえ、サクラコ様。何もありません」

 

 現れたサクラコ様の問いかけ静かに銃を下ろしながら、けれどその指は引鉄にかけられたまま。

事務員さんは首を横に振りました。

 

 ですがサクラコ様はその柘榴石をすっと細めると階段上に立っているのもあって睥睨するように周囲を一瞥して呟きました。

 

「何も、というのには些か『物騒』な様子ですね?少なくともトラブルが今この場には『ある』、そうでしょう?」

 

 いっそ一人言のように小さな声。

ですが、独特の圧、と言うべきでしょうか。

ナギサ様とはまた違う厳かな言葉にはつい背筋を正しそうになる力を感じてしまいました。

 

「……はい。ですが、問題ありません。私達で解決致しますからサクラコ様はどうかお部屋へ……。これ以上、余計なご心労を……っ」

 

 そう言って押し留めようとする事務員さんの横をするりと抜けるように一歩前へ出た彼女は私達の方をちらりと見られました。

 

「……なるほどハナコさんに、ヒフミさん……ですか。私に何か『御用』でしょうか?」

 

 そのまま私達の方へとまた一歩踏み出そうとした次には、事務員さんは両手を広げるようにしてサクラコ様の前に立たれていました。

 

「……っ!……いけません、サクラコ様。どうかお部屋へ。此処は何も、そう……()()()()()()()()()()()()のです。だからどうか、サクラコ様。お客様への対応は我々が」

 

 もう言い縋るような事務員さんの方をサクラコ様は向く。

身長差からサクラコ様が見下ろす形となった彼女はびくりと肩を震わせられたのが見えました。

 

「……みなさん、どうやら『お疲れ』のようですね?もう良い時間ですしどうでしょうか、暫く『お休み』になられては?此処は私が引き受けましょう」

 

「いえっ!違います!問題ありません!ですから……!」

 

 そう言う事務員さんの頬をそっと撫でながら、サクラコ様はたった一言。

 

 

 

 

 

 

「─── 丈夫です

 

 

 

 

 

 

「……ぅぁ」

 

「私がちゃんと『お話』してきますから、ね?」

 

念押すように、労わるように。

サクラコ様からそう言われた事務員さんは肩を震わせながら下を向いて黙ってしまわれました。

他のシスターさん達も、同じように。

私達に背を向ける彼女達がどんな表情をしているのか、それは定かではありません。

でもきっと───。

 

「みなさんは少し『休憩』なさっていて下さい。今回の件について後でまたゆっくり『お話』をしますからどうか安心して、『待っていて』下さいね」

 

 サクラコ様の声を聞いて私は首を軽く振って考えていたことを消す。

今考えるべき事ではありませんし、これからもきっと考えるべき事であるべきじゃありません。

なにより。

 

 

 

「みなさん、私に何か用があってなのでしょう?構いませんよ、どうぞ此方へ。ハナコさん、今更貴女に『祈り』は『不要』でしょう?……ご『案内』しますね」

 

 

 

言葉はハナコちゃんに、けれど目線はしっかりと私の方を見つめながらそれだけ言うと彼女は行儀よく、くるりと背を向けて聖堂の中へ向かって静々と歩き出していかれました。

 

 

 

 

 

 

「……とりあえず行きましょうか」

 

『あれが歌住サクラコ……一体何を考えているのかしら?』

 

「……言葉そのままの意味で捉えてもらって大丈夫です、リオ会長。今さっきまでの会話の中に、多分他意はありませんから」

 

『……ちょっと待ってちょうだい。冗談よね?』

 

「ぇと、あの……大丈夫、なんだよね?あの、ちょっと……言い方というか……」

 

「……不器用なんです、あの人」

 

 

 そんな話をハナコちゃんがしてくれながら、私達は真っ直ぐに彼女を追いかけました。

目は彼女の背と揺れるウィンブルから逸せませんでした。

 

 

 

 

 

 

「情けない先輩でごめんね……まりー。いつも任せきりにしてごめんね、さくらこちゃん……」

 

 

 

 

 

 崩れるように、濡れるように。

ひそりとそんな声が後ろから聞こえた気がして、私達は振り返れない、いいえ。

振り返っちゃいけない、そう思ったからですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうぞ、お掛けになってお待ち下さい』

 

 そう言われて通された大聖堂の一室で待つこと数分。

()()()()()()()()()()()()人数分のお茶とクッキーを用意して戻って来られたサクラコ様が最初に口にされたのは、謝罪でした。

 

「……シスター達が失礼な事を言ったようですね。代わってお詫び致します。大変申し訳ありませんでした」

 

 思わず、口の横にお菓子をつけていたコハルちゃんの顔を拭く手を止めて彼女を見ると深々と頭を下げているサクラコ様の姿が目に飛び込みました。

 

「い、いえ!あの、お顔を上げてください!サクラコ様!」

 

「いいえ、ヒフミさん。そして補習授業部の皆さん。思えば貴女方が訪ねて来て下さったあの日も酷い対応をしてしまいました。どうか、お許し下さい」

 

 慌てて頭を上げるようお願いしても彼女の思いは変わらず暫くそうしたままで、漸く顔を上げた彼女はバツが悪そうにお二人へと目を向けた。

 

「そちらの方は?」

 

「み、ミレニアムの花岡ユズです……あの、ゲーム開発部です……」

 

『調月リオよ。セミナーの現代表になるわね』

 

 そう言われて鎮痛な面持ちのまま彼女はまた頭を下げられるのを私やコハルちゃん、ユズちゃんは慌てて必死に止める。

なんとか頭を上げて下さった彼女はそれでも心苦しげで、心からと言った様子で謝罪を口にされます。

 

「なるほど、他校の……それは大変失礼な事を。どうかあの子達を許しては頂けませんか?彼女達も悪意があってあの対応をしたというのではきっとありません。責任持って私からも話した上で然るべき対応をしたいと考えております」

 

「ぁ……ああぁあの!ぜ、全然!大丈夫、っですっ!私、気にしてないです!」

 

『私も構わないわ。殊更、自治区間の問題にするつもりだってない。これは生徒会長の判断、オフィシャルな話だと思って頂戴。だから責任云々の話もこれ以上の謝罪も全く不要よ』

 

「私も!私達だってそうです!サクラコ様には以前にも!それこそエデン条約の時だって大変お世話になりましたから!だからその全然!気にしてないんです!大丈夫です!」

 

「……みなさんの寛大な心に感謝を」

 

そう言った彼女の顔にはやはりと言うべきか。

 

「……()()()()()()()()()から、本題に入ると致しましょう。みなさん。本日はどういった御用件でしょうか?」

 

どこまでも思い詰めたような痛みが浮かんでいました。

 

 サクラコ様のその表情。

そして時間がないという言葉から始まる問い掛けを受けて、頭の中に巡ったのは少し前のミノリさんとのお話。

 

「(何を話すべきか。どう言葉を尽くして、相手が求めている答えを見つけていくか……)」

 

 ミノリさんは私に『何を求めるか』と聞かれて私は『私達との協力』を願い出ました。

その話の中で私達との協力関係を受け入れる為に彼女が求めていたのは『私の願いを聞く』事でした。

それもエゴを丸出しにした私がしたい事を聞きたがっておられた。

 

「(ミノリさんの時もやっぱり望んでいない答えの時は反応が悪かったです……今思えばきっとあれはわざとそうして教えてくださってたのかもしれませんね)」

 

 では今回はどうでしょうか。

私達の今回の目的は『マリーちゃんの情報を集める』ことです。

もっと言えば、『マリーちゃんの願いを知る』こと。

そしてサクラコ様は私達が来た理由に()()()()()()()()()()()

目的まではどうか分かりませんが、マリーちゃんの話を、聖杯戦争の話をしたい事は承知済みな筈です。

 

 サクラコ様はマリーちゃんの交友関係を知っている。

ハナコちゃんや私と仲が良かったのも知っている。

サクラコ様はマリーちゃんと協力関係()()()

マリーちゃんを想う先輩はあの受付にいた方達のようにシスターフッドには沢山いて、()()()サクラコ様は私達と話をしたいと迎え入れて下さった。

 

「(サクラコ様のマリーちゃんに対する今のスタンスを知る必要がありますね)」

 

 サクラコ様はただ話を聞きたいのではきっとありません。

私達との話し合いを通して、何か()()()()()()()んです。

そしてそれは、私達の誰か、或いは聖杯戦争のマスターとの話し合いの中で得られる物の可能性が高いです。

でなければ謹慎中、それもティーパーティからの出頭要請や調月会長からの会談すら跳ね除ける頑な態度を示しているというのに私達と会ってくれる理由が思いつきません。

 

「(ハナコちゃん曰く、サクラコ様は勘違いされやすい方。とはいえ、だからと言ってシスターフッドの長であるっていうのは嘘じゃありません)」

 

 前回のミノリ先輩との話し合いと同じ。

私よりずっと話術や交渉ごとに長けた相手との話し合い。

あまり下手な小細工を弄するのではなく。

 

「(ポイントを絞って少しずつ、サクラコ様の気持ちに寄り添っていく……が今回の方向性、ですかね)」

 

 サクラコ様が欲しい物、彼女にとって最低限それだけは譲れないポイントをしっかり見極めなくてはいけません。

それを理解した上で立ち回る事でこの交渉はうまくいく、そう思うんです。

 

 まずはどの話題から切りだすか。

悩んで、考えて。

 

『(ヒフミ)』

 

『(セイバー、さん?どうされましたか?)』

 

『(……どうしたもこうしたもないさ)』

 

 ふいに念話でセイバーさんの声が頭の中に滑り込んできました。

出されたお茶のカップに()()()()口をつけられた彼は、今も変わらず香りを楽しんでおられます。

そんな彼は、優雅な振る舞いからは想像できないぐらい呆れたため息を吐きながら私に念話で話しかけてきました。

 

『(随分長いこと黙りこくっているの、気づいてるかい?)』

 

『(あ……あはは……やっちゃいました……)』

 

 ふいに、カップを持っていた()()人差し指と親指が小さく跳ねた事に気づきました。

どうやらちょっと考え込み過ぎて、お茶を飲もうとカップを持ち上げたままずっと黙って動かないでいたみたいです。

 

『(考え過ぎと気負い過ぎは君の悪い癖だよ、ヒフミ。間食が多いのもね)』

 

『(むぅっ!一言多いです!)』

 

『(それで、()()話せそうかい?)』

 

 一言多いと思いつつちょっぴり冷め出した紅茶に口をつけたところで、彼の言葉にムッとしました。

だってそうでしょう。

こんな風に見透かして、私の気持ちを全部察して揶揄ってくるなんて。

───あんまりにもズルい。

 

『(……はい、()()()()()()大丈夫です)』

 

『(それは良かった。またカタツムリにでもなられたら困るところだったからね)』

 

『(あーっ!またそー言う!)』

 

『(この場には君の頼れる仲間がいるんだ、くれぐれも忘れないように。たとえ主となる話者が君であっても、必要なタイミングでも僕らも援護するよ)』

 

 そう、この場にいるのは私一人じゃありません。

頼れるみなさんがいるんです。

何より()()()()()()()()()

気持ちを落ち着けて、焦るんじゃなくてじっくり腰を据えて話が出来るんです。

だから、こんがらがり始めていた思考の毛糸玉を解いてくれた彼に私は一言だけ念話でお返しをしました。

 

『(……()()()()()()()()()()、セイバーさん)』

 

『(そこは()()()()()()()()()()、で良いんだよ、ヒフミ。なんと言っても僕らはサーヴァントとマスター。おっちょこちょいな君を支えるのもまた従騎士の務めさ)』

 

けど、やっぱり澄ました顔でクッキーを摘みつつ念話で話す彼の方が一枚上手みたいです。

 

「(切り替えていきましょう。何でもかんでも始めから分かることなんてないんです)」

 

 私はサクラコ様の顔を見る。

薄い、校則規定に反さない程度で清潔感のあるお化粧。

 

「(だからまずは───私の()()()話から始めましょう)」

 

 ですが、いつも私達を見守られ静かに朝の礼拝で説法をされる柘榴の輝きが、暗く沈んでおられると感じたのは決して気のせいではないと思うんです。

 

 

 

「サクラコ様。私はセイバーさんの、聖杯戦争に参加しているマスターです」

 

 

 

 私のしたい話から、まずは始めていきます。

打算はなし、小細工はなし。

だって。

 

「(誰かがマリーちゃん(私のお友達)を想って悲しんでいる、そんな辛そうな顔……)」

 

()()()()()()()()()

だからこれは私のエゴ。

でもそれがこの聖杯戦争では大事なんだとミノリ先輩から強く教わりました。

勿論一方通行はいけないことです。

でもまずは、沈んだ顔をしている彼女の気持ちが少しでも晴れるように。

その為にわずかでも憂いを払えるように。

 

「(直球勝負───隠し事は全部なしです……!)」

 

 サクラコ様は無言。

ポーカーフェイスなのは変わりません。

常と異なるのはその瞳だけ。

昏く沈んでいるその色ご気になりはします。

 

「今はセイバーさん、それからキャスターさんとそのマスターの方と一緒に……いいえ、他にもこの場にいる補習授業部のみなさんやたくさんの方と一緒に聖杯戦争を止める為に頑張ってる最中、です」

 

 だからこそ、まずこの方とお話しする際に、私の立場と想いを伝えてはっきりさせなきゃいけません。

私は決して敵じゃないんだと。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだと。

 

「セイバーさんを召喚したのはちょうどあの夜、私達が電車で不審者に襲われた……そういうことになっているあの8日前の事件の時でした。それから今日までマスターとして過ごして……その中でマリーちゃんとも聖杯戦争のマスターとしてお会いした事があります」

 

 敢えて、マリーちゃんと会った。

そういう風に話しました。

直接的な、たとえば戦ったとかそういう表現は避けて話します。

別にそんな事、わざわざ迂回して伝えなくてもサクラコ様は承知しているかもしれません。

いいえ、あの駐車場での出来事だってきっと把握されている筈です。

だけど。

 

『(そうだね、ヒフミ……僕も、それで良いと思う)』

 

『(はい、私も。私がそうだったら嫌ですから)』

 

 でも、私が逆の立場だったらと思うんです。

もし自分の大好きな後輩と、お友達と戦ったなんて分かっていても言葉として当事者から突きつけられたら。

 

「(私だったら、どれだけ事実を受け止めようと覚悟してても、()()()()()()()そんなお話聞かされたって嬉しくなんかありません……)」

 

それはきっと『辛い』と、私だったらそう感じてしまうと思うんです。

相手の立場に立つ。

もちろんそれを考える時に自分というフィルターを挟んでしまう以上、考えはズレる事は当たり前でしょう。

でもだからって何一つ考えなしにするのと、そうしないように考えて話すのじゃ、きっと結果が違ってきます。

 

 だから、フォーカスするのは別の部分。

善とか悪とか、正しいとか間違ってるとか。

マリーちゃんと戦ったとか、マリーちゃんに対してどうこうとか。

そういう小難しいのは今はどうだっていいから後回しにするんです。

だって誰かを怒鳴り散らしてお説教したいわけでも、誰かを責める為にお話しに来たわけでもないんですから。

 

「マリーちゃんはずっと暗い顔をしていました。苦しそうに、でも何かに必死になっていた。必死になっていたから、聖杯戦争のマスターとして立ち続けておられました」

 

 表情にあまり大きな変化はありません。

でもよく見るとほんの少しだけ頬が動かれた、両膝に乗せた真っ白な掌が震えた。

それが見ていて辛かった。

 

「……何か、何かあるんです。だから私は彼女が何を想って、どう考えて聖杯戦争に臨まなきゃいけなかったのか、それが知りたくて此処に来ました」

 

「……マリーの、想い……ですか」

 

「はい。マリーちゃんを傷つける為なんかではなく、マリーちゃんの願いや気持ち、彼女が抱いている聖杯戦争に対して抱いた()()の正体が知りたくて私は今日此処に来たんです」

 

 息吐くようなそれは微かな音がありました。

浅く、必死にもがく中で空気を振るわせる吐息。

それを吐き終わるのを待ってから、私はサクラコ様へと尋ねる。

 

「サクラコ様は……何かご存知ありませんか?マリーちゃんの願いを、マリーちゃんがどうして戦わなくちゃいけないと自分自身に言い聞かせているのかを」

 

 けれど言葉は何も返ってこないんです。

ポーカーフェイスだって変わらない。

いいえ、彼女は変えられない。

だから今、もう彼女の瞳は隠れてしまった。

 

「サクラコさん……」

 

 ハナコちゃんのぽつりと溢れた呟きに僅かに閉じられた瞼に咲いた花が震えた。

閉じていないと、きっと溢れてしまうんです。

それでも、そんな風な思いをしても彼女は私達との話し合いに応じてくれた。

 

「(今日、ここに来ることを選べて良かった───)」

 

 今この時、初めて今日の午後にトリニティの探索とシスターフッドを訪ねるのをみんなで決めて良かったと思いました。

この人の想いを。

聖杯戦争で苦しんでいる目の前の人の痛みを知らないままにならないで済んだから。

 

「(マリーちゃんのことだけじゃ、きっと駄目なんです)」

 

 マリーちゃんの願いもそうですけど、サクラコ様の願い(想い)も。

それをこの話し合いの中でしっかり包んでみせなくてはいけません。

 

 頭の中で何を話して、どう伝えれば彼女の気持ちをこれ以上傷つけないで済むか。

それを念頭において考えます。

相手に寄り添う、その為には何が必要かを。

 

「サクラコ様。私はマリーちゃんの願いを知りたいんです、知らなきゃいけないんです。聖杯戦争にどんな想いで参加しているのかを……」

 

 彼女の肩が、揺れました。

踏み込み過ぎたかなと一瞬掠めた思考に被りを振ります。

 

 でも徹頭徹尾、此処で目的を翻す訳にはいきません。

ブレちゃいけないんです。

私がその目的を容易に譲歩できるという事は、『マリーちゃんの願い』に自体に対する私の関心や延いては優先度が低い事を彼女に伝えることになりかねません。

 

 それだけは出来ません。

そんな風に捉えるような話をしてしまって、それでサクラコ様がもっと傷つく形になるのは嫌なんです。

だからこそ、願いを教えてほしいという要望だけは最初から最後までしっかり提示していきます。

 

「……知らなきゃ、何を考えて、どんな風に想っているのかマリーちゃんの気持ちに触れなきゃ。私は彼女をちゃんと正面から理解できません。どんな願いを抱いていたとしてもまず受け止めて、それからじゃなきゃ次に進めない……戦いを止められない、終わらせられない。そう思うんです」

 

 小出しにはなりますが戦いを止めたいという意思を見せたところで、サクラコ様が口を開いてくださいました。

変わらずその視線は下を向いたまま、暗く閉ざされています。

 

「……戦いを、聖杯戦争を止めるというのが、ヒフミさんの『戦う理由』ですか?」

 

 でも一言、はっきり私とお話ししてくださる意思を見せてくださった。

それが嬉しくて思わず彼女との間に挟まれたローテーブルに身を乗り出すぐらいの勢いで私は返事をしました。

 

「はいっ!私は……私が嫌だから。私が苦しいのも、私のお友達が傷つくのも、それを想像するのだって嫌だから。ですから私は、戦いを止めたいんです」

 

 気持ちが逸りそうになるのをぐっと我慢しつつ、それでも伝えたいことを嘘ひとつなく口にします。

どうか届きますように、そう願って。

 

「……そう、ですか」

 

 けれどその思いは。

 

 

 

「生憎と私には彼女の願いは分かりません。あの子は何も言わずに、何も残さずにこの場を出て行ってしまいましたから」

 

 

 

 目を開かれたサクラコ様の言葉でぴしゃりと、行き場を失ってそのまま落ちてしまいました。

 

 こうなる、というのは実は予想していなかった()()()()()()んです。

サクラコ様はシスターフッドの代表者です。

立場的には他の各委員会委員長の方達と同じかそれよりも上。

それこそあのエデン条約の一件の際にはティーパーティの方々に代わってトリニティの指揮を取れる立場と権威があられる方です。

 

───不器用な人なんですよ。

 

───何を考えているのか掴みにくい方、ですが彼女の信仰は間違いなく本物です。

 

ですがサクラコ様はそれを自分から嬉々として振るわれるような方ではない、そうハナコちゃんやナギサ様から伺っています。

 

 だからこそ、ティーパーティからの出頭要請に謹慎中という建前から応じないなんていうハナコちゃん達から聞いて思い描いていた彼女の人物像から離れた強権を振るう今の姿には理由があると思っていました。

そしてその理由が頑な姿勢に繋がって、もしかすると話をしたくないと、拒否される可能性も。

 

「なら、何か……たとえばマリーちゃんに関わる話を教えて頂けませんか?どんな小さな事でも構わないんです。彼女の気持ちや願いに繋がる事を───」

 

 ですから私もしつこい形にはなりますが食い下がって。

 

 

 

 

 

 

は……っ!」

 

 

 

 

 

 

 時計の針が進む音がやけにはっきり聞こえてきました。

私達は息を呑んでしまっています。

付き合いが以前からあったのだというハナコちゃんですら信じられないという表情を。

 

たった今、机を揺らしてソファから立ち上がりながらサクラコ様が叫ぶようにして話を遮って怒鳴ったのに、私達の誰もが何も言えないでいました。

 

「……いいえ、ごめんなさい。大きな音を出してしまいました、お恥ずかしい限りです……えぇ、ですが。私には何も分かりません」

 

 暫くして、彼女は顔を伏せたままソファに座りました。

けど座ったという表現は違うかもしれません。

吸い込まれるように、倒れ込むように。

べしゃりと屋根から力無く溶け始めた雪が落ちてくるように。

 

「マリーはシスターフッドから身を引きました。彼女は私達と袂を分かちました。私には……最後まであの子がそれを選択した理由を聞く事ができませんでした」

 

 そんな風にソファに腰を下ろされたサクラコ様はさっきまでの悲痛な声がなかったように。

もしくはそれを押し殺しているように淡々と話されていきます。

 

「私にマリーの事を語る権利はありません。私にマリーの願いを考える事は出来ません。私に……私なんかが口に出来る、お話し出来ることなんて何一つありは、しないのです」

 

 彼女が語る言葉はいつも穏やかに説法を壇上でされる時とはまるで違っていました。

そこに込められているのは強い意思。

 

「……私はどこまで行っても部外者でしかありませんでした。私はあの子にとってただの上司だった人間に過ぎません。そんな私が何を話したところで余計な憶測、有りもしない希望で装った言い訳に縋りついた……」

 

強く、強く。

()()()()()しようとする想いしか見えてこないんです。

 

 

「───醜い言葉しか出ないのです」

 

 

 

 そんな彼女になんと声をかけるべきか。

気持ちに少しでも寄り添えたら。

ちょっとでも憂いを取り除けたら。

そんな風に考えていた自分の傲慢さを恥じたくなりました。

もう今更、マリーちゃんの話を、だなんて事は言い出せないぐらい。

でもせめて、何か。

 

「ですからどうかお許しを。私には……私は、浅ましい妄想を貴女達に聞かせたくない」

 

何か目の前で怯えたように何もかもを払い除けようとしている彼女に。

 

「あの子の事が聞きたいのであれば、彼女と親しくしていたシスターを何名か呼びましょう。少しお時間を頂きます」

 

伝えられる物があるんじゃないかと。

 

「それでは失礼します……ごめんなさい、みなさん」

 

けれどサクラコ様は最後にそう告げられて、そのままソファから立ち上がって───。

 

 

 

 

 

 

「───それは、醜いのか?」

 

 

 

 

 

 

 静かにアズサちゃんの口からそんな言葉が凛と鳴りました。

 





1じゃんね☆
長くなるからサクラコ様とのお話しはまた次回へ、じゃんね☆
明日もお昼頃に投稿、夕方か明日(明後日?)の深夜にはまた新しいお話にいきたいじゃんね☆
……もうそろ、(ストック的な意味で)大詰めじゃんね☆



前回の後書きで触れてなかった事があったからお知らせするじゃんね☆
まず、本作はあにまん掲示板で投稿してたSSの加筆修正版じゃんね☆
だから修正したりで本スレ版とはちょっと違ったりしてる、けど基本的にはほぼ同じお話じゃんね☆
ただし前回の88話「夢の形を教えて」に関しては色々と考えた上でどうしても両サイト様の規約の関係だったりから台詞をカットしてるじゃんね☆
設定やお話の内容をより読みやすくとか修正したり、とかじゃなくてあくまで現時点ではメタ的に削らざるを得ないって理由じゃんね☆

長々書いたけど、1の都合でどうしても消しちゃった台詞があるよというお話だったじゃんね☆

1話ごとの文字数で望ましいのは?

  • 3000文字〜4000文字
  • 4000文字〜5000文字
  • 6000文字〜7000文字
  • 8000文字〜90000文字
  • 9000文字〜10000文字
  • 10000文字〜12000文字
  • 12000文字〜15000文字
  • 15000文字以上
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