阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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いやぁ腰が痛いなぁ。
おじさんもそろそろ歳かなぁ……。
はぁ、夜のパトロールはどうしても独り言多くなってまいっちんぐだねぇ。
ちょっと一休みして柴関に寄ってセリカちゃんの顔でも見に行こうっと……。



───は?


doLce bIbliotecA Remember

 古関ウイは今日という日に絶望した。

この後、数時間後には大切な友人との食事を予定していた。

彼女の心に寄り添いながら過ごす時間を想像していた。

 

 その為にシミコからのお小言を受け流し、通常業務も恙無く済ませ、梅花園*1の図書館見学について担当者と打ち合わせし、レッドウィンターの工務部*2からの古い病院施設の設計図書の請求も大急ぎで対応し、正義実現委員会が青い顔をして持ってきた骨董品の修復作業*3も一通り済ませた。

 

 そして、ティーパーティから送りつけられた数々の面倒な仕事*4や小難しく難解な言い回しでの依頼*5やここ最近顔を見せないかと思ったら突然やってきて一通り関係ない話を喋り倒してから満足してド直球に頼み事をしてきた友人*6から請け負った全ての事務を、近年稀に見る速度で昼食も我慢して*7、ほぼ全ての業務に蹴りをつけた。

 

 古関ウイは万全を喫してデートに臨もうとして浮かれていた。

このところ忙しくて会えなかった友達との食事という希望に満ちた予定が詰められた今日という日に感謝すらしていた。

 

 そう、つい数分前にくねりながら、形容し難い人語を話す目の前の厄介者*8が来るまでは。

 

 

「ふふっ♡今日はヒナタさんとデート♡……なんですね♡それならしっぽり♡爪のお手入れしなきゃ駄目ですよウイさん♡胡桃で黒ずんだ汚れ*9を落とすのは大変ですから、今から⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎のような滑らかな洗剤にまみれて、ずっぽり♡しっかり♡奥の奥まで⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎と蛞蝓の⬛︎⬛︎を思わせるような指と指を絡めた⬛︎⬛︎的な手洗いをしないとですね♡……ちなみにお湯でふやかすとよく取れるようですよ*10

 

「コハル、ハナコは何故突然爪の手入れの話を始めたんだ?」

 

「し、知らない!エッチなのは……って大きな声は駄目。あ、ウイ先輩、その、えとお久しぶりです……お邪魔してます」

 

 中央図書館に寄って入館許可証を三人分*11を済ませてから何故か、という何故知っているのかすら謎な裏口をハナコちゃんが案内してくれてそのまま椅子に座っていたウイさんに背中から声を掛けて暫く。

 落ち着きを取り戻されたウイさんへと私は声を掛けた。

 

「あはは……おじゃましますウイさん」

 

「帰って」

 

「あはは……」

 

 取り付く島もないとはこの事だろう。

明らかに怒ってますアピールと不機嫌アピールをしておられるウイさんは、ハナコちゃんに警戒している。

 

「あらあら、嫌われちゃいました……どうしましょうウイさん」

 

「いや……なんで本人に……普通怒ってますって雰囲気出してる張本人聞きますか……というか急に何の用なんですかハナコさん……今日は蔵書整理の手伝いは頼んでませんしあの、急ぎの用以外ならまた後日に……」

 

 疲れた顔をしつつこの後の予定があるからか、明らかに面倒ごとはお断りという様子のウイさんに笑顔、ではなく真剣な顔で言いました。

 

「ウイさん、折り入ってお願いがあります」

 

「えぇぇ……なんですか急に……滅多にそう言う事言わない()()浦和ハナコさんがお願いとか……絶対面倒ごとなんじゃ……」

 

「はい、お願いがあるんです───コハルちゃんから♡」

 

 目と目を合わせて、普段の嫋やかな様子とは違う本気モードの言葉にたじろぐようなウイさん。

だったけれど、それ以上にたじろいだのは突然話を振られたコハルちゃんだった。

予想通り、泡を食ったように、けど途中で今いる場所を思い出して小さな声でハナコちゃんへと抗議する。

 

「いえぇえ!?……って、あっ!……わ、私がお願いするの?」

 

「はい勿論♡コハルちゃんからお願いしますね♡」

 

「うぅぅぅぅ……でも、その、こういう事も正義実現委員なら、ちゃんと出来るようにならなきゃだから別に言いけど……」*12

 

 ごにょごにょと呟きつつ下を向いて、ほんの僅か、よしっという小さな声*13を合図に顔を上げてコハルちゃん。

 

「ぁ、あの……ウイ先輩」

 

「う、うぅ……な、なんでしょうか?」

 

「ちょっと調べて欲しいものがあるんです。ヒフミ、が持ってるについてと、それから昔のお話について」

 

その言葉を聞いてウイさんはため息をつきつつ、私の手に持っている小瓶、その中にある自ら燃えるように輝く赤い砂を一瞥した。

 

「……あのですね、昔のお話ってそんな『あやふやなキーワード』で、この古書館に一体どれだけ資料があると思って……しかも()()、また『 古代の遺物(オーパーツ)』関連ですか。私は古書が専門であって 古代の遺物(オーパーツ)専門家でも茶器の修復専門家*14でもないんですけど……」

 

「ぇと……それなんですけど!その!えと……すかさは?について調べて欲しいの!……んです、よろしくお願い、しますぅ……あ、言ってたっていうのはこれです……」

 

 小瓶をウイさんへと手渡しつつ頭を下げてくれるコハルちゃんに合わせて私とアズサちゃんも慌てて頭を下げる。

昨晩手に入れた、今ウイさんが静かに眺めている小さな小瓶の中身。

それは昨日の夜、戦いが終わってからハナコちゃんやセイバーさんと話をして、微弱ながら確かに魔力を秘めたそれが、私達も知らない未知の『オーパーツ』或いはランサーの真名についての『手掛かり』となる、そう結論づけた物。

それを暫くしげしげと眺めてから、頭が重そうにがっくりと項垂れて、ウイさんは言葉を吐き出した。

 

「……ぅ分かりました」

「お引き受けします……から、少しの間だけ、時間を下さい」

「1、時間ほどあれば解析できると思います……」

「解析の間、は……皆さんの求められる()()()()なる人物の関連資料を持ってきておきますのでご自分で……古書の扱いは、ハナコさんなら多分問題ないでしょうけど、くれぐれも大切に」

 

では少し準備をするのでこちらで待っていて下さい、とそれだけ告げて彼女は書架の中へと消えていった。

 

 

***

 

 

『───これが多分、お求めの資料ですから』

『それでは1時間ほど、お待ち下さい』

『あ、材料費や依頼費用は結構です。修復ではなく、ただの分析ですから』

 

 というわけで、今目の前にあるざっと……10冊の本。

どうやら古代語の文献を翻訳した私達でも読める資料のようですが、明らかに発刊から十数年以上は経過してるのが分かる古書特有の感じ。

 時間の経過によって淡く、鈍く、重厚さを増した装丁。

学生たちの手で丁寧に、でも幾度も繰り返し捲られた事で草臥れ少し不揃いになって僅かに変色したのが見て取れるページ。

仰々しい文字はまるで、なんだか教育BDの中でも特にレポート提出が厳しい講義に出てくる資料のようで。

気が遠くなりそうながら、私達はそれぞれが一冊ずつ手に取って読み始めた。

 

「うぅ……だーな?親族?来寇?なんで?なんでこんなに何回も行ったり来たりしたかと思ったら戦争してるのよぉ……」

 

「ふむ……難しいな。む?この、ぬんのす?という子はいいな。かわいい」

 

「あはは……もう少し易し目のやつが来たら良かったんですけどね」

 

「ふぇにあん?あるすたー?なにそれ訳わかんない……せんせぇ、たすけてぇ……」

 

「ヒフミ、見てくれ。ぬんのすだ」

 

「あ、それほんとに可愛いですね」

 

「嗚呼、私この子気に入った。多分良い子だ、違いない。ぬんっ」*15

 

 アズサちゃんが開いて見せてくれた資料に乗っていたのは、なんでしょうか。

壁画に描かれていた物の再現図のようなんですけどもふもふした毛玉の塊というか角が生えてる人形というか、Nunnosという文字とそんな子*16が描かれていたり。

 

「あ、これなら分かるかも……えと、アリアンロッド?えるだなーん、に、ゔぁなーふ?……なんかキヴォトスみたい」*17

 

「これは……アルスル物語……?ちょっと違うな」

 

「あはは……コハルちゃん、それなんか違うやつな気がします……」

 

「こっちのは焔の如き戦士クホりん?……これも違うか……」

 

「ふぇ……わわわ分かってたから!こっち!こっち読もうとしたの!!……あ!ほらこれ!!」

 

「えと……どれですか?」

 

「ほら!このページに載ってるSkaðiってやつ!!その全身紫タイツ女のことでしょ!!」*18

 

「多分ですけど……ちょっと違いますかね……?」

 

と、コハルちゃんと肩を並べてああでもないこうでもないと色々と資料を読み回してみたりして。

 

 そんな風に三人で資料を読み進めたり、ハナコちゃんが要約してくれたり、セイバーさんが渡してくれた資料の古代語をなんとか訳しながら額をつき合わせて考えたり。

セイバーさんとハナコちゃんが自分達の資料を読んだりする中、急に古代語の、セイバーさん曰く『馴染みのある言語』なのだとかで、講義が始まったり。

 そしている内に、いくつかの資料に断片的に書かれていたスカサハと呼ばれた過去の時代に生きたその人の姿が少しずつ浮き彫りになって。

 

「こんな、感じですかね?」

 

「はい。資料の中から読み取ってセイバーさんの推測から分かる物を埋めて、恐らくは……」

 

 お約束していた1時間が経とうとした頃、私達の手元にはスカサハと呼ばれる女性の伝承から読み取った彼女の秘技「鮭跳びの術」から考えられる敏捷のステータス値*19、智慧者であり優秀な魔術師だった逸話から一つのスキル*20、そして断片的ながら記されていた有している筈の海獣の骨から作られた宝具、そして───。

 

アサシン。それが恐らく、今回の現界にあたって用意された彼女のクラスだ」

 

 

 邂逅から三日、ようやく彼女のクラスに当たりをつける事ができた。

 

 

 

***

 

 

 

「ぇえっと……結果から言いますね。こちら、ご依頼された古代の遺物(オーパーツ)だった物です……」

 

 おずおずと、そう言って差し出されたのは小瓶の中あった砂粒ではなく、砂粒が結晶化したなにかの破片、いえ、石のようになった物だった。

 

「分析だけ……のつもりだったけど、つい……その熱が入って……」

 

気がつけば修復してしまいました、とウイさんは謝りながら事情を説明してくれた。

 

 ずしりと、掌の上に乗せられたそれは人肌の温もりが残ってとかそういうのではなく、純粋に温かい。

いや、違う。

───()()

赤茶けた塊となったソレは仄かな熱を帯び、どこかあの夜に感じた燃えるような力強さを感じます。

 

「ふふ、流石丁寧なお仕事ですね。ウイ先輩」

 

「わざわざ『当てつけ』みたいに先輩呼びしなくていいから……ほら、もう帰って。私この後、出掛けるから」

 

「まあ♡ご一緒しても?」

 

「ほんとにやめて……今度、お昼付き合うから」

 

「まあっ……それは楽しみにしてますね♡」

 

ああそれからこれ渡しとく解析結果ね、とそう言って紙束を渡すと、ウイさんはまた元いた司書机へと戻っていく。

渡されたそれにはとても1時間の仕事とは思えないほど、たくさんの事。

古びたテルモピュライの熱砂と銘打たれたその石について。

関連されるのではと添えられた「外の伝承」、ある一人の()()の生涯について。

そして、その彼が持つ最も偉大な功績について。

 

 その他にも、石となったソレの推測される組成や、これが実は何らかの情報を記録した()()()()()()()()に近い物質なる物ではないかという考察。

より高度な分析もミレニアムでなら可能かもしれないが今以上の情報はもう少し量が必要な()という推理。

キヴォトスでこれまで確認されたオーパーツのリストの中から照らし合わせて類似していると思われるのはエーテルの結晶()()であるという結論。

それらが受け取ったレポートには綺麗な字で緻密に記されていました。

 

「これでもう一人の方についても分かりそうですね!」

 

「ええ、これならまず間違いないかと」

 

『(僕はまだ見ていないけど、どうやら良い情報が得られたようだね)』

 

「はい!これなら、せ、ルキウスさんにも良い報告できそうですね『ハナコちゃん』」

 

 思わず念話で話しかけてくれたセイバーさんへ反応しそうになりつつ、ハナコちゃんへお返事したという形で誤魔化す。

百鬼夜行の壁に耳ありなんとやらではないけれど、何処で誰が聞いているかは分からないのだから。

セイバーさん曰く、アサシンは高ランクの気配遮断スキル*21を持っているのが基本だという。

敵対関係であり、そういう存在がいるのだからなおさら、言動に気をつけなくてはいけない。

 

 とはいえここに来て得られた二騎のサーヴァントの情報、そのうちスカサハさんの情報はセイバーさんからのアドバイスを元に、サーヴァント化した際に得られたであろうスキルやステータスを想定し終えた。

ランサーさんの情報もこの後、ウイさんからもらったこの整理されたレポートから同じように読み取っていけばきっと真名や所持してるスキル、宝具へのヒントが見つかる筈です。

 

「(一歩前進、ですね!)」

 

 まだ他のマスター方の『所在』は掴めてはいない。

けれど、少しずつ前へと前進しているのが分かって、思わず顔がほころんでしまう。

気を引き締めながら、それでも、みんなと着実に一歩いっぽ進んでいる感覚に私は胸を躍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれど、不意に胸がざわめいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(私は───)」

 

誰かを守らなきゃ、そう思うけど。

誰かが傷つくのは嫌だ、そんな風に思うけど。

 

「(その願いって……)」

 

 

 

本当に誰かの本当に叶えたい願いや命を賭けた祈りを踏み躙ってまで、私が戦っていい理由なんでしょうか。

 

 

 

***

 

 

 

「そういえば、後は気になるのは見かけない大人についてか……」

 

考えの坩堝。

それに嵌ったようになっていた私の耳に届いたアズサちゃんのそんな呟きで、意識を前へと戻した。

 

「確かに気になりますよねぇ……一体どんな背徳的なせ・い・へ・き♡をお持ちの方なんでしょうか♡」

 

「せ、性へ!!……ぁ、古書館で大きな声出してごめんなさいウイ先輩ぃ……」

 

「もしかすると特異な行動によって情報を撹乱させようとする意図なのか……いや、だとすれば脚を舐める事に一体どんな意味が?*22……分からない、そうだ、後で先生に尋ねてみよう*23

 

「あはは……それは許してあげましょうアズサちゃん」

 

 アズサちゃんのその案がなんとなく、尊厳というか性癖の暴露というか大人としての威厳とか、そういうのをぶち壊すことになるからやめた方がいい……という警鐘を心の中の先生が鳴らしていた。

 

 そこへ、本当に不思議そうな顔をしてウイ先輩が話へと加わる。

 

「?……なんの話、それ」

 

「あらウイさん、気になりますか?─── 夜の街を、時に戦車を乗りこなし、時にロボット軍団を指揮しながら練り歩く、全身タイツのごりっごりのマッチョな大人の怪人。しかも一度見てしまったら、四つん這い♡で追いかけてきて捕まったら最後、脚からくまなく全身舐め取られて干からびて死んでしまう……っていうう・わ・さ♡」

 

「ぇえぇぇぇ……ほんとになんなのそれ……」

 

 その反応は本気で引いている時の反応だった。

でも理解しかない。

改めて聞いてもインパクトが凄すぎて頭がくらくらしてくる。

私の頭の中で昨晩のランサーさんのような姿の大人の男性が四つん這いで……やめましょう。

この考えは精神衛生上よくありません。

 

 どうやらウイさんも同じような考えをしてしまったのか、インドア派なこともあるからでしょうが白くきめ細やかな肌*24をした頬から若干血の気が引けてます。

 

 

 

「というか噂、なんてあまり間に受けない方がいいですよ───噂なんてものは所詮『尾鰭』がつくんですから」

 

 

 

 ため息一つ、司書机へ向かって椅子に寄りかかるようにして座ったウイさんはぼそりとそう言う。

見るからに上質な革が張られたその木製の椅子は主を出迎えてか、それとも賛同してか、主人の体重を隠すように囁くような声をあげていました。

 

「尾鰭、ですか?」

 

思わず、聞いてしまう。

噂に尾鰭がつく、言われてみれば当たり前な話だ。

 だが、目の前にいるのはトリニティ全体を見渡してもそうそういない学業優秀で、それこそ『書』という情報の整理専門家*25

そんな頼れる3年生からの話を今この場で聞いておくべき、と()()した。

 

「……ええ、まぁ、はい。その、噂は()()()、そういう物です」

 

 白い指でちょこんとつまみ、目頭を揉みほぐしながらウイさんが訥々と語り始める。

まるで古い物語を朗読するかのように。太古の記録を詳らかにするように。

その声は私たちしかいない古書館に不思議と響くような形でするりするりと耳に入ってきた。

 

「見たものを面白おかしくした誇張、そうした方が望ましいという勝手な願望、きっとこうである筈に違いないという間違った偏見、それは受け入れられないから多分こうだという憶測

 

 司書机の上に無造作に置かれていた眼鏡を掛けたウイさんは、指を折って一つひとつ、『噂』という物が成立するための『要因』を数えていく。

 

「そういうのが人の間を渡り歩く中で蓄積されて、時には複数の話が一つになってしまったり、拡大解釈や逆に分かりやすく希釈される」

 

彼女の形の良い鼻に載せられた鈍い真鍮色。

その細い縁に、古書館の古めかしい電灯の光が当たって品のある輝きが彼女の顔を彩って、本当に魔術師だと錯覚させるような、えも言われぬ魔性を帯びた魅力が語りに載る。

 

「それが一つ、また一つと重なるように、混ざるように、無造作に積み上げられていく。一見つぎはぎにも塗り重ねた絵の具にも見える、多層化された情報

 

 ふいに幼い日の思い出が脳裏に過ぎる。

絵の具を使った絵画の時間。

夢中になって沢山の色を塗り重ねていって。

結局、色同士が混ざり合って元の色が分からなくなって、だけど、塗った場所からはみ出た事で偶然重ならなかったから僅かに覗いていた元の色。

そんな記憶を、ウイさんの話を聞いて、思い出した。

 

 

「それが『噂』。情報という物は人から人へと伝わっていく過程でどうしても歪みを孕んでしまいがちです、そこ、五月蝿い。……とにかくっ、確固たる本という形を持つ物ですら時に情報の齟齬が生まれてしまう。なら、実態すらを持たない独り歩きする言葉、『噂』は───きっと尚更なことでしょう」

「そういう物ですよ、噂なんていう物のは」

 

それが物語が終わった合図かのようにウイさんは口を噤んだ。

 

「あら、古関先輩()それを仰るんですね……♡」

 

 僅かな静かさの余韻を浸り終えたのか、ハナコちゃんのくすぐるような揶揄いがウイさんへ届けられる。

その意味は私には定かではなかったが、ウイさんにはしっかり理解できる物だったらしい。

ハナコちゃんの言葉にむすっとした*26しつつも、彼女もまたいつもの事と言った様子で言い返します。

 

「なんですか私が言ったら何かおかしいですか妖怪『深夜の水着女』」

 

早口ではあるけれど、なんとなく私の知らないハナコちゃんとの親愛に裏打ちされた物なのだろうと感じる悪口。

ハナコちゃんもまたそれが分かって気にした様子は全くなく笑顔を向ける。

 

「うふふっ……♡」

 

呆れたと言わんばかりの態度で嘆息しつつ、ウイさんは締めにかかりました。

 

「もうなんなんですか……とにかく」

 

「噂、が気になるのなら『現地調査』、フィールドワークをおすすめします。……実際に訪れて初めて分かる大切なことがあると、私もこの前実感したばかりですけど」

 

「うふふっ……♡」

 

そうして締めくくられた話が終わり、私たちが口々にウイさんへの感謝を伝えようとした矢先。

 

 

 

「嗚呼、それから」

 

 唐突に思い出したように。

 

「またぞろ変な事に関わっているみたいだから言っておくけど、……」

 

ウイさんは話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 箴言。

ウイさんの薄紅の唇から奏でられたのは静かな忠告でした。

 

「それは、一体どういう?」

 

どきりと、胸が跳ねる。

ウイさんが語る『気をつけろ』という忠告、その真意を尋ねる。

それにつまらなそうな顔をして、私も聞いた話だけどと前置きをしながら教えてくれた。

 

「正義実現委員会まで使って大人を探してる、とか……私も詳しく知らないけど。シスターフッドも『彼女』の動きに注視してる……らしいから」

 

「彼女、ですか?」

 

言わなくても分かるでしょと言いたげに横顔に掛かる重たい濡れ羽髪*27を耳へと流しながら、その人の事をつらつらと読み上げる。

それは私にとっても、決して馴染みのない名前ではなかった。

 

 

 

「この自治区を牛耳る三人の一角」

「父と子と聖霊の名を掲げた三頭政治の主」

「トリニティ自治区の最高行政府にして生徒会たる『ティーパーティー』の頂点」

「追放の憂き目にあった『パテルの聖女』と調子を崩しがちな『サンクトゥスの寵児』」

「その二つの席を庇護し支える『フィリウスの君主』」

 

 

 

「───現生徒会長ホスト代行、()()()()()

 

 

 

 

「彼女の事よ」

 

「……まあどうしてもトリニティ内の動きが気になるなら、『スイーツ』でも手土産に訪ねてみたら、いいんじゃない」

「『他の学区』に行って噂を調べるにせよ、彼女と茶会の席を一緒にするにせよ、甘い砂糖菓子は……他人の口を軽くするから」

 

それだけ。

そう言ってウイさんは今度こそ約束があるからと口を閉ざされしまいました。

 

 

 

***

 

 

 

『しかし、大きな収穫となったね』

 

「ああ。あの女の事についてもかなり情報を取得できた」

 

「ウイさんに直して頂いた古代の遺物(オーパーツ)……砂の欠片、いえ今はもう一つの結晶体ですか。こちらに関しては一部、修復で得られた情報に()()がありますけど……」

 

「でも、欠けがあっても結構な量のことが分かったんでしょ?なら、ランサーとかいうやつの『しんめい?』……とかも」

 

 クルセイダーちゃんに乗って私達は次の目的地へ。

その間、今回得られた情報の整理と。

その正体、真名について迫っていく。

私も後少しで分かりそうなのですが、悲しい事に古代史の講義は『事情』*28があってお休みしたりしてたので2年生までの範囲であってもハナコちゃんほどは詳しくない。

 

「そうですね、ランサーさんに関してはあと一歩で分かりそう……なんですけど」

 

『アサシン』さんの情報を集めるので精一杯になってしまったのと、ウイさんの都合もあったので受け取ったレポートと古書館にある資料の照合までいかなかったのを無念に感じる。

 

 明日以降、またアポイントを取って古書館へいく必要があるかも……そう考えていた私にセイバーさんとハナコちゃんからそれぞれ意外な言葉があった。

 

「それについてなんだけどね、ヒフミ。もしかすると僕はランサーの真名が分かるかもしれない」

 

「まあセイバーさん()?失礼ですが、まだ資料は私達しか読んでいませんけれど……もしかして昨晩の戦いで?」

 

「ああ。そして、ハナコは資料から推理したんだね。僕が誇る友のような慧眼だ」

 

「……ふふっありがとうございます」

 

二人のやり取りを聞きつつ、思わず声に喜色が載せて聞いてしまう。

 

「本当ですか!?セイバーさん!ハナコちゃん!」

 

 握るハンドルへも力が込められる。

今日でかなりの情報を集めたところに、更に一歩、前進できるかもしれない。

聖杯戦争という分からないことばかりの未曾有の状況。

少しでも多くの情報が手に入るのはそのまま心の安心に繋がる。

 

「ああ───なんと言っても彼は僕のいた国まで遠く名の知られた大英雄だからね」

 

折角だしハナコと一緒に答え合わせをしようか、というセイバーさんも自信に溢れた声。

 

 これは……いけます!!

 

「何せ、養父や義兄、あとはまぁ……彼女のことはいいとして。とにかく寝物語に「ピロートーク!!?急になんてこと言ってるの!?!?」……よ、よく読み聞かせてくれた話だからね……」

 

 締まらない空気になりつつ、でもなんだか補習授業部らしい雰囲気が車内を漂い始める。

その雰囲気に呑まれまいとしてか、襟を正し、しっかりと落ち着いた声でセイバーさんが語り始めました。

 

 

 

***

 

 

 

 昨晩、剣を交わした時に確信したけれどね、彼の戦い方は守る者のそれだ。

幾百、幾千もの猛攻を凌ぎ、防ぎ、時には砕く。盾と槍を活かした鉄壁の布陣。

そしてここからは推測になるけれど、彼が纏う装飾には遥か遠きアカイアの民。

それが見てとれた。

 

 恐らくはギリシャ圏の英雄。

そして、話をして感じたどこかの王族と見受けられる品格ある風格と礼節を重んじる立ち振る舞い、そして猛々しい護り堅き戦士となれば……そう難しくはない

 

 確かに彼の持つ盾と槍。どちらも確かに優れた業物ではあるけれど、彼の英雄が持ったと名高い『聖槍』ではない───だけどね。

 

 何事にも例外はあるんだ。

彼のマスターはどうやら、礼節を重んじ人道に背くことのない人物だというのは『あのやり取り』で分かったけど、それとは別に中々に強かなようだ……僕の経験が役に立ったよ。

 

 僕はかつて『別の聖杯戦争』に参加した際に、本来の得物とは違う武具をマスターから渡されたサーヴァントを見たことがあってね……その前例さえ知っていれば、騙される事もない。

何より見通しが甘い。

僕の生きた時代、彼の代名詞はその宝具である槍ではなくて……()の方だったのだから。

 

そう、黄金に輝く兜を被り槍を振るう彼こそ『イリアス』に語られた大英雄。欧州において知らぬ者はいないとされる偉大なる守護の砦、我らが騎士の模範にしてトロイア最強の戦士。

 

「兜輝くヘクトール───それがランサーの真名だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、多分違いますねー」

 

「……へ?」

 

「資料によればテルモピュライってあるのでレオニダス王一世じゃないかと♡……ふふっ、というわけで推理勝負は私の勝ちですね、セイバーさん」

 

「……ヒフミ」

 

「……なんでしょうセイバーさん」

 

「人は、時に間違えて成長するものなんだ」

 

爽やかな笑顔で、セイバーはそう言ったきり次の目的地に着くまで霊体化を解いてくれませんでした。*29

 

*1
山海経高等中学校附属訓育支援部「梅花園」。乳幼児の養育・教育・保育を旨とする施設であり同学校の特別公認部活動団体。児童福祉施設である事から山海経自治区内における絶対的な中立地帯としてその安全は暗黙のうちに保障され、特に今代の同校生徒会長である「玄龍門」門主「竜華キサキ」によって手厚い保護と支援を受けるなど、多くの派閥から庇護されている。キサキちゃんは可愛い

*2
レッドウィンター連邦学園の公認部活動団体。レッドウィンター自治区のみならずキヴォトス内の土木工事・建設業務を請け負う部活。連邦生徒会が行う公共事業の入札にもキヴォトス内の数多くの企業と並んで顔を出す常連団体。ただその活動方針から極めて社会主義的思想が強く……というよりデモやストライキ自体が趣味な部長が率いている事もあって非常に手綱を握るのは困難である。連邦生徒会行政委員会は頭を抱えている。なお同校生徒会のレッドウィンター事務局は初めから手綱を掴んでいない。レッドウィンターでは革命もストライキもデモ行進も最早日常風景なのだ

*3
古書館の特性上、オーパーツ等の考古学的に価値の高い物品の保存や管理作業が業務として存在する。より正確にはあくまで管理のみだったのがやたら古書の修復が上手かった当時1年生のウイの元に物は試しとオーパーツを修復させてみたら上手くいった事からあれよあれよという間に依頼が舞い込むようになり現在に至る。頑張れシミコ、来年からは君の出番だ

*4
ヒント:ヒ↓フ→ミッ↑

*5
ヒント:セクシーですまない

*6
ヒント:確定会心

*7
元々ウイは少食傾向である。だから昼抜きは今夜の晩餐に向けてベストコンディションを整える意味もあったのだ

*8
ヒント:(˶ᐢ ᐢ˶)

*9
インク汚れ

*10
なんだかんだ友人へアドバイスするあたりが実にハナコだった

*11
ハナコはなんの縁かフリーパス持ちである。時折ウイは、自分で渡しておいてなんだけど返してくれないかなと思っている。なお、ハナコに返す気は一切ない

*12
後日、館内カメラでこのセリフを聞いた某179cmの黒髪美人と某ピンク髪の確定会心はハイタッチして映像をコピーして帰った

*13
後日視聴していた某ハスミと某ミカはその声の愛らしさにやたらでけぇ歓声をあげた

*14
とある一件以降、その後始末を聞きつけたとある正義実現委員会の2年生は菓子折りを持ってきたという

*15
アズサの勘は正しかった

*16
ヒント:古代ケルトの狩猟神

*17
ヒント:名作TRPG

*18
へくちっ!……うぅん、誰か私の事を話したか?気にするな?良い女は誰からも噂されるもの、か。メイヴがそういうのであればそうなのであろうな。ところでそろそろ膝の上からどいてくれないだろうか?なに?昨日の夜は何をしていたか、だと?昨日は確かヤラアーンドゥとアイスケーキを……こらっやめよっ!急に何をするのだメイ……んっ♡

*19
A+

*20
原初のルーン

*21
暗殺者(アサシン)」のクラス別能力。サーヴァントとしての気配を断つ能力。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる

*22
ヒント:性癖

*23
もしかして:先生の尊厳ピンチ

*24
古関ウイの肌は紫外線を浴びない事で驚くほど美しい肌艶をしている。元来、キヴォトスの女性の多くは肌へのあらゆるダメージへ極めて強固な耐性と、非常に良好なターンオーバーを有する事で美しい肌をしている、が。それでもウイの手入れ知らずな透き通る白い肌はあのティーパーティに住むとされる森の賢人も思わず触りたくなるほど

*25
しかも良い匂いがする

*26
かわいい

*27
とても良い匂いがする

*28
その日はペロロ様オンリーイベントの即売会だったとの事

*29
霊体化するその背中は泣いていたとだけ書いておく





1じゃんね☆
ウイちゃん大好きじゃんね☆

とりあえず今回で1スレ目のお話は終わりじゃんね☆
なんだか今見直すと全体的に聖杯戦争やってる雰囲気じゃないじゃんね☆
楽しそうなあの頃じゃんね☆
たくさん青春描写していきたいじゃんね☆

次回はウイちゃんのお話か別の陣営のお話を投稿予定じゃんね☆

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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