阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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『それじゃあ二手に分かれるとしましょう』
『私達は()()()()のところへ、阿慈谷さん達はモモイ達を迎えに行ってちょうだい』
『貴重な時間よ、悔いのないようにしっかりと……どうかしたかしら?ユズ』

『ああ、問題ないわ。桐藤会長は聡明な方よ。とはいえきっと日頃の多忙が溜まっておられたのでしょう。私も会長職をしていると叫びたくなる時はあるし、気の置けない友人の前だったというのもあるでしょう。あの程度は無礼講よ、一々気にするのは非合理的ね』

『最後まで何か言いたげにしていた?もう少し時間をかけて話をしてもよかったんじゃ?ふふっ、ハナコさん。おかしな事を言うのね』
『トリニティ生の貴女達に言うまでもなく、桐藤会長はトリニティの生徒会長でとても優秀な方なんでしょう?』



『だったら()()()()()のみを伝える()()()()()()()()()()()()()をした方が合理的でしょう?』



『私は基本的にそうやってヒマリと……ど、どうかしたかしら?何故、みんな頭を抱えているの?』



束の間の歓談

 

「シミコ?ちょっとこの資料……ってさっき帰ってたか」

 

 蔵書整理は図書館のような一定の書籍資料を集めた社会的記憶装置の役割を担う施設での通常業務の一つだろう。

それは此処、古書館でも同じ事。

 

 通常の図書館より更に特化された専門図書館の一つである古書館もまた、古書の収集と修繕は勿論のこと、そういった蔵書整理をする事はなおさら大切な業務だった。

そもそもからして、普段しているオーパーツのような骨董品の修繕や最近やたらと出入りしては無理難題を尋ねて難解なレファレンスサービスを要求してくる業務の方がイレギュラーと言えるだろう。

 

 そういうわけで本日の古書館業務は日がな一日ゆったりと、収めた古書の状態の見分や配置場所の選定や実際に棚を移すといった大掛かりな仕事であった。

急な依頼も締め切りの迫った作業や煩わしい事務もなく、強いて言えば宅配に来てくれた()()()()()()()S()R()T()()()()()()()()()との間で少々恥ずかしくそして騒がしい空気になってしまったが、おおむねのトラブルもない時間が古書館で流れていた。

 

 

 

「……ハナコさんも、ヒフミさんに全部話した、か……」

 

 

 

 ただもう一つ。

古書館にとっては大した事はなくとも呟く少女にとっては大きな事。

 

 ずっとひた隠しにしていた真実を、後輩が友人に打ち明けたのだという。

調子良く、いつものように桜色の髪を揺らして微笑む数少ない友の顔を思い出す。

聡明な娘だ、ひどく傷ついたのは間違いない。

それを踏み越えて、誰かに秘密を打ち明けた。

その後輩の成長(事実)を、古関ウイは何故だか誇らしくもあり、同時に僅かな寂しさも感じていた。

 

 

 

「……また、いつ来ても出迎えられるように。まぁ彼女達のためじゃないですけど、私も食べたいですしちょっと良いお菓子でも用意しておきましょうか」

 

 

 

 後で買いに行きましょうかと一人ごちながら、ズレかけた真鍮の縁をそっと、日を浴びない白さを帯びた人差し指と親指で触れて位置を直す。

素直になれないウイなりの気遣いの形。

 

 大して整えてはいないけれど、古書以外に気にする物はあまりなくましてや『美容関係』なんて本音を言えばやや煩わしさすら感じているウイにしては珍しいぐらい、しっかりと手入れを欠かさしていない膝裏まで伸びた藍色鳩羽を揺らして歩き出す。

 

 悠然と佇む古書館の中で季節外れの椿の花が静かに薫る。

古書のインクと椿油の甘いそれが空気をゆったりとさせる外界から切り離されたウイ一人の時間。

それは寂しくも落ち着いていて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、たった今裏口から相変わらずこっそり入ってきた浦和ハナコの声とそれに反応したウイの叫びで騒がしくも賑やかなそれに変わったわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの書斎机、いつもの革張りの椅子、いつもの電灯、いつもの古書館。

変わらない筈の一日の締めくくり。

それを甘受しようと思っていた古関ウイは机に肘をつきながら頭を抱えていた。

もっと正確に言うと机に突っ伏すようにして呻いていた。

それはもう地の底から聞こえてくるような声で。

 

 

 

 

 

 

 

どおぉぉぉぉぉぉして!……貴女達は!いつもいつもいつも!……ぜぇ……そうやって……はぁ……こそこそこそこそ!……ぜぇ……入ってくるんですか……!」

 

 

 

 

 

 

 哀れ、古関ウイ。

花の乙女らしく美容と健康に気を遣いはしても、日頃の運動不足が露呈する。

ハナコに叫んでみせるものの既に息は絶え絶え。

ウイは力尽きたように伏してまた頭を抱えた。

どうしてこうなった、と。

 

 そんなウイを揶揄うように、一応内心ではがっつり尊敬している先輩へとハナコは笑いかける。

 

「あらあら♡そんなにいっぺんに話されると、と・い・き♡乱れちゃいますよ♡ほぉら、ひっひっふぅ♡」

 

「ラマーズ法じゃないですか……!?」

 

「妊娠!?⬛︎⬛︎腹!?安定期だから大丈夫!?そんなわけないでしょ!?えっちなのは駄目!死刑!」

 

「コハルちゃん……それならせめてラマーズ法じゃなくて吐息の方に突っ込もうよ……」

 

 ハッとした顔をしているコハルに何を言うべきというかそうじゃないと突っ込むべきか、先輩として悩みつつハナコをあしらっているウイへ機械音が投げられる。

 

 

 

『はじめまして、古関ウイさん。ミレニアムの現セミナー代表、調月リオよ。会えて光栄だわ』

 

 

 

 ウイは、その言葉に対して何を思ったか。

驚愕、動揺、不信、感動。

何れも否。

ウイが抱いたのは一つ───()()

 

 どうしてキャタピラ付きのロボットなのだとか、そもそも古書館ですけどとか、そもそもその前衛的なデザインはなんなんだとか、諸々言いたいのをぐっと我慢していた。

 

 というよりもこの短時間で嵐か濁流に押し寄せてきた来客と騒動と情報でウイは完全に脱力してしまう。

端的に言って、もう一々突っ込んでいてもキリがないと冷静に判断して、諸々言い足りないのを我慢した。

古関ウイはこの日、また一つ大人になったのだ。

 

 

 

「はぁ……それはご丁寧にどうも。トリニティ総合学園図書委員会委員長の古関ウイです、知ってるでしょうけど……はぁ、貴女達、よりにもよってなんでこんな他校の生徒会長(とんでもない人間)を味方に引き入れてるんですか……」

 

 

 

 それはそれとして、どうしても見過ごせないことだけは小言のようにちくりとハナコを見てウイは言う。

 

 そもそもウイはあまり対人関係の『成績』がよろしい方ではない。

昼に叫んだせいもあるし、電話もしたというのもあれば、なんだか似た雰囲気というのもあってユズ相手はまだしも、初対面、それも相手は同学年とはお偉いさん。

そんな人間をこの場に連れてきた事にウイは文句を告げた。

 

「まぁ♡ウイさん、リオさんの事をご存知だったんですね♡」

 

「また、失礼ですね。流石に有名校の生徒会長ぐらい私でも知らない筈ないでしょう。調月さんなんてそれこそ千年難題に対して新しいアプローチを取り入れつつ自治区運営にも力を注いでるとかで『クロノスが選ぶキヴォトスの生徒100人』に以前インタビュー記事が載ってましたし」

 

 そうなんだと新しい事実を知って驚いた顔をしている一年生組と胴体関節を逸らして胸を張るアバンギャルド君に突っ込んでしまわないように見ないようにしてから、ウイは背もたれに身体を預けた。

ウイはもう疲れているのだ。

 

「とにかく調月会長なんてビッグネーム、ほいほい寄越さないで下さい。せめて事前に連絡とか……ああ、そうすればちょっとは良いお茶請けなりそういう用意なり……」

 

 ウイは目をつぶって思案する。

───オイルか、やっぱりオイルなのか、と。

目の前にいる愉快な形状のロボットを持て成す方法をこれまで読破してきた本の中から検索するが、その術をウイはまるで検討がつかなかった。

そしてそのまま、意識はリオの声で現実へと引き戻される。

 

『あら、ありがとう。私も貴女の事は()()()()()()()()()()()から、知っていて下さったというのなら嬉しいわ』

 

「……私に?別に大した事は……」

 

 含みのある言葉にウイは白い首筋と黒いインナーの上から細く主張する鎖骨を浮き出して小首を傾げた。

ウイは確かにトリニティでも数少ない古書とオーパーツ関連の専門家。

とはいえ最先端科学を主上とするミレニアムの会長から名指しでそこまで言われる理由が分からないでいた。

そこに小動物のような高い囀りが古書館に響く。

 

「謙遜なんていらないの!……です、だって古関先輩、推理とか調査とか考え方とかしっかりしてますし……あ、あとあのオーパーツ関連とか!」

 

 大きく叫んで一転、小声になったり忙しいなと思いつつも、この小さな後輩のたくさんの気遣いにウイは感謝を告げる。

 

「古書の修復と管理が専門の筈なんですけどね……は、ははっ……でも、ありがとうございます、コハルさん」

 

「ぅぃぇ……っと、その、あの、どういたしまして?」

 

 あたふたと両手を振る小柄な少女と、そんな姿に微笑むウイとで緩やかな空気が流れる。

古書館に相応しい、実に穏やかな雰囲気。

 

 ゆったりとこのまま話を進めたい、とハナコ達も思わないではないが、そんな時間的余裕は彼女達になかった。

切り替えるように古めかしい内観に似合わない電子音が響く。

 

『……まぁ、良いとしましょう。ハナコさん、本題を』

 

「はぁい♡それでウイさん、実はこちらを見てご意見を頂きたくて」

 

「また!どっから出してるのよ!」

 

 コハルの叫びを背後にしつつ、ことりと音が机を叩く。

ウイは目の前に置かれた赤銅色の小ぶりなそれを繁々と眺めてから口を開いた。

 

「鍵、ですか……?それも、なんですこれ?ウォード錠……じゃないですね、これ。なんですか、このヘンテコな鍵?はい?ディンプル錠?なんで?」

 

「はい。確認したかったのは、なんの鍵か、という話です」

 

 疑問符と聞き慣れない単語を並べていくウイへ同じように不思議そうに見ているコハルとユズに対して、ハナコは一見して「なんで?」という言葉を彼女から聞けたことに()()()()()()()()

その反応に、ウイは渋面を作る。

 

「……言わなくてもハナコさんでも、それこそ調月さんでも()()()()()()()()()()()()()()()()()のでは?」

 

 なんの鍵か推理しろ、と聞いてきている癖に十中八九、その頭の中では自分と同じように目の前に置かれたこの奇妙な鍵がどんな物なのか理解しているだろう少女をウイは睨みつける。

だがそれをハナコもリオものらりと躱してしまった。

 

「あら?私だってそこまで万能ではありませんから♡……大事な手掛かりです。ヒフミちゃんの為にも、マリーちゃんの為にも、そしてサクラコさんの為にも確証のない推理をするのに不安、覚えちゃうんですから」

 

『折角なら多角的に検討したいのよ。古関さんの観察力も話に聞いていたから確認したいというのもあるわね』

 

 二人からの話を聞いて、ウイは肩を落としてから再度起こしていた筈の顔を机に突っ伏す。

 

 なんだかんだと今年に入って急に関わりが深くなってしまったシスターフッドの名前がまたしてもウイの耳へと飛び込んできたからだ。

今の彼女の頭の中では、ラウンドガール衣装に身を包んだハナコとアバンギャルド君、ついでに今この場にはいない若葉ヒナタが満面の笑みで『祝!シスターフッド案件!』と書かれたプラカードを掲げていた。

勘弁してくれ。

 

「ぎぇぇ……というか、またあの人達関連ですかこれ……あぁ、頭が痛い……」

 

そう言いつつもウイは顔を上げる。

どちらにせよ、協力すると言っているのだ。

何より時間が時間、もうすぐ時計台の鐘も鳴る頃だ。

聞けばミレニアム方面に拠点を移したというのも聞いている。

この騒がしい後輩達と珍客があまり長い時間、トリニティにはいられないのをウイは理解している。

だからこそ、顔を上げてもう一度、今度は手にとって各部位を触って確認してから。

 

 

 

「……はぁ。まずこれ、多分部屋の扉の鍵ではないですね」

 

 

 

目の前の少女達を相手に答え合わせでもするかのように、淡々と、そして確信を持って話し始めてやることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ大きさから検討はつくでしょう。この子は大体5cm程度でしょうか?……鍵という物は基本的にその施錠する錠前側の構造やその力と大きさというか長さが比例します。正確には複雑な仕掛けになっている錠前と対になる鍵も大抵はそれなりの長さがいるんです。限度はありますし、電子ロックになればその限りではありませんが……まぁ今は良いでしょう」

 

 息継ぎをしつつ、机に置かれたカップを掴んで啜る。

随分時間も経って香りどころか温度も飛んでいるが喉さえ潤えばいいと言わんばかりに、ウイは乱暴に紅茶へ口を付けた。

 

「……で、これですけど小さすぎます。これでは閉める事の錠前なんてたかが知れます。錠の機構も仕込める大きさを考えれば、扉とかより小さな窓や戸棚なんかを閉める物と考えた方がまだ分かる話です」

 

そう結論付けてからウイはくるりと鍵を指先で回すと、前にいる少女達へと鍵全体をよく見る様に言う。

 

「次に形状。一見よくあるウォード錠……ああ、大変古い歴史を持った鍵の事です。南京錠だったりカバンだったり、今はもう廃れて装飾品としての意味合いが大きい物です。勿論大きさがあればその重量も相まってそこそこ大変ですけど、それでも簡単にピッキング出来る代物です。さて、この鍵の形は紛れもなくウォード錠。それは間違いないでしょう。アンティークな意匠にも納得できます。ただ、これ」

 

 そう言って指差す先をコハルとユズは前屈みになって目を凝らすようにして見つめる。

そこにあるのは、ハナコから受け取ったヒフミもまた気にしていた部分。

 

 

 

「見かけはそうですが先端部分に幾つか窪みがあります」

 

 

 

 熱心に聞きつつ、その特徴を聞いても得心がいかない二人に口元を緩めながら、ウイはわざとらしく眼鏡のブリッジの位置を正した。

 

「ちょうどいいですから、コハルさん。貴女は確か正義実現委員会でしたね?知る限りで結構です。『ディンプル錠』の説明をお願いします」

 

突然振られた急な話題に慌てつつ、これまで部活動の中で培ってきた知識を総動員しつつコハルも答える。

 

「わた!?私!?……で、ですか……え、ええっと、その……最近よく玄関とかに使われてて、なんでかって言うと、ピッキングされにくいから空き巣対策になって……あ!あと確か窪みにピンが嵌まる事で開錠できる仕組みってイチカ先輩から!……ってあれ……?」

 

「ぁ、その鍵も……窪み……!」

 

コハルの答え。

そしてユズの反応。

それに気を良くするようにして、くすりと微笑んだウイは答えに辿り着いた少女達に言う。

 

「はい、二人とも正解です。しっかり人の話を聞きながら自分で考える、良い事ですよユズさん。それにコハルさんも、先にピッキングの話をされるとは正義実現委員会らしい教育がきちんと行き届いてますね」

 

ウイが()()()と言ったように、防犯に対する学びとその知識の定着がしていたコハル。

そしてコハルの言葉で理解したユズにもまた、ウイは幼い後輩達の気づきを認めつつ話を進める。

 

「コハルさんの言うとおり、この鍵にある窪みはピッキング対策として『近年になって開発された鍵』の特徴です。少なくとも何百年と昔に使われていたアンティーク品にそんな物は存在する筈がありません」

 

ただしと付け加えながらウイは補足を入れておく。

 

「勿論、私もオーパーツなる物を不本意ですが扱う身。物によっては最近生まれた技術がそれより前に類似した形で存在していたケース、というのも考えられますが……如何ですか?調月さん」

 

 オーパーツ。

場違いな工芸品。

そう呼称される存在の中には、時に発掘された年代からは考えられない技術で加工された物体もある。 

 

 そして此処、キヴォトスにはそうした物体が確かな認定の元に実存している。

だからこそ補足を入れた上でウイは彼女に問いかけたのだ。

これはそういったオーパーツなのかと。

 

『完全に場違いな品、という概念としてのオーパーツならあり得なくはないでしょう。ただ人の手で作られたというのならまず無理よ。ここまで正確かつ微細に窪みをつけて、それに合わせたピンを機構として組み込む。大きさが違えばあり得たけど、精々鍵の大きさは5cmあるかないか。恐らく真鍮だとは思うけど、このサイズでそこまで精巧な金属加工を施した()()()()()は技術的に骨董品たり得る時間を経過している筈がないわ』

 

「ありがとうございます。私も鋳造痕がある以上、これは大量生産品と考えています。そしてまぁ、諸々を考えてこれはウォード錠を模して近年になってから作られたディンプル錠、そう考えていいでしょう」

 

 二人の意見が一致したのを見届けながらハナコは心の中でため息を漏らす。

間違っていたら、そう思って僅かに不安を覚えていた考えが確かな推理によって証明されていく事に、ほっと安堵していた。

 

「そうなってくるとこのディンプル錠鍵 がアンティーク調の外観を取り入れているのは所謂お洒落、見てくれをよくしつつしっかりと施錠したい物に使う為……と判断できますね」

 

 ウイはその企業努力とそういう物を購入したいという可愛らしい需要を詳らかにしつつ、推理を広げ、少しずつ真実とそれを辿る為の道筋に迫っていく。

 

「あとはこんな七面倒な物を作って売っている物好きな会社なりを調べたら、なんの鍵か分かるでしょう……机か戸棚か、はたまた南京錠か。或いは鞄……あたりだとは思いますが」

 

 それからと手を出したウイの視線を向けられた少女は苦笑いを浮かべて、深い谷に挟まっていた封筒差し出した。

それに「どうせまだ手掛かりあると思ったわ」とつまらなそうに鼻を鳴らすウイは生暖かいそれを嫌そうな顔で確認してから、施された封蝋を見て、思考を巡らせ。

 

「……それともう一つ。シスターフッドでこういった鍵は多分使われません。あの、はっきり言ってこれ使うぐらいなら普通のディンプル錠用意した方が安上がりです……それに、あそこは清貧を掲げていますし、なにより一応、一応甚だ疑問ですけれど一応シスターフッドは一応公認のい、ち、お、う……健全な部活です。部費という限られた予算もありますし、公共機関や施設としての側面もある以上、意味のない装飾をわざわざ部外者に見せるわけでもなければ触る事もない鍵に施すとは考えにくいでしょうから」

 

 マリーとサクラコの為に鍵を調べてほしいという言葉、そして封筒に押された刻印を見て、少女達の経緯をある程度察した上でハナコの求める答え合わせを一足飛びに行った。

 

「だから後は……貸し金庫?いえ、それも大きさを考えるとあり得ませんね。やっぱり多分、個人所有できる程度の大きさの物を施錠する為の鍵だと思いますよ」

 

そう、結論づけた。

 

 息を吐いてゆっくりとウイは椅子へとその猫背気味な背中を預ける。

疲れたと心底、そして度々厄介ごとを持ち込んでくる可愛らしい(腹立たしい)浦和ハナコ(後輩)にしっかり聞こえるように、深く息を吐く。

それから気怠げに、なんとなしに口を開いた。

 

「聞きたいことはこれで全部ですよね?」

 

 それはただの確認だった。

時間から考えても後は精々いつもの調査依頼。

それだってサーヴァントの真名が大方割れた以上は聞くことも大してないだろうと当たりをつけて。

 

 だからそう。

この時ウイは()()()()()()()()()と、本気でそう考えていて。

だからようやく人心地着いたウイは気づかなかった。

 

「はい♡流石ウイさんです♡()()()()()()()()()♡」

 

「はいはい、お世辞はいいから……」

 

ハナコの言葉が過去形ではなく未来進行形だった事を。

 

『えぇ。期待以上に豊かな知識量。これに古書というキヴォトスの古い記録についても専門的な知識があるというのなら、ありがたい話ね。いっそ私ももっと早くアプローチをかけるべきだったかしら』

 

「うふふ♡駄目ですよ、リオさん。ウイ先輩は渡しませんからね♡」

 

『ふふっ、冗談よ。でもそれぐらい魅力的な子、よかったら、引き抜きとまではいかなくても今後の研究で是非、貴女達ともども協力してもらいたいぐらいだわ』

 

 揶揄い甲斐がありつつも尊敬できる先輩にしっかり答え合わせを、しかも意図を全部汲み取ってもらったうえでしてもらえたハナコが満面の笑みを浮かべている事を。

 

「コハルちゃん……ウイ先輩すごかったねぇ……」

 

「でしょ!普段はちゃっと頼りにならなそうに見えるけど、考え事したりする時はすごいんだから!前に海に行った時もね!……」

 

 余談だが、実はハナコ、そしてヒフミの両名はシミコともわりと交友関係がある。

なんなら、ここでウイに会う前に古書館から退勤しようとするシミコに話を通しておいたことを。

 

 そしてウイの返事さえ、了承さえしてもらえればほぼ全ての準備を済ませている事を。

 

「……あっ、あの!……まだ、何か?」

 

 嫌な予感がする、背中に伝う冷えた滴にウイは焦りを覚えた。

こういう時の勘は嫌というほど当たるのをウイは知っている。

やばい、具体的に何がやばいかは分からないがどう考えても面倒ごとに引き摺り込まれる予兆だと。

 

 だが、ウイの疑問にハナコ達は何も答えない。

笑みを浮かべたハナコ。

四本の腕を組みながらしきりに頷くアバンギャルド君ことリオ。

夏の思い出を話すのに夢中で()()()()()()がすっかり抜けているコハル。

それを楽しんで聞きつつも()()()()()()()()を思って申し訳なさそうにするユズ。

 

 

 

「あ……あのぉ、な、何か言ってくれません?」

 

 

 

 ウイは椅子を引いた。

古めかしい擦れた木の音が古書館に響く。

だが気にしていられなかった。

 

「うふふ♡」

 

「なっ……なんですか……?」

 

『ふふふっ』

 

「え……なんです?なんで……なんで黙って近づいてくるんですか!?」

 

何かまずいとウイは気づいたのだ。間違いなく面倒事に巻き込まれる予兆だと。

 

「あらあら♡」

 

「でっ、出口ならあっち……!当館は……!いえもうっ、な、ななんですか!?」

 

「ふふふっ」

 

「いえその、なんですか?なんですか!?なんなんですか!?なんで無言でにじり寄ってくるんですか!?なんですかなにするつもりですか!?私は屈しませんよ!?!?」

 

 とうとう身体が縁に触れるほど机の前まで迫った一人と一機、その後ろでおずおずと近づいてくる二人。

絶やさない笑みが古書館に木霊する中、ハナコは。

 

「うふふ♡実はご提案、なんですけど♡」

 

「ななななんですか……?」

 

 普段呼吸すらしていない己の生存本能が嫌な予感だと警報のように騒ぎ立て始める。

逃げろと本能が久しぶりに騒いでいる。

走れと理性が慌てるように叫んでいる。

そして古関ウイのこれまでの経験は言っていた。

───諦めは肝心だ、と。

 

 そして怯えるウイにハナコは笑顔で告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 思いがけないどころか完全に思考の外から殴りつけてくる提案にウイの明晰でちょっとだけピンク色な頭脳は停止した

 

『聖杯戦争の件で協力して頂きたいのよ。だから桐藤会長の許可は貰ってきたわ』

 

「……は?」

 

「さっき入り口でお会いしたシミコちゃんにもお話したら『たまには外に連れ出してあげてください』って♡」

 

「……は?」

 

「あ!学生課の方にも話!ちゃんとしとました!単位とかも大丈夫ですし古書館も円堂さんもだし!そっ!それにハスミ先輩も見回りとか管理を正義実現委員会が手伝ってくれるって言ってくれてて!」

 

「……は?」

 

「ぉ、お洋服とか……今日用意できなかった物はうちでちゃんと……じゅ、準備します!ぁ、あのこれあと、スーツケースです!円堂さん、とか後、他の図書委員会の方も手伝ってくれて……あと必要そうなのはリオ会長が買ってきてあっ!でもちゃんと私達で服とかそういうの変、じゃなくてやば……でもなくてふ、風変わりなのないかも確認してます!あの……だからよかったら……その、どうぞ!」

 

「……は?」

 

 外堀を埋まるどころか埋め立てた後にビルの建設が始まってしまったような勢い。

それに対してただ壊れたラジオのように繰り返すばかりのウイ。

そんな彼女の肩に手を乗せてから耳元でハナコは囁いた。

 

「じゃあこれから暫く、またしっかり♡ずっぽり♡よろしくお願いしますね♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手付きは限りなく優しかったのに、絶対に逃がさないという重さが篭っていたと後にウイは親友に愚痴った。

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
というわけでウイちゃんが仲間入りというか拠点に案内じゃんね☆
また一人、増えたじゃんね☆
もうこの頃になると1人増えようが2人増えようがどうせ38人増えるし全然大丈夫かって感じだったじゃんね☆

ウイちゃん大好きじゃんね☆
1のとこのシャーレにはいないじゃんね……

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  • 4000文字〜5000文字
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  • 9000文字〜10000文字
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