映像 ヲ 再生 シマス
時間がない以上、お話しすべき事は簡潔に。
まず結論から伝えますね。
ミレニアムサイエンススクールの飛鳥馬トキは自身の死をもって聖杯戦争を終結させようとしています。
聖杯の中枢で管理AIとなって未来永劫に聖杯戦争が発生しないよう管理するプログラムとなる。
それがトキの願いであり、それを叶える方法。
そして私は彼女の戦いに協力する傍らで、それに反対する立場にあります。
このメッセージを受け取った生徒の方。
もしよろしければ少しだけ、貴女の時間を私に下さい。
この聖杯戦争が始まって既に
私達にはもう時間がないのです。
だからどうか、どうか少しだけでも。
聞いて、そして判断を。
選択をして下さい。
私達はこれを受け取った貴女にだからこそ、お願いがあるのです。
私の名前は明星ヒマリ。
ミレニアムサイエンススクールの特異現象捜査部部長です。
お願いしたい事は三つ。
これを聞いてくださる方、どうか幾許かのお時間を。
どうか最後まで聞いて、判断して、選択して下さい。
そしてトキを、私の可愛い後輩を助けて下さい。
残りのお願いはメッセージの一番に残します。
始まりは半年の……いいえ、今日の日付から
キヴォトスの空を赤く染め上げたあの事件から数日が経った頃の事です。
私達特異現象捜査部はその日、ゲヘナ自治区で不可解な熱量を感知しました。
その反応は非常に緩慢な物でしたが日を追うごとに強くなり、同時に不安定と読み取れるほど一時的な増減を繰り返していました。
調査が急務であるというの判断を下したのは私でした。
その日のうちに私達は準備をして、その熱源の捜査を行いました。
結果として、それが私達が住む世界とは異なる領域で何者かが接触、いえ干渉している事に気がつきました。
キヴォトスの裏で蠢めくゲマトリア。
或いは私達が追っている人工神聖。
若しくは今なお存在するとされる古き神秘の伝道者達。
このキヴォトスを破滅に導きかねない存在達による実験の可能性を私達は検討し、ですがその熱量の意味が私達にはついぞ理解しきれませんでした。
それは確かに純粋なエネルギーでした。
ですがそれは、決してキヴォトス全土を揺るがしかねないような危険な出力には程遠かった。
何より私達では干渉できない場所からの接触であり反応だったというのも対処を難しくさせた要因です。
当時の私は……判断に迷い、先生に相談する機会を逸しました。
今考えてもそれは最も愚かな選択でした。
もっと早く相談するべきだったのです。
もっと早く対処をすべきだったのです。
もっと早く、もっとちゃんと、その反応を危険視すべきでした。
けれど約一ヵ月の調査を終えた私はその反応に対するひとまずの結論として『保留』を選択しました。
それが───全ての間違いでした。
この映像を撮影している日から数えて三日前の夜。
D.U.とトリニティとを繋ぐ線路内で膨大な熱量が地下を通して出力されたのを感知しました。
その後は雨後の筍とでも言いましょうか、まるで乱立するように、各地で同じ反応が検出された……この事件の裏側にいる敵は用意周到だったのです。
私達が想定しているよりずっと早くに準備を済ませていたのです。
そして気づいた時には……聖杯戦争が開始されてしまいました。
……その時、観測した熱源から発せられた反応は、私達の想定を越える出力となりました。
あり得ない、こんな出力に達するなんて起こり得る筈がない。
そう考えを止めてしまうほど。
それこそ一つの自治区を丸ごと消し飛ばしても足りないほどに。
そしてその熱量の反応を計測した後に残ったのはサーヴァントと呼ばれる高次元の存在、神秘その物の結晶体というべき物でした。
私が……間違えに気づいたのはそこでした。
私達が観測した形而上の存在は大きな影響は与えられないとたかを括っていた。
けれど実際にはまるで間欠泉のように謎のエネルギーが噴出してしまった。
勿論私達はすぐさま行動に移しました。
幸いデータだけなら取れていましたから。
なんとか熱源……いいえ、聖杯から反応を引き出そうとミレニアムで可能な限りの実験を行いました。
恥を忍んで言うなら、私達は必死でした
あり得ない現状になす術なく流されてそれに抗うだけの力は何もなくて
結局、調べ切ることも対策を打つのにも時間が足りませんでした。
どうあっても壁があるようにこちらからコンタクトは取れませんでした。
そうして、どうすべきか頭を悩ませていたそんな時です。
ゲマトリアと呼ばれる集団の『大人』に声をかけられました。
私達が観測した反応とは彼自らが模倣して作り上げた『聖杯』と呼ばれる神秘であり、今キヴォトスではその『聖杯』からサーヴァントを呼び出して行う聖杯戦争が発生してしまったのだと。
彼が私達に接触したのは単純でした。
巻き込まれた他のマスター達と違って経緯の説明がほぼ不要であり、聖杯と聖杯戦争を危険視していて、マスターに選ばれようとしていたから。
彼、『フランシス』は私達にサーヴァント召喚の手段を手解きました。
そして、聖杯を止める為には『聖杯の内部中枢に接触して聖杯戦争を起こそうとしているシステムその物を止める必要がある』と。
七騎のサーヴァント全員を燃料としてマスターの魂を保護し、その上で内部へと接触するという物でした。
単純に聖杯に接触するだけではその願いは叶わないのだと。
未来で起こるかもしれない聖杯戦争の可能性を完全に断つにはそれしか方法がないのだと。
そしてそれは片道切符、聖杯に接触したマスターは未来永劫、聖杯の管理者となるのだと。
それがもっとも確実な手段だと。
彼はそう私達に説明をしました。
聖杯の破壊という手段も検討しました。
ですが、そもそも聖杯の顕現という事象は、サーヴァントが五騎以上退去しない限りは発生しません。
聖杯という現物がない以上、実際に可能かどうか、私達にも彼にも分かりませんでした。
何より確実に壊し尽くさなくては、
それがどれほど
管理者となる手段はたった一人のマスターの犠牲で、巻き込まれた五人の生徒と、未来で生まれてしまう犠牲者をゼロにする。
それが最も安全で、製造者直々に確立された聖杯戦争の終わらせ方。
……彼の話を聞いて、私はマスターになろうとしました。
エイミには無理でも私であれば
私は、明星ヒマリは間違いなく特異現象捜査部の中で、いえ現在ミレニアムにいる生徒の中で一番聖杯に選ばれる可能性が高かった。
何より私自身、知っていながら保留という選択をしてしまったことに罪悪感がありましたから。
だから……マスターとして戦おうと考えていました。
無論、死ぬつもりはありませんでした。
戦う中で最後まで聖杯の管理者となる以外の方法を模索するつもりでした。
そういう建前が……あったのです。
考える時間が足りませんでした。
起きてしまった事態に対して、それを収拾するには手遅れで、そして私はあまりに無力だった。
聖杯戦争は開始から二週間を経過した時点で次のサイクルに移行します。
その時点で生き残っていたサーヴァントとマスターは全員が死亡し、新たなマスターが選定される仕組みです。
たった二週間でもっと冴えた、誰も犠牲にならない方法が見つかるかどうか。
不安はありましたが、それでも私には責任がありました。
知っていながら危機を見過ごしてしまったのですから。
……でも、実際にはそうはなりませんでした。
トキは私達を足止めして、自らがマスターに選ばれる為に召喚の儀式を行ったのです。
世界を、キヴォトスを救うのだと。
自分一人の犠牲で事足りるなら、私達の住む世界を陰惨な儀式から救えるのなら。
……私を、明星ヒマリを犠牲にしなくていい可能性があるのなら。
大好きな人達がマスターになって殺し合いをしなくて済むのなら。
他の手段を見つける事が時間内に間に合わない可能性があるのなら。
───自分を犠牲にすればいい、と。
そうしてあの子はアーチャーのマスターになった。
アーチャーの真名は『アーラシュ・カーマンガー』。
自らが犠牲となって戦争を終わらせた大英雄です。
あの子は奇しくも、自分の願いと同じ。
自分を犠牲とする事で戦争を終わらせるという
───それが私達の始まりの夜でした。
今、我々はミレニアムにある要塞都市「エリドゥ」内にいます。
どうかお願いです。
このメッセージを受け取った方はチヒロ達と協力関係にあると思います。
私達の後輩を、私の友達を、可愛いあの子を助けて下さい。
まだ……まだ何もしてあげられてないんです。
まだ、楽しい事を全然教えてあげられていないのです。
やっと、自分の人生を歩き始めたばかりの子なんです。
不器用なあの子を犠牲になんかしたくないっ。
あの子とエイミとアーチャーの四人でもっとずっと……っ。
だから、お願いしますっ。
どうかあの子を、トキを見捨てないで上げてください
犠牲になんて、命を捨てるだなんて……そんな馬鹿げたことを止めて下さい……っ。
……私もまだ研究を続けています。
諦めるつもりは決してないのです。
必ず誰もを、選ばれてしまったマスター達を。
あの人の大切な生徒を。
犠牲にしないで済む方法を考えてみせます。
あの子の願いには……犠牲となる事での証明という意味があるのです。
───自らの死を以て世界を救済する。
たった一人の犠牲で未来の憂いと犠牲を断つ。
リオが……トキの主人がかつてしようとした事を。自分の手が赤く染まっても果たそうとした事を。
最小の犠牲で、最大多数の平和を守る。
あの子の命題はそれなんです。
今度は自分の命であの時叶えられなかった物を証明しようとしている。
……そして、かつてこことは違うキヴォトスで起きた結末を否定しようとしている。
誰かの命まで賭した行動は必ず平和という結果に至るのだと、あの子はもういない
それが後付けかどうかなんて関係なく。
あの子はただ真っ直ぐに命の使い方を決めてしまった。
憧れてしまった。
……あの子が大好きな人達に報いたい。
大好きな人達が暮らす世界を救いたい。
だから、自分が犠牲になる。
七騎全てのサーヴァントを殺し尽くして、自分が聖杯に接続し、もう二度と聖杯戦争なんて殺し合いが起きないようにする。
このキヴォトスで
そんな願いを持ってしまった。
トキは自身の命を捧げる形でキヴォトスの救済を証明しようとしている。
トキの願いの裏側にそんな想いが込められている。
だからどうか、どうか……っ!
トキを助けて───。
この映像を見ている方。
このデータの後に私が軟禁されている部屋やエリドゥの内部データを潜ませました。
もしトキとの交渉で必要なら自由にお使い下さい。
そして……最後のお願いです。
私はトキと賭けをしました。
トキが犠牲になるのが早いか、それとも私が先に安全な方法を確立するか。
どちらが早いか競走だと、あの子は笑いました。
……足掻いてみせます。
探してみせます。
それでもやはり───不安なのです。
どんなにミレニアムの天才美少女などと嘯いても怖いのです。
たったの二週間で私が答えに辿り着けるか、悩んでしまいます。
……私達は聖杯戦争に参加している以上、死亡するリスクが常にあります。
志し半ばでいつ死んでしまってもおかしくない。
だからこれは最後のお願いです。
もしも私達が死亡する事態になったのなら。
もしも手遅れになって二回目以降の聖杯戦争が始まってしまったのなら。
そんなどうしようなく手遅れになってからこの映像を見つけたのなら。
どうか
私が気づいたというのなら、リオも聖杯戦争に気づいていた筈なんです。
そしてリオを見つけたら、
……きっとアレは、世界を救おうとする。
今次の聖杯戦争に関わって、私達を止めてくれるならいいんです。
でももし、私達が敗北した後に次の聖杯戦争が始まるなら。
そうしたらきっとリオは死んでしまう。
今度はきっと他の誰でもなくトキと同じように自分を犠牲にする。
誰にも理解されないまま、誰にも理解されようとしないで。
一番合理的な手段で世界を救おうとする。
だからどうか、私の代わりにリオを……私の大嫌いな
情けない願いですが、よろしくお願いします。
それではアーチャー。
この映像をお願いしますね。
時が来て、私からのメッセージを受け取った人があの時計台に来たら送って下さい。
もしもリオが接触してきたり、既に仲間に来ていたら……こちらの映像は廃棄で。
同じ内容で最後の部分だけ手直しした物……って何を笑っているのです!
ちょっと!
聞いているのですかアーチャー!?
これは絶対にリオには……!
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