阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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パズルのピース

 

 言葉を、思わず失ってしまいました。

 

「それは……」

 

 宝具。

セイバーさんであれば約束された勝利の剣(エクスカリバー)、スパルタクスさんであれば疵獣の咆哮(クライング・ウォーモンガー)のように一度使えば絶大な威力を発揮する生前成し遂げた伝説や逸話といった幻想と呼ばれる物の結晶。

 

 セイバーさん自身、時折自分の聖剣(宝具)について語られる時は本当に誇らしげな様子でした。

それはきっと、色んな想いがあっても駆け抜けて戦い抜いてきたこれまでの生涯のなかで、英雄と呼ばれるようになるその時まで隣にいてくれた相棒への信頼と、成し遂げた事自体への自負があるから。

だから宝具って、とても素敵な物だって私は思っていて。

 

「(なのに……)」

 

 アーチャーさんの物は、自身の死と引き換えに放つのだという。

自分を犠牲にする宝具。

その存在自体を私は決して()()()()()()()

だってそんな事はアーチャーさんが頑張ってきた事を否定する事に繋がります。

あの夜、あんなに穏やかに話していた彼がその生前に成し遂げた最後の偉業を、否定するなんて私には出来ません。

 

 でも、言葉は出ないんです。

だってそんな宝具が存在するだなんて、私は夢にも思わなかったんですから。

 

「自身の霊基をも注ぎ込んだ壊れた幻想(ブロークンファンタズム)か。中東の大英雄ともあろう男のそれだ、さぞ凄まじい威力となろう」*1

 

 キャスターさんがそう締めくくられましたが、私の気持ちは置いておいても、現実として大きな問題です。

威力も確かにそうですが、それ以上に彼がこの話をしたがらなかった理由の一つもなんとなく察しました。

 

「打ったら即死の自爆技……それって、使わせる事自体が私達にしてみたら……負け、かな……」

 

「はい。ヒフミ達の目的は犠牲のない聖杯戦争の終結です!アーチャーが宝具を使ったら、一瞬でゲームオーバーです!」

 

「HP調整必須なタイプのボスかー。これ下手に追い込むとマズイかな?」

 

 使う事自体、いえ使()()()()()()()()自体が私達の敗北に繋がる宝具。

犠牲なしで聖杯戦争を終わらせると決めたのに、使われた時点で犠牲が確定してしまう、そういう宝具(手段)

 

 威力も危険でしょうがそれ以上にその選択をアーチャーさんに、トキさんにさせてしまった時点で彼の命を奪う事になります。

なにより、トキさんがそれを選択するという状況は、想像してしまいたくありません。

 

「どうかしら?トキとしても自分の目的を果たしたい筈よ。ヒフミの願いから考えてアーチャーが宝具を撃つというのは困るけど……逆に言えば勝ち残りたいトキにとっても一回しか切れない宝具は早々に切れない手札」

 

「……ううん、ユウカ先輩。トキさんがヒフミちゃん達のマスター権を譲渡しろって交渉してたの、もしかして……」

 

 そしてセイバーさんがこの宝具について話さなかった理由の一つはきっと()()でしょう。

ユズちゃんが気づいた瞬間に、さっと彼の目線が下がったのをみれば私の想像が正しかったように思います。

 

『既にマスターになる事のデメリットを知っていたからこそというのもあるでしょうけど。その可能性もあるでしょうね。何せキヴォトス自体を救う為という理由が彼女にはある。一度限りの爆弾しか手元にないなら保険を……()()()()()()()()()()()()()というのは合理的よ』

 

 リオ会長の言う通り、トキさんのこれまでの行動は謂わばアーチャーさんに対してどういう風に思っているか、そしてどういう形で『運用』するつもりかをまざまざと突きつけてくる事実のようにも感じさせます。

直接本人の口から聞いていない以上、断言は出来ませんが嫌な想像だけは容易に浮かんでくるんです。

 

 だからこそセイバーさんは今日までアーチャーさんの宝具について話されなかったのでしょう。

トキさんに対して少しでも悪感情を抱かせないように、そんな気遣いだったのだと気づいた時には少し空気が澱みすぎていました。

 

「ま!とりあえずおじさんが今()()()()話せる事はこんなところかなー?あのライダーとか言うのと戦った時の話はまたレポートみたいな形でユウカちゃんに預けとくよー。ステータス、だっけ?そういうハイカラなのおじさん分かんないからさー」

 

 その空気を払拭するように室内に響いたのはホシノさんの柔らかい声。

見れば彼女は軽いウィンクを返してくれました。

それに合わせてミドリちゃんも別の話題を切り出してくれます。

 

「……ありがとうございます、ホシノさん。また後で詳しいアーチャーとライダーの身体能力等についてもユウカの方にお願いします。それじゃあ……そうだ、オクトパスエンジニアリングについてはどうでしょうか?」

 

「それはおじさんよりセミナーの子とかに聞いた方がいいかもね?ほら、うちは確かにカイザーと因縁浅からぬ?ってやつだけど、あそこも大きいグループだからさー」

 

 一介の女子高生じゃ知ってる事なんてたかが知れると嘯く彼女を見つつ、私も気持ちを立て直して次の話題に移っていく。

暗い想像はいくらでも出来ますけど、あくまで想像でしかありません。

そんな物に一々振り回されるより、目に見えて確実な情報から一つひとつ確かな物を積み上げて良い道を探していく方がずっと建設的なんですから。

 

「そうね、オクトパスエンジニアリングについてはこちらでも調査を進めたわ。結論から言えば完全なペーパーカンパニー。経営実態は殆ど確認できなかったわ。ただ、設立されたのはちょうど二年前よ」

 

「ということはウイさんから伺っていた例の事件がゲヘナであった時期と一致しますね。であれば、記念教会設立時期にどんな形であれ当時のゲヘナ生や生徒会、なんなら調査報告を行った()()()とも面識があったのでしょう」

 

『……なるほど。鬼方カヨコ経由で聖杯戦争に誘われた口ね。()()()そういう人脈を残していたとは、恐れ入った、いえ。流石は()()鬼方カヨコか、というべきかしら』

 

 調月会長が唸るようにそう言うのは鬼方カヨコさんについて。

確か便利屋68の課長でゲヘナ学園の3年生、いつも落ち着いていてとても頼りになる、とアルさんから前に聞いた事があります。

 

 調月会長の口ぶりを聞く限り、もしかして生徒会の方々には有名な生徒さんなのかもしれない*2と思っているとかなりアグレッシブな意見が飛び込んできました。

 

「うちで調べた限りは資金や物質の流れには幾つかカイザーの息のかかった企業との繋がりがあった。多分ライダー陣営に卸してる物資関係でしょうね。型番とかは削られてるんでしょうけど、オートマタもかなりの数が納品されてる」

 

『……物流のストップ、試してみる?私達なら出来るよ』

 

『おーいいじゃん!』

 

「おバカ。やめときなさい、兵糧攻めなんて……この手のはどうせ碌な顛末にならないの。ハレも……アンタが焦る気持ちも分かるけどちょっと落ち着きな」

 

『下手に追い詰めて自暴自棄……最悪ですね。もしも傍受の一つでも出来れば内情が分かってそういう作戦もできたかもしれまさんが……』

 

 食料含め物資の供給を断つ。確かに効果的ではありますが、決して取りたくない選択肢です。

誰だってお腹が空く、それも何日も食べられないなんてあってはいけないと思うんです。

それにそういう極限状況で人は普段とは予想もつかない選択をしてしまうとも聞きますから。

 

「とはいえ補給戦を断つというのは()()()()()正しい選択である事が多い……()()()()()()()()なら狙う価値はある。物資は複数のルートから供給されているんだな?」

 

「そうだけど……ってもしかして、()()()()()でもするつもり?」

 

 アズサちゃんの言う『ギリギリのライン』というのが分からず私やコハルちゃんは首を傾げましたが、理解できたのかハナコちゃん達はチヒロさんと同じように苦笑とも取れるような形で顔を顰めていました。

 

「あぁ。生活必需品以外(オートマタや弾薬)辺りを抑えてみるのは良い手かもしれない。ジリ貧になれば相手は穴熊は決め込めない。どんな形であれ、戦況が動く」

 

「物資なき戦いは負け戦である。それもまた叛逆……だが、拮抗した状況を撃ち破る打開の一手。これもまた叛逆である」

 

「……まぁ、一応あとでルートだけは割り出しとくから」

 

 腕を組みながら深く頷くスパルタクスさんの説得、いえ説得なのでしょうか。

ミノリさんは頭を抱えています*3が、とにかくアズサちゃんの案は一応いつでも使える状態に出来るように、チヒロさんも調べておくのを約束してくれました。

 

 中々大事になってきたなんて、企業相手に流通を止める話を聞いて今更ながらそう感じていましたが、どうやらそれは私だけではなかったようです。

 

「しかし改めて聞いて思うけど、通常の聖杯戦争ではまず考えられない動きだね。まさに神秘の秘匿という考えがないキヴォトスならではというか」

 

「そうなんですか?」

 

「まず有り得んだろうな。そんな事をすれば教会から委任された監督役は勿論、魔術協会、神秘を秘匿せんとする団体とて黙っておらんだろう」

 

 戦闘の規模はともかく、と続いたキャスターさんの言葉に乾いた笑いが漏らしつつ聞いているとコトリちゃんもまた、不思議そうに話し始めました。

 

「そうやって考えると不可思議な話ですね!監督とは指示、指揮をする人物を指す場合と人々や組織を監視・指導を行う行為またはそれをする人物や組織を指します!今回は後者にあたりますが、取り締まるということはそれを明記したルールが存在しない事には叶いません!語られた数少ないルールはそもそもがゲーム性の担保というより、キヴォトスの社会秩序を見出さないこと!ですがそもそも聖杯戦争自体についての細かいルールなんて物がまるでありません!キヴォトスを壊さない、後はバーリトゥード!これでは戦争とはとても言えません!両者の間に細かい取り決めがあるからこそ戦争行為は成り立ちます!ルールとは即ち規範!規則!法則!秩序を維持する為に設けられた人々が物事に対して従うべき準則です!では一体、彼が監督している聖杯戦争でのルールとはなんなのか!?」

 

「黒服、だったね?アサシンのマスターであり監督役を兼任する彼。これまでの動きの中でも特に読めないマスターだ」

 

 コトリちゃんからの疑問にウタハさんも同じように悩ましげに眉を顰めています。

実際、私も気になるところではあります。

聖杯戦争の仕組みやシステムはこれまで色んな形で触れてきました。

ですが『ルール』、破ってはいけない規則については私達はまだ一つしか知りません。

彼は一体、どんな形で監督役という仕事をしているのでしょうか。

 

『……そうね。一度、整理をしましょうか。ヒフミさん。貴女はライダーからの強襲を受けた際に会っているという話だけど、その時はどんな話をしたのかしら?』

 

 調月会長の言葉を受けて、私はあの夜の事を思い返す。

ライダーさん、そしてアルさん達と戦っていよいよ令呪を切ろうかどうかを決断した時に助けてくれたあの時の事を。

 

 

 

───ああ、よいよい。ライダー共が少々目に余ったからな。お主らはついでよ、ついで

 

─── 私と彼女の関係はあくまでビジネスパートナー、必要に迫られて『マスター』の(role)を被っただけ監督役こそが本業で間違いありません

 

─── 謂わば自然発生した『事故』の副産物

 

─── 今晩のはあくまでも今の質問に答えたのも含めて監督役としての勤め、取り立てて何か返礼を求めるつもりはありません

 

 

 

 思い出したのは彼らとの会話。

 

「黒服さんは私達を助けてくれたのはついで、ライダーさん達の動きが目に余ったからという理由でした。それからアサシンさんとの関係はあくまでビジネスパートナーで、あくまで彼自身の本業は監督役……」

 

思い出した話を自分なりにまとめながら口にする。重要な事を話しそびれる事がないように気をつけながら伝えていく中で気づく事。

それはバラバラになったパズルのピースを確認していく作業に似ていました。

 

「それから……私達の質問に答えるのは監督役としての務め、だからそれ以上を求めるなら取り引きを、と」

 

 彼は監督役としての務めと、取り引きする立場を分けているという事。

それがどんな意味を持つのかはまだ分かりませんが、なんとなく大事な事だと直感して、頭の片隅に留めておくことにしました。

 

「ゲマトリア、地下で活動する研究者集団ですね。噂では聞いていましたがそんな存在まで関わってくるとは……ただ、話の限り少なくとも聖杯自体の鋳造には関わっていても、私達が問題視している聖杯戦争のシステム周りには関与していないという話でしたか」

 

「はい。ただそれもどれだけ信用できる話か……」

 

 苦々しくウイさんに告げるユウカちゃんに届いた待ったの声は意外にもハナコちゃんからでした。

 

「彼らがどの程度の規模の組織かは分かりませんが、一枚板というわけではないでしょう。話ぶりからして、黒服さん本人は聖杯についても聖杯戦争についても良くは思ってないのでしょう。モモトークでの提案も含めて度々ヒフミちゃんとの接触を図ったというのも、彼本人としては聖杯戦争自体への忌避感がある事が考えられます」

 

 あくまでも根拠のない主観にはなりますが、と前置きするハナコちゃんの言葉に私も思考を巡らせます。

確かに黒服さんの言い分は自分は聖杯戦争の監督役を嫌々引き受けた、そんな風に感じられる言葉でした。

そしてヒマリさんからの話も含めてこれまで集めた情報から聖杯を作ったのは黒服さんの同僚さんになる『フランシス』という方だそうです。

もしかすると彼にしてみると、あまり綺麗な言い方ではありませんが『フランシス』さんの尻拭いをされている、なんていうのも有りえる話かもしれません。

 

「それにビジネスパートナーという言葉。それにアサシンさんとのやり取り。聞く限りでは恐らく、彼と彼女はともすれば私達以上に主従関係が薄い、ある程度アサシンさんが自由に動ける裁量を任せているのかもしれません。後日、すぐにヒフミちゃんの元を訪れたのも、楽観的ではありますが一種のアフターケアと考えれば……早期に彼が姿を見せたのも分かります」

 

「確かに。私達の所に来たのは召喚してから二日、三日経ってからだったかな?それも夜間の事だ」

 

「うちも大体そうだったかなー?」

 

「……となれば昼間にわざわざ顔を出している事を考えても、ヒフミちゃんとの接触には意味があります。もしかすると彼にしてみれば都合が良かったのかもしれませんね。聖杯戦争に否定的な立場を明言しているマスターというのは」

 

 そうハナコちゃんが言い終えた後には私達の間でまた沈黙が流れてしまいます。

監督役でありながら、アサシンのマスターを兼任している。

普通であれば見た目も相まって胡散臭いこと極まりない。

ですが彼と敵対したのはただ一度きり。それもマスターになる前です。

であれば今の私達は彼とも協力できるのでは、なんて考えすら浮かんできます。

 

 

 

「……えと、あの……ほ、ホシノ先輩?」

 

 

 

「おへー?なになにー?どしたのコハルちゃん?」

 

 ふいに沈黙を破ったのはコハルちゃんのおずおずとした声。

それに不思議そうにしながらホシノさんも笑顔で対応してくれたのにホッとしたのか、ちょっともどかしげにしつつもコハルちゃんは尋ねました。

 

「あの、その……なんか、黒服さんの話をしてる時の表情が、辛そうかなって……いやその!勘違い!勘違いだったかも!なんですけど!?」

 

 慌てる彼女にむしろ驚いた表情を一瞬だけ見せたホシノさんはすぐにいつも浮かべている柔和な微笑みを見せながらコハルちゃんの頭を撫で始めました。

 

「すごいねーコハルちゃん。しっかり人のこと見てるんだねー。どう?良かったらうちの子にならない?」

 

「あひぇっ!?えと、その……あの私はっ「うふふ♡だめですよー小鳥遊先輩♡コハルちゃんは補習授業部の子なんですから♡」ちょっと!ハナコ!」

 

「ありゃ、振られちゃったかー」

 

 残念と肩をすくめるホシノさんはそれから私達の方に向き直って、少しだけ嫌そうな顔をしながら教えてくれました。

 

「まぁでも、そうだね。黒服とはさ、それになりに付き合いがあるんだよ、()

 

『望外ね。なら彼やゲマトリアについて聞いても?』

「いやー、分かってて聞いてるでしょー会長ちゃん……おじさんからアイツについてどうこう言うのはやめとくよ。だって私、アイツのこと嫌いだし。そういう考えが混じるとさ、話もややこしくなっちゃうでしょ?」

 

 嫌いの一言は驚くほど重かったです。

ホシノさんと彼との間で何があったのかは分かりませんが、決して簡単には埋められない溝があるのだけはしっかりと感じ取れました。

けれど彼女は笑って私達に協力を申し出てくれる。

 

「だから私がアイツに関わるのは最後の番。アイツのところにヒフミちゃんが行くって決めた段階で話聞かせてよ。その時は私も付き合うからさ」

 

 その優しさに甘えて、私はしっかりと頭を下げる事にしたんです。

 

「会いに行くなら早い方がいいわ。取り引きの内容が分からない事には私達も動けない。逆にそれが分かっても準備する時間がなければ対応できない。取引をするなら最低でも明日の午前中に、行かないならもう取引自体しないって考えて今後の行動を考えた方がいいわね」

 

「どんな話になるかも取り引きの内容を聞かなきゃ分からない。ただ、取引って言ってるんだから、双方にメリットがある。とりあえず行って損はないんじゃない?それに監督役としての質問に関してはきちんと話してくれるんでしょ?だって実際、そうだったんだし」

 

 ユウカちゃん達の言う通り、明日は彼に会う事を想定しておいた方が良いかもしれません。

ただ気になる事がまだあります。

それは、つい今日のこと。

彼女から教えられたある一つのヒントについて。

 

「『あのシステムの起動』……もし黒服さんに会うなら私はそれについても聞いてみようと思います」

 

「シュロだっけ?その子の話していた内容だよね」

 

 モモイちゃんの言葉に頷きながら、頭の中に響くのはあの時のシュロちゃんの言葉。

 

 

 

 

 

 

───()()()()()()()()()だなんて終わりだけは手前は勘弁です。

 

 

 

 

 

 

侮蔑する程苦々しく呟いたその一言がどうにも気がかりでした。

 

「十中八九、間違いなく聖杯その物に関わる機能でしょう。なら監督役として話をしてくれると思って間違いないかと」

 

「私達も知らない聖杯戦争のシステム……というよりこの聖杯戦争についても知らない事が多すぎる。一度きちんと確認しておいて損はないでしょ」

 

「レギュレーションは守ってこそです!そもそも分からないとアリス達も守りようがありません!」

 

 とはいえ概ね、話はまとまり。

黒服さんと会ってシュロちゃんから聞いたあのシステムと呼ばれる私達も知らないそれについて尋ねてみるという結論に落ち着きました。

 

 ただ、なんでしょうか。

どうしてだか私は、その時。

シュロちゃんの顔が脳に焼き付いて離れてくれませんでした。

あの苦味切った、まるで大好きな物を途中で取り上げられた小さな子のような、そんな苛立ちに満ちたあの顔のことを。

 

「まあそうは言ってもだ、今は分からない物を考えていても仕方がない。目の前にある問題の話をしよう」

 

「問題というと、やっぱりアルさん達ライダー陣営でしょうか?」

 

「勿論、他の陣営も含めてだけれど。目下、一番危険視するべきはやはりライダー陣営だろう」

 

 ミノリさんが私の言葉にそう返したのに合わせて、キャスターさんも蒸気を噴き出されました。

 

「ライダーに関しては確かに相当な戦力と言える。数で言えば我らよりも揃え、質で言えばライダー単体でも凶悪の一言に尽きる。だが言い換えれば、我らにとっての脅威もまたそれが全てと言える」

 

 なんでも室内の加湿も兼ねているのだという白い蒸気*4を漂わせつつキャスターさんは机を軽く叩きました。

 

 モニターに表示されるのはライダーさんのスキルやステータスが書かれた物。

ホシノさんの話も合わせて少しアップグレードしたそれ

 

「ライダー本人の強さは恐るべき物だが、我らが二騎で相手取っても十分に戦えた。宝具を使わずしてだ。相手もまた未知数ではあるが、あれからバーサーカーとミノリという得難い戦力が我らの陣営に加わった。あのオートマタにしてもヘルタースケルターならば数さえあれば戦える」

 

「あの、キャスターさん。ヘルタースケルターさんをもう少したくさん作る、とかそういうのは可能だったりしますか?」 

 

「これ以上の増産は見込めんわけではない。だが我のスキルを越えた形での生産となる。魔力的には余裕があるが……今から工場の生産ラインを整えるとなると時間がかかるぞ」

 

 思わず身を乗り出して聞いてみますが、色良い返事は返ってきません。

残念ですが、これ以上は毎日建造できるペースを増産するのは難しいようです。

 

「さっき話した通り、聖杯戦争のセオリーはマスターかサーヴァントを抑えてしまう事。元より僕らはサーヴァント……英雄だ。数の強みを単騎でひっくり返す、それが出来るから未練がましく僕らはその席に着いた。なに、寡兵で攻め入るならまだしもキャスターの使い魔に関しては今でも十分に数が揃ってるんだ。早々に遅れは取らないよ」

 

 セイバーさんがそう言って慰めてくれますが、唐突にそれに反応した方が一人。

 

「宝具か。異邦にして同郷たる剣士よ」

 

今の話のどこに宝具が、と疑問符を浮かべる私の横で苦笑いを浮かべつつも私に説明してくれました。

 

「……なるほど。貴方は本当に話が早い方だ、バーサーカー。ヒフミ、バーサーカーの言う通り問題は数じゃないんだ。さっき僕らは人数差をひっくり返せるとは言ったけど、相手もまたサーヴァント。幾らでも盤面を切り返すだけの切り札を持っている。そしてライダーというクラスは僕の経験上、規格外の規模や手数の宝具こそが強みだ……そこに関しては少し考えないとね」

 

 思えばセイバーさんは当初からかなりライダーというクラスに警戒していたように思います。

私達に各サーヴァントの特徴をお話ししてくれた時もそうでしたから、彼の経験を踏まえてもやはりまだ見ぬライダーさんの宝具には気をつけなくてはいけない。

 

 ただそれをどうやって調べるべきかと頭を悩ませそうになったところでアズサちゃんから提案の声が上がりました。

 

「……一当て、するか?」

 

一当て、つまりは一度試しに接触して戦力を測るという方法。

これまで基本的に私達から積極的に攻勢に出るというのはなかったですが、今後は必要になるかもしれません。

 

「それもありかもしれないね。ランサーやアサシンと違ってライダーに関しては手札がまだ見えてこない。退路の確保さえあれば、交渉という形で接触して、その上で必要ならもう一度くらい実際に戦って確かめてみるというのはありだろう」

 

「無駄な血を流す必要はあるまい。やるならば確実にライダーとの戦いに注力する必要がある」

 

「槍試合でも開けたなら良かったけれど、そうも言ってられないからね。ぶつかるとなればこちらの兵力を削らず、どうにかライダーに僕たちだけを確実にぶつけて戦力を測れる機会を作りたいところだよ」

 

 顎を撫でる彼を見つつ私も考えを巡らせてみますが、中々良い考えは浮かびません。

しばらく悩んでみますが、私の頭はうんともすんとも答えてくれないでいます。

 

『……悩んでいても仕方ないわ。その段取りになってからまた考えましょう。今日は折角人数が揃っているのだから、ライダー陣営だけを考えれば良いという話ではないわ』

 

「はい、他の陣営についてですね」

 

 そうやって腕を組んで顰めっ面をしていた私達の耳にミドリちゃん達の言葉が飛び込んできて、少し頭の中をリフレッシュさせます。悩んでいても仕方ありません。

 

「アサシン陣営は現状中立。ランサー陣営はライダー達とは勿論、僕達とも敵対している。アーチャーは言わずもがな。ただ、残る四つの陣営はいずれも強敵だけれど、一つの陣営で僕達三騎を相手取るとなると厳しいんじゃないかな?」

 

「パワーバランスは私達に傾いている。けれどその均衡はあくまで他の陣営が同盟を結んでいない、という前提ですね」

 

「他には漁夫の利を狙われると厳しい、というのもあるでしょうか?三騎全てを一つの陣営にぶつけるだけでなく、残った陣営に睨みを効かせておける戦力を残しておくというのも出来ますね」

 

 セイバーさん、キャスターさん、バーサーカーさんの三騎。

私達の同盟の最大の強みはサーヴァントの方の数とも言えるでしょう。

それに私達含めて協力してくれる方も沢山いらっしゃいます。

三騎の方全員で戦うのも、残る四つの陣営それぞれにぶつける。

そんな方法もありかもしれません。

 

「そうやって争っているうちに相手が今の拠点を捨ててしまう可能性、というのもなくはありませんね。そういえばチヒロ先輩、ヒフミ達から受け取った資料からマリーの居所についてはどうです?」

 

「受け取ってからまだ1時間経ったかどうかなんだけど……とりあえず大体6割完了ってとこ」

 

「進んでいるなら問題ありません。引き続きよろしくお願いします」

 

「はいはい、餅は餅屋。ところで話は戻るけど今の拠点を捨てられたらどうするわけ?今でさえゲヘナ絡みでライダー陣営とか面倒でしょ。他の自治区に移動でもされたら叶わないじゃない」

 

 チヒロさんの仰ることを聞いて思わずお腹が痛くなります。

なんとかそれぞれのマスターの方の居場所を探してきたのに、ここで逃げの一手を打たれると苦しいどころの騒ぎではありません。

 

 それを感じてか、調月会長とウイさんはそれぞれ考えられる対策やフォローを口々に伝えてくれました。

 

『最悪の場合は私と桐藤さん達の連盟で勧告なり交渉する形になるかしらね。時間もあるし手間はかけないわ。仮にそうなったとしてもある程度、貴女達が自由に動けるようには出来ると思ってちょうだい』

 

「実際のところ、伊落さん含めてどのマスターも時間制限を知っている筈です。今から他の自治区で新しい拠点を作るより一気に攻勢へと出る可能性の方が高いでしょうから……それに仮にそうやって別自治区で新しい拠点を築くとなれば勝手も分からない土地です。捕捉するのもそう難しい話ではないでしょう」

 

 今現在、他自治区に動かれるという可能性は少ないですし対応も可能。そうなってくると問題は一つ。

 

「やはり主戦場に恐らくなるのは、トリニティ、ミレニアム、ゲヘナの三つか……」

 

「あぁ頭痛くなりそう……」

 

『ユウカさん、実際のところミレニアムで複数の陣営が戦うとかになった場合はセミナーはどう動くつもりですか?』

 

「……それこそヒフミ達が戦っている間は静観よ。まず徹底して避難勧告を出す。同時にシャーレも呼ぶしC&Cだって動かす……っていう実働記録は残すぐらいになるかしらね」

 

 頭を抱えるユウカちゃんに寄り添うような言葉は通信越しの生塩さんからでした。

 

『残酷な言い方になりますが、私達自治区の運営サイドが聖杯戦争に加担した事実というのはあってはいけないんです。今はまだ三大校やアビドスまでで話を止めていますけど、下手に話が流布されたら私達の立場だけでなく、自治区自体に決して小さくない影響を内外に与えてしまいますから』

 

「代わりにどれだけ壊そうが、めちゃくちゃにしようが取り返しのつかない事さえ起きなかったら、なんとでも補填してみせる。一緒に戦えない分、うちのことも……きっとトリニティのことも気にしないでいい。だから、思いっきりやってきなさい」

 

 机に向かって項垂れていたユウカさんが顔を上げて私達の方に目を向けてくれる。

その表情に浮かんでいたのは申し訳なさや心配もありましたが、同じくらい強さが秘められていて、私達も安心して頷けました。

 

「どちらにせよ、サーヴァントという戦力、ヘルタースケルターという数、そしてお前達協力者の質。いずれも稀有な戦力が揃った我らは、数ある聖杯戦争の中でも特に強力な陣営である。悩みの種はいつだって尽きぬ。だが手元にある物を見てみよ。なにも悲観する事はないのだ」

 

 まとめるよう深々と頷くキャスターさんの言葉に私は緊張していた肩の力が抜ける気がして、目が合ったモモイちゃんと思わず笑い合ってしまいます。

 

 難しい話題は続きましたが、忘れてはいけません。

私達にはこんなにたくさん仲間がいます。

どんな困難だって、今この場にいるみなさんを見ていれば大丈夫だと思えるんです。

 

「さて、そういう事ならもう少し踏み込んでこれからを考えていこうか。個人的にはアサシンの立場をはっきりさせておきたい。今は大きな動きはないけれど、彼らの動向次第ではさっき話したパワーバランスも容易に崩れかねないからね」

 

「はいはーい!私はちゃちゃっとトキをなんとかするのに一票!」

 

「私もモモイと同意見。遠距離からの攻撃手段、それも他自治区にも届くほどだ。仲間にできるなら越した事はないし、そうじゃなくても何かしら決着を着けない事には正直不安がある」

 

「なら、おじさんもかなー?アーチャーもライダーとも戦ったけど、正直隠し玉あったとしてもアーチャーの方が強い感じだったからさー」

 

 セイバーさんが切り替える形で出した話題、今後について。

どの陣営から接触するかという話にモモイちゃん、アズサちゃん、ホシノさん、それから頷いているアリスちゃんはトキさんに会うことを。

 

「では、私はランサー陣営を。今残っている陣営の中なら恐らくマリーちゃんが最も私達の願いと近い位置にいる筈です。少なくとも聖杯戦争その物への願い自体はサクラコさんが話した物で間違いないでしょうし」

 

「やっぱり、まだありますよね……伊落さんって人も、あの歌住先輩も無理してるから……私はランサー陣営に、その……明日とか会えたらって……それにトキさんは……あの、あんまり序盤に接触しない方が良い気がします……」

 

『あまり追い詰めるというのもいけないけれど、私達の目的はあくまでサーヴァントを含めて犠牲者を出さずに聖杯戦争を終結させる事。安易に宝具を使わせる選択肢が生まれてしまわないように、そして過激な手段を取らせない為にも、可能な限りサーヴァントが残っている現状での接触は控えた方がいいわ』

 

 ハナコちゃん、ユズちゃん、調月会長はマリーちゃんとの接触を。

 

「でもやっぱり、その……ライダーが私気になる……前に攻めてきた事あるし……」

 

「コハルさんの言う通りアサシンもそうだけど、セミナーとしては早急にライダー陣営への対処をお願いしたいところね。他自治区への影響もそうだし……うちにも一度攻めてきているんだから」

 

『ふふっ。みなさんのことが心配なんです、ユウカちゃん』

 

「ばっ!違うわよ!そういうのじゃなくってあくまでもセミナーの立場としての見解!トリニティ周りが活動拠点の監督役や伊落さんとは違うってこと!」

 

「まぁユウカは置いとくとして、私もコハルちゃんに賛成です。一番未知数の陣営ですから、手遅れになったりしないように本腰入れて明日から対ライダー陣営について考えたり情報収集したいです」

 

 コハルちゃんとユウカちゃん、ミドリちゃんはライダー陣営との接触を優先していきたいということのようです。

 

「エンジニア部としてはどこからでも……とだけ。それに合わせて万全にサポートするだけさ」 

 

「うちも同じくよ。実働はあんた達、なら私達がとやかく言える話じゃないからね」

 

 ウタハさんとチヒロさんがそう言われたタイミングで。

 

「まあライダーについては私とスパルタクスであればある程度は抑えが効く。白兵戦ならうちの筋肉達磨の十八番だし、なんなら『魔の血脈』だったか?ヒフミ達が気味悪がっていたオートマタや記録で見たライダーの謎のスキルについてだが……」

 

 ぽつりとミノリさんが呟いたのは一言。

それは彼女からしてみたら、あまりにも()()()()()と言わんばかりに自然な発言。

 

 

 

 

 

 

「あの手のスキルの影響を()()()()()()()()()

 

 

 

 

だから思わず、私達全員が彼女の方を振り返ってしまいました。

 

「そ、そうなんですね……一応資料は見させてもらったんですけどそういうのは思いつかなくて……でもそういう事ならとってもありがたいです!」

 

「ああ、任せてほしい。私にしろスパルタクスにしろ、ああいう手合いとの相性はどうやら悪くないと思うんだ。きっと力になるよ」

 

 今まで難敵だと思っていたライダーさん。私達が勝てないと思わせられた物量や最後に受けた『声』に対して彼女ははっきりと問題ないと言い切ってしまった。

 

「しかし、バーサーカーのスキルはマスターにも影響を与える物なんだね。僕もこれまで数度、聖杯戦争に参加していたけれど明確にマスターへ影響を与えるというのは珍しい」

 

「でもそのおかげでライダーさんと戦うことになっても活路が見えてきました!」

 

 思わぬところで見つかった光明です。あの声にしろオートマタにしろ、お二人がいればなんとかなると心が弾みだした。

その時に、聞こえてきたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……気になっていたんだが、もしかしてヒフミ達は()()()()()()()についての説明は受けていないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミノリさんの訝しむような声でした。

 

 

 

 

*1
ブロークン・ファンタズム。宝具の()()()()使()()を指す言葉。宝具その物を爆弾のように扱う技術であり、破壊する形で宝具内の魔力を爆発させる為、極めて高い破壊力と殺傷能力を爆破圏内に齎す。その性質から切り札である宝具を使い捨てる事になる為、正真正銘の最後の隠し球

*2
ここで言及するのは控える。だが連邦生徒会の役員が、ある一件で召集に応えた彼女の事を名指しで呼んだ。それの意味はヒフミ達が今想像しているよりずっと大きい

*3
バーサーカー、スパルタクス。高い狂化によるステータス上昇の代償というべきその精神性からミノリは()()()()手綱を握らないと選択したが、こういう場面でグイグイ行くのが()()()だと今日日感じていた

*4
本日はローズマリーの精油入り





1じゃんね☆
遅くなって本当にごめんなさいじゃんね……
えっちらおっちら書いてたらこんな時間……
続きはまた今夜、じゃんね☆

次回ちょっとした独自設定が出るじゃんね☆
昔やろうとしてた伏線のリサイクル、じゃんね☆

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