未改訂版 Dark & Light Blues 作:沖田十三郎
●S1~●S4
●S1/鈴之宮 宅
『 きょうせんせいにならったこと。
むかしむかし、
ひとはしゅくせいというのがつかえました。
けれど、
ひとはしゅくせいでけんかばかりするので
かみさまがおこって
ひとからとりあげてしまいました。
ひとはおばかさんです。
なんでみんななかよくしないんだろう?
あたしにはわかんないです。 』
眠れない、眠れない、眠れない。
十二年前の記憶が頭の中で
目が冴えて、感覚が鋭敏になっているのがわかる。
原因には心当たりがある。
それは昼休みの事。お昼ご飯の時にレーティイとミルと私の三人で弁当を突きながら『ダークエルフ』の事について話したからかもしれないし、学校から帰ってから気紛れに開いてしまった
どちらにしたところで、今の私にはあまり関係のない事だ。自動逆走する私の記憶が、蒼い月光に照らされた私の部屋を、赤く、紅く、朱く、緋く染め上げた今、そんなことは既に
手元にあるのは私がまだ五歳だった頃の日記。
まだ、幸せの意味を知らなかった頃の日記。
この日記を書いた次の日の夜、
私の母さんと父さんと姉さんは死んだ。
殺された。
忘れられない赤の記憶だ。
忘れたく無いのかもしれない。
忘れようと思っても、目を瞑ればあの時の光景が瞼に写る。
アノ悪夢の様な一夜が。
アノ悪夢の様な一夜を。
ソノ夜を、私は今日、思い起こしてしまった。
不覚にも、
不覚にも。
恐怖と怒りと憎しみと、殺意と害意と敵意に苛まれ、
そして自己嫌悪が血潮となって体を巡り、今の私は眠れない。
「死に……たいのかなぁ、あたし。」
自問する声に、答える声はない。
それにもう、答えは出ている。
もうあれから十二年もの年月が経った。
私ももう、五歳の子供ではなく、十七歳だ。
あと少しで大人になる。
いつまでも引きずっているわけにはいかない。
それなのに、いつまでも引きずっているのはなぜなのだろう。
それはきっと、忘れたくないからか。
「そっか、そうよね。もう十二年も前のコトなんだ。けど……十二年しか経ってないのよね。」
自らを〝魔王〟と称するダークエルフに両親と姉を殺されてから…。
両の腕は一撃の下に
あの、優しい外見に破壊衝動の塊が如き本性を持つ
あの日からこの家には自分以外の人は誰もいなくなった。
涙に濡れた瞳で辺りを見回す。
天井近くにある天窓から覗く星ひとつない夜空を見て誓いなおす。
否、誓いを新たにする。
私が私に立てた誓い。
『必ず、私の手で仇を討つ。必ず
この手で……必ず!
殺してやるんだ、と。
……とその時、天地を裂くような雷鳴が背後にあるガラス窓を震わせた。
ポツポツという音も聞こえ始めた。
雨が降ってきた
「…………。」
未だ夏の暑さが抜けきらない九月の半ば、さして激しくも無い雨がシトシトと降った。
●S2/森界
耳朶の奥に深く静かに鳴り響く、雨音がうるさい。
天から降り注ぎ、大地で弾けるリズムはさながら
今の今まで森中を支配していた静寂は姿を変えて、雨音と言うベールが全てを覆い、より一層静寂は強まっている。
日は数刻前に落ちている。
夜の帳の降りた舞台にスポットライトの光はなく、さながら化け物屋敷のような暗鬱とした暗闇ばかりが世界を覆い尽くしているのだった。
ツキン、という鋭い痛みが脳天を貫き、痛覚を刺激した。
雨に打たれ、肩の傷口が悲鳴を上げている。
「っ」
思わず、口から。
不覚だ。こんな痛み、十年前の『あの日』と比べればなんでもない事のはずなのに。
「クッ、やっぱ歳ですかね?」
雨足は退く気配すら見せず、強くなっているように思える。追っ手の足音も自分の足音も、何もかもがまとめて消し去られる。何も聞こえない。相互の位置すら分からなくなる。
静寂にも沈黙にも似た雨音のカーテンが、辺り一面を覆い尽くし、決して静寂ではありえない擬似的な静寂が森林一帯を包み込んでいる。恐怖と戦慄が入り混じった独特の感覚。誰かに追われている時に、相手がどこら辺に居るのかも分からなくなる事ほど恐いものはない。
「結構シャレになりませんね、これは。」
本当の本当に、
「このままだと
夜はまだ、当分明けそうにない…しかも、今晩はよりにもよって新月だ。
この地方のこの時期、街中だって日が落ちれば暗闇の帳が落ちるのにさほど時間がかからない。それが町外れの、それも森の中ともなれば、その速さは驚異的ですらある。暗闇の支配する森は、さながら行く先の見えない迷宮に等しい。
「日は落ちて、雨に降られてケガをして、ついでに追ってはかの高名な〝
深い藍色の瞳に疲労の色を濃く写し、綺麗な琥珀色の髪を濡れるに任せた青年―――リン・ウェリエースは疲れた表情もそのままに立ち止まって言った。
考えるために立ち止まったのか?
否、違う。
話し合う為だ。
「追っ手の手勢は六人。こちらは一人と
と、呟く。
話すよりかは小さく、しかし
『……。』
「無視……ですか。」
『一所にて姿隠すこと叶わば、或いは逃げ切れるやもしれん。』
神器―――神を収める器。この世に有り得べからざる奇蹟の顕現。本来、神と呼ばれた存在は『黄昏の前の大合戦』の時点で人間族には不干渉を決め込み、現在に至るまでただの一度も姿どころか声さえも見せない天上に在る不浄の存在だというのに、かの神はここある。奇蹟の存在がここにある。
そして、
「やれやれ、やはりその方法しかありませんか。」
と、リンは首から掛ける神器からの声を聞き、彼は自らの気配を完全に断ち、両の
意識が無意識の中へと沈んでいく。
思考がより一層澄んでいく。
瞼に隠れた瞳が一つの風景を写し出す。
視えた場所を知覚する。
そして自覚する。
すぅぅぅぅぅぅ………
「ありましたよ。姿を隠すのに適していそうな所。しかし……」
『しかし、なんだ?』
「あれはたぶん民家ですね。山小屋ではないでしょう。明かりも視えましたし、巻き込むわけにもいきませんよ。私は、……その。知ってのとおりの外見なので、悲鳴でも上げられた日には目もあてられません。即刻その場でジ・エンドです。」
『賭け、だな。』
「しかも相当に分が悪い。」
『勝算は……。』
「五分五分…六分四分ってトコロですかね?一目で私のことをダークエルフだと判断出来る人はいないでしょうから。」
『……だな。では、』
「ええ。どうせこのままでは見つかるのも時間の問題でしょうから。無謀かもしれませんが一角千金を狙ってみることにしましょう。」
『うむ』
そうして、リンは息を薄く吐く。
半開きであった瞳を見開き、
「いっちょう、やったりましょう。」
と言う。
自己への戒めと自らへの信頼を込めて。そして体全体の全神経を研ぎ澄ます。相も変らぬ雨音のベールに包まれて、夜の中に身をおいて。
悪条件が全て揃っているこの状況下において、リンは微笑を浮かべている。いくら紛い物の身だとしても、彼はエルフだ。聴覚と感覚のそれは人間と比べるべくもないし、なによりここは、
ジャッ
ジャッ
ジャッ
聞こえた。
聞こえる。
追っ手の足音だ。
リンを中心とした半径三十五以内に全員がいる。
「それでは、本領発揮といきましょうか。たかだかヒトの五人や十人、物の数ではありません。こんな状況で簡単に捕まってしまうようでは『狩人』の中では生きていけないんですから。そこらへんの事柄をばっちりきっちり教育して差し上げましょう。」
神器と話し合った時よりも大きめの声で、詠うように語る。
決して、決して普通の人間には聞こえるはずのないような声で、彼は言った。しかし、それらの足音はリンの声を合図にして完全に止まった。
ピタリ
木々の隙間から、視えない視線が絡みつく。
そして一気に気配が動き出す。
間合いを計るかのような正確さで。少々のタイムラグを生じさせつつ、全ての気配が突撃をかけてくる。
「はぁ、やはり来ますか。そのまま大将の所へ報告にでもナンでも戻ってくれたりしたら大助かりだったんですけどね。まぁいい仕方ありませんね。せっかくの機会ですから教えて差し上げる事に致しましょうか。」
口元に薄い笑みを顕し、言葉遣いは悪魔でも丁寧に。剣呑な氣を放ちつつ、未だ姿も見えぬ相手に対して騙りかける。
そうして、言葉が終わると同時に煌く七つの影が暗闇という名の森林から飛び出してきた。
「早い。…ですが、」
ですが、ただ、
「甘いですね。甘すぎます。」
呟くように言い、
ステップを踏み、
続けて彼は謳った。
「私を〝魔王〟の直子知った上での行動ですか!?」
リンは自身の心に多少の軋みを感じつつ、言い放った。
言葉が辺りに響いた瞬間、自身の行動がどのような種類のものなのかを悟り、追っ手の動きが停止した。
「!!!!!!!」
忌神のうちの一人が呆然と呟いた。
(「甘すぎますね…ていうかただのバカですね。」)
(『同感だ。』)
(「魔法の使用許可を私に。」)
(『……いや、だがお主、ヘタをすれば死……。』)
(「ここで何もしなければどの道死ぬことになります。」)
(『ふん。尤もな話ではあるな。
だが…いや、いい。良かろう。
〖我、ラピスの名の下に
奇蹟の法を我が
示せ、その決意のあり方を〗』)
瞬く間の精神同士の会話。
世に謳われる精神会話(テレパス)。
許可が出たのは〝力〟の解放。
己が心中に在る混沌に意思と決意の焔を刻み、左目に己の在り方を投影し、そして力は現れる。
「
発導の祝詞を上げ、力は掲げられる。
銀を用いることのない、純粋な意味での〝失われた力〟は発現した。
この間たった六秒。
全盛期の魔法使い達ですら足元にも及ばない、超高速発動である。
それは天才と呼んで差し支えない才能であり、
それは天災と呼んで差し障りない異能である。
神以外の存在にあるまじき「銃」と「銀」を用いる事の無い奇蹟の実演。紫電と蒼電、そして黄の雷電が幾本も迸り、辺り一面を電光色に染める。
「それでは皆さん、ごきげんよう。」
微笑と共に、長い耳を持つ彼は光に包まれる。
「きっ、貴様!何故だっ!?〝魔王〟の子であるならばダークエルフであるはずだ。魔法はおろか魔力さえ持つわけが無い……。」
影達の中の一人が叫ぶ。
が、リンは応えず、微笑み、
そして雷電の向こうに姿を消した。
「くそうっ!!!!!」
雨音が、夜の森に虚しく響いた。
が、すぐに雨音にかき消された。
●S3/鈴之宮宅〔サイド 白雪〕
コンッ
コンッ
コンッ
玄関の方からノックの音がする。
「すいませぇ~~~~~ん。」
続いて声も聞こえてくる。
…?
こんな時間に誰が?しかも外は土砂降りだし。なんだろう?
…変態?
「ごめんくださぁ~い。」
…にしては情けない声。って、間の抜けた、どこまでも損をしそうな、そんな弱弱しい声。
…誰だろう?
ガチャリ
ドアを開けてみた。
もちろん、チェーンロックはしたままだ。
が、しかし。
ピシャリ
スグニシメル。
嘘だ。
何かの間違いだ。
そうに決まっている。
だって、だって、ドアを開けたそこに居たのは、見間違えようもなく、エルフだったのだから。
恐い。
たとえ相手の顔と口調が情けなくても、たとえ相手が雨でずぶ濡れになっていようとも、あのエルフ族独特の長耳は忘れられない。
それにしてもなんで?
なんでエルフが…でなければダークエルフが家の前に立っているの?
ザァァァァァァァァァァァァァァァ
雨音がやけに大きく聞こえる。
「すいませぇ~~ん」
と、考えていると、またあの間の抜けた声がドア越しに聞こえてきた。
「今夜一晩だけ泊めて頂けないでしょうか?多少のお礼なら出来ます。お願いですから入れて下さい。おねがいしまぁす!なんか変な人達に追っかけられているんですぅ~!」
………。
なんか…情けない。
こいつは…エルフ?
エルフって普通、もっとこう・・・気品に溢れていて雨とかに降られてもピシッとしているハズじゃあ?
それともダークエルフの演技?
「あ・あのぉ~~~」
たぶん。たぶんコイツはエルフだろう。
大丈夫、こんな情けないヤツがダークエルフなワケがない。それに……
「すみませぇ~~ん。助けて下さぁ~~~い。」
こんな声で哀願しているのを無視したりしたら、まるであたしが悪人みたいじゃない。
……、それにしても。
「あのぉ~~~~~」
少し情けなさ過ぎやしないだろうか?
まぁ、いいか。意を決して、
ガシャ
扉を開けた。そして、
「どうぞ。ごめんえね、チョット考え事してたもんだから。上がって、そしたら悪いんだけど風呂場まで行ってくれる?そのままじゃ風邪ひいちゃうでしょ?」
と、一気に
この人(?) には何の関係もないのだけれど、やはり外見がエルフ……というか耳が横長いヒトと一緒に居たいとは思えない。だので、なるべく離れていられるようにする。押しかけてきたのは向こうなのだから、文句は言ってこないだろうし…なにより性格的に何も言ってこなさそうだ。
「あ・あのぉ~~」
そのエルフが話しかけてくる……ん!?
「その肩の傷…っていうかそのケガの事よ!外套にまで染みてるじゃないの。一体全体どんなヤツ等に追っかけられてきたのよ、アンタ。」
「ええ……ちょっと、いや、かなりアタマが逝っちゃった人達に、ね。まぁ、そんなトコロです。」
なんか、エルフがもじもじしている。なんだろう?
「どうしたの?」
「……。……。」
「え?よく聞こえないわよ。」
「服、貸してもらえませんか?。」
「ん?なんだって?もっと大きな声で言って。
傷に響くの?お風呂止めとく?」
「え?ええ、傷自体は見た目程には酷くはないですよ…痛みは残っていますけどね。それよりも、その…追っ手は私のことを男だと思っているので……その…貴女の服を貸していただけないでしょうか?自分で言うのもなんなんですが、私、エルフの男の中でもかなりの女顔なので、…多分誤魔化せるかと。…いや、ダメならダメで……。」
多分、言いながら悲しくなっているのだろう。なんか、泣き顔っぽくなっている。ま・いいや。
ん?
いや、あまり良くもない。
服を貸せって?
あたしは女、コイツは男。
そして会ってからまだ五分も経っていない。
けど……、
「いいわ。それより早くお風呂に入ってきて。あ、そういえばまだ沸かしてないや。今沸かしに行って来るから、お風呂場に行っててね。あ~・・・場所は玄関から入ってすぐ左にある部屋だから、行けばわかるよ。じゃっ。」
あたしは早口で言い捨てると、逃げるように外の湯焚き場へ走った。
●S3/鈴之宮白雪 宅〔サイド リン〕
ザァァァァァァァァァァァァァ……。
さて、と。
着いたには着きました。幻視した通り、大きすぎず小さすぎない家の前。もう、明かりは点いていないけれど、間違いなくさきほど視た家です。
ですが…、
(「で、どうします?」)
(『どうする、と聞かれてもな。儂にはどうすることも出来ぬよ。要はお主次第、ということだ。』)
脳内会議ではさして方針が決まらず、しかしこのままではやはりまずいと言う事で、
「すいませぇ~~~~~ん」
扉の前に立ち、意を決して出来るだけ大きな声を出す。
(自分で言うのもナンなんですけれど、随分と間の抜けた声になってしまった様な気がします。)
扉越しに気配を感じる。
(ああ、良かった。無視されなくて……。)
ガチャ……
扉が開いた。
ピシャッ!
開いた途端に、もの凄い勢いで閉められてしまった。やっぱり亜人は嫌いなのでしょうか?もしくはダークエルフと勘違いされたか、どちらかなのでしょうね。
しかもこんな時間に訪ねたのがいけなかったのだろうか?たぶん、両方なのだろうと当たりをつけて、取り敢えずもう一度。
「ごめんくださぁ~い。」
……哀しいかな、やはり情けない声しか出なかった。
けれど、こんな事で
「今夜一晩だけ泊めて頂けないでしょうか?多少のお礼なら出来ます。お願いですから入れて下さい。おねがいしまぁす!なんか変な人達に追っ掛けられてるんですぅ~!」
(『情けない、あまりにも情けない。』)
(「放っておいて下さい。」)
(『おぬしの母はもっと、こう…、雨に降られてもピシッ…として、気品に溢れておったというのにな。』)
(「私は父さん似なんですよ、人間の方のね。」)
念話でのやり取りは周りに気取られないから傍目には突っ立ているかの様に見える筈なのですけれど、それでもやはり変な目で見られるのでは、と思わなくも無い。
……それにしても、返事ないですねぇ。やはりこのような時分に訪ねたのがいけなかったのでしょうか。
「あ・あのぉ~~~」
やっぱダメか……。
でも最後に……
「すみませぇ~~~~~ん。助けて下さぁ~~~い」
さすがにこれ以上の哀願は自尊心が邪魔をして出来ない。
(『普通はここまでできぬよ。ある種の才能といっても良いのではないか?』)
(「巨大なお世話です」)
などと言う、なんの益体も取りとめもない念話(会話)を交わしていると、
「どうぞ。ごめんね、チョット考え事してたもんだから。上がって、そしたら悪いんだけど風呂場まで行ってくれる?そのままじゃ風邪ひいちゃうでしょ?」
と言って、中の人が再び扉を開いてくれた。
優しそうな顔立ちをした、十六~七歳くらいの女性だった。
しかし、哀しいかな。今の私には暖かな湯殿よりも寝床の方が必要だったりする。さすがに、人の身でないとはいえ雨の中の全力疾走と夜間における祝聖の行使はかなり堪(こた)えた。正直な話、今の今まで意識を保ってこれたのが奇蹟に近いような疲労度だったりする。
しかし…だからと言って礼を欠いて良い言い訳にはならない。
「あ、あのぉ~~」
私はとりあえず自己紹介くらいはすべきだと思い、声をかけた。
が、しかし、私が声をかけると、彼女はビクッと背を震わせて、少々間を空けてから振りむいた。
たぶん、背が震えた事に、本人は気が付いていないのでしょう。エルフの容姿をした私の声にこの反応をしているいであれば、ほぼ間違いなく原因は〝ダークエルフ〟にあるのでしょうから、「可哀そう」とは口が裂けても私からは言えないのですが、それでも思わずにはいられない。この方は一体、どれほどの恐怖を味わったのだろうか、と。
それなのにも
……と、考え事をしているといきなりくるっと彼女が振り向いた。
振り向いた彼女は目を大きく見開いて叫んだ。
「あ!あんた、それどうしたのよ!」
ん?別段のどこか驚かせる様なことをした覚えは無いんですけ……
「その肩の傷…っていうかそのケガの事よ!外套にまで染みてるじゃないの。一体全体どんなヤツ等に追っかけられてきたのよ、アンタ。」
…。殺人を『聖なる儀式』と称して
……ダメだ。こんな事、教えられない。
「…ちょっと、いや、かなりアタマが逝っちゃった人達に、ね。まぁ、そんなトコロです。」
無難な答え…かな?うん。
それにしても…、やはりこのまま匿って貰うわけにはいかないだろう。もしも奴等が家の中にまで入って来たら……私が見つかってしまうだけではなく、彼女の命を危険に晒す事になる。
それだけはなんとしても阻止しなければならない。
誓ったんだ。もう二度と、私のせいで人を泣かせるような…死なせるような事はさせないと。
この誓いは、私の命と引き換えにしてでも守りぬく。絶対に。
(『お主、また益体もないことを考えておるな。大丈夫だて。主が心配するような事には絶対にさせぬよ。この儂の、名と誇りにかけてな。』)
(「助かります。また、どうしようもない考えの迷宮に溺れるところでした。」)
一瞬の念話を終え、現実に意識を戻す。目の前には私を家にいれてくれた女性の背中がある。
肩の痛みは止んでいないし、体力も回復していない。
……これは
まずいですね。
うむ。非常にまずい。けれど……
他に妙案があるわけでもなし。致し方無し、ですか。
けれど…
「どうしたの?」
「……」
「え?よく聞こえないわよ。」
「服、貸してもらえませんか?」
「ん?なんだって?もっと大きな声で言って。
傷に響くの?お風呂止めとく?」
「え?ええ、傷自体は見た目程には酷くはないですよ…痛みは残っていますけどね。それよりも、その……追っては私のことを男だと思っているので…その…貴女の服を貸していただけないでしょうか?自分で言うのもなんなんですが、私、エルフの男の中でもかなりの女顔なので、・・・多分誤魔化せるかと。…いや、ダメならダメで…。」
知りたくも無い事と言うのはあるもので、……というか。
(「ここまで自分で自分の心に傷を付けることの出来る思考ってあったんですね。初めて知りました。知りたくありませんでしたが。」)
(『自業自得だ。その容姿のおかげで命拾いをした事もあったのだから、やたら悲観すべき事でもないだろう。』)
念話。……やはり知りたくなかった。
たぶん、今私は泣きそうな顔をしているのではないだろうか。いや、まぁ、仕方の無い事ではあるのですが。
……。
しばらく(私が煩悶していた時間は含めず)して、
「いいわ。それより早くお風呂に入ってきて。あ、そういえばまだ沸かしてないや。今沸かしに行って来るから、お風呂場に行っててね。あ~…場所は玄関から入ってすぐ左にある部屋だから、行けばわかるよ。じゃっ」
寛大な彼女は私のムチャクチャな頼みごとを(しばしの熟考を経て)聞き入れてくれた。
さて、『風呂場』の位置は…
あ…れ……?
意識が………
『大丈夫か?』
「え・ええ、いえ、今のは少しあぶなかった。
ありがとうございました。おかげでブラックアウトせずに済みました。こんなところで倒れてしまっては私達を家に入れてくれた彼女に迷惑をかけてしまいますからね。もっとも、私達がここでこうしているだけで、彼女にとっては迷惑以外のナニモノでもないのでしょうけれど。」
『まったくだのぅ。明日の朝にはここを出て元の宿へ帰らねばな。』
「ええ。でなければ、神忌の下っ端なんぞ話にならないほどの恐怖を見ることになるでしょうね、私達は。真に恐ろしいかぎりですが。」
『同感だ。』
●S4/鈴之宮白雪 宅
ドサッ
あたしが風呂場の外の湯焚き場について炉に薪をくべ始めた直後、突如としてその音は壁越しに(たぶん脱衣場あたりから)響いた。
「な・・・なんの音だろう?って、まさかアイツっ!!
あたしの前だけ強がってみせて、本当はボロボロだってんじゃないでしょうね!?」
ついつい、口から言葉が漏れる。
本当はエルフなんて大っ嫌いなはずなのに。
そうして言葉を紡いでしまっている今この瞬間、体は家の壁を周って玄関に入り、脱衣場まで来てしまっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、………。」
そして
「すぅ~…すぅ~…。」
寝てる。
寝ていやがる。
「あ・あたしがこんなに心配してたのに……
何?なんなのこいつ。え…エルフのっ
エルフのくせしてっ!なんでッ
なんでこんなにッ
幸せそうな顔して
眠ってんのよっ!?」
「っ……。」
どうして…。
「どうしてこんなにっ、あたしは…こんなに辛いめにあったっていうのに。コイツも…所詮は……だめ、こんな事、いっちゃあ……。」
こいつのこの、幸せそうな寝顔を見てたら自分の事が醜く見えてしかたがない。
「バカみたいね、こんな風に人の寝顔を見て、泣いたり怒ったりして。
…あ・れ?
コイツが寝ちゃったら…あたしがコイツを着替えさせなきゃいけないの?起こすのも……なんか悪いし。」
―――――――――――――。
そしてそれから数時間後、彼女の家を怪しげな外套姿の男達が訪ねた。
エルフの彼は、とうとう見つからなかった。
ええ、まぁ、こう。
文章がアレだったり書いてある中身にどこかしらで見覚えがあるのはこれを書いた私はその当時中学生だったからです。
ライトノベルってヤツに初めて触れた、そんなような時期だったのです。
ていうか、やべぇ、結構破壊力がある。
中二病もくそもない。何せリアル中学生文章。
病も何もあった物じゃないっす。
特に展開の仕方がやばいかもしれない。
えっと、一応改訂版ではS1~S4は相当に手を入れるつもりです。
このまんまでは敵が弱すぎて話にならない上に「どこの勢力なんだよお前らは!」という突込みに私自身が耐えられません。
まぁ、前章で出てきた濃いのがここで言うところの「忌神」の皆様方なのですが、綺麗サッパリ跡形もなく変更します。…というか変更しました。
頑張って速くここまで進めたいです。
よろしくです。
空行とか色々改訂中です。
縦書き仕様をそのまんまコピペしただけなので読み辛さMAXなんじゃないかと。
時間があまり取れない状態なので時間はかかりますが、ちまちまやってきます。