未改訂版 Dark & Light Blues 作:沖田十三郎
幕間/喜悲劇、もしくは哀嘉
……。
気配はもうどうしようもないくらいに近付いていた。
一歩、
二歩、
三歩、
終った。
「私は今までも結構な数の死線をくぐって来たのですけれど、ここまで身動きの取れない状態でのチェックメイトは初めてかもしれません。」
『……、だが、死ぬわけではない。それどころか状況的には真逆だろう?』
「ええ。ありがたくもあり、恐ろしくもあるって感じです。」
『ふん。』
それきり、会話はなくなった。この世でこの二人が最も恐れているのは叢雲命姫織だが、それと同じくらいに尊敬もしているのだ。
●S10/帰宅途中
「そーいえばレーチ、アンタさっきっからずっと黙っているようだけど。どうかしたのかい?」
ん?そういえば、あの(、、)レーティイが沈黙してる。しかも真剣な顔をして。本当の素顔をしている。どうしたんだろう。
「ん、ああ。いや、な。そのエルフ…リンっていったか。そいつ、すっげぇ可哀想な奴だなと思ってさ。こんな(・・・)俺でも、いや、こんな俺だからこそ、かな。考え込んじまったというわけさ。」
ミルの質問に答えるその貌は、学校や普段の生活の中では絶対に見せない本当の素顔だった。
「可哀相?」
「ああ。だってさ、そいつは自分を育ててくれた親を殺されて、尚且つ、ソイツ…その親の仇の子供だって、後ろ指を差され続けなきゃ行けないんだぜ。ただでさえ親殺されてショックだってのに。たぶん俺だったら耐えられない。ココロが折れちまうよ。自分だって憎くて憎くてしかたがない筈なのに、周りからはソイツの子供だって言われ続けるんだぜ。軽く…いや、かなりの悪夢だろうな。しかも、その悪夢は絶対に醒めないんだ。最悪の気分だろうな。想像するだけで吐き気がするよ。」
レーティイの言葉は、重かった。
あの時、あたしにいわれた言葉で、アイツは傷ついたのだろうか?少し、後悔した。
そして、私たちはその後終始無言のまま歩き続けた。
そして家に着いた。沈黙を払拭するかのように、玄関前に立って大きな声で叫んだ。
「たっだいまぁー!!
アンタにお客さんだよー。」
叫びながら、扉を開けた。
が、返事がなかった。
けれど、その代わりに良い匂いが漂ってきた。
「いい匂い!」
「旨そうな匂いだな。何か作ってんのか?」
「さあ?」
「あやつめ、こんな物で儂等を誤魔化すつりか。……だが、いい匂いをさせておるな。」
と、口々に感想を洩らしていると、
「おかえりなさい。」
ややあってあのエルフが出てきた。
……なんというか、目が死んでいた。
そして唐突に、物凄い勢いで、土下座した。
「えっと、申し訳ありませんでした!昨晩は何の連絡も入れず夜を明かし、あまつさえ夜が明けても帰らず、家事に没頭してしまいました事、本当に申し訳なく思います。どうか、どうかこの下賎(げせん)なる私(わたくし)めに寛大なるご処分の程を宜しくお願い仕(つかまつ)りまする。」
そして、間違ってもダークエルフには見えないような謙遜した言い方で平謝りした。(もちろんエルフにも見えないし、今時こんな畏(かしこ)まった謝り方をすることもない。)
「ほう、それで?主のことを許せと、そう言うのだな。
この儂に。」
どうやら、リン(アイツ)は姫さんに頭が上がらないらしい。けど…半分とは言え、ダークエルフの血を引いているヤツが許しを請わなければならない姫さんって、一体何者!?
で、隣をみて見ると、
「「どーなってんの?」」
声を揃えて聞いてくる。もちろん
「あたしだって知らない。」
のだった。
S11/そして……
そしてまた、時間は少しだけ飛んで、4人で夕食を食べている。
作ったのはリンだ。さっき財布とかが入ってる引き出しを見たら1L(ルシル)たりとも減っていなかったので、材料費は自腹を切ったのだろう。
そして、その腕前は……
「う・旨い!!!」
レーティイは数分前にそう言ったっきり顔も上げずに食べ続けていて、ミルも
「おいしい!」
と大絶賛した程だ。もちろん、あたしも同意見。
姫さんは、さもそれが当然とばかりに黙ってスープを啜(すす)っている。
作った当人はといえば、姫さんに「根性叩き直してやる」と言われて三十分ほど外でなにやらやってきた後、「きゅう~~」という変な声を上げて倒れてしまっている。
というか眠っている。
あー見えて、実は結構神経が図太いのだろう。
●S12/鈴之宮 宅
さて、なにやら和んでしまった感はあるが、ここは事情の一つも説明してやらねば不義理と言うものだろうのう。
どうせ、リン(こやつ)のことだ。助けてもらっておいて何も言わずに済むような状況を作り出す、などという気の利いたことは出来ていないのであろうからのう。それに、道中の話を見るに話さずとも済むようなところまで自己紹介してしまっているらしいしのぅ。まったく、難儀な性格だ。
「ふむ、さて、一段落吐いたところで本題に入るとするか。主、確か白雪殿であったか。リン(こやつ)からはどの辺りまで聞いている?どうやら此奴(こやつ)が 〝魔王〟の子である事までは聞いているようだが…。」
「え・ええ、朝ちょこっと(・・・・・)だけ話合いまして。」
●S13/同宅
「で、シロはどこらへんまで話してもらったんだい?そこのエルフに。」
ミルの声が虚空に響く。
「そいつが〝魔王〟の息子で、混血(ダンピール)で、父親を憎んでて、魔法遣いに育てられて、仇討ちがしたいってコト。それだけ。」
私の声は空虚に響く。
「で?お前はどうしたいんだ?」
レーティイの言葉が旋律を刻む。
「ほう、滅多に自分の素性を話さぬ此奴がそれ(・・)を語ったか。嘘ではないが、全てでもないな。」
姫織の言葉は戦慄を綴(つづ)る。
そして、
「リン、良いのか?」
起きだしたリンはそれを聞いて
「ええ、その方になら話しても平気だと思われます。…その瞳を持つ彼女を友と呼ぶ彼女と彼にもまた、話しても平気だと思われます。」
リンの口から了承の声が挙がる。
「さて、それでは何から話そうか。此奴の素性は知っておるようなのでな。儂等の属しておる部隊『狩人』について説明しておこうか。」
彼女の言葉が虚実の世界を破壊する。
「ん?狩人……?『狩人』って、あの『狩人』ですか!?だって…あの部隊って確か、惡魔全般を殺戮する為に設立された部隊じゃないですか。あんな有名なところの所属だったんですか?っていうか、リンさん苛められなかったんですか?」
ミルが驚いたよな、納得したような変な声で言った。
あ~…学校でそんなようなコトをやったような、やらなかったような?
「そうだの。確かに苛められておるのう。というか、避けられているだけとも言えるが。リンは同族殺しを…あまりしたがらぬからの。だが、そんな事ばかりも言っておれぬでな。リンはの、奴等の『戦う為の力』を殺すことで皆に認められようとしたんだよ。例えば魔法、例えば意思、例えば膂力(りょりょく)といった感じでな。だから、詭弁かもしれんが命は奪っておらんのだ。まぁ、そのせいで此奴の仲間内での孤立は一層激しくなってしまっておるのだがな。ただでさえ〝魔王〟の血縁者という事で煙たがられておるというのにの。」
一呼吸で、姫さんは言った。まるでわが子を誇るかのように。
「へぇ頑張ってんだな、ソイツ。内外全面敵だらけだってのに。それで?魔王の血縁とか言う事で危険視されて、お前に監視されてんのか?」
レーティイが氷のような瞳で姫さんを見据える。
「ほぅ、察しが良いのぅ。確かに儂は此奴を監視する為にそばにいる。だがな、これは此奴から頼んできた事であって、誰かにそうしろと言われてそうしているわけではない。『自分を完全に制御出来る自身がない』とな。」
「へぇ~、けどダークエルフの力をたった一人で止められるんですか?」
前の二人とは打って変わって軽い声。うぅ~情けない。
「ふむ。良い質問じゃな。儂と、あともう一人いる。」
先ほどまでのシリアスな雰囲気から一変、姫さんがやたらニタニタした笑みを浮かべて言った。
「……あの、大将?言わなくてもいいことは言わなくてもいいんですからね?」
「此奴の女も儂と同じ任に就いておる。今は別行動をしているが、もう少しで合流できるはずじゃ。」
「……女?」
「へぇ~、やるじゃん。」
「……『狩人』の人って、みんな惡魔を憎んでるんじゃ?」
「そうだのぉ。まぁ、此奴が惡魔かと問われれば、ある意味甚だ疑問ではあるのだがな。」
「…まぁ確かに。けど、幸せでしょうね、その人。料理うまいし。」
と、言葉を終えて(リンが真っ赤になって俯(うつむ)いて)間もなく・・・
「リっン~~~~~~~~~」
頭の上から声が降ってきた。
声の頃は十代後半。良く言えばまだティーン
エイジャーの色を失っていない、悪く言えば子供のような、そんな声色だった。
それが何もない空間から突然聞こえてきた。
「な・なに!?」
「ん?」
「んん??」
「はぁ、随分とタイミングがいいですね。謀(はか)りましたか、大将?」
「……いや、別に。」
当然のように三人の一般人は疑問符を頭の上に浮かべ(うち二人はすぐに笑いだしたが)、リンは諦めたように嘆息し、姫織は実に楽しそうな笑みを口元に浮かべている。
《『あ・あれれっ?実体化が?んん?「あぁ、この式のせいだ!「ほら直ったよ!「よっこら、せっぇっと!!』》
断続的に声が振りまかれ、五人の頭上に人影が現れ始めた。
「え?なに、なんなの!?」
と、白雪がパニックを起こしかけた瞬間、
「『流転の才媛』( ファラリス )発動っ!!見つけたよっ、リンッ!」
という声と共に、年の頃は二十代前半に見える女性がいきなり食卓の脇、つまりはリンの真上に現れ、ガバリッ、と抱きつき抱き締め喜びを表現するためか、背中を震わせた。
「りぃ~~~~ん~~~~~~~~~。リンリンリンリンリ~ン」
喜びの声……というより咆哮に近い勢いでまくしたてて、空中から現れた彼女―――リリアーヌ=プリテンシアはリンの首筋に頬ずりをして、直後
「…で、あそこの彼女は誰かしら?」
と言って笑った。
♢ ♢ ♢
………と、それから数十分後。(数十分の間リリアーヌはリンに抱きついて離れず姫織の言葉に耳も傾けなかった)
「さて、と。この女が先ほど話していたもう一人だ。リリア、こちらはそのリン(阿呆)の命の恩人だ。粗相のないようにの。」
呆れた声色を隠そうともせずに、卓袱台の脇でいちゃついているリンとリリアに向け、ジト眼で姫織は言った。
それ聞いてリリアは不思議そうに首を傾(かし)げながら
「ふーん。イノチノオンジン?貴女が?貴女の瞳はそんなにも穢れているのに?亜人に対して、しかもエルフだかダークエルフだか分からない相手に対して慈悲をかけたの?理解不能な脳内構造をしているのね。一体どんな目算があったのかしら?」
姫織の言葉を聞いた直後、翡翠色だったリリアの瞳が臙脂色に変色し、懐疑の色も顕わにして白雪を睨んだ。
「大体、貴女も私達と対して立場が違うわけではないでしょう?憎しみのココロを良心の陰に隠しているだけで、貴女の瞳は醜い憎しみの色に彩られている。」
「ちょ・ちょっと、何をやぶからぼうにっ、いくらアンタの彼氏を一日預かったからって・・・」
「ん?何か勘違いしているようね、鈴之宮白雪さん?私は、リンが誰の庇護下にあったって構わないわよ。無事に私のトコロに帰って来てさえくれればね。けどね、魔王に恨みを持っている人間(ヤツ)のトコロだけは別。いつ寝首をかかれてもおかしくないような相手のところに私のリンは預けられない。私にとって魔王は仇だけれど、リンは私にとって私とリン以外の全ての命と引き換えにしてもいいくらい大切な人なの。おいそれと殺される可能性があるところに行かせたくはないのよ。わかるしから、小娘ちゃん(リトルフロイライン)?彼の事を守ってくれたことに対しては素直に感謝しているけれど、それは貴女の事を信用する判断材料なんかになりはしないのよ。」
冷笑ともとれるような笑みを浮かべそう言った直後、
「けど、実際んとこ、あたしは貴女に感謝しているわ。
だって、貴女のおかげでリンは死なずに済んだんだもの。感謝しないわけがない。信用も信頼もしてないけど、それでも、その行動は褒められてしかるべきものよ。誇りなさい。あたしはもう一歩二歩どころじゃないくらいに踏み外しちゃってるけどさ、貴女はまだ大丈夫。傷ついている彼を救ってあげられるくらい、貴女の魂はまだ穢れてはいない。瞳の濁りもあと10年もすれば消えてなくなるわよ。あたしが保証してあげる。」
先ほどまでの暗く冷たい雰囲気はどこへ行ったのか、翡翠色の瞳を笑みの形に歪め、にへら、というような笑みを口元に浮かべてリンの肩に顔を乗せて笑いながら言った。
…と、
「…どうでもいい事かもしれませんが、そろそろ降りていただけませんか?膝が痛いんですけど。」
リリアの背に手をまわし髪を優しく撫でていたリンが少々つらそうに言った。
「あははっ、ごめんねっ?」
●S14/カルテネイラ渓谷深部・ばるばる村跡にて
「あ~りゃりゃ。こりゃあひでぇ。最悪だぁな。どういう神経してっと、こういう殺し方(マネ)ができるようになるんだ?うちのリンを見習ってほしいモンだ。 なぁ、お前もそう思うだろ?ミレーネ。」
鮮やかな赤髪をツンツンと逆立て、血のような臙脂(えんじ)の外装を纏った男――ハルス・L(レイ)・ザールブルグが、獣のような目つきで言った。
「まったく以て同意見です。あの半端者を認めるのは癪ですが、あの男はあの男で守るべき〝筋〟というモノを守っていますからね。それに比べれば、なんと意志の薄い殺し方(仕事)をするのでしょう。情けないやら憤るやら、不思議な感覚です。」
と、感情を押し殺した声で、無感情無感動無表情の鉄仮面を被った女―――ミレーネ・F(ファラリス)・ クルセイダーは言った。
彼等彼女等二人が辺りを見回すと、想像していたよりも遥か遠くまで筆舌に尽くし難い惨状が続いている。密集して建てられていたであろう建築物の数々はみな一様に逆立っており、井戸は完全に破壊され、死体は見るも無残な状態になっている。
辺り一面は血の海と化しており、内臓と思しき肉片や腕や脚、頭部などがパーツパーツで分断され、散乱している。
一歩一歩踏み出すたびに足元からはピチャッピチャッという嫌な音が響く。
「っんとに、嫌気がさすぜ。足元一面さっきっからずっと血道だぜ?ありえねぇよ、本ッ当に。」
ハルスは嫌悪の色も顕わにぼやいた。
今度はミレーネが反応しなかった。
「……それにしても、だ。ったく、ホントに運がないぜ、俺ぁよ。なぁにが哀しくててめぇなんざとこんな遠方まで来にゃあならんのだ。」
「それは私のセリフです。私も、貴殿(アナタ)と行動を共にするくらいなら、血統以外に何の問題もない紳士であるあの半端者と組まされた方がよほど幸運と思えたことでしょう。 まぁ、そんな事はリリアが絶対に許さなかったでしょうけど。けれどまあ、理由は簡単ですよ、ハルス『我等が主』の〝右腕〟よ。ここには『塔』がありますからね。あそこの中に入る資格と鍵が必要ですから。その両方を持ち合わせているのは今のところ、〝狩人〟では私と貴殿、そしてルルハ嬢と半端者、そして大将だけですから。」
表情筋を動かさず、前を見据え、彼女は言った。
「へいへい、そうでござんしたね。 んで、実際問題としてどうするよ?俺としちゃあ今は『塔』なんかよりも惨場(ここ)を演出(作り)あげてくれやがったクソ野郎を探し出してメッタメタにしてやりてぇんだが。 それによ、『塔』(あんなモノ)旧世界の遺物だぜ?今更誰に利用できるっていうんだ。知ってるとは思うが、人間があれを動かすことは不可能だし、魔法が使える奴らが動かすことも不可能だし、何よりも悪意を持っているやつらに動かす事も不可能だ。俺達だって内部(ナカ)に入る事はできても演奏する(動かす)資格は持ってねぇんだ。確かめに行く意味なんかねぇだろうが。」
「それでも、大将は見て来てくれ、と仰られました。貴方は彼女が殊真面目な事象に関する事において的外れな発言をしたのを聞いた事がありますか?」
「東洋の主食の一つにミソスープってのがある事はお前も知っていると思うが、大将はソルト(塩)とシュガー(砂糖)を間違えて指示してたぜ。リンの奴が顔色を真っ青にしてたのを覚えてるぜ?」
「それは真面目な事といっても種類が違います。それに、この道の先にある物は…」
「っけ。わぁ~ったよ。行くよ。行きますよ。行かせていただこーじゃねーか。ったく。 ただよ、『鉄の侯爵(ハーロック)』と『地獄の聖母騎士』( ヘル・マザリア )はなんか言ってたか?この先にある…はあいつ等の庭みたいなもんだからな。」
言葉を濁すミレーネに対し、だんだん面倒そうな空気を濃密なものに変えていくハルス。
「…つってもまぁ、行くにせよ行かざるにせよ、俺達の周りをうろついてる下級鬼(こいつら)をけちらさにゃあどうにもならねぇんだが。」
「ええ、分かっていますよ。不愉快ではありますが・・・片づけなければ前に進むこともできそうにありませんからね。まったくもって不愉快です。」
言いつつ、二人は腰かけていた家屋の残骸―――なれの果てから腰をあげ、
「闘将覇軍・神腕の穿鑓(せんそう)ハルス・L・ザールブルグ参る。」
「闘将破軍・神炎の業鎩(ごうけん)ミレーネ・F・クルセイダー推(お)して参る。」
発破をかけるように、二人は怒声を上げて下級鬼の大軍に向かって突っ込み、虚空を薙いだ(・・・・・・)。
それら(、、、)は包んでいたベールがほどけるようにして現れ、彼と彼女の手には元よりそこに在ったかのように、彼と彼女は己の手に獲物を掴んでいた。
ハルスが握るは蒼と緋が螺旋の様に組み合わさった紋様が浮かぶ諸刃の鑓(やり)。
ミレーネの左手にあるは青銀色の直刀、右手にあるは血装色の曲刀。
二人はまるで申し合わせたかのような絶妙の間合いを以て踊り周った。その瞬間は乱舞と表す他ない。それほどの鮮やかさで、一方的な乱戦が小一時間続いた。
♢ ♢ ♢
「ったく、やぁ~っと消えやがったか。……なんか、今回の奴ら、いつもよか統制取れてなかったか?」
鑓を肩に担ぎあげ、ハルスは訝(いぶか)しげな表情で道の向こうを睨みながら呟いた。
「ええ。確かに。いつになく彼らの動きに隙がなかった。まるで、予定通り順当に、私と貴方を足止めできた、みたいな。」
「辛いな。 ここから先に何が有るのか、もしくは無いのか、どっちにした処で、これであいつ等の未来の一角は決まったようなもんだ。」
「私達は、どうなりましょうね?」
「礎になるのだろうさ。俺はそれを躊躇(ためら)わねぇし、もしもあいつ(古主神)がそれを止めようとするなら、俺は右腕(コイツ)を切り落とすぜ? お前はどうするンだ?相棒(・・)。」
「自分より年若い者が苦しむ様を見る事を自らに許す事が出来るほど、私の魂は落魄(おちぶ)れてはいません。 嘗(な)めないで頂きたいものですね。」
「っけ。んじゃあ、行くとすっか。死地にならねぇように退路をカクホしながら、だっけか?面倒臭せぇ限りだ。」
ハルスは心底からだるそうな表情で、ミレーネはやはり無表情のままで、血河(けっせん)と化した道をチャプチャプと音を立てながら歩き始めた。
この事が後々の戦いにおいて大きな意味を持つ事になるのだが、その事を現時点で予感していたのは『狩人』の総大将・叢雲命姫織と流神・ラピス=グーテンベルグの両名のみであった。
キリが良いのでこの辺りで。
改訂版ではここまでが第一章扱い。
未改訂版では第一部の中で長編一個分を一章扱いにしてるので章の中身が長くて長くて…
と、言いつつ一回分を大体1万字前後にしてるので一回分はそれほどの量でもない、かな。