呪われたコールサイン・G13   作:山葵左門

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Mission5 ライガーテイル防衛

G13 マース!

緊急事態だ!

基地移転に伴い、輸送中のライガーテイルをアーキバスのヴェスパーが襲撃している!

ミシガン総長は急遽、ベイラム本社に呼ばれて不在だ。恐らくその情報を掴んだアーキバスが襲撃を仕掛けに来たのだろう。

現在はナイル副長が交戦しているそうだが、苦戦を強いられているらしい。

今すぐ援護が必要だ。

 

早急に準備を始めろ、俺も出撃する!

 

   *  *  *

 

アーキバスのヴェスパー部隊だと⁉

ミシガン総長の留守を狙うとは狡い奴らだ。

シミュレータ以外でACとやり合うのは初めてだが、やるしかねえ。

勝って、このコールサインG13をヴェスパーに刻んでやる!

 

   *  *  *

 

 G2 ナイルは敵機の機動力に翻弄されていた。戦闘データはない機体だが、実力は相当なものであると窺える。

 

「流石にヴェスパーというだけはある。だが……」

 

 ミサイルのロックが全て完了した。ナイルのAC・ディープダウンはミサイル攻撃を重視した重量二脚である。ハンドミサイルにアクティブホーミングミサイル、おまけに十二連装のバーティカルミサイルを装備していた。どんな高機動型ACだろうと逃れることは出来ない。ミサイルカーニバルとでも言うように、一斉にそれらが射出される。

 

「レッドガンの副長ナイル……やはり一筋縄ではいかないか」

 

 対峙しているヴェスパーのACは、青い機体を揺らめかせながら右手のバーストマシンガンと左手のレーザースライサーでミサイルを撃ち落としていく。だが、ナイルにとってはそれも織り込み済みである。ナイルの左手に装備されているリニアライフルが火を吹いた。

 

「そこだ!」

 

 ナイルの射撃は青い機体の表面を掠める。とっさにクイックブーストで避けなければ確実に直撃していた一撃だ。

 

「やれやれ、随分としんどい戦いになりそうだ」

 

 ヴェスパーの第四隊長ラスティは、困ったようにため息を吐いた。スネイルの指示で向かってみれば、ナイルの出迎えが待っていたのだ。

 

「大した護衛はいないとのことだったが……情報が間違っていたのか、それとも」

 

 ラスティは遠距離戦を不利と考え、接近しようとするがミサイルの弾幕に阻まれる。おまけにナイルの周りにはベイラム所属の二脚MTも蔓延っていた。近づこうものなら集中砲火は必至である。加えてこうしているうちに、ライガーテイルを乗せた車両が遠くへ離れていく。無理に追えば背中から撃たれるだろう。ラスティは立ち往生するしかなかった。

 

「ただの蛮行だったな、ヴェスパー。ライガーテイルは落とさせん。増援も時期につく頃だ、諦めて投降するなら今のうちだぞ」

 

「ああ、やはり私ひとりでは難しかったようだ」

 

 だが、ラスティに慌てた様子はなかった。ラスティにとってはナイルを釘付けにしておくことの方が重要だったのだ。

 

「君の提案通り保険をかけておいて、良かったよ。オキーフ」

 

   *  *  *

 

「レーダに反応! 車両の真上……所属不明ACです!」

 

「なに⁉」

 

 ライガーテイルを乗せた車両を運転するベイラム社員は、背中から冷や汗が溢れ出るのを感じた。敵のACはナイルが止めているはずである。となれば、二機目のヴェスパーということになる。現在車両は二脚MTに四機に守られているが、それで安心する運転手ではなかった。まさに死を覚悟する。

 

「ポトマックさん!ライガーテイルは運転できないんですか!」

 

「移動するだけならともかく、戦闘は無理だな」

 

 運転手はライガーテイル専属の整備員であるポトマックに無線で呼びかけるが、素っ気ない返事をされる。

 

「ならどうすれば……このままじゃ」

 

 その瞬間、何かが降ってきた。コンテナ……だろうか。

 

「伏せろ!」

 

 MT乗り達が叫んだ。コンテナの中には大量のマイクロミサイルが敷き詰められていたのである。合計18発ものミサイルが地上に降り注ぐ。二脚MTは一瞬で全滅した。護衛車両にもミサイルが当たり、衝撃が走る。AC輸送のため、ある程度頑丈に作られているとはいえ、限度はある。一撃で車両の屋根が崩れ落ちてしまった。ライガーテイルがむき出しになる。

 

「後部車両を切り離せ!」

 

 ポトマックが無線で叫んだ。しかし、後部車両にはまだポトマックを含めた作業員が残っている。

 

「でもポトマックさんたちは⁉」

 

「言っただろう、移動は出来ると。生憎と総長から頼まれてるんでね、簡単に諦めるわけにはいかんのだよ」

 

 作業員は攻撃を受けてもなお、ライガーテイルの発進準備を整えていた。搭乗者はポトマックである。

 

「増援までの時間稼ぎぐらいはしてみせる」

 

  *  *  *

 

 ライガーテイルの頭上では、ヴェスパーの第三隊長オキーフがホバリングしながら狙いを定めていた。

 

「ライガーテイルが動いている? いや、ミシガンではないな」

 

 オキーフのAC・バレンフラワーは四脚の機体で、空中戦を得意している。冷静に敵をロックすると、左肩に装備しているプラズマミサイルを掃射した。高い誘導性を持つプラズマミサイルは逃げるだけのライガーテイルに追従し、爆発を引き起こす。紫色のプラズマが周囲に迸った。

 

「このまま破壊させてもらおうか」

 

 オキーフは上空に浮いたまま、腕に装備されたバーストライフルとプラズマライフルで追撃を行う。バレンフラワーのFCSは決して高性能な代物ではなかったが、オキーフの腕をもってすれば関係ない。正確な射撃でライガーテイルを追い詰めていく。

 

「固いな……だが、そろそろ――」

 

 限界のはず……オキーフがそう考えたときである。

 

「反撃といこうか!」

 

 突如、オキーフのコックピット内に警告音が鳴り響く。背後からバズーカの攻撃である。オキーフはクイックブーストを使い退避するが、お次とばかりにミサイルが飛んできた。オキーフは慌てることなく重力に身を任せ、バレンフラワーを落下させる。ミサイルは急激な落下に追従できず、オキーフの頭上を過ぎ去った。そのまま地面に着地すると、目の前には二機のACが迫っている。

 

「G6 レッドと……G13か?」

 

 オキーフはレッドとマースを見据えた。

 

「気を付けろ、どうやら奴はV.III(ヴェスパー・スリー)だ」

 

「V.III……! ヴェスパー上位か!」

 

 マースは息をのんだ。敵は強いが、仮に撃破することが出来れば大金星である。初AC撃破としては悪くない功績だ。マースは勇んで前に出ようとする。だが、レッドが制止させた。

 

「貴様は後方支援だ。俺の援護に回れ」

 

 レッドは静かに告げた。その声色からは緊張が読み取れる。

 

「いや、今の機体構成は近距離戦向けで――」

 

「貴様では無理だ」

 

 レッドの淡々とした喋りがマースをクールダウンさせる。レッドのAC操縦技術はお世辞にも優れているとは言えない。マースと同程度だろう。だが、少なくとも戦闘経験ではマースより勝っていた。恐らく敵は相当のやり手なのだろう。マースの身体が少しだけ震えた。

 

「命が惜しいならやめておけ。狙いはライガーテイルのみだ。レッドガンの殲滅は作戦に含まれてはいない」

 

 どこか陰のある声が響く。当然だが、今逃げ帰るつもりなら最初から増援になど行きはしない。

 

「まるでいつでも殲滅できるような口ぶりだな。こっちはAC二機なんだぜ?」

 

「……」

 

 マースが話しかけると、オキーフは黙って上昇を始める。交戦開始の合図と受け取ったのだろう。

 レッドはすぐに攻撃を開始した。右手のハンドガンで敵を攻め立てる。マースも続いて、マシンガンとガトリングキャノンを放つ。

 

「こいつ、フワフワと飛びやがって!」

 

 ホバリングを使い巧みに避けるオキーフ。左右への移動が速く、ロックが微妙に追いつかない。

 その隙にオキーフはコンテナミサイルを撃った。コンテナに敷き詰められたマイクロミサイルが、レッドとマースを襲い、ACの装甲にダメージを与えていく。

 レッドも負けじとスプリットミサイルを放った。8つに分裂するミサイルがオキーフを襲い、その内のいくつか命中する。

 

「なるほどな、まずはこちらを仕留めるとしようか」

 

 オキーフはレッドに狙いを定めると、バーストライフルとプラズマライフルで集中攻撃を始めた。各個撃破していくつもりらしい。マースもガトリングキャノンで応戦するが、バレンフラワーの装甲に阻まれ、跳弾してしまう。有効射程距離に入っていないのである。だが、近づこうとしても、高度を上げ、引き撃ちされる。マースのジェネレータでは出力が足りず、オキーフのホバリングに追いつくことが出来ない。

 

「クソッ、完全にこっちの射程距離を見切っていやがるっ!」

 

 マースは思わず叫んだ。その間にもレッドは攻撃を受ける。

 

「ここまでか……!」

 

 レッドの悲痛な声が聞こえた。機体の損傷が激しく、どうやら殆どの機能が麻痺したらしい。

 

「クソッ、こんなの……どうすればいいんだ⁉」

 

 マースは射程外から一方的に攻撃を受け、苛立つがどうにもできない。

 

「マース、バズーカだ! 俺の武装を使え!」

 

 レッドのAC・ハーミットは最後の力を振り絞り、バズーカをパージしてマースに渡した。マースも右腕のマシンガンと右肩のガトリングキャノンを捨て、バズーカに切り替える。これで射程の問題は改善された。

 だが、バズーカをオキーフに当てるだけの隙が見当たらない。ただ撃つだけではクイックブーストで回避されてしまう。それに対してオキーフはプラズマミサイルで確実にこちらへ攻撃を当ててくる。

 

「何か、何か隙さえあれば……」

 

 その時である。オキーフに向かって有らぬ方向からグレネードが二発、飛んでくる。あれは――ライガーテイルである。命中こそしないが、ポトマックは何とかグレネードの照準をオキーフへと向けていた。オキーフに一瞬だけ隙が出来る。マースのバズーカが炸裂した。

 

「ただでは死なないか」

 

 バズーカはバレンフラワーの前脚に当たった。ホバリングしていたACが大きくバランスを崩し、地面へと急降下する。

 絶好のチャンスである。マースはパルスブレードを構えて突撃した。

 

「若いな。死に急ぐこともないだろうに」

 

 マースの突進に合わせて、オキーフの左手が紫色に光りだす。左手の武装であるプラズマライフルから三本の弾が同時に発射された。落下している間にプラズマライフルをチャージしていたようである。回避は不可能だった。マースの機体がプラズマの爆発に晒される。クレイフィッシュの装甲が悲鳴をあげていた。しかし、なおも無視してマースは突っ込む。

 光が舞った。パルスブレードがオキーフの機体を袈裟斬りにする。

 

「浅いか⁉」

 

 だが、オキーフの機体は倒れない。装甲の表面を少し掠めただけである。オキーフはすぐさまバランスを立て直し、バーストライフルでマースを牽制した。

 マースは更なる追撃を仕掛けようとバズーカを構えるが、機体が急に停止する。

 

「ACS負荷限界……⁉」

 

 クレイフィッシュが操作を受け付けない。オキーフはプラズマライフルも放ち、一気にマースを仕留めにかかる。

 今までのダメージもあった所為だろうか。

 ほんの十数秒の攻撃でマースの機体は限界を迎えた。

 

「こんな、あっさりと……」

 

 マースは思わず呟く。限界を迎え、爆発寸前となったクレイフィッシュを前に、オキーフはプラズマライフルを構えた。引き金を引かれた瞬間……マースは死ぬ。

 再びG13の噂が脳裏にちらつく。冗談じゃなかった。折角生き残ったのに、ACの一機も倒せず、簡単に死んではネマンに顔向けできない。

 マースは叫んだ。どうにかクレイフィッシュを動かそうとする。

 

「うおおおおおっ!」

 

 だが、現実は非情だった。限界に達したクレイフィッシュは指先ひとつ動かせない。背景がスローモーションになっていく。オキーフのライフルがまさに火を吹く、その直前だった。

 

「おやおや、これは吉兆か」

 

 回線に聞き馴染みのある声が入った。オキーフが停止する。

 

「G6 レッド、G13 マース……時間稼ぎご苦労でした」

 

 カメラを見れば、四脚ACと大量の二脚MTを乗せた輸送機がライガーテイルを守るように集まっていた。

 

「あとはこの五花海が、お相手しましょう」

 

 G3 五花海。四脚AC・鯉龍(リーロン)を操るレッドガンの三番手である。ACの実力としてはG5 イグアスに劣るが、実業家としての顔を持つ珍しい人物だった。

 

「V.IIIの首級に加え、ミシガン総長にナイル副長、あの二人に恩を売れるとは……やはり吉兆です」

 

  五花海は嬉しそうに告げると、左手に構えたスプリットハンドミサイルを放つ。分裂したミサイルが囲みこむように、オキーフを襲った。

 

「おや、ブースターが損傷していますね。結構、結構。随分とツキが回ったものです」

 

 マースが放ったバズーカの一撃で、オキーフの機体はややバランスが崩れていた。ホバリングするも安定していない。

 オキーフは牽制するようにコンテナミサイルを発射した。

 

「G3が相手か……潮時だな。充分ライガーテイルにダメージは与えた。ラスティ、撤退するぞ」

 

 オキーフはそのままブースターを吹かし撤退を始める。五花海はコンテナから出てくるマイクロミサイルをライガーテイルに当たらないようパルスシールドでガードしていた。ホバリングを使った巧みな操作だ。しかし、その隙にオキーフは車両から離れ、逃げていく。

 五花海は特に慌てる様子もなく、撤退するオキーフを見送った。追撃もする様子もない。オキーフがいなくなったことでマースは安堵するが、逃がしたのは釈然としなかった。五花海に尋ねる。

 

「五花海……さん、追わないんですか。撃墜できたかもしれないのに」

 

「手負いの獅子は追うものではありません。引いてもらえるならそれで結構。ライガーテイルは守れました、成果は十分でしょう」

 

 五花海は冷静に告げる。あのまま無理に追撃し、捨て鉢な攻撃でライガーテイルを狙われでもしたらそちらの方が問題だった。五花海はリスクとリターンを弁えていた。

 

「しかし、随分とやられたものですね」

 

 レッドとマースの機体を見て、五花海が呟く。今回もまた、死に掛けた。あと一歩、五花海の到着が遅ければマースは死んでいただろう。

 自分の弱さが情けなかった。このままではいつまた死を覚悟するか分からない。ただでさえ、G13なんて番号なのだ。

 

「強くならねえと……」

 

 マースは徹底的に戦闘技術を強化することに決めたのだった。

 

 

Mission5 complete

 

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