星達のオーケストラ~双星のセレナーデ~   作:NiwaNiwa

11 / 13
第9話 アッチェレランド・セレナーデ

 時は3月。街を吹き抜ける風も、少しずつ温かさを孕んできた。そんな風に乗って、街を駆ける6人のグループが一つ。言わずもがな、Liella!のメンバー達である。

 

「ほぉら、学校まであともう少し!」

 

 先頭を駆ける千砂都が振り返り、後の5人を振り返って様子を見る。千砂都のすぐ後ろを追随する恋、そんな彼女に食らい付く可可。その少し後ろを並んで走るかのん、すみれ。そしてその少し後ろ、最後尾を音羽が、皆を見守るように走っている。この配置が、Liella!6人のいつものポジションであった。

 

「可可、上げすぎると後の練習でヘバるわよ」

 

「何のこれしき、デスよ! すみれこそ、もう少し気合入れて走るデス」

 

「私はペース配分ってモノをちゃんと考えてるのよ」

 

「ほらそこ、お喋りしないっ! 余計に体力使っちゃうよ!」

 

 可可とすみれが軽口を叩き合っていると、千砂都から軽く叱責が飛んでくる。これもまた、いつもの光景であった。

 街を駆け抜けて、Liella!は結ヶ丘へと戻ってきた。ふと空を仰ぐとやや膨らみを見せる桜の蕾の向こうに、雲一つないスカイブルーが溶けている。

 もうすぐ、新年度。Liella!の新たな1年が、始まろうとしていた。

 

***

 

 屋上に戻ったLiella!は、ダンス練習を始める為に各々が準備をしていた。音羽も星結びを身につけ、制服の上着を肩の上から羽織る。春風が音羽を撫でると、それがマントのように靡びくのだった。それは音羽の覚悟の証。決意を纏った音羽は、とても様になっていた。そんな音羽を見て、かのんの胸がトクンと高鳴る。

 

「……? かのんちゃん、どうしたの?」

 

「えっ!? い、いや何でもないよ!」

 

 かのんの視線を感じて問うた音羽に、何でもないと腕をぶんぶん横に振るかのん。無論、そんな事はない。だがしかし、音羽に”見惚れていた”とも言えるわけがなかった。

 

「そう? 僕も準備出来たから、練習始めよっか!」

 

「うんっ!」

 

 練習は練習、気持ちを切り替えねばと頬の朱を払い、かのんもポジションについた。

 

「じゃ、おとくん。カウントよろしく!」

 

「うんっ! じゃあ、昨日やったステップの続きから! ワン、ツー……」

 

 音羽の手拍子に合わせて、ステージに立つ5人はステップを踏み始める。去年、ラブライブ!東京大会で辛酸を嘗めさせられたLiella!。次こそは勝つ、と各々が、そしてグループ全体に気合が灯っていた。

 

「セブン、エイト! くぅちゃん、5拍目のステップが左右逆になる時があるから気をつけて」

 

「ハ、ハイッ!」

 

「あと、かのんちゃんも……途中から少し左に偏っちゃうから、もっと真ん中キープ。その方が全体の見栄えがよくなるから!」

 

「わかった!」

 

「……よしっ、じゃあ今のステップもう一度!」

 

「はいっ!」

 

 音羽の指摘した部分を各々が意識して、もう一度ステップが始まる。

 

「……セブン、エイト! おっけー、2人ともさっき言った所がちゃんと出来てた! 他の皆も、すっごくよかったよ!」

 

「やったぁ! ね、可可ちゃん!」

 

「はいデス!」

 

「ふふっ。音羽くん、なんだか活気が溢れてて頼もしいです」

 

「そういう恋だって、気合充分なんじゃない?」

 

「それはみんな一緒だよ! ね、おとくん!」

 

「うんっ……次こそ……次こそ、みんなで勝つんだから」

 

 今一度、全員のやる気を再確認したメンバー達。その後の練習も、終始やる気が途切れることなく続いたのだった。

 

「……よし! じゃあ一旦休憩にしよっか」

 

 休憩に入り、各自が水分補給の時間を取る。音羽もまた、声を出し続けて疲労した喉を潤していた。口からほんの少し伝い零れた雫を拭う音羽。ふと視線を感じ、その方に目をやると、そんな音羽を見つめている人物がいた。

 

「すみれちゃん、どうしたの? 何かさっきの練習で聞きたい事とか……」

 

「あっ、えっと、いや! なんでもないっ! なんでもないったら、なんでもないわ!」

 

「そっか。この後は発声だから、すみれちゃんもちゃんと水分取っておいてね!」

 

「え、えぇ!」

 

 すみれは、音羽の言われた通りに水分を取り、喉元まで出かかったトキメキごと一気に飲み込んだ。

 

「あんまり勢いよく飲むと咽せちゃうよ……?」

 

「大丈夫よっ、その……結構汗かいて、喉渇いてたし? これぐらいが丁度いいって言うか……」

 

「そうだったの?」

 

 自分でも何を言っているかはわからないが、音羽はそれで納得したらしい。また水筒に口を付け、2口目の水分補給。そんな音羽を再び見つめる視線に、音羽は気づかなかった。

 

***

 

 発声練習も終えたLiella!のメンバーは、部室に戻り、練習着から制服に着替えがてら談笑をしていた。黒一点の音羽は当然、部室の外で待機をしている。1枚扉を隔てた向こう側は、そんな音羽の話題で持ちきりだった。

 

「おとくんのあの格好、やっぱりカッコいいよねぇ」

 

「マジ音羽、カッコいいデス!」

 

「マジおとくんかぁ……ふふっ、なんだかいい名前」

 

「まじ、というのはどういう意味でしょうか?」

 

「"マジ"ってのは、本気って意味。本気モードのおとくんってこと」

 

「成る程……ふふっ、確かにあの格好の音羽くんはとっても頼もしいですよね」

 

「うんうんっ。本当にこう、変身っ! みたいな!」

 

 千砂都はそう言って左腕を斜め上に、右腕を胸の前に持ってきて『変身』ポーズを取る。それが何故変身ポーズなのかは、誰もが幼心のウチに刷り込まれているだろう。

 

「ね、かのんちゃんもそう思わない?」

 

「え゙っ!? う、うん! カッコいいよね!」

 

 突然、ポーズをしたままの千砂都に話を振られたかのんは、まさか自分にも話が飛んでくるとは思っていなかったが慌てて返事を取り繕う。

 

「……惚れ直した?」

 

「ちょっ、ちぃちゃん!」

 

 だがしかし、ポーズを解除した千砂都から耳元で囁かれた追撃によってあえなく撃沈。羞恥心が爆発して顔が真っ赤になった。

 

「ふふっ。かのんちゃんかわいー♡」

 

「も、もぉ~……」

 

 頬を膨らませてぽこぽこと千砂都の胸を叩くかのん。それが何とも弄らしい。そんなかのんに向けて、呆れたようにじっとりとした視線を送る存在がいた。それを見つけた可可が、同じくじっとりとした視線ですみれに話しかける。

 

「そんな顔してマスけど、すみれも人の事言えないのではないデスか」

 

「別に。ま、この私の隣に立って貰うんだし、それ相応ぐらいにはカッコよくなれたんじゃないかしら?」

 

「うわ、高飛車グソクムシデス……肝心の音羽にはキュンキュンしまくりで言えないくせに」

 

「ぐぬ……うっさいっ!」

 

「痛いデス~!」

 

 可可に指摘された瞬間、すみれは顔を真っ赤にしながら可可の頬を両方向に引っ張り始めた。

 

「放せデス! 悔しかったら音羽に言ってみろデスよ~!」

 

「言うわよっ! その……然るべき時がちゃんと来たら!」

 

「ふふ、かのんちゃんも負けてられないね」

 

「何を競うのですか?」

 

「恋ちゃんは知らなくていいからぁ!」

 

「?」

 

「って、そんな事よりすみれちゃん!」

 

「千砂都まで何よ!」

 

 可可の事もあってか、すみれは警戒しながら千砂都の方へ目を向ける。

 

「……早く着替えてくれないと、おとくんお部屋に入れないよ」

 

「……あっ」

 

未だにシャツの前のボタンを止めず、下着をさらけ出していたすみれ。千砂都に指摘され、いそいそとボタンを留め始めたのだった。

 

***

 

 その日の夜。かのんはベッドに寝転がりながら、音羽に想いを馳せていた。

 

「はぁ、マジおとちゃんカッコよすぎるよぉ~!」

 

 早速可可命名の呼称を拝借し、バタバタと悶えるかのん。その様相は、恋する乙女の見本図であった。

 

「……私もおとちゃんに見合うぐらい、綺麗になれるかな」

 

 かのんはすみれの言葉を思い出す。『私の隣に立って貰う』という言葉。すみれは、自分よりはずっと綺麗で魅力的な外見をしているだろう。内面だって、時々高飛車な発言があっても、それは自信の裏返しであるとかのんは考えているし、そもそもすみれの根は情に厚く義理堅い性格なのだ。そんなすみれに比べて、果たして自分は音羽の隣に立っても恥ずかしくないと言える程、魅力的な人間でいられるのであろうか。魅力的な人間になれるのだろうか。

 もっとも、かのんだって超が付く程の美少女である。内面だって、この1年で成長している。自分の"好き"には誰より自信を持っているし、一度噛み締めた悔しさを次は嘗めまいと、次年度の目標に向けて日々邁進している。だがしかし、恋に関してはまだまだ入学生。恋は盲目を地で行く、恋愛1年生なのだ。音羽は決して他者を貴賤や美醜で測るような人間ではない。そもそも、音羽に『かのんは魅力的か?』という質問を投げたら(恋愛的な意味はなくとも)間違い無くYesと答えるだろう。だがしかし、強力なライバルが身近にいると、どうしても思考回路が鈍ってしまうのであった。

 

「はぁ……」

 

 溜息が虚しく、宙に霧散する。どれだけ溜息を吐いても、胸の中に詰まったモヤモヤまでは、吐き出せないのであった。

 

***

 

 一方、すみれの方でも。自室の寝床に転がりながら、音羽の事を考えては胸をときめかせていた。

 

「はぁ……あのカッコ、慣れないわ。見てるだけで……キュンキュンしちゃう」

 

 すみれは枕に顔を埋め、ゴロゴロと悶える。その様相は、恋する乙女のお手本であった。

 

「私は本当に、音羽の隣に立てるぐらい魅力的なのかしら。うぅ、あんな台詞音羽に聞かれてなくてよかったわ……」

 

 『私の隣に立って貰う』と豪語したモノの、今になって羞恥がこみ上げてきた。普段の生活やステージに立つ時はは気丈に構えているすみれであるが、音羽の事を考えていると時々"選ばれなかった過去"に捕らわれてしまう時がある。かつてどれだけ努力しても浴びる事のなかったスポットライトの光と、音羽が放つ眩しさが被さってしまうのだ。どれだけ虚勢を張ったって、その不安は拭えない。そういった点では、かのんが羨ましく思えた。裏表がなく、純粋で。斜に構える事も無く、真っ直ぐ自分の気持ちをぶつけられるかのんが。

 自分を灰色の世界から連れ出してくれたかのんには、感謝している。しかし、音羽の事になれば話は別だ。かのんはその手を音羽に差し伸べ、自分の手の届かない遠い場所へ彼を連れて行ってしまうのではないか。それが、たまらなく怖かった。

 

「あぁ~っ、もう! 落ち着かないわね!」

 

 ひとしきり頭をこねくり回してから、一声叫ぶ。そうして、すみれは練習着に着替えて玄関へと向かった。

 

「お姉ちゃんどこ行くの?」

 

「ちょっと頭冷やしてくるっ」

 

「晩御飯までには帰ってきなよー」

 

 妹に見送られ、すみれは夜の街へと繰り出した。夜はまだ冷えるこの季節の、微かに肌を刺すような感覚が、今のすみれにとっては寧ろ心地よかった。

 

「……ウジウジなんかしてられないのよ」

 

 先のバレンタインの事もあって、すみれの中にある"遅れを取っている"という感覚はなくならない。でも、そんな状況をいつまでも辟易としてはいられない。早くかのんに追いついて、追い越して。自分が音羽の隣に立つのだ。

 

「はぁ……はぁっ……」

 

 少し息を切らしてきたところで、すみれは近くの公園にあったベンチに腰掛けた。天を仰ぐと、微かに瞬く星々。そして……

 

「すみれちゃん?」

 

「ギャラァッ!?」

 

 自分の顔を覗き込む、お月様……ではなく、かのんが現われた。

 

「ど、どうしたのよこんな所で!」

 

「私? なんだか落ち着かなくて、走ってたの。すみれちゃんこそ、どうしたの?」

 

「あ、私は……まぁ、似たようなもんよ」

 

 すみれは、ばつが悪そうな顔をして答える。まさか、音羽の事、かのんの事を考えていたら落ち着かなくなったとは言えなかった。

 

「そっか。ね、隣座ってもいい?」

 

「……好きにすれば」

 

すみれのレスポンスを了承として、かのんはすみれの隣に腰掛ける。

 

「ふぅ……すみれちゃんでも、考えごととかするんだ」

 

「何よ。人の事を何も考えてないヤツみたいに」

 

「あ、そういうんじゃなくって! なんか、悩みがあってもすぐ自分の中でバシッと解決してそうだなぁって思ってて」

 

「……そんな上手く生きてる人間じゃないわよ、私。寧ろ、そういうのはあんたの方が得意分野じゃない?」

 

「私!? そう、かなぁ……そうかも?」

 

「私に聞くんじゃないわよ」

 

「あはは……」

 

 そうやって苦笑いするかのんを見て、すみれは目を細める。

 

「……ま、本当に出来てる人って無自覚なモノよね」

 

「そういうものかなぁ?」

 

「そうでしょ。ほら、あの日……あんたが真剣勝負しようって言ってきた日も、あんたは自分で答えを持ってきたじゃない」

 

「あれは……私の中にある、おとちゃんが好きってキモチと向き合っただけで」

 

「それが自然と出来るのが羨ましいの。私は……そうやって自分の悩みと向き合うの、あんまり得意じゃないから。それが出来るあんたの事は……凄いって、思ってるわ」

 

 目を細めたのは、果たして呆れだったのか。気づけば、それは羨望の眼差しに変わっていたのだった。

 

「でも……私はすみれちゃんの事だって、いつも堂々としてて凄いって思ってる。おとちゃんの事とか、私は……堂々と『おとちゃんと付き合う』って言うの、まだちょっと恥ずかしいから」

 

「私、あれで結構頑張ってるのよ。それに、回りくどい言い方ばかりして、好きってキモチを直接言葉にする事にはビビってる」

 

「そうやって頑張れる事が凄いよ。私には出来ないから」

 

「ま、かのんには出来ないでしょうね」

 

「むっ、そんな言い方酷くない?」

 

「……あんたは、真っ直ぐだもの。回りくどい事なんかせず、いつも直接音羽に言葉を伝えられる。言いたくないけど、そういう所は……少し、羨ましいって思ってる」

 

 すみれは、髪の毛を指で弄びながら、ぎこちなく告げる。

 

「すみれちゃん……」

 

「……ダメね、私。悩みを紛らわせようと走りに出たのに、その悩みのタネに出会って、もっと悩まされて、弱気になってるんだもの」

 

「すみれちゃんの悩み事って」

 

「他でもない、あんたの事よ。ちょっと前まで後ろにいると思ってたライバルに、気づけばとっくに追い越されているんだもの」

 

 すみれの、その言葉を聞いたかのんは。

 

「……ふふっ」

 

 自然と、笑みがこぼれていた。

 

「何がおかしいのよ」

 

「ううん。私も、同じだったからつい」

 

「同じって?」

 

「私も、すみれちゃんの事考えてたんだよ」

 

「……」

 

「すみれちゃんには、私にはない良い所がいっぱいあって、それに」

 

「なによ」

 

「すみれちゃん、綺麗だから」

 

「はぁ???」

 

「ほ、ほら! 最近おとちゃん凄くカッコいいじゃん。特に、練習の時とか……男磨き? とかそういうのじゃないってわかってるけど、やっぱりその、カッコよすぎて……わ、私なんかが見合うかなぁって」

 

「あんた、鏡見た事ないの?」

 

「え」

 

 すみれはかのんの言葉を遮り、今度こそ呆れた視線をかのんに向けた。

 

「仮にもスクールアイドルなんだから。歌だけじゃなくて、自分の容姿にも気を向けなさいよ」

 

「うっ、ごめん……」

 

「……心配しなくても、かのんだって可愛いわよ。私がライバルだって認めてるんだから、当然じゃない」

 

「あ、ありがとう……? ていうか、いつものすみれちゃんみたいに戻ってる」

 

「なんか今ので拍子抜けちゃったわ。それに、かのんにいつまでもウジウジしている所を見られるなんて癪だもの」

 

「むっ、言うなぁすみれちゃんも」

 

「言うわよ。あんたにだから、言えるのよ」

 

 2人の視線が交錯する。

 

「……ふふっ」

 

 そうしていると、自然と笑みがこぼれてきてしまう。少しばかり、2人で笑う時間が続いたのだった。

 

「ねぇ、すみれちゃん」

 

「何よ」

 

「なんか、私達って結構似たもの同士なのかもね。負けず嫌いで、でもちょっぴり自分に自信がない所とか、お互いの事を……尊敬してる所も。そうだよね?」

 

 尊敬してる。かのんは、すみれにはっきりとそう言った。きっと、そうなのだろう。

 

「……ま、そうなんじゃない?」

 

 自分だって、かのんの事を羨ましく思っていて、心の底から尊敬しているのだと、すみれは認めたのだった。

 

「後は、ほら! お互いおとちゃんの事が大好き同士だし!」

 

「そこまで似なくてもよかったのに」

 

「もー、すみれちゃん!」

 

「冗談よ」

 

 頬を膨らませるかのんを尻目に、すみれは星空を見やる。そんなすみれにつられて、かのんも空を見上げた。話題もなく、ただ星々の瞬きを見つめる。幾何かの時間が過ぎた時、かのんが思い出したかのように口を開いた。

 

「……私達も、もうすぐ2年生になるんだね」

 

「そうね。かのん達に出会って、スクールアイドルになって……音羽に出会って、音羽に恋して。それだけじゃない、この1年間、本当に色んな事があったわ」

 

「来年は、もっと頑張らないと。スクールアイドルの事も、おとちゃんとの事も」

 

「勝たなきゃね、ラブライブ!。もう、音羽にあんな風になって欲しくないもの」

 

「うんっ。結ヶ丘の為に、Liella!の為に……おとちゃんの為に」

 

 2人して、星に決意を誓う。

 

「それでね、すみれちゃん」

 

「まだ何かあるの?」

 

「ちょっと、良いこと考えたんだけど……明日、練習休みでしょ? だから……」

 

 かのんはそう言うと、すみれに耳打ちを始める。

 

「ふふっ……良いこと考えるじゃない」

 

「でしょ?」

 

 そうして、また2人で笑い合うのだった。

 

***

 

 次の練習日。屋上に集うのは、4人。

 

「千砂都ちゃん、かのんちゃんとすみれちゃんは?」

 

「それがね、なんだか準備するモノがあるんだって」

 

「なぁにか怪しいことを企んでるのではないデショウか」

 

「そのような事はないと思いますが……」

 

 音羽はともかく、千砂都達3人も着替える際にかのんとすみれに「先に行っててほしい」と言われ、まだ頭上に疑問符が漂っているままだった。

 

「みんな、おまたせっ!」

 

 しばらく待っていると、かのんの声と共に屋上の扉が開く。先に待っていた4人がそちらに目をやると……

 

「今日も練習、頑張りましょっか」

 

 出てきたのは、かのんとすみれ。しかし、その装いが違っていた。元々来ていたモノのデザインはそのままに、新たな練習着へとチェンジしていたのだ。

 

「かのんちゃん、すみれちゃん……それって!」

 

「うんっ。おとちゃんの気合い入れに習って、みたいな?」

 

「お二人とも、素敵です!」

 

「ズルいデス~! 可可に黙って新しいファッションをぉ……!」

 

「あはは……今日は午前練だし、午後は私達3人も見に行こっか! ね、可可ちゃん、恋ちゃん」

 

「賛成デス! レンレンも一緒に行くデスよ!」

 

「はいっ。私も、是非ご一緒させてください!」

 

 かのんとすみれを見て、女子3人は大盛り上がり。一方、当の2人は、音羽の前に歩み寄っていた。

 

「ね、おとちゃん」

 

「その……似合っている、かしら?」

 

 音羽に問うその声色には、あの赤が混じっていた。音羽は、まだその色の正体を知らない。しかしその色が、2人が大事な事を言う時によく見られる事には気づいていた。この変化も、2人にとってはとても大事な事なのだろう。それだけは、わかっていた。

 

「うんっ……とっても、似合っている。2人の頑張ろうってキモチが、感じられるよ」

 

 だからこそ、音羽は感じた想いをそのままに、2人に伝えたのだった。

 

「ホント? 嬉しい……ありがとっ、おとちゃん!」

 

「ふふっ。女の子を褒めるのも、少しは板についてきたんじゃない? なんてね」

 

「ホントは、まだちょっと恥ずかしいけど……でも、これからもっと、みんなの事を見ていないとダメだからね」

 

 そう口にする音羽の表情は、まだ正しく制服を着こなしていながらも、熱く真剣なモノだった。音羽は、ラブライブ!の事に関して言っているのだろう。

 

「そうだね……これからも私達の事、ちゃんと見ててね!」

 

「イヤって言っても、釘付けにしてあげるんだから」

 

 だがしかし、かのんとすみれはその音羽の言葉に、もう一つの意味も含めて返したのだった。

 

「うんっ……よし」

 

 もっとも、音羽がそのもう一つの意味を悟るのは、まだまだ先の話だろう。2人の返事を受け取った音羽は、制服の上着を肩から羽織る。

 

「……今日も練習、頑張ろう! 千砂都ちゃーん!」

 

 盛り上がっている千砂都達に声をかけにいく音羽の背を、2人は見守っていた。

 2人が練習着を変えた意味。無論、ラブライブ!の為に気合を入れた音羽に習う意味もある。だがしかし、もう一つ。気合を入れる理由が、彼女達にはあるのだった。

 

「かのん」

 

 かのんは、自分の名前を呼ぶ方を見る。そこには、自分の方に拳を差し出すすみれの姿があった。

 

負けないから(・・・・・・)

 

 その言葉は、2つの意味を持つ。ラブライブ!に。そして、目の前のライバルに。

 

「……勿論」

 

 かのんもまた、拳を差し出し、すみれに応えたのだった。

 Liella!の新しい1年は、もうすぐそこにある。




コラム⑨:そういう目で見るべきで無いとわかっていても、かのんとすみれはマジ音羽に本気(マジ)でときめいている。時々、今日はどういう所がカッコよかったか、等を報告し合っているのだ。



今回のお話で、『星セレ』第1章を完結とさせていただきます。これから第2章に……と行きたい所ですが、諸々の展開の事も考え、『星トラ』本編が来たるべき所に行くまで暫く休載とさせていただきます。

それでは次回、第2章もよろしくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。