星達のオーケストラ~双星のセレナーデ~   作:NiwaNiwa

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第2話 それぞれの想い、拳に込めて。

 かのんがすみれに宣戦布告をし、お互いを確かな恋のライバルとして認め合った次の日の朝。今日もLiella!の練習があるので、かのんは自分達の部室へと赴いていた。

 

「おはよ~っと……あれ、すみれちゃん来てたんだ」

 

「えぇ。おはよ、かのん」

 

 早い時間に出て、自分がいの一番に部室に着いたと思ったかのんだが、先客がいたらしい。部室では既にすみれが自分の定位置でスマホを弄っていた。軽く挨拶を交わし、かのんも席に着く。かのんはソワソワとまだ来ていないメンバーを待ちながら、持て余した暇を潰そうと、すみれに話しかけた。

 

「ねぇねぇ、すみれちゃん」

 

「何よ」

 

「好きな人を振り向かせる為にさ、何をすればいいと思う?」

 

 自身の初恋のアドバイスを、自身の恋敵に求めるとは。かのんの暢気な発言にすみれは呆れを隠せす、思わず溜息を漏らす。無論、かのんの質問に素直に答えるつもりなどさらさらない。

 

「私が敵に塩を送ると思う?」

 

「お願いだよぉ、すみれちゃん。私、恋なんてしたことなくって」

 

 それは私だって一緒よ、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだその時、部室のドアが開いて新たな来客が現われた。その人物とは。

 

「おはよう。かのんちゃん、すみれちゃん」

 

「あ……おはよ、おとちゃん!」

 

「あら。おはよう、音羽」

 

 スクールアイドル部もう一人の部員。Liella!の縁の下の力持ちにして、2人の恋の矢印の先にいる人物。音羽だった。音羽がその場に現われただけで、2人の心臓が高鳴り、血流が加速する。そんな事はつゆ知らず、音羽は部室を見渡してかのんとすみれ2人だけしかいない事を確認していた。

 

「まだ2人だけ?」

 

「うんっ。まだ練習まで時間があるからさ、座って待ってようよ。私の隣、空いてるよ!」

「あら、音羽。音羽なら私の隣に来てくれるわよね?」

 

「……え?」

 

 かのんとすみれの発言、そして2人の放つ異様な雰囲気に音羽は飲まれそうになっていた。そう。音羽が2人の目の前に現われた時点で戦いは既に始まっていたのだ。音羽がどちらかの隣に座る、それ即ち音羽との物理的、心理的距離を縮めるにもってこいのチャンス。右からはかのんの期待を孕んだ視線、左からはすみれのこちらを誘う蠱惑的な視線、2つの視線がクロスし、その交差する場にいる音羽を捉えて放さない。この時点で、どちらの隣でもない席に座るという中間択が失われている事を音羽は感じ取っていた。

 

 ここで閑話休題……音羽にとって2人がどういう人物か。無論、音羽は“友達として”2人の事が大好きである。異性として意識しないわけではないが、それは最低限異性に払う配慮といった形で出力される。同じように、同じだけ、2人と仲良し。だからこそ、2人の内どちらかを選ばなければいけないという初めての状況に酷く困惑していたのだ。音羽はツバを飲み込み、覚悟を決める。音羽が取った選択肢とは。

 

「おとちゃん、こっちこっち!」

 

「うん、ありがと。かのんちゃん」

 

 かのんが引いた椅子に音羽は腰を下ろす。音羽が座ったのは、かのんの隣だった。もっとも、その理由とは音羽が右利きだったから流れやすい方に体が向いたというだけなのだが。かのんは一歩有利、とでもいいたいのかすみれに向けて悪戯な笑みを浮かべる。すみれはムッとしつつも、音羽がかのんを選んだのは偶然か何かだろうと結論づけ、ひとまずはかのんにその場の勝ちを譲ったのか、再び自身のスマホへと顔を向けた。

 

「ねぇねぇ、おとちゃん。これ見て」

 

「どうしたの、かのんちゃん」

 

 かのんは音羽に肩を寄せ、1つの携帯の画面を一緒に共有する形を取る。触れ合う肩と、仄かに香る柔軟剤の匂いに音羽は顔を赤らめつつも、それを意識するのはかのんへの失礼に値すると考えそれを頭の外へと追いやった。そんな事はつゆ知らずか、かのんはスマホに映った、新装開店したカフェの話題を音羽に振る。

 

「ここ、今度新しくオープンしたんだって!」

 

「うわぁ……凄くお洒落だね」

 

「うん! でね、おとちゃんと2人で行きたいなぁって思ってるんだけど……ダメ?」

 

 ここでかのんは大胆な行動に出る。音羽の腕に腕を回し自分の胸を押し当て、音羽を見上げ、コテンと首を傾げる。かのんはスクールアイドル、その整った容姿から近距離で放たれるあざとさ、そして何より触れ合った所から伝わるかのんの熱に音羽は恥じらいを隠せなかった。

 

これを無意識で―そう、先程からずっとかのんは無意識なのである―やっているから恐ろしい。その純真さこそがかのんの武器であった。潤んだ瞳で見つめられて、音羽が首肯を持ってそれに応えようとしたところで……

 

「音羽、私も行きたいところがあるのだけれど」

 

 突如、音羽の左隣に腰掛ける存在があった。言うまでもなくすみれだ。携帯越しにかのんと音羽のやり取りを見ていたのだが、流石に見かねたのか自分も同じく音羽の隣を陣取ったのだ。その僅かの時間でかのんと同じように腕を絡め、音羽を見つめる。当然、音羽の意識はかのんからすみれへと移動していた。

 

「す、すみれちゃん? どうしてこっちに」

 

「窓際は寒いから。こっちの方が暖かいのよ」

 

「窓、閉まってるよ……?」

 

「閉まってても寒いったら寒いの。ね、それより音羽。このお店なんだけど……」

 

 ぴったり音羽に体をくっつけ、音羽とスマホの画面を共有するすみれ。無論、かのんも黙ってはいられないのか対抗するようにすみれの手を追いやって自分のスマホを音羽の前に持ってこようとする。

 

「ちょっと、すみれちゃん。おとちゃんにスマホ見せられないんだけど?」

 

「あら、それはこっちの台詞よ」

 

 音羽を挟んで睨み合い、両者一歩も引かない。挟まれた音羽はというと、この状況についていけずに困惑していた。先程までかのんと仲睦まじく話していただけなのに、何故こうなったのか。鈍感な音羽にとっては知る由もなかった。

 

「ふ、二人とも仲良くしなきゃ」

 

「おとちゃんは黙ってて!」

「音羽は黙ってて!」

 

「は、はいぃ……」

 

 的外れな音羽の指摘に二人の声が重なり、音羽はたじろぐ。何か二人の気に障る事でも言ってしまったのかとオドオドしていたのだが、無論それも的外れ。完全に蚊帳の外になった音羽を挟んで、再三かのんとすみれは睨み合っていた。

 

「こうなったら、おとちゃんに選んで貰おうよ。どっちとお出掛けしたいか」

 

「いいわ、望む所よ。音羽!」

 

「おとちゃん!」

 

「は、はいっ!」

 

 再び名前を呼ばれて、音羽は背筋を伸ばした。二人の鋭い視線は、次に提示されるであろう選択肢を絶対に間違えてはいけないと示唆させる。だがしかし、どちらを選んでもアタリであり、どちらを選んでもハズレなのだ。そうして、究極の質問が投げかけられる。

 

「おとちゃんは、どっちとお出掛けしたい? 勿論私だよね!?」

「音羽なら当然、私を選んでくれるわよね?」

 

もはや音羽は恐怖すら覚えていた。何故だ。先程まで自分は友達と仲良くお出掛けの約束を取り付けようとしていただけなのに。今となっては二人の美少女に挟まれ、さらにどちらかを選ばなければいけないと。出来ない。出来るわけがない。

 

 それに、音羽にとっては仲の良い二人が啀み合っているという状況に酷く心を痛めていた。かのんとすみれにも仲良くして欲しい、それが音羽の切なる願いであった。音羽は考える。限界まで思考を加速させ、そうして導き出した答えは……

 

「こ、ここは一つじゃんけんと言うことで……」

 

 音羽は自身の選択を、かのんとすみれ……運否天賦に委ねる事にした。常人であれば、そんな中途半端な真似を許すわけはないだろう。だがかのんとすみれは納得こそせずとも、優しい音羽だからこそその結論に至ったのであろうとそう思うことにした。もっとも、そこには惚れた弱みも含まれているのだが。であれば、自分達が成すべき事はただ一つ。己の拳に全身全霊を込め、相手を打ち負かす。それだけであった。

 

「よし、すみれちゃん……いくよ」

 

「えぇ。いつでも来なさい」

 

 音羽から離れた二人は立ち上がり、向き合う。音羽も立ち上がり、二人の戦いの行く末を見守らんとしていた。両者拳を構え、息を吸い込み、それを合図に、二人の拳が打ち出された。

 

「「最初はグーッ! じゃーんけーん、ぽんっ!!」」

 

 そうして空間にさらけ出された二人の手。かのんの手はその確固たる決意を表わすかの如く握りしめられた手……グー。一方すみれは、それに覆い被さるかの如く開かれた手……パー。勝敗は、三歳児でも諳んじられる程明らかであり、また残酷であった。

 

「っしゃああ! やったわ、音羽!」

 

「ひゃうんっ」

 

 感極まったすみれは、思わず音羽に抱きついた。抱きつかれた音羽は、さっきよりも密着した肌の温もりに意識せざるを得ず、また顔を赤らめていた。一方、惜しくも残念な結果になってしまったかのんはと言うと。その場で地に伏し、項垂れていた。

 

「そんなぁ……」

 

 それを見た音羽は、すみれの腕を解き、かのんに手を差し伸べる。その優しさこそが、音羽の美徳であるのだ。

 

「かのんちゃん。また今度、二人でお出掛けしよっか」

 

「おとちゃん……うんっ、ありがと!」

 

 かのんは音羽の手を握って立ち上がり、そのままの勢いで音羽に抱きつく。音羽はと言うと、再三顔を赤らめていた。

 

「むぅ……かのん、まだ私のターンなのだけれど?」

 

 それを見たすみれも、後ろから音羽に抱きつく。音羽はと言うと、二人の熱と柔らかな感触に挟まれ最早沸騰寸前であった。

 

「あの、二人とも? なんだか距離が近いんじゃ……」

 

「別にこれぐらい、“好き同士”だったら普通だよ。ねぇー、すみれちゃん?」

 

「えぇ、そうね。普通ったら普通よ」

 

「わ、わかったから。二人とも離して~!」

 

 そうして、部室に他の面々が集うまで三人のスキンシップは続いたのであった。もっとも、音羽を挟んだかのんとすみれを見て、可可と千砂都が質問攻めをしたり、恋はキョトンと首を傾げていたというのは……また、別のお話。

 

***

 

 時は進んで夕刻、傾いた夕日が染めるオレンジの街を、かのんとすみれは歩く。可可はカフェ巡り、千砂都はバイト、恋と音羽は生徒会と、それぞれ練習後に用事があったので、こうして二人並んで帰っていたのだ。

 

「あぁーあ。すみれちゃんに先越されちゃった」

 

「ふふっ。次のデートで私が大幅リードして……かのんとのデートなんてキャンセルしたくなるぐらい、私にメロメロにさせてあげるんだから」

 

「そ、それはないよ! だって、おとちゃん優しいんだもん!」

 

「ま、それには同意ね」

 

 軽口を叩き合いながら、二人は歩く。恋のライバルではあっても、それ以前に二人は友達である。好きな人を打ち明けた者同士のある種の信頼が二人にはあるのだ。もっとも、その好きな人とは同じであるのだが。

 

「ねぇ、かのん。その……音羽の前でいざこざするのは極力止めましょっか」

 

「うん。おとちゃん、なんだか可哀想だったし」

 

「その代わり……二人っきりの時はお互い全力でアプローチしなきゃね。ま、音羽は私に堕ちるに決まってるんだけど」

 

「そんな事ないもん! 私だって、おとちゃんの事……その、メロメロにさせちゃうよ!」

 

「出来るものならやってみなさい、ふふっ」

 

 二人は歩く。この先の未来、この二人で歩く事は不可能と知っていても。でも、大好きな人が隣にいて欲しいから。

 




コラム②:実はかのんとすみれ、前よりもメッセージのやり取りも会話も増えてもっと仲良くなってる。でも、ライバルと仲良くしていると見られるのはちょっと癪みたい。

次回更新もよろしくお願いします。
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