星達のオーケストラ~双星のセレナーデ~   作:NiwaNiwa

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第3話 少女、逢瀬を重ねる。~平安名すみれ編~

 桜の花がまだ蕾の中に縮こまっている、1月の寒々とした空の下、私は人を待っていた。今日は待ちに待った、音羽とのデート。かのんとのじゃんけんで勝ち取ったチャンスだ。無論、私の後にかのんとのデートが待ってる事は知っている。ホント、あの子も罪な男よね。だから、今のうちに……私のターンで、音羽を堕とせば良い。

 

 かのん、まさかアンタがライバルになるなんてね。ゆっくりでもいいから、確実に音羽にアプローチをしていこうと思っていたけど、ウカウカしていられないみたい。いいわよ。私のショウビジネステクニックで、一撃で音羽をメロメロにしてあげる。

 

 ……服、変じゃないかしら。ミニなんて久しぶりに引っ張り出してきたけど、似合ってるわよね? 近くにあったお店のショーケースで、自分の格好をチェックする。黒のミニスカート、ニーハイとの隙間に風が吹くとピリッと寒いけど、これぐらいは我慢しないとね。一緒に引っ張り出したベレーの角度も調整する。髪のセットも抜かりはない。大丈夫、1番可愛い私を音羽に見せられる。

 

「すみれちゃん!」

 

 そうこうしているうちに、後ろから私の大好きな声が聞こえる。男の子にしてはちょっと高い、でも凜とした声。それを聞くだけで鼓動が高鳴って、口角が上がっちゃう。私って、ホント音羽の事が好きよね。ま、それを悟られるのは癪……もっとも、音羽に察せる程の洞察力があるなんて思ってないけど。でも一応、私は澄ました顔を整えて、クルリと振り向く。私の大好きな人が、そこにいた。

 

「おはよ、音羽……女の子を待たせるなんて良い度胸してるわね」

 

「うえぇ!? や、約束の20分前だけど……」

 

「な・あ・に?」

 

「いえ、なんでもございません……」

 

 っと、ちょっと意地悪が過ぎたかしら。説教を受けた子犬みたいな音羽は確かに可愛いけど、あんまり可哀想なのは私の好みじゃない。飴と鞭の使い分けを見誤るような私じゃない。そして飴は……思いっきり、甘く。

 

 私は音羽に近寄り、スルリと腕を組んで音羽の耳元に口を持って行く。そして、最大限出せる甘い声で囁けば……

 

「でも、嬉しかったわ。私との“デート”、そんなに楽しみにしてくれてたのね」

 

「……!?」

 

 ふふっ。作戦成功。慌てて飛び退いた音羽は耳まで真っ赤っか。こういう初心なところも可愛いのよね……うん。大丈夫。音羽とは“マブダチ”って事になってるけど、異性として意識してくれないわけじゃあないのよね。

 

「す、すみれちゃん。デートだなんて……」

 

「あら? 男女が休日に街で2人お出掛けだなんて、これをデートと言わずしてなんなのかしら?」

 

 再度腕を組んだ私は、音羽の隣へと場所を移す。ちゃっかり手も繋げば、これでデートの準備はバッチリOK。

 

「じゃ、音羽。今日はよろしくねっ」

 

 そうして2人、寒空の下の街を歩き出すのだった。

 

***

 

 2人で街を歩いていると、不意に音羽がこっちに目を向けて話しかけてきた。

 

「そうだ、すみれちゃん。今日の服、すっごく可愛いよ」

 

「ん……当然でしょ。この私が着こなしているんだもの」

 

「うん。服も可愛いけど、やっぱり着てるすみれちゃんが可愛いからかな」

 

「はぁっ!?」

 

「え!? ぼ、僕何かおかしいこと言っちゃったかな……!?」

 

 な。なによこの子ってば本っ当~に! 距離を詰め過ぎてたのが裏目に出ちゃったわ。至近距離でこんな、キザなセリフを吐かれちゃったら……ド、ドキドキしちゃうに決まってるじゃない! 急いでソッポを向いたから、気づかれてないかしら? 顔の赤らみが引いたところで振り向いてみたのだけれど……そこには、オロオロした音羽がいるばかりだった。もう、ここまで来たら逆に気づいて欲しいわ。思わず出そうになった溜息を飲み込んで、音羽との会話を続ける。

 

「……なんでもないわよ。少しは女の子を喜ばせる物言いが出来るようになったのね」

 

「うんっ。ありがと、すみれちゃん」

 

 私の発言に、一切の曇りを見せず純真な笑顔で返す音羽。ちょっとは反論してくれてもいいのに。こういうところよね、音羽の魅力って。そういうところが……好き。音羽の肩にコテンと頭をあずけて、そんな事を考えた。さ、次は私のターンね。

 

「音羽も、服カッコいいわよ。自分でコーディネートしたのかしら?」

 

 普段はパーカーとジーンズで済ませる事が多い音羽だけれど、今日は……私の為に背伸びしてくれたのかしら、そうだったら嬉しいわ。温かな色合いのシャツとスラックス。見てるだけで心がポカポカしてくる音羽の人柄を表わしているような、そんな格好をしていた。音羽が自分でそういう服を選ぶなんて今までなかったし、私は聞いてみる事に。すると、ちょっと予想外の答えが返ってきた。

 

「ううん、くぅちゃんが選んでくれたんだぁ。すみれちゃんはオシャレだから、一緒に出掛けるのにいい服を選んでって頼んだの」

 

「そ、そうなの……」

 

 ふぅん、あの可可がね。まぁ、音羽と可可はお互い気を許しあってるし、2人の間に“万が一”なんてないだろうけど……ちょっとフクザツ。私とのデートなのに、他の女が選んだ服を着るなんて……ま、可可の気持ちを無下にするのは悪いし、ここは大目に見てやりましょうかね。でも、釘を刺すのは忘れない。

 

「気持ちは嬉しいけど、音羽。あんまり人様とのデートで他の女の子の名前を出すもんじゃないわよ。覚えておきなさい」

 

「うん……わかった。覚えておくね」

 

「素直でよろしい」

 

 うんうん、音羽もわかってくれたみたい。というわけで、デート続行。たまに、音羽の手をニギニギしながら歩いていると、音羽が訪ねてきた。

 

「それで、すみれちゃん。今日はどこに行くの?」

 

「んーとね、ほら。このお店」

 

 音羽の前に地図アプリを開いたスマホを出して、私が今日行きたい店を指差す。その店とは……

 

「えっと、プリクラ?」

 

「えぇ。音羽と2人で写真って、撮ったことないなって思ったから」

 

「そうだね。よし、それじゃあ行こっか!」

 

***

 

 音羽の手を引いて、私達はプリクラ専門店へとやってきた。

 

「そういえば、このお店ってなんで地下にあるの?」

 

「さぁ? でも、このお店は日本で初めてのプリクラ専門店なんですって」

 

「ふぅん、そうなんだ。すみれちゃん物知りだね!」

 

「ま、まぁこれぐらい一般常識よ」

 

 ……本当は昨日調べて初めて知ったんだけど。まぁ、そんな事は置いておいて。

 

「うわぁ……なんかいっぱいあるね。これ全部違うの?」

 

「まぁ、違うんじゃないかしら」

 

 ぶっちゃけ私も、プリクラに精通しているわけじゃない。どの機種で撮るかも然程大切ではない。では何故、今日プリクラを選んだかと言うとそれは勿論……音羽と半閉鎖空間の中で合法的にくっつけるからである。音羽とのツーショットもGET出来るし。

 

「ん~……アレが空いてるから、アレにしましょっか」

 

「わかった!」

 

 というわけで、私達は早速空いているプリ機へと暖簾(確実に暖簾って名前じゃないでしょうけど、これ何て言うのかしら)をくぐってお邪魔する。他にも空きはあったけど、確かこの機種には……。

 

「あ、そうだお金。僕が払うよ」

 

「いいわ、私の希望なんだし」

 

「ん~……」

 

「……ふふっ、そうね。じゃあ、2人で割り勘ならいい?」

 

「まぁ、それなら」

 

 音羽ったら、あんまり細かい事気にしないでいいのに。音羽から受け取った小銭を機械に投入して……あったあった。迷わず『カップルモード』を選択する。音羽はキョロキョロとプリ機の中を見回して気づいていないから、こっそり押しちゃう。

 

「えぇっと……取り敢えず、写真を撮るんだよね?」

 

「えぇ。機械の指示に従ってね」

 

「指示?」

 

『まずは両手でハートを作ってね!』

 

「はっ、ハート!?」

 

「そ! ほら、カウント終わっちゃうから急いで」

 

「う、うんっ!」

 

 画面には、顔を赤らめながらぎこちなくハートマークを作る音羽が映し出される。もう、一発目から可愛いじゃないの~! 早速今日は来て正解だったと思いつつも、自分もハートを作るのを忘れない。さりげなくウインクなんかもしちゃって、音羽に可愛い私をアピールする。

 

「す、すみれちゃん凄いね。すぐにそんな可愛いポーズ作れて」

 

「スクールアイドルたるものこれぐらい当然。音羽も可愛いわ。それよりほら、次のポーズが来るわよ」

 

『次は2人でハートを作ってね!』

 

「ふ、ふたりでぇ!?」

 

「ほら、音羽」

 

 私は手でハートの片方を作って、音羽の方を見やる。

 

「で、でもぉ……すみれちゃんに申し訳ないって言うか」

 

「なぁにが申し訳ないもんですか。私達、“マブダチ”でしょ? マブダチならハートの1つや2つ作るわよ」

 

 嘘。多分作らないと思う。言葉で惑わせるのは申し訳ないけど、この際だからそれは気にしないでおく。

 

「わ、わかったよ」

 

 音羽はそっぽを向きながらも、私の手のハートに合わせてその手を差し出してきた。ん~、イヤがってるわけじゃないってのはわかってるけど。ちょっと乗り切れないわね……。でも、音羽と2人でハート……それだけで私の多幸感はうなぎ登りである。

 

「音羽。折角来たんだから、楽しんで欲しいわ。ほら、笑って!」

 

「ん……」

 

 パシャリ、とシャッターがなった後、画面にはちょっと緊張が取れた音羽の顔が映っていた。うんうん、この調子なら。音羽も楽しいって気持ちになってくれたらいいわね。

 

「段々リラックス出来てきた?」

 

「うん。まだちょっと恥ずかしいけど……」

 

「ならよかった。ほら、次のポーズが来るわよ」

 

『次はお互いをギュッて抱きしめちゃおう!』

 

「はいぃ!?」

 

 前言撤回。画面越しで見てもガッチガチになっているのがわかるぐらい、音羽の全身を緊張が満たしたのを感じる。

 

「そ、その。すみれちゃん。流石にこれは……」

 

 音羽がワタワタしている間にも、カウントはどんどん進んでしまう。私はままよとばかりに、音羽の腰に腕を回した。

 

「んひゃ! す、すみれちゃん!?」

 

「ほら、音羽も。私を抱いて、カメラを見て。今日来た意味がなくなっちゃうじゃない」

 

 さっきよりも強引だけれど、ハートでさえ渋る音羽にはこの方がいいだろう。音羽は恐る恐る、私の腰に手を回して、触れない程度の位置にその手を固定する。ぬぅ、本当は音羽に触れて欲しいけれど……まぁ、いいわ。パシャリ、とシャッターがなった後、隣のスペースに移動するように促される。

 

「っと、これで撮影は終了みたいね」

 

「そうなの? この次は?」

 

「写真をデコるのよ。ほら、こっち」

 

「わわ、ちょっと」

 

 音羽の手を取って、隣に併設されているデコスペースへと移動する。そこにはさっき取った写真が一覧で表示されている。どの写真も音羽と私のツーショット……ん~、全部保存したいぐらいだわ。出来るのかしら?

 

『好きな写真を1枚選んでデコってね!』

 

 出来ないらしい。残念。

 

「音羽、どの写真がいい?」

 

「ん~。えっと、これかな」

 

 音羽が指を指したのは、最後に撮ったハグをしてる写真。音羽の顔はガッチガチだ。

 

「音羽、凄い顔してるわよ?」

 

「あはは。でも、すみれちゃんが1番嬉しそうな顔してるから」

 

「んぅ……あんたってホント、そういう所あるわよね」

 

「え? 僕何か悪い事言っちゃった……?」

 

 寧ろめっちゃ良い事言ってる。でも、それがわからないのが音羽クオリティなのよね。

 

「それじゃ、デコするけどいい?」

 

「そのままってのは」

 

「そんなの、プリクラに来た意味がないじゃない?」

 

「あ、でも……その、すみれちゃんとのそのままの写真が欲しいなって」

 

「え?」

 

「え?」

 

 ……え? 音羽が私との、そのままの写真が欲しいって?

 

「それ、どういう意味」

 

「どういうって……えっと、すみれちゃん僕との写真が欲しいのかなって思ったから。だから、プリクラに誘ってくれたのかなって思って。その、こういうプリクラとかは恥ずかしいけど……普通に写真を撮るぐらいだったら、僕も頑張ってみようかなって思ったんだ。僕の思い違いだったら、凄く申し訳ないけど……」

 

「そう、なの」

 

 思い違いだなんて、とんでもない。音羽が、私の事を思って言ってくれた言葉が、胸いっぱいに広がる。そっか……そっかぁ。

 

「それじゃあ、写真は後で撮るにして……こっちはこっちで、楽しんじゃいましょ」

 

 そう言って私はプリ機の方を指差す。

 

「……うん!」

 

「音羽もデコってみなさいよ」

 

「わかった。えっと……こう?」

 

「ぷっ、あはは! 音羽、目を大きくし過ぎよ」

 

「え? うわ、ホントだ……これ、どうやって直すの?」

 

「これはね……」

 

 その後、私達は一通りデコを楽しんで。プリの写真はそれぞれの財布にしまっておくことにしたのだった。

 

***

 

 日もすっかり暮れた通りを、2人で歩く。

 

「音羽、今日は楽しかった?」

 

「もちろん」

 

「そう。なら、誘った甲斐があったわ。次はもうちょっと、恥ずかしがらずに撮れるようにしないとね」

 

「あはは……善処します……」

 

「うむ、よろしい」

 

 なんて会話をしている間に、ウチの神社が近くなってきた。

 

「そうだ、写真。すみれちゃん、どっか撮りに行く?」

 

「ん……いいわ。ウチの前でも。音羽とだったら……どこでも」

 

 神社へ上る階段の前で、パシャリ。

 

「それじゃあ音羽。また」

 

「うん……明日は……あ、えっと。なんでもない」

 

「?」

 

「えっと、すみれちゃんも言ってたでしょ。デートの最中に、あんまりすみれちゃん以外の人の名前出しちゃいけないって」

 

「それを言っちゃったら意味ないでしょ」

 

「あ……」

 

「ふふっ。まぁ、少し学習してるのは褒めてあげる。それじゃあね」

 

 それに、音羽の口から聞かなくてもわかっている。私が言いたかった「また明日」を飲み込んだのは、明日の音羽に何があるか知っているから。

 だって、明日は……ま、それを考えても仕方がないわね。私はスマホの背景……さっき撮った写真を見ながら、考える。今日のデートで、音羽が少しでも私を好きになってくれてたら……そうだったらいいな、なんて考えながら。

 




コラム③:すみれは音羽とのLI○E中に時々何の脈絡もなく自撮り(健全)を送ったりしてる。「綺麗!」とか「可愛い!」とか全部好感触な返事をくれるので嬉しい反面、ドキドキはしてくれてるのかしらと悶々してたりする。

次回更新もよろしくお願いします。
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