星達のオーケストラ~双星のセレナーデ~   作:NiwaNiwa

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第4話 少女、逢瀬を重ねる。~澁谷かのん編~

 恋ってなんだろう。いつだったか、可可ちゃんに「ラブソングを作ってクダサイ!」って注文されて、少し考えた事がある。要は、好きって気持ち。私にとっての歌と一緒なのかな、なんて。恋を知らない私はそう思ってた。

 

でも、今は違う。私の中には、好きって気持ちがいっぱいある。歌が好き。音楽が好き。家族が好き。友達が好き。ちぃちゃん、可可ちゃん、すみれちゃん、恋ちゃんが好き。そして……おとちゃんが好き。特別な、好き。初めて感じるこの気持ちは、どんな言葉で綴っても、足りないぐらい。私の中のどんな好きよりも、熱くて、輝いている。そういう気持ちが、恋なのかな、なんて。そんな、私の大好きなおとちゃんと……今日は……デート!!

 

 デートって……なにそれ!? なにすればいいの!? デートなんてしたことないからわかんないよ! おとちゃんとデート出来る事は勿論嬉しい。これまで何度も2人でお出掛けしたけど、私が恋に気づいてからは初めて。そう、初デート! こんな事なら、すみれちゃんにデートの極意でも聞いておくべきだったかも……まぁ、すみれちゃんもおとちゃんが特別好き同士だし、ライバルだから。教えてくれるとは思えないけど。

 

「かのんちゃん!」

 

 なんて考えているうちに。私の大好きな人が目の前に立っていた。女の子じゃないのかって思うぐらい、綺麗な顔立ち。私を見つめるそのお日様色の瞳の輝きに、吸い込まれそうになる。ああ、やっぱり好きだなぁ。おとちゃんの事……。

 

「かのんちゃん?」

 

「はっ! なんでもないっ。おはよ、おとちゃん!」

 

「おはよう。ごめんね、待たせちゃったかな?」

 

「大丈夫! それじゃあ……デ、デート! 行こっか!」

 

「うっ、うん……」

 

 デート、って言葉を聞いて、おとちゃんが顔を赤らめる。もっとも、それは私も一緒だろうけど。デート……デートならまず、手を繋がなきゃダメだよね?

 

「ん……」

 

 おとちゃんの指先に触れた途端、そこが火傷しちゃいそう。は、恥ずかしい! でも、手は繋ぎたいし……辛うじて、おとちゃんの指先をちょこっと握る。

 

「えっと……かのんちゃん、手繋ぎたいの?」

 

「えっ!? う、うん」

 

「それじゃあ。はい」

 

 私を見かねたのか、おとちゃんが私の指をほどいて、その手を掴む。柔らかい、温かい。握られた手から腕を伝って、色んな情報が頭をびゅんびゅん飛び回る。でもやっぱり、その中で1番大きいのは好きって気持ち。

 

「恥ずかしいけど……でも、かのんちゃんがしたい事は、してあげたいから」

 

「ありがと、おとちゃん……えへへ」

 

 顔を赤らめながらもおとちゃんが告げてくれた言葉に、また好きって気持ちが大きくなる。改めて手を繋いだ私達は、待ち合わせの公園から町へ、ゆっくり歩き始めた。

 

***

 

 おとちゃんと歩いている間に、私は今日のデートプランを練り始めた。最初はやっぱり……大人なカフェがいいよね!

 

「……のんちゃん、かのんちゃん」

 

 ムーディな音楽が流れる店内で、お洒落なケーキ。おとちゃんと半分こなんてしちゃったりして……きゃー!

 

「かのんちゃん?」

 

「ひょあ!? な、なぁに、おとちゃん」

 

「何か考えごと? ずっと呼んでたけど、応えてくれなくて」

 

「あっ……ごめん! それで、どうしたの?」

 

「えっと、今からどこ行くのかなって……」

 

 きた! 今こそ産地直送のデートプランを活かす時!

 

「カフェ巡りなんてどう?」

 

「かのんちゃんのお店?」

 

「ノンノン! どうせならお洒落なところ、行こうよ!」

 

「うんっ、そうだね。それで、どこのお店?」

 

「う~ん……」

 

昨日SNSで調べて何店か目星はつけてるけど……ブックマークを開いて、幾つかの候補と睨めっこ。その中の1つに、ビビーンと来るモノがあった。昨日はよく見てなかったけど、カップル限定のパフェという文字が視界に飛び込んでくる……これだ!

 

「ここなんてどう?限定のパフェがあるんだって」

 

「限定の……美味しそう! それじゃあ、ここにしよっか」

 

「了解! それじゃ、お店までおとちゃんの事、エスコートするね」

 

「ふふっ。それじゃあ、よろしくね」

 

 完璧! なんか、お店を決める今この状況もカップルっぽかったんじゃない!? 私はおとちゃんの手を引いて、鼻歌交じりでそのお店へと向かい始めた。

 

***

 

 数分後、私達はお店の前までついた。お店の中に入らないのかって? 入らない……否、入れない理由があった。

 

「本日、定休日……」

 

「え、えっと……かのんちゃん?」

 

「ごめんっ、おとちゃん! 私の調べ不足だった……」

 

 SNSの公式ページには、確かに今日が定休日だという事が書いてある。それを知らずにここまで来ちゃったのは、私の落ち度だ。

 

「ううん、気にしないで。次のお店を探そうよ」

 

「……うん」

 

 折角のおとちゃんとのデート、これ以上無駄な時間は作りたくない。

 

「次は、このお店なんだけど……」

 

 歩いて5分の所にあるお店。どうやらここも限定のスイーツが人気で……

 

「申し訳ございませんお客様。ただいま大変混み合っておりまして……」

 

 人気すぎて、1時間待ちらしい。

 

「ここもダメかぁ……」

 

「かのんちゃん、僕は1時間ぐらい……」

 

「ん~……でも……」

 

 おとちゃんは良くても、私は納得出来ない。おとちゃんとの時間を、ただ並んで話しているだけで使っちゃうなんて。勿論、おとちゃんとお話する時間もすっごく楽しいよ? でも、折角のデートならもっともっと、特別な事がしたい。

 

「……次のお店は、絶対大丈夫だと思うから。ここはね、カフェラテが凄く美味しくて」

 

「でも、このお店。今臨時休業中って……」

 

「あ……」

 

 どうしよう、どうしよう。折角のおとちゃんとのデートなのに。焦ってばっかりだ。このままじゃ……

 

「ん……えっとね、かのんちゃん。僕、良いお店知ってるんだけど」

 

 私が焦っていると、おとちゃんからの救いの一言が。

 

「本当!?」

 

「うん。じゃあ、今度は僕がエスコートする番……なのかな?」

 

「えへへっ。よろしくお願いしますっ」

 

 おとちゃんがお店に連れてってくれるとわかって一安心。本音は、私がいいとこ見せておとちゃんに凄いって思われたかったけど。私はおとちゃんの腕を握って、一緒に歩き始めた。おとちゃんが言う素敵なお店って……どんなところだろう?

 

***

 

 おかしい。おとちゃんが手を引いてくれるままに歩いて行くと、周りが次第と見知った景色に移り変わっていく。そうして、おとちゃんの足が止まった。

 

「さ、着いたよ。ここが、僕の知ってる1番良いお店」

 

「いや、ここって……ウチの喫茶店、じゃん」

 

「あはは……やっぱり、ダメ?」

 

「もう! だって、折角のデートだよ!? お洒落なところ行きたいって、言ったじゃん!」

 

「僕はここもお洒落だと思うけど……」

 

「いや、そう言ってくれるのは嬉しいけど。見慣れすぎちゃってるし」

 

「んぅ……」

 

 そう言うと、おとちゃんは少し困ったような笑顔を浮かべた。ああ、嫌だなぁ。折角のデートなのに、おとちゃんにこんな顔させちゃって……。そんなおとちゃんが、口を開く。

 

「僕、昨日からデートってモノについて少し考えてみたんだ。デートって何をするのか、何をすればデートなのかなって」

 

「それは……すみれちゃんと、デートしたから?」

 

「うん。それで思ったんだ。デートって……特別、何かをしなきゃいけないのかな。勿論、そういう事をしたいって思う人達を、否定するつもりはないよ。でも、僕は……かのんちゃんといれるこの時間、場所。全部が特別だから」

 

「おとちゃん……」

 

「えっと、ごめんね! かのんちゃん、どこか行きたいって張り切ってたのにこんな事言っちゃって。でも、かのんちゃん焦ってたから……」

 

 ああそっか。おとちゃんへの特別な気持ちに気づいてから、何かおとちゃんと特別な事をしなきゃいけないって思ってたけど。別に、そうである事に拘る必要はないんだ。おとちゃんと特別な何かをする必要はないんだ。おとちゃんと過ごせば、どんな時間も場所も、全部が特別なんだ。

 

「……おとちゃんっ」

 

「ん? なぁに」

 

「パフェ、また今度食べに行こうね」

 

「うんっ」

 

「それじゃ、ウチ入ろっか。なんでもご馳走してあげる!」

 

 少し遠回りしちゃったけど、おとちゃんのおかげで大事な事に気づけた。ああ、やっぱりおとちゃんは、いつも私を助けてくれるな。そう思いながら、私はおとちゃんの手を引いて、カフェの扉をくぐった。

 

***

 

「はーい、いらっしゃいま……あれ、かのん? と、おとちゃんじゃない。2人でデートじゃなかったの?」

 

「デ、デートだよ! お家デートする事にしたの!」

 

「あらあら。おとちゃん、ゆっくりしてって頂戴ね。何でもご馳走してあげるから。お代はかのんのお小遣いから天引きね」

 

「あ、あはは……自分で払います……」

 

 もう、お母さんに会わせると絶対からかわれるんだよね。これだからウチでデートするのが嫌だったってのもあるし。私達は向かい合わせで空いてる席に腰掛ける。

 

「おとちゃん、何食べたい?」

 

「ん~。ここの料理、全部美味しいからなぁ」

 

「もう。何かあるでしょ? 言ってみて」

 

「う~ん……」

 

 おとちゃんがうんうん唸っていると、お母さんがまた横から茶々を入れてくる。

 

「どうせなら、かのんが作ってあげたらいいじゃない」

 

「もぉ、お母さん。今おとちゃんとはデートの途中で」

 

「あら、手料理を振る舞ってあげるのはお家デートの醍醐味だと思うけど。どうかしら、おとちゃん?」

 

 お母さんの呼びかけに、おとちゃんは顔を上げる。なかなか熟考してたみたい。

 

「え、えっと……かのんちゃん、料理作ってくれるの?」

 

「へ!? う、うん! おとちゃんの好きなモノ、何でも作ってあげる!」

 

「本当!? じゃあ、かのんちゃんのオムライス。久しぶりに食べたいな」

 

「任せて! とびっきりの、作ってあげる!」

 

 おとちゃんと一緒の席に名残惜しさを感じながら、私はエプロンを巻いてキッチンに立つ。うぅ、料理とか久しぶりかも。でも、おとちゃんに下手なモノ食べさせられないもんね、気合入れなきゃ。

 

 前に聞いたけど、おとちゃんの家は薄焼き卵にケチャップをかけた、The オムライスって感じのタイプが出てくるらしい。でもウチの喫茶店で出しているのは、ふわふわの半熟卵にデミグラスソースをかけたタイプ。前に食べて貰った時も、美味しい美味しいって夢中で食べてくれたっけ。でも、前と同じじゃ、つまらないよね。

 

 私はスマホの料理アプリから、目当てのレシピを見つけて、それに従って調理を進める。実は、前にも何回か挑戦してみたんだけど、全部失敗してる。でも、今日だけは負けられない。火加減、卵の色味、全部を慎重に見極めて、皿のご飯に盛り付ける。あとは……。

 

「おとちゃん、おまたせ!」

 

「わぁ。とっても美味しそう! でも、変わった形してるね?」

 

 そう。私が出したお皿にはバターライスが盛り付けられていて、その上にオムレツ型の卵が乗っている。ソースもかかってないし、おとちゃんの中では、これをオムライスと認識するのにちょっとラグがあったみたい。

 

「ふっふっふ……まだ、“仕上げ”が残っているからね」

 

「仕上げ?」

 

「うん! 見てて」

 

 私はエプロンから取り出したナイフで、そっと卵に切れ込みを入れる。ナイフを進めると、そこから卵がふわりと広がって……やったぁ、成功だ! これ、SNSで見てから一度やってみたかったんだよね。

 

「うわぁ、凄い! 流石かのんちゃん!」

 

 おとちゃんも、目をキラキラさせてオムライスに見入っている。完全に広がった卵がバターライスを覆って、後はそこにデミグラスソースをかければ……!

 

「はいっ、完成! どうぞ、召し上がれ!」

 

「ありがと! いただきます」

 

 おとちゃんはスプーンを手に取って、オムライスを口に運ぶ。おとちゃんの口の中にオムライスが消えた瞬間、おとちゃんの顔にパァッと笑顔の花が咲く。私は思わず、小さくガッツポーズ。

 

「うん……美味しい! とっても美味しいよ!」

 

「ホント!? 喜んで貰えて嬉しいな。ありがと、おとちゃん!」

 

「かのんちゃんも一緒に食べようよ」

 

「え、えぇ。私はいいよ。おとちゃんの為に作ったんだし」

 

「でも、僕だけ食べてるってのも……」

 

「んぅ……わかった。じゃ、一緒に食べよっか」

 

 私はおとちゃんの元へ……さっきとは違って、おとちゃんの隣に腰掛ける。

 

「え、えっと……かのんちゃん?」

 

「あ、あーん。あーんして、食べさせて。折角のデートなんだしっ」

 

「あらあら。お熱いわねぇ」

 

「お母さんは黙って!」

 

「え、えぇと……じゃあ、あーん」

 

 おとちゃんは、一匙オムライスを掬って私の方に差し出す。熱々のオムライスに息を吹きかけて冷まして、パクリ。

 

「うん、我ながら美味しく出来てる」

 

「ふふっ。えっと……よかった、って言うべきなのかな」

 

「おとちゃんが言うことじゃないでしょ」

 

「あれれ」

 

「もう……後はおとちゃんが食べていいから」

 

 それから、おとちゃんはオムライスを食べ進めて、目の前の皿には食べカスの1つも残らなかったのだった。

 

***

 

「今日はご馳走様。とっても美味しかった!」

 

「ありがと、おとちゃんの為なら毎日でも作ってあげるから」

 

 すっかり日が傾いてきた頃、私は家の前でおとちゃんをお見送りしようとしていた。

 

「毎日は、流石にちょっと悪いかなぁ」

 

「もう、本気なのに。ま、それは将来的にね」

 

「えっ?」

 

「なんでもなーい」

 

 ま、鈍感なおとちゃんがこの言葉の意味を知るのは……もうちょっと、先かな。

 

「おとちゃん、また明日ね」

 

「うん。明日の練習も頑張ろう。それじゃ」

 

 そう言って、おとちゃんは私に背を向け、路地の向こうに消えていった。

 

「おとちゃんとかのん、なかなかお似合いじゃない?」

 

「もう、お母さんってば……公認、って事でいいのかな?」

 

「ふふっ。さ、かのんも晩御飯にしましょっか」

 

「はーい」

 

 おとちゃん。明日もまた、普通で特別な日を一緒に過ごそうね、なんて思いながら。私は家の扉をくぐったのだった。

 




コラム④:かのんに「歌う事と音羽、どっちが好き?」と聞くと、熟考した末に「そんなの決められるわけないじゃん!」とキレられるので、この質問はNG。

次回更新もよろしくお願いします。
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