星達のオーケストラ~双星のセレナーデ~ 作:NiwaNiwa
ある日のこと。今日もいつも通り、Liella!の練習日であり、部室にはメンバー達が集まろうとしていた。4番目に来た可可が、いつもより広い部室を見て首を傾げる。
「あれ、レンレンと音羽は?」
「生徒会のお仕事を片付けてから来るって。あの2人も凄いよね、学校の仕事とスクールアイドルを両立させてて」
「そうデスね! 2人は本当に凄いデス」
可可と千砂都が2人に感心している中、かのんとすみれはその2人の会話に特に反応するわけでもなく、スマホと向き合っていた。だがしかし、内心は気が気でないのだ。自分達の想い人が、他の女子と2人で一緒にいる。しかも、相手は幼馴染み。そんな状況を少しでも紛らわせる為に画面の中、情報の海に浸っていたのだ。
そうしている内に、部室のドアがノックされる。
「あ、音羽達デスかね?」
「んー? でも、おとくん達だったらノックしてすぐに入って来るハズだよね」
そんな疑問を解消するように、扉の向こうから声が放たれる。
「し、失礼します!」
その声と共に部室に入ってきたのは、音羽と恋のどちらでもなかった。
「ほぇ? えっと、貴女は……」
「西田さん、だっけ? 合唱部の」
「は、はいっ! お久しぶりです、嵐さん」
部室に入ってきたのは、音楽科の制服に身を包んだ、1人の女子生徒だった。元音楽科として、千砂都は面識があったのだろう。
「どうしたの、こんなとこまで。あ、取り敢えず座ってよ」
「し、失礼します」
西田と呼ばれた人物は、空いていた席に腰をかける。
「え、えっと……実は、スクールアイドルクラブの皆さんに、相談があって」
「相談?」
そこで、かのんとすみれも顔を上げた。クラブ全体への相談とあらば、自分達も当事者で違いないからだ。
「その……うぅ……」
西田は口を開こうとするが、何故かその度にみるみると顔が赤くなっていく。
「もう、何かあるならさっさと話しなさいよ」
じれったさを覚えたのか、すみれが西田に催促する。
「は、はいっ! じ、実は……私、あ、あ、東君の事が好きなんです!」
その瞬間、かのんとすみれの方からガタンッと大きな音が鳴った。2人が椅子から乱雑に立ち上がる音だった。
「もう、かのんちゃん、すみれちゃん?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「ご、ごめんね、ちぃちゃん! ちょっと……い、椅子の調子が悪くって!」
全くの嘘である。自分達の他に音羽が好きだという人物の登場に2人が動揺するなか、千砂都と可可はその話に興味津々であった。
「それで、西田さん!」
「音羽が好きって、どういう事なのデスか~!?」
2人はスクールアイドルである前に、華の女子高生。コイバナという甘味な話は大好物なのであった。
「えっと……私、合唱部の方でパートリーダーをしているんですけど。前に、東くんが色々歌のコツとか教えてくれて。その時に……」
「きゃーきゃー!」
千砂都と可可が大はしゃぎの様相を見せる中、かのんとすみれは小声で話し合っていた。
「ど、どうする。すみれちゃん」
「別に、私達以外に音羽を好きって子がいても不思議じゃないわよ。それに、言っちゃ悪いけどぽっと出でしょ? そんな子に音羽が取られてたまるかってんの」
「わ、すみれちゃん悪い事言ってる……」
かのんとすみれが悪い会話をしているとはつゆ知らず、他の3人はコイバナで盛り上がっていた。
「それでそれで! 西田さんはおとくんとどうしたいの!?」
「は、はいっ! えっと……その、東くんと一緒に帰りたくって」
「おぉー! それは所謂、下校デートと言うヤツデスね!?」
「それで、その……東くんを誘いに来たんですけど……」
「残念ね。音羽だったら今、恋と生徒会よ」
「葉月さん……」
すみれの口から恋の名前が出た瞬間、西田の顔が険しくなる。かのんやすみれと、考える事は一緒なのだろう。
「どうしマス? 可可達が西田サンの事を音羽に伝えておきマショウか?」
「いえ、誘うのは自分でしたいですから。今日は、何時まで練習されるんですか?」
「えっと……今日は5時までだね」
「では、その時間にまた伺います! それじゃあ、えっと……失礼します!」
それだけ言って、西田は部室を後にした。
「ほわぁー。しかし、音羽も隅におけないデスね」
「ふふっ。おとくんって、実はモテるんだよね」
可可と千砂都に笑顔が見られる反面、かのんとすみれの顔は険しかった。自分の好きな人が他の女子とデートするというのは面白くない。それに、もし。もし万が一。そのデートで西田が音羽に告白をして。万が一音羽がそれを受け入れたら。そう思うと、気が気でなかったのだ。
「……すみれちゃん、本当に“ない”んだよね」
「いやまぁ、よっぽどないでしょうけど」
口ではそう言っても、心のどこかに一抹の不安があるのは、間違いないのだ。
***
そうして、約束の時間が来た。練習を終えた6人が後片付けをしていると、コンコンとドアをノックする音が。事情を知らない音羽と恋は来客に首を傾げていたが、他の4人はその正体を知っていた。
「はーい、どうぞー!」
「失礼しますっ!」
「あれっ、西田さん? どうしたの」
「こ、こんにちは。東くん。えっとね、その……きょ、今日。一緒に帰らない!?」
部室に入るや否や、西田は頬を染め、単刀直入に音羽に要件を伝える。
「えっと……合唱部の事で、何かあったのかな?」
相対する音羽は、流石の鈍感っぷりを発揮していた。何も部の事で要件があるならこの場で済ませればいいものの、それをしないなら別の要件があることなど、普通の人なら察せるだろう。だが、それが出来ないのが音羽であった。
「う、うん。まぁ、そんなところ」
西田も、音羽の勘違いを利用する事にしたらしい。もっとも、少し残念そうに眉を下げていたが。
「えっと……みんな、いい?」
「うん、いいよ! 西田さん、おとくんの事よろしくね」
「男女水入らずでゆっくり話してきてクダサイ!」
「ちょ、ちょっと! 唐さん!」
「ふふっ、いってらっしゃい。音羽くん」
「う、うん。それじゃあ、行ってきます?」
恋のお見送りに応え、音羽は西田と共に部室を後にする。そんな2人の背中を、かのんとすみれは複雑そうに見ているのだった。
「さ、それじゃあ私達も帰ろっか! と言っても、私はこの後、バイトなんだけどね。かのんちゃんはどうする?」
「あ、えっと……寄ってってもいい?」
「大歓迎だよ! タコ焼きご馳走するね! 他のみんなは?」
「私は、今日はサヤさんとご飯を食べに行くので……」
「あら、いってらっしゃい。私は真っ直ぐ帰ろうかしら。可可、あんたは何か用事でもあるの?」
「別にないデスけど」
「そ。じゃ、一緒に帰りましょうよ」
「なぁんで可可がすみれと……ま、一人ぼっちのすみれの為に、付き添ってあげなくもないデスけど」
「はいはい」
「それじゃ、今日もお疲れ様でした!」
残った面子は千砂都の音頭で、解散となったのであった。
***
千砂都のバイト先にて。鉄板から昇る湯気を挟んで千砂都を見ながら、かのんは溜息をついていた。
「……はぁ」
「どうしたの? かのんちゃん」
「別に……」
今も音羽は、あの西田という女子と一緒にいるのだろうか。そう思うと、どれだけ溜息を吐いても、胸のモヤモヤまでは吐き出せなかったのだった。
「……おとくんの事が心配?」
「うん……って、なんで今おとちゃんの話が」
「好きなんでしょ? おとくんの事」
「……はぁっ!?」
千砂都の口からその言葉が出た瞬間、かのんは勢いよく立ち上がった。その頬を、今しがた千砂都の目の前の鉄板の上で踊っているタコよりも鮮やかな赤色に染めながら。
「ふふっ。今日のデジャヴだ」
「き、気づいてたの?」
「なーんとなくだけどね? 幼馴染みの勘ってヤツ?」
「そう、なんだ……」
「それで、本当なの?」
この期に及んで言い訳は出来ないだろうと、かのんは素直に自分の胸中を打ち明けることにした。
「うん……私は、おとちゃんの事が好き」
「そっか……いやぁ、しかし。あのかのんちゃんが遂に恋かぁ」
「からかわないで! もう、だから言いたくなかったのに」
「あはは、ごめんごめん」
かのんは口を尖らせながら、腰をかける。
「……いつぐらいから気づいてたの?」
「ん~、そうだなぁ。おとくんが復活してからぐらいだから、年末年始ぐらい? その時はまだぼんやりそうなのかなぁって思ってたぐらいだけど、ほぼ確信したのはこの前抱きついてた時かな」
「ふーん……」
「あれを見るに、すみれちゃんもそうなんだよね?」
「言っていいのかな、なんてもう答えか。うん、そう。すみれちゃんも、おとちゃんの事が好き」
「そっか」
「私、すみれちゃんと勝負してるの。どっちがおとちゃんを振り向かせられるか、どっちがおとちゃんと付き合えるか。だから、今日おとちゃんがあの西田さんって人と一緒に帰ってるのが……凄く不安で」
「うーん……でも、相手を選ぶのはおとくんでしょ? それがかのんちゃんかすみれちゃんじゃなきゃいけないってわけじゃないじゃん」
「そうなんだよね……はぁ」
千砂都に正論を突きつけられ、かのんは項垂れる。
「まぁ、こればっかりは明日、西田さんに何があったか報告してもらうしかないよ。今日告白するって決まったわけじゃないんだし」
「そうだね……はぁ」
「ほらほら、溜息つかないの。ちぃちゃん特製タコ焼き食べて、元気出して!」
「……うん」
目の前に差し出された美味しそうなタコ焼きを見ても、かのんの不安はまだ消えないのだった。
***
一方その頃。可可とすみれは、帰路を辿っている途中であった。
「はぁ……」
特に会話をするでもなく、すみれから何回目かになる溜息が吐き出される。
「もう、すみれさっきから溜息ばっかりうるさいデス」
「出さなきゃやってられないのよ……」
「……何かあったのデスか」
可可は可可で、そんなすみれを心配しての発言だった。足を止めて、すみれの方を真剣に見やる。すみれも足を止め、可可の方に向き直る。
「別に、あんたにわざわざ言う事じゃないわよ」
「なぁんでデスか! 言えないのなら、その溜息を止めてクダサイ!」
「……はぁ」
「ほらまた! 言えデス! 言ってクダサイ!」
「わかったわかった。言うったら言うわよ」
「まったくもう……」
すみれは再び歩き始めながら、何気ない調子で言った。
「私、音羽の事が好きなの。だから、今日の事が面白くないの」
「なぁんだ……ほぇ?」
「……どうしたのよ。私、ちゃんと言ったわよ」
「菫喜欢音羽!?」
「いや、何言ってるのかわからないわよ」
「すみれは音羽の事が好きなんですか!?」
「で、デカい声で叫ぶんじゃないわよ!」
周囲の通行人が2人を見ながらクスクスと笑う様子を見て、すみれの顔は真っ赤になった。
「ほぁ! ご、ごめんなさいデス」
「こほん……えぇ、そうよ。私は音羽が好き。悪い?」
「別に、可可は何もいってマセンが……」
「そう。なら、この話は終わり」
「あ、待ってクダサイよ!」
早足に歩き出したすみれを、可可は慌てて追いかける。
「その。すみれは音羽が好きだから、西田サンの事をあまりよく思っていないのデスか?」
「えぇ、そうよ。あんたもあんたよ。お膳立てするみたいな事言っちゃって」
「可可はそんな事言ってないデス! もしかして、自分がそうされなかったからそれが嫌だったのデスか?」
「はぁ? あんたの助けなんかなくても、私は自分の力だけで音羽を振り向かせられるわよ。勘違い甚だしいわ」
「そこまで言わなくていいじゃないデスかぁ! あぁ、もう! すみれ、止まってクダサイ!」
そこでようやく、可可はすみれの手を掴む事が出来た。
「……何よ。まだ何か言い足りないの」
「なんで、なんで可可に言ってくれたのデスか」
「……」
すみれは可可の問いに、言葉を詰まらせる。胸中の不安をぶちまけなければ気が済まなかったから、だけなのかもしれない。でも、その相手が誰であってもいいというわけではないだろう。
「別に、気まぐれよ」
「そうデスか。でも、ありがとうございマス」
「なんで」
「すみれの秘密、可可に言ってくれて」
「……ふん。別に、秘密になんてしてないわよ」
「ふふっ。本当に素直じゃないデスねぇ、すみれは」
「うっさい」
2人は歩幅を合わせて、再び帰路を辿り始めたのだった。
***
次の日の朝。いつも通りLiella!のメンバーは朝練習の為に部室に集まっていた。だがしかし、音羽と恋には10分程遅い時間を伝えていた為、まだ来ていない。わざわざそうした理由とは言わずもがな。西田から昨日の事について報告を聞くためであった。
「それで、西田サン!」
「昨日はおとくんとどうだった!?」
「は、はいっ……えっと……」
西田が話し出そうとした瞬間。
「……うぅ」
彼女の目には、大粒の雫が浮かんでいた。
「ちょ、西田さん!?」
「どうしたのデスか!? 涙を拭いてクダサイ!」
「ご、ごめんなさい。その……昨日の事思い出したら、泣けてきちゃって……」
「何かあったの?」
「まさか、音羽にフラれたのデスか?」
「ちょ、可可ちゃん! 直球過ぎるって」
「「……」」
3人のやり取りを、かのんとすみれは黙って見守る。機能から音羽と彼女の間に何があったのか、気が気でなかったのだ。
「西田さん、落ち着いた?」
「ごめんなさい、取り乱しちゃって」
「いいよ。落ち着いて、ゆっくり話して」
「はい。昨日、部活の事とか色々話ながら帰って。それまではよかったんです。東くんも、楽しそうに話してくれて」
「うんうん、それからそれから?」
「どうしたのデスか?」
「……私、『明後日の日曜日に一緒にお出掛けしない?』って誘ったんです。そしたら、東くん『その日は恋ちゃんと予定があるから』って……」
「なんだ。それだけだったら、また別の空いてる日にでも誘えば……」
「違うんです! 東くんに、『何の用事で出掛けるの?』って聞いたら、『今度のバレンタインの準備をしに買い物に行くんだ』って言って……その時の東くんの顔、凄く嬉しそうで……だから、だから。最初から私にチャンスなんてなかったんです。だって、東くんには……葉月さんがいるから」
それを聞いて、4人は複雑な顔つきになる。彼女のが自身の恋を諦めた事を、察したのだろう。
「あの、皆さんにはなんてお礼を言ったらいいか」
「そんな、私達は何もしてないよ」
「そうデス! 寧ろ、何もしてあげられなくて申し訳ないと言いマスか……」
「いいえ。こうして話を聞いてくれただけでも、嬉しかったです。それじゃあ、失礼します」
涙を拭いて立ち上がった西田は、部室を後にした。
「かのん。ちょっとこっち」
「え。あぁ、うん」
「かのんちゃん達、どうしたの?」
「ちょっと、かのんと話があるから」
そんな西田の背中を見て、すみれはかのんを連れて屋上に出たのだった。
***
「えっと……すみれちゃん? 西田さんの事でどうかしたの?」
「別に。あの西田って人は、勝手に自分の中で自分にチャンスがないって決めつけた。あの子は自分で自分の恋を終わらせたのよ。まぁ、それにとやかく言うつもりはないわ」
「そう……」
かのんとしては、すみれはあの西田という人物にもっと言いたい事があるだろうと思ったが、それ以上は追求しない事にした。
「それにしても、音羽。デート中に別の女の子の名前を出しちゃいけないって言ったのに、もう忘れちゃったのかしら? これは後でシめる必要があるわね……」
「あはは、程々にね」
「こほん。それで、本題だけれど。音羽と恋は……本当に付き合ってると思う?」
すみれの口からその言葉が出た瞬間、かのんも唾を飲んだ。考えないようにしていたが、いずれは明らかにしないといけない問題であっただろう。
「でも、おとちゃんも恋ちゃんも、付き合っている事をわざわざ隠すような子達じゃないと思うし……お付き合いするなら、ちゃんと私達に伝えていると思う」
「私も同意見よ。でも……やっぱり、一度この目で確かめなきゃいけないと思わない?」
「それって、どういう意味」
「尾行するのよ! 2人のデートを!」
「え」
かのんはすみれからもっと賢い案が出てくるかと思ったが、アニメの中でしか見ないようなシチュエーションを提案された事に困惑していた。
「あの2人がどこに出掛けるか今日聞いて、それで当日2人の後を付けるのよ!」
「それってストーカー……」
「恋の家に初めて行くときもやったじゃない」
「いや、そうだけども」
「とにかく! あの2人が付き合っているのかいないのか、それを今度の日曜日確かめるわ! それまで一時休戦よ、かのん」
「お、おー……」
付き合っているのかいないのか、直接あの2人に聞けばいいのではないか。それを口に出せるほど、かのんは子供ではなかったのだった。
コラム⑤:西田さんは今回限りのキャラのつもりでしたが、原作者である龍也さんに好評だった為、今後も出番がある……かもしれません。
次回更新もよろしくお願いします。