星達のオーケストラ~双星のセレナーデ~   作:NiwaNiwa

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第6話 想い人、その背を追う。~前編~

「音羽くん、お待たせしました!」

 

 とある商業施設のモニュメント前にて、一組の男女が待ち合わせをしていた。

 

「恋ちゃん! ううん、今来た所だから大丈夫」

 

「ふふっ。お互い約束の30分前ですけどね」

 

「あはは。でもこの前ね、すみ……」

 

「すみ?」

 

「あ、ううん。何でもないや。それじゃ、行こっか!」

 

「はいっ!」

 

 2人は仲睦まじく、建物の扉の中に消えていく。その数コンマ後で、モニュメントの影から新たな2つの人影が。

 

「ふぅ……気づかれずに済んだわね」

 

「あんなギリギリでよく気づかれなかったね」

 

「ま、死角になってたからね。それより、かのん。あの2人を見てどう思う?」

 

「うぅ~ん……手は繋いでなかったし、セーフ?」

 

「まだわからないわ。とにかく、今日のあの子達のデートを見て、本当にあの2人が付き合っていないのか調べるのよ」

 

 その2つの人影とは、かのんとすみれであった。そう。今日は同じ部の仲間である音羽と恋―先程の男女である―が交際しているか、それを調査する為に2人を尾行するのである。理由は言わずもがな、この2人が音羽の事を好きだからだ。意中の相手に既に思い人がいては、普段からしのぎを削り合う努力が無駄になってしまう。そうならない為にも、こうして調査に赴いたのだ。

 

「それにしても音羽。私のデートは20分前に来たくせに恋とのデートは30分前に来るなんて……ぐぬぬ」

 

「でもすみれちゃんの名前言いかけてたし、すみれちゃんから学んだって事じゃないの?」

 

「ま、そういう事なら許してあげなくもないわね。それじゃ、行くわよかのん」

 

「はーいっ」

 

 この尾行を提案したのはすみれだ。当初は乗り気でなかったかのんも、なんだかんだでやる気になっていた。かのんとすみれは音羽と恋を追って、ドアをくぐるのであった。

 

***

 

 音羽と恋が最初に向かったのは、アパレルショップであった。洒落た英語のネオンの下をくぐる2人を見て、かのんとすみれは早速訝しげに眉をひそめる。

 

「……バレンタインの準備って言ってたじゃない」

 

「服を一緒に買いに行くなんて……なんだか凄くデートっぽいよ、すみれちゃん!」

 

「そんなの私もわかってるわよ。どうする? ここからじゃ店の様子なんて見えないけど」

 

「偶然を装って合流するとか?」

 

「そんなの尾行の意味がないじゃない。私達も客を装って店に入るわよ」

 

 そんなこんなで方針が決まったかのんとすみれは、彼等の後を追って店の中に入る。音羽と恋がいたのは、メンズコーナーであった。2人はバレないように、服を探している素振りをしながら2人を観察する。

 

「……音羽の服を選んでいるのかしら」

 

「いいなぁ……ね、すみれちゃんはおとちゃんにどんな服着せたい?」

 

「そうねぇ、実はカッコいいのとか似合うんじゃないかしら。革ジャンとか」

 

「えぇー、それは冒険し過ぎじゃないかな」

 

「そういうかのんは?」

 

「うーん……お揃いのパーカーでペアルックしたい」

 

「私欲じゃないの」

 

「いいじゃん」

 

 かのんとすみれが言い合っていると、音羽と恋は服を決めたらしい。一着の服を持って試着室の方へと歩みを進めた。かのんとすみれも間合いを保ちながら2人の後をつける。カーテンの閉まった試着室の前にいたのは恋1人であった。

 

「おとちゃんが今、あのカーテンの向こうで着替えてるんだよね……」

 

「……かのんのすけべ」

 

「はぁ!? いや、別にそういう意味で言ったんじゃないし。てか、すみれちゃんはそういうの考えないの?」

 

 かのんが言い返すと、すみれは何か話そうとしたのか、少し口をまごつかせた後無言で頷いた。

 

「ほら、やっぱり。すみれちゃんも人の事言えないじゃん」

 

「わ、私の事はいいから。ほら、そろそろ音羽が出てくるんじゃない?」

 

「なんかはぐらかされたんですけど……ま、いいや。恋ちゃん、おとちゃんにどんな服を選んだのかな……」

 

 そうして、カーテンが開かれる。音羽が身に纏っていたのは、黒のコンフォートジャケットだった。下半身のスマートなパンツと合わせて、まるでスーツを着ているかのように見えた。普段はカジュアル寄りの服装をしてる音羽であったが、フォーマル風な装いもまた似合う事似合う事。

 

「わぁ! 音羽くん、凄く似合っていますよ!」

 

 微かにそう恋の声が聞こえてくるが、そんな事は露知らず。かのんとすみれは思い人の格好良さにその場で悶えていた。そんな二人を見て、近くを通りかかった店員が首を傾げたが、そんなモノは目に入らない。二人の目には、音羽しか映っていないのだ。

 

「んぎゅっ……おとちゃん、がっこいいっ……」

 

「これは恋にもナイスと言わざるを得ないわね……」

 

「僕、これにしようかな」

 

「はい! 我ながら良い服を見繕えたと思えます。着替えたらお会計しましょうか」

 

 カーテンの向こうに音羽が消えると、2人は少し名残惜しそうな表情を浮かべてその1枚布の向こうにいる音羽に想いを馳せるのであった。。

 

「……あれを買うって事は、いつでもあの音羽が見られるって事よね」

 

「うんうん! カッコいいおとちゃんを、今度は至近距離で……!」

 

「何妄想してんのよ。ほら、音羽達出るわよ」

 

「あ……待ってよ、すみれちゃん!」

 

 試着室から出てレジに向かう音羽達を、かのんとすみれも追いかけるのだった。

 

***

 

 音羽と恋、仲良く歩く2人と一定の距離を保ちながらかのんとすみれはその後をつける。人混みを縫って後を付けるのは至難の業だが、音羽達から目を離さずに2人は歩き続けた。

 

「おとちゃんってさ、可愛い系と綺麗系だったらどっちの方が好きなのかな」

 

「何よ、藪から棒に」

 

 途中、無言を貫くのに耐えかねたのか、かのんがすみれに質問を投げかけた。確かに、意中の相手の好みというのは恋愛においても大事な要素であるだろう。

 

「気にならない?」

 

「気になるけども」

 

「でもさ、綺麗系だったら恋ちゃんに勝ち目ないよね……はぁ」

 

「自分で聞いて自分で予想した挙句落ち込まないでよ」

 

「そりゃ、すみれちゃんはちょっと綺麗だけどさ、私はそういうんじゃないし……」

 

「ちょっとって何よ。この私はギャラクシー級に綺麗でしょうが」

 

「だとしたら恋ちゃんはユニバース級に綺麗じゃない?」

 

「ギャラッ、上位互換……じゃなくて! 失礼な事言わないのよ」

 

「あだっ」

 

 すみれのチョップがかのんに炸裂したところで、音羽と恋はカフェへと吸い込まれていった。

 

「ほら、かのん。私達も入るわよ」

 

「はぁーい。すみれちゃん、奢ってね」

 

「なんでよ」

 

***

 

 カフェに入った4人……2人と2人は、それぞれ席へと案内される。恋と音羽は1番奥の席、かのんとすみれはそこから少し離れた席だった。ここですみれ、大事な事に気が付く。

 

「……どうしましょ。これじゃ2人が何してるかも、何話してるかもわからないわ」

 

 そう。尾行目的で入ったのに、かのんとすみれが座っている席は角度的に2人が見えない。そして、店内で流れるシックなBGMが離れた席の会話を遮っていた。

 

「じゃなんで入ったのさ。入ろうって言ったのはすみれちゃんでしょ」

 

「い、いいじゃない! 丁度喉も渇いてたし。ほら、かのんも何か決めなさいよ」

 

「あー、逃げた」

 

 半ばヤケクソになってメニュー表を開いたすみれに習って、かのんももう1つのメニュー表を開く。

 

「私、カフェオレ」

 

「私は……そうね、クリームソーダにしよっと」

 

「すみれちゃん、おこちゃまだ」

 

「うっさい。美味しいモノに年齢なんて関係ないの」

 

 呼び出しボタンを押して(声を出さずに済んで2人とも安堵したのは言わずもがな)店員に注文を伝えた後は、飲み物が来るまでゆったりと待つ時間。店内のBGMとユニゾンするのは当然、お喋りである。

 

「すみれちゃんってさ」

 

「ん」

 

「……おとちゃんと、どれぐらいえっちな事考える?」

 

「それ掘り返すの!? てか、パブリックな場所でやめなさいよ」

 

「えっと……じゃあ1から10で」

 

 かのんにそう言われたすみれは、少し頬を朱に染めて、小さく口を開く。

 

「……じゅう」

 

「うわぁ」

 

「あんたが聞いたんでしょうがっ。そういうかのんは」

 

 そして、聞き返されたかのんもすみれと鏡写しの如く、同じような変化を遂げてから口を開く。

 

「え、えっと……じゅう」

 

「……この話、止めましょう。するとしても、また今度ね」

 

「……はい」

 

 微妙な空気が2人の間に流れる。それをなんとか払拭しようと、2人の頭の中では会話デッキが高速でシャッフルされていた。そうして15秒ほど沈黙が続いた後、いいカードを引いたのはすみれであった。

 

「かのんは、その……音羽のどういう所が好き?」

 

「うぇっ!? え、えっと……まず声が綺麗でしょ」

 

「1番がそれなのね」

 

「い、いいじゃん! あの声で『かのんちゃん』って呼ばれると、胸がトクンって高鳴って……」

 

「それには同意ね」

 

「あと、Liella!の事を1番に考えてくれているでしょ? 勿論、私達5人の事は平等なんだろうけど……でも、思われてるなぁって。そう考えると、幸せな気持ちになるんだぁ」

 

「ノロケじゃない」

 

「えっへへ~」

 

 頬に手を染めて左右に揺れるかのんを見て、すみれが呆れたように溜息をつく。

 

「そういうすみれちゃんは?」

 

「そうねぇ。まぁ、かのんに言われちゃったけど、私達の事をちゃんと思ってくれてるってわかるのがいいわよね」

 

「うんうん」

 

「あとは……顔ね」

 

「うわ、現金」

 

 かのんがすみれにじっとりと湿った視線を送るが、すみれはお構いなしに続ける。

 

「いいじゃない。大事よ、顔。音羽って、普段は可愛い顔してるでしょ?」

 

「うんうん」

 

「でも、決まってる時のキリッとした顔は『あ、やっぱりこの子は男の子なんだな』ってなるじゃない? そのギャップにこう、キュンッて来ちゃうわよね」

 

「それ、すっごくわかる。なんかさ、おとちゃんって性別がおとちゃんだよね」

 

「言い得て妙ね。というか、そういう声優いなかったかしら」

 

「えっと、村○歩?」

 

「そうその人」

 

 他愛もない会話をしていると、注文した飲み物が運ばれてきた。かのんの前には湯気が昇るコーヒーカップが。すみれの前には、すみれのイメージカラーと同じ色をしたグラスがそれぞれ鎮座する。

 

「あ、いいなぁバニラアイス。1口頂戴」

 

「ダメよ。自分で頼みなさいったら頼みなさーい。ん、美味し」

 

「ちぇ、すみれちゃんのケチ」

 

 バニラアイスを口に運ぶすみれを恨めしげに見ながら、かのんもカフェオレを啜る。コーヒーの苦みとミルクの甘みを口の中で転がした後、かのんが思い出したかのように口を開く。

 

「そういえば……おとちゃん達、何頼んだのかな」

 

「さっき注文はしてたわよね?」

 

 すみれの言う通り、かのん達が話している間に店員が音羽達の席とカウンターを往復しているのを2人は横目に挟んでいた。暫く待っていると、音羽達が注文したであろう品を運ぶ店員がかのん達の席を横切る。

 

「えっと……あれは苺オレとオレンジジュースかな」

 

「ふふっ。2人ともわかりやすいわね」

 

「ねー。あ、すみません。バニラアイス1つお願いします」

 

 音羽達の席へ飲み物を運んだ店員を呼び止めて、かのんが注文する。余程すみれのクリームソーダ……その上に乗っかったアイスが羨ましかったのだろう。

 

「ふふっ。アイス楽しみだなぁ」

 

「あんたも大概おこちゃまじゃない」

 

「おこちゃまでいいもーん」

 

 暫くして運ばれてきたバニラアイスを幸せそうに頬張るかのんを見て、すみれは呆れつつも、その口元に笑みを浮かべているのであった。

 

「ほーら、かのん。今日の目的忘れていないでしょうね」

 

「むぐむぐ……おとちゃん達の尾行でしょ?」

 

「忘れてないならいいのよ。あの2人、今何してるのかしらね。あんたちょっと見てきなさいよ」

 

「いや、不審すぎるでしょ。そもそも絶対バレちゃうって」

 

「まぁ、確かに……気が気でないけど、こればっかりはどうしようもないわね」

 

 これ以上考えるのは無駄だと判断したのか、2人は目の前の飲み物をちまちまと口の中に運びながら、時折談笑を楽しんで時間を潰した。やがて、2人のカップとグラスが空になった頃、奥の席で動きがある気配がした。

 

「かのん、顔隠して」

 

「えっ、あ、うん!」

 

 メニュー表を開いて注文を考える素振りを装いながら、音羽と恋が自分達の隣を通るのをやり過ごす。そして、2人が会計を終えたのを見計らってかのんとすみれも席を立った。

 

「かのんは音羽達の向かう先を見てて。会計は私が済ませるから」

 

「え。すみれちゃん、本当に……!」

 

「奢りなわけないでしょ。お代は後でキッチリ貰うからね」

 

「むーっ。わかりましたー」

 

 会計を済ませた後、彼女達は再び、想い人の背中を追い始めるのであった。




コラム⑥:2人とも音羽の一番好きな所は内面だが、2番目についてはかのんは『声』、すみれは『顔』。

次回更新もよろしくお願いします。
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