疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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 初めて罪を犯した時のことを覚えている。衝動的であったこともよく覚えている。そうして今の俺が出来上がったことを思い出している。

 

 無意識の罪ではなく、意識的な罪。確実に罪ということを意識して行った一つの禁忌。

 

 俺はそれを忘れてはいけない。忘れてはいけない。

 

 だから、俺は理由を求め続ける。

 

 理由がなければ、行動をしてはいけないのだ。

 

 

 

 

「今日は来ますか?」

 

 ポスターの仕事を終わらせて、生徒会室に帰ろうとしている矢先に、階段の踊り場で伊万里とすれ違った。

 

「いや、今日は家に帰らなければいけないらしんだ」

 

「そうですか。了解です」

 

 彼女は階段を昇る。俺は彼女の後ろ姿を見て、かける言葉を考える。

 

「あのポスター、良かったと思うぞ」

 

 彼女はその声に振り向いた。少し驚いたような表情で。

 

 彼女は俺の顔を見つめた後、恥ずかしそうに照れながら、また前へと向き直る。

 

 喜んでくれたのなら、それでいい。

 

 俺は生徒会室に向かった。

 

 

 

 

 赤座はまだ帰っていなかった。生徒会室にいたのは、俺を嘲笑うように会長席に座っているルトだけだった。

 

「それで、高原はどんな選択をすることができたんだ?」

 

 ルトは俺の行動を見越していた。俺が想像していた通りに。

 

「……剥がしましたよ。適当に二年生のところだけ」

 

「一年のところは?」

 

「……剥がせませんでした」

 

 ルトはそれを聞くと、面白そうに笑った。

 

「もしかして、科学同好会のポスターだけを剥がさないのではなくて、全部剥がさなかったのかよ」

 

「……そんなに面白いことですか」

 

「いやあ、面白いに決まっている。本当に君には正しさがつきまとっているねぇ!」

 

 それは確実に嘲笑だった。

 

「それは選択しているようで何も選択をしていない。正しさも選択もしていないんだ。それでも君は二年生のポスターを剥がしていた。それが俺には面白くてたまらない」

 

 俺は、一年職員室前のポスターを、あらゆるポスターを剝がすことはできなかった。だって、正しくないから。

 

 もし、あそこで科学同好会のポスターだけ剥がさないという状況があれば、他の部活や同好会はどうなるのだろう。平等ではない。それは正しさじゃない。

 

 でも、俺は科学同好会のポスターを剥がせない。何が所以しているのか、彼女の絵を見るたびにその行動を鈍らせる。俺は画鋲抜きを手に取ることはできなかった。

 

 二年生のポスターを剥がしたのに、そんな行動をとるのは矛盾している。きっと、順番が異なっていたのならば、俺は二年生のポスターさえ剥がすことはできなかったかもしれない。

 

「やはり高原は自己犠牲の塊だね。もしくは獣だ。だが、別にこれは誉め言葉ではない。そして罵るための言葉でもない。

 

 正義や正しさは一方的なものだ。得するものもいれば損するものも存在する。それを君は俺に見せつけてくれた。いやあ、君にこの仕事を任せてよかったよ」

 

「……そう、ですか」

 

 俺は、そうとしか返すことはできない。そんな返事の束の間に、背後で生徒会室の戸が開く音がした。

 

 後ろを振り向けば、そこには赤座がいる。

 

 俺は彼に一度会釈だけをして立ち去る。

 

 これ以上、俺に言葉は不要だった。

 

 

 

 

 皐のメッセージ以外に何か通知が来ることはなかった。ここ最近では愛莉のメッセージが届くことが多かったのに、今となってはその影さえ見せない。

 

 そのきっかけを作ったのは、俺だ。俺自身だ。それが正しい行いだ。彼女に対して行うべき一つの正義だ。

 

 だから、寂しく感じるのは矛盾している。……矛盾だろうか、単純に身勝手なだけだろうに。

 

 矛盾という言葉を使うことで世界の理不尽さを演出するのはどこか違う。それは世界として、俺の指標として正しくない。正しくないから、きちんと自分の気持ちを整理する。

 

 ……何もしたくない。

 

 俺は、屋上に向かった。

 

 

 

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