疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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 そうして催された誕生日会は、滞りなく盛り上がりを見せた。その場において気まずさはなかった。俺が想定していた不和は現れなかった。

 

 まるで、昔の関係性に戻ったような錯覚がした。皐と愛莉がワイワイと遊ぶように関わる様子。台所に行った皐を追いかけるように、愛莉も夕食作りに参加していた。

 

 俺は適当にテレビをつけて時間をつぶした。あたたかな日常の空気が鼻に香る感覚がある。俺はそれを心地がいいと思った。

 

 しばらくして彼女らに呼び出されて食卓についた。何分という感覚だったが、おおよそ数十分は経過していたらしい。心地がいい時間とは、意識に流れる時間さえも鈍らせるのか、とそう思った。こんな時間が永遠に続けばいいのに、そんな思惑を過らせるのは仕方がないことだろう。

 

 箱からケーキを出して、横に張り付けられているカラフルなろうそくを取り出した。本数は彼女の年齢と同じで、中には皐の好みであったチョコレートケーキがあった。まあ、甘いものが彼女は好きだったから、どれでも好みになっていただろうけど。

 

 皐と愛莉は台所から温めたらしいチキンや名も知らぬ洋食をケーキの横に並べていく。誕生日会っぽいラインナップだということはなんとなく思った。

 

 俺のそんな無知を無視して、彼女らは同じように食卓について、ろうそくをケーキに差し込んでいく。ケーキにはチョコのプレートが中心に乗っかっている。『さつき 誕生日おめでとう』、そう書かれたプレートの横に添えるようにろうそくをさし込んだ。俺もその作業に参加した。

 

 ろうそくを並べ終わって、いよいよ火をつけて息を吹くタイミング。俺は居間の戸の方に向かい、扉近くにある電灯の電気を消した。そこそこの暗がりができる中で、チャッカマンでつけられたろうそくの明かりがゆらゆらと影を揺らしている。彼女らの一挙一動、その呼吸がひとつひとつ火を揺らしている。消えそうな不安定さがあった。

 

 その中で、愛莉は携帯の画面をつけた。画面をスライドさせて、カメラへと切り替える。皐はそれと向き合うように対面で準備をしている。その幼さがどこか愛おしかった。

 

 ……きっと、俺にはできないことだ。

 

 ケーキなんて用意されてろうそくを並べられても、俺には答えることができないだろう。

 

 彼女はまだ子どもなのだ。だから、そんな仕草で振る舞える。……俺でさえも大人ぶった子どもの一人なんだろうけど。

 

 愛莉がハッピーバースデーを歌う。高い声に綺麗な音程、それに合わせて低い声で俺の声音を重ねる。ハーモニーはそこにはなかったかもしれないが、ろうそくの明かりで揺れる皐の顔は楽しそうだった。俺の下手な歌が含まれていても、彼女が笑っている仕草が癒しの要素につながるような気がした。

 

「さつきちゃん、誕生日おめでとー!」

 

「おめでとう」

 

 歌い上げた後にそう言うと、皐はにこやかに答えるようにろうそくの火を消した。途端に暗がりになる世界の中、しばらくぱちぱちと拍手を響かせて、そうして俺は電気をつけた。

 

 視界の明暗のギャップを受け容れながら、俺は楽しそうな顔をする皐の顔を視界に入れる。

 

 こういう景色を迎えることができてよかった。俺は心の底からそう思って、その後も安堵の時間を彼女らと過ごした。

 

 会話は特にはなかったけれど、それでも居心地はよかった。適当に垂れ流しているテレビの画面を見たり、もしくは愛莉が最近撮ったらしい猫の写真などを共有したりした。

 

 

 

 

「今日は来てくれてありがとうございました」

 

 愛莉を玄関まで送り届けて、そうして皐は会釈をした。

 

「いいんだよー! わたしも楽しかったし!」

 

 愛莉はそう返して、玄関の扉を開ける。

 

 少し温い空気が扉から抜けてくる。

 

「ちょっと送ってくるよ」

 

「了解です」

 

 皐はそう返した。その声を聞き届けて、俺は愛莉と一緒に外に出た。

 

 

 

 

 「ねえ」と愛莉は俺に声をかけた。

 

 世界には暗闇しかない。電灯の明かりはあまりにも淡くて、そこに光は存在しないような雰囲気がある。月もそこには存在しなくて、二人だけの世界に閉ざされている雰囲気を感じずにはいられなかった。

 

 俺は特に答えなかった。一緒に歩くことがそもそもの肯定だった。返事なんていらなかった。

 

「どうして」と彼女は言った。俺はその後の言葉を知っていた。

 

「──さっちゃんは、翔也にあんな風なの?」

 

 ──あんな風、と彼女は言った。

 

 あんな風、あんな行動、あんな仕草、他人行儀に関わってくる敬語の其れ。距離感をとる身内に対してのすべて。

 

「……さあ? なんでだろうな」

 

 俺は、目を逸らしながら答えた。

 

「──うそつき」

 

 彼女はいつものようにそう呟いた。でも、一つ違ったのは──。

 

 ──どこまでも空虚なように、がらんどうに吐くその言葉。その仕草だけが、いつもと違っていた。

 

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