疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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 夕焼けは未だに現れることはない。夏に近づくにつれて太陽は主張を増していく。主張を増すということは、日中の時間がそれだけ長引くということであり、俺はそれに対して嫌悪感を催した。

 

 まだ、目の前には爽やか空気があるけれど、きっと一週間ほど過ぎれば、俺はこの空気を嫌いになる。夏という季節を好きになることはどうしてもできない。それを言うなら、俺はどの季節も好きではないのだが。

 

 目の前にいる彼女は、どこか楽しそうな足取りで歩いていく。俺の憂いを無視して。無視するも何も、彼女は俺の気持ちなんて知らないだけなんだが。

 

 物理室で想像した通りと言うべきなのか、彼女との間には沈黙が介在している。俺は彼女の後ろを携帯で遊びながら歩いている。彼女は特に気に留めることもなく、ただ目的地に対して歩みを進めていた。

 

「そういえば」

 

 彼女はふと思いついたように言葉を吐く。声を出したタイミングでこちらの方を振り返ったもんだから、俺は触っていた携帯を瞬間的にポケットへ仕舞い込んだ。

 

「科学同好会って何をやっている場所……、なんですか?」

 

 彼女は不慣れな敬語を使いながら俺に答えを求めた。

 

「何をやっている、か……」

 

 俺は答えを見つけるために考えてみる。

 

 でも、思いつくことは何もない。

 

 適当に音叉で遊んでいたり、もしくはニュートンのゆりかごで遊んでいたり、正直に言わなくとも活動と言える活動は今のところしていない。

 

 おそらく、部員が集まったのならば、天体観測という大掛かりな活動をすることになるだろうが、その気配は今のところ感じない。

 

 どれだけ勧誘しても手ごたえがないのだ。最近に関しては、俺たちに対して鬱陶しい視線が気になって仕方ない。

 

「そうだなぁ……」

 

 俺はそう言葉を吐いて時間稼ぎをするけれど、彼女はまた思いついたように言葉を呟く。

 

「あれですか。花壇の栽培とか、もしくは魚の飼育とか?」

 

「……うん、それができればよかったんだけどな」

 

 できればよかったというか、なんというか。別にできなくもないけれど、それを科学同好会でやるべきかを聞かれれば、なんとなく違う感じがする。

 

 彼女が言った事柄はどちらかというと自然科学の方だ。あくまで科学同好会は物理室を間借りしている以上、科学的な実験を対象としているはずだから、俺たちは実験などをするべきなのかもしれない。まあ、今のところそんな実験をやったこともないし、俺も伊万里もそこまで活動に対して積極的な様子を見せることはなかったけれど。

 

「科学同好会って聞くと、なんか真面目な雰囲気があって、近寄りがたい感じがするんですよね」

 

 彼女の敬語は他人行儀だ。実際他人だからどうしようもないのだけれど。

 

「……そんな雰囲気ある?」

 

「悪口になったら申し訳ないんですけど、理知的な雰囲気を醸し出しているというか、なんというか」

 

「……マジか」

 

 俺はため息をついた。

 

「別に、科学同好会はなにか具体的な活動をしている場所ではないんだけどなぁ。主に雑談しかしていない」

 

「……そうなの?」

 彼女は意外そうにつぶやいた。本当に意外だったのか敬語がとれている。

 

「なんせ部員が足りないんだ。活動しようにも、活動する規模っていうものがあるだろ。人が少ないとなにもやる気が起きないし、少ない中でやっても盛り上がりに欠けるというか、やる意味が見つからないというか」

 

 ……まあ、人が増えたところでなにか活動する気が起きるかどうかで言えば、起きないのだけれど。

 

 彼女はへぇ、と意外そうな雰囲気を崩さないままに息をついた。

 

「いやあ、伊万里ちゃんがいるから入ってもいいかなぁ、とは思うんだけれど、最近はあんまり会話していないし、近寄りがたい雰囲気がね」

 

 彼女は語る。

 

 伊万里とは旧知の仲ではあるらしかった。旧知だからこそ気まずさが介在するのかもしれない。

 

「私、理科の成績についてはそこまでよくないし」

 

「大丈夫、俺もそこまで成績がいいわけではないと思う」

 

 中間考査は来週に控えている。実力については来週あたりに晒すことができるだろう。

「科学同好会、なんて言ってはいるけれど、適当なことしかやってないよ。どうだ、入ってみる気はない?」

 

「うーん」

 

 彼女は迷っているようだった。

 

 迷っている、ということは入る可能性は五割くらいはあるということだと思う。

 

 ……ここはダメ押しをするタイミングかもしれない。

 

「科学同好会に入ったら、この学校の秘密も教えてやる」

 

 俺は屋上のことを片隅に入れながら言葉を呟く。

 

「えっ、面白そう」

 

「それくらい科学同好会は虫の息なんだ。君が入ってくれれば科学同好会は救われるのだ」

 

 偉ぶった口調で言うと、彼女はなにそれ、と苦笑しながら「しょうがないなぁ」と呟いた。

 

「……ということは?」

 

「入る入る! なんか、面白そうだし!」

 

 彼女は少しはしゃぐような様子を見せて笑う。

 

 俺は、その言葉に少しだけ安堵感を持った。伊万里にいい知らせができそうだったから。

 

「よし、ということで今日から君は科学同好会……、いや科学部の新入部員だ! よろしく頼むぞ君!」

 

 名前を知らないから、俺は君という言葉で彼女を強調した。

 

 彼女はやはり苦笑した。

 

 

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