疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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「あっ」

 

 歩いていると、聞き覚えのある声。前の方向から。

 

 ……嫌な予感がする。俺は前から視線を逸らして、足元にだけ意識をして前へと進む。

 

「……無視はなくないすか」

 

「……うい」

 

 後方に置いた彼女の声に、俺は振り向くしかない。

 

 見覚えのある容姿ではあるものの、見慣れない学生服を着ている女の子。

 

 肩にかかるほどの長い髪。中学の時には運動部に入っていたせいで、髪は太陽に晒されて、少しばかり茶髪を帯びている彼女──竹下 愛莉がそこにはいた。

 

 

 

 

 彼女は俺の幼馴染である。そして、元恋人ともいえる関係性。

 

 幼馴染としての付き合いは幼稚園に通っていたころから中学に至るまで、おおよそ人生の半分以上を彼女と過ごしてきている。

 

 愛莉と俺は高校を別に選んでおり、今となっては彼女と会う機会については少ない。……いいや、少なくしている。

 

 彼女と俺の家族の関係は良好である。だから、彼女が何の気なしに俺の家に寄ることが多い。俺が早く帰ると彼女と出会うことが四月ごろは結構あった。

 

 彼女と別れてからおおよそ三か月ほど。愛莉は特に俺との別れを気まずく思っていないのか、よく家にやってくる。だからこそ、俺は家に帰るのが最近は億劫になってきていた。

 

 でも、さすがにここで出会うことは想定していない。俺はため息をつきそうになった。

 

「ライン、送ったんだけど」

 

 愛莉は俺を見つめながらそう言った。

 

「そうなんだ」

 

 俺は知らないふりをした。実際、既読はつけていないから、それで嘘は突き通せるはずだった。

 

 でも。

 

「うそつき」

 

 愛莉は俺の目をしっかりと見つめながら、嘲るようにそう言った。幼馴染である彼女には、俺の嘘は手に取るようにわかるようだった。

 

 昔、そんな話をしたことが記憶に残っている。俺は表情には出ないタイプだと、よく周囲にはそう言われていたのに、彼女については俺の感情と手に取るように把握してくる。

 

 魔女か、と彼女をちゃかした時は愛莉も笑っていたけれど、今はそれで笑えそうもない。俺も、彼女も。

 

「携帯、没収されたんだ」

 

「私のメッセージ、見たからでしょ」

 

「……ご名答」

 

 俺は彼女から視線を逸らした。目を合わせれば、そこから情報が抜き取られる感覚がする。きっと、その行動に意味はないのだけれど。

 

「そもそも授業中にメッセージを送ってくるのが悪い」

 

「それはそう」

 

 彼女はふふっ、と笑いあげた。つられて笑いそうになるけれど、それは控えた。俺が笑うのは、彼女に対して不義理だと思ったから。

 

「ちょっと、うちに寄ってきなよ」

 

「……」

 

 断りたかった。そんな気持ちが心を占有する。

 

 だが、彼女の言葉の圧力にあらがうのは難しそうだった。

 

 俺は無言で彼女について行く。気まずさがどこまでも背中に這いよっていた。

 

 

 

 

 具体的に別れの話を切り出したことはない。だが、今のような関係性になったのは、俺が勝手に進路を決めて彼女から逃げたからだった。

 

「一緒の高校に行こうね」

 

 愛莉はそう言ってくれたから、俺も彼女と進路を同一にしていたのが夏ごろの話。

 

 だが、当時の教師に成績のああだこうだをつつかれたり、妹の皐にいろいろ諭されたことを原因として、俺は勝手にもともとの志望校よりもレベルが低い高校を選んで、そこに入学することを決めた。

 

 他人のせいにしているが、結局のところ最後に行動を選択したのは俺自身だ。俺のせいでしかない。

 

 愛莉には何も伝えていなかった。彼女に伝えることが怖かったから、何の言葉もなく一月を迎えて、そうして彼女に隠し事がバレた。

 

 彼女に伝えれば、きっと俺に合わせて行動してくれるだろう。だが、それさえも不道徳にも感じてしまったから、俺は彼女に伝えることができなかった。

 

「翔兄は、本当にこれでいいんですか」

 

 進路を選択するとき、皐は俺にそう諭した。

 

「ずっと、ずっと愛ちゃんに寄りかかって、それで本当にいいんですか。それは愛ちゃんの負担になっていませんか。本当にそれで翔兄はいいんですか」

 

 俺はその言葉に答えることができなかった。

 

 結果として残ったのは、俺が愛莉を裏切ったという事実。

 

 だから、俺は彼女に向き合うことはできない。

 

 俺は、愛莉に向き合うことはできない。

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