疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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 なあ、俺はなんなんだ。俺はなんなんだ。俺はなんなんだよ。誰か答えを明示してくれないか。

 

 俺はどうしようもない存在なんだ。誰か俺を救ってくれないか。

 

 俺はどうやったら救われるんだ。俺は救いを求めているのに、どうして俺は救われないのだろう。俺の救いとは何だ。俺の救いとは何だ。何もわからない。よくわからない。理解が遠いような気がする。どうすればいいのだろう。俺は誰に救いを求めればいい。

 

 伊万里ではないはずだ。伊万里に救いを求めていいはずがない。伊万里は正しさを求めている。正しさを持ったうえで、俺に行動してくれた。思いやりをかけてくれた。だが、その優しさを俺はもう無碍にした。それでなくとも、彼女が俺の罪を許してくれるだろうか。それはわからない。考えたくない。どうしようもない。

 

 皐に許しを乞えばいいのだろうか。それを俺は許されるのだろうか。彼女に対して距離感のあるすべてを、俺は許せるだろうか、許してもらえるのだろうか。

 

 ──だから、愛莉の顔が思い浮かぶのだ。

 

 愛を振舞う彼女であれば、幼馴染である彼女であれば、俺と心から繋がっていると感じさせてくれる彼女なら、あらゆる優しさを共有してくれる彼女なら、どんな嘘でさえも見逃してくれる彼女であれば、俺はきっと救われるのかもしれない。

 

 俺は、愛莉を──。

 

 

 

 

 携帯の画面を閉じた。雨によって滲んだ画面は操作を受け付けてくれなかった。指を認識してはくれなかった。触る画面がすべてブレ続けた。俺の救いはそこにはなかった。何度も画面を拭いて確かめてみた。それでも画面は開けなかった。俺がそこに存在していることを証明しないように、携帯の画面はそのままだった。

 

 俺は凹んだアスファルトに溜まった水たまりを蹴りながら、家に帰る。

 

 制服はずぶ濡れだ。衣替えをしたワイシャツがぴたりと肌に張り付く感覚がする。その感触が気持ち悪くてしようがない。すべてを脱ぎ去りたい。自分を、高原翔也を。

 

 

 

 

「大丈夫ですか?!」と皐は俺に声をかけてきた。

 

 明るい色を下げている玄関という空間、そこに自分から垂れ落ちていく溜まった雨の雫の音が呼吸とともに聞こえてくる。その様を見て彼女は驚いた表情をしている。

 

 俺は、大丈夫なのだろうか。

 

 ああ、大丈夫だ。いつも通りなんだから、大丈夫なはずなんだ。

 

「大丈夫だよ。傘を忘れただけだから」

 

 そもそもが予報外れの雨だ。雨に打たれた理由なんて大したことでもなかった。傘がなかっただけだった。別にどうでもいいことだった。時間をかけて歩いてきただけだった。伊万里の家との距離が離れているだけだった。本当にそうなんだろうか。雨に打たれて歩きたくなったのかもしれない。どうなんだろう。俺はどうして濡れたんだっけ。

 

「と、とにかくタオル持ってきます!」

 

 皐はそういって風呂場の方へと駆け込んでいこうとする。

 

「──いや」

 

 そんなことを彼女にさせているのが申し訳ない。俺は雨に濡れるべきではなかったのだろうか。俺はどうするべきだったんだろうか。俺はあそこで傘を買うべきだったのか、傘をもらうべきだったのか。誰に? 伊万里にか。伊万里に傘をもらえば皐に迷惑をかけることはなかったのかもしれない。だが、どうすれば傘をもらえたのだろう。貸してもらえたのだろう。俺が彼女に相談すればよかったのだろうか。言葉を吐きだせばよかったのだろうか。彼女に言葉を紡ぐことができれば、それでよかったのだろうか。

 

 俺はなんなんだ。なんなんだよ。

 

「──大丈夫だから」

 

 彼女に俺は声をかけた。これ以上に彼女に何かを思われたくなかった。何もされたくはなかった。干渉されたくはなかった。何もしてほしくはなかった。

 

「でも」

 

「いいから」

 

 俺はずぶ濡れた足を引きずりながら風呂場へと歩いていく。

 

 彼女の視線が俺に突き刺さるような気がする。でも、俺はそれを無視した。

 

 

 

 

 子供の頃の記憶を思い出すことができなくなっていた。何か夢のようなことを愛莉に語っていたことがある。でも、何一つ思い出すことはできなかった。詳細は存在しなかった。その時の記憶を聞きたいが、愛莉に聞くことはできない。億劫だ。すべての行動が億劫だ。俺が何をできるというのだろう。何を行動して、何を結果として為すのだろう。その行動は正しいのだろうか。その行動が正しくないとして、俺はどうやって行動を選択すればいいのだろう。俺はなんなのだろう。俺はどうすればいいのだろう。

 

 存在がどこまでも希薄になっていく。シャワーの温度が俺を浸すたびに、熱が浸透する。自分自身が微温湯になったような感覚さえ覚える。自分がすべて溶ける感触だ。すべてがどうでもいいと感じる。熱、熱、熱、温もり、冷たさ、末端の木漏れ日のような血流の巡り、俺は生きているのかもしれない。俺は生きているのだ。どうして生きているのだろう。生きることの目的については? 俺という存在は何なのだろう。足に触れる熱の感覚が白い。俺はどうしてここにいるのだろう。

 

 どうして、俺は彼女を傷つけたのだろう。

 

 

 

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