疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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『いや、気づかなかっただけ』

 

 俺はとりあえず通知を開いて、彼女に対する返信を適当に打ち込んでみた。実際、一瞬は認識できなかったのだ。言い訳はきちんと適切である。

 

 一応、それ以前に来ていた愛莉からの返信を眺めてみる。

 

『調子はどうすか』

 

 そんな感じの文言。それだけの文言。いつも通りという具合の愛莉からのメッセージ。先程は読み取ることができなかった一つの言葉。

 

 その言葉を咀嚼して、とりあえず俺は『まあ普通』と返信をする。

 

 すぐに既読がついた。

 

『うそつき』

 

 それもそうだな、って思った。

 

 

 

 

「というわけで来ちゃいました」

 

「……どういうわけなんでしょうか」

 

 適当な返信をしたあと、愛莉のメッセージが届くと同時に家のチャイムが鳴り響いた。途端に嫌な予感が渦巻いたわけだが、その予感は現実となってしまった。

 

 目の前には愛莉がいる。愛莉がいる。愛莉がいてしまっている。俺が求めていた人という存在が目の前にいてしまっている。

 

「いやあ、さっきさっちゃんから連絡が来てさ。体調大丈夫じゃないとかなんとか」

 

「……まあ、そうだけれど」

 

 ガラガラとした声で咳き込みながら、俺は彼女の言葉に答えた。彼女に風邪の要素が映らないように一応マスクはしているものの、それでも視線をそらしながら。

 

「学校は?」

 

「サボっちゃった」

 

「おい……」

 

 呆れながら俺は答えたけれど、それでも彼女の存在は、心細い俺にとっては救いのようなものだった。

 

 適当に、隣に人がいるだけでも心境に関しては異なってくる。それが例え気まずく思う相手であっても変わらない。伊万里であっても、皐であっても。

 

「ま、いいじゃん。愛しの彼女が来てあげたんだからさ」

 

「……」

 

 ……それでも距離感を覚えることはいつも通りなのだけれど。

 

 

 

 

「それで? なんで風邪なんて引いちゃったのさ」

 

 彼女はなにもない俺の部屋に上がると、不思議そうにそんなことを聞いてきた。

 

 周囲をジロジロと見回す彼女の視線が気になるような気がする。それよりも重くのしかかる倦怠感が辛いから、俺は布団の中に逃げ込んだけど。

 

「別に、昨日雨に打たれただけだよ。それ以上はない」

 

「……まあ、いきなりの雨だったもんね。仕方ないっちゃ仕方ないか」

 

 彼女はふむふむとうなずきながら、やはり部屋をジロジロ見回していく。少し心地の悪い感覚がする。後ろめたい何かが部屋にあるわけではないけれど、それでも部屋を弄られることに対してはいい気分はしないものである。

 

「あれ、お粥食べてないじゃん」

 

「食欲が無いんだよ」

 

 咳を吐きながら彼女に返すと、愛莉はふうんと、興味がなさそうに呟いた。

 

「あーんしてあげよっか?」

 

「衛生面がきになるから嫌だ」

 

「恥ずかしいとかじゃなくてそんな理由で断るんだ……」

 

 彼女はくすくすと笑う。俺もそれにつられて笑いそうになったけれど、笑ったら喉が痛いから抑えておいた。

 

「いやー、でもやっぱ翔也の部屋は落ち着くなぁ。呼吸を許されている感じがする」

 

「……どういうこと?」

 

「いやあ、ここ最近来ることが本当に少なくなっちゃったからかな。寂しいわけじゃないんだけど、そんな感じ」

 

「……そっか」

 

 どことなく気まずい感覚。

 

 だが、思考の虚は渦巻かない。風邪というのも相まって、思考力が回らないからかもしれない。だから、愛莉が適当に心を揺さぶる言葉を投げかけてきても、今は辛くはない。

 

「……ごめんな」

 

 だから、不意にそんな言葉が自分から漏れ出てくる。

 

 弱っているのかもしれない。実際に弱っているんだろうけれど、そんな言葉を吐き出すなんて自分でも意外だった。

 

 「何が?」と愛莉は言った。何もわからない、というよりかはとぼけているような印象がある。具体的な答えを俺から吐き出させようとしている。俺はそれに縋りたくなった。

 

「いや、なんというか、いろいろ」

 

「まあ、うん。まあ、いいよ」

 

 彼女は悩む動作を超えに含みながらそう返した。俺は自分で吐いた言葉を意識の中で反芻する。

 

 ──俺たちの間には色々ありすぎた。そうして気まずい関係を飾っているのが、今の自分にとってはどうしようもない罰としてのしかかる感覚がある。

 

 それに彼女を付き合わせていることも後ろめたい。そのいざこざのすべてに対して、こんな状況じゃなければ言葉を吐き出せない自分が情けない。

 

「なあ」

 

 俺は彼女に声をかけた。

 

 風邪という状況であるのに、今にも喉が枯れそうだというのに、それでも言葉を吐き出したい衝動がある。今の弱い自分であれば許されるのかもしれない、そんな気持ちが渦巻いている。その行動のすべてが後ろめたいはずなのに、愛莉はそれを受け入れてくれると知っているから、すべての言葉を彼女に委ねたくなる。

 

 背徳的だ。非倫理的で、どうしようもないほどに情けない話。

 

 素面で彼女に向き合うことができないから、そうして今俺は言葉を吐こうとしている。

 

 俺は、愛莉に許されたかった。

 

「なに?」

 

 彼女は横になっている俺の顔を、俺の目をしっかりと見つめながら。

 

「話を聞いてくれないか」

 

「ん、いいよ」

 

 彼女は特になにもないというように言葉を吐き出す。

 

 きっと、今なら言える。

 

 風邪という状況なら、彼女に許しを請えるのだ。

 

 そうして、俺は言葉を吐き出した。

 

 かすれた声で、がらがらな、喘鳴を鳴らしながら、ゆっくりと呼吸を整えて、心臓の位置を確かめながら、耳に触る鼓動の音を確かめた。

 

「俺は──」

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