疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 作:ひざぎ
◇◇◇
「それで、どこにいくんすか」
夏の日照りがアスファルトを焼いている。じりじりとしている空気と、どこかサンダルからも伝わってくる熱気が、自分の体を蝕んでいく感覚がどこまでも拭えない。
蝉の鳴き声がちらつく中で、俺は愛莉にそう言葉を吐く。
夏の日射に愛莉もやられたようで、ゆっくりと一度ため息をついた。そうして息を整えたあとに、わざわざ気丈に振る舞うように背筋を張ったあとに「内緒です」と返してくる。いちいちそんな態度をとる必要もないのに、彼女が気丈に振る舞おうとするから、俺も彼女の態度に答えるように、一応背筋を伸ばしてみた。それでも暑い空気と気だるさについては消えなかったけれど。
彼女の手元には、何かしらのチケットがある。どんなチケットか覗いてみようとすると、彼女はそれをポケットにしまい込んで、どこか得意げな顔をした。結局、行く場所については、たどり着くまではわからないようだ。
そうして歩き出していくアスファルトの道。景色さえもゆだって揺らめいて見える陽炎に、心底嫌な気持ちを覚える自分がいる。
別に、出かけることに対して億劫になっているわけではない。それでも、この時間を自室で勉強して過ごしていたら、少しは身になる時間なったのではないか、という気持ちは拭えない。
未だに彼女に対して、成績が、学習が追いついていないのだ。それならば、適切に学習をするべきなのだろうけれど。
「また考え事しているでしょ」
「……いや?」
誤魔化すように言葉を吐いたけれど、結局彼女は俺の所作を見ると「うそつき」といつも通りに言葉を返す。俺は、それに苦笑するしかなかった。
「今回のデートは何も考えないこと。リフレッシュなんですよ?」
「……デートなんすか?」
「デートっすよ」
彼女はるんるんと楽しそうな様子で言葉を付け足していく。
「男女、二人だけ、お出かけ、遊園地!」
「……遊園地行くんだ」
俺が気づいた言葉をそのまま吐く。「あっ」という彼女の声。
俺はやはり笑うしかなかった。
「い、いや。ほら、デートの気分だったから! お母さんになんかチケットももらえたから!」
「ほえー、なんか楽しそうな感じだな」
「楽しくするんです!」
彼女は愛をふりまくように笑顔でそういった。
こんなにも夏の気温が包んでいるのに、彼女はいつもの風体を崩さずに言葉を吐く。俺はそれが微笑ましくて、とりあえず、先程まで考えていた憂いのようなことは忘れるよう努めることにした。
それが、俺の今はやるべきことなのだ。
◇◇◇
たどり着いた場所は、彼女が漏らした通りの遊園地。近場の遊園地ではなく、遠目の、駅を何度も乗り継いだ先にある、町とはかけ離れている立地。家族とも赴いたことがない場所。
電車の冷房の空気は好きだった。中での冷房は効きすぎることもなく、ちょうどいい温度感だった。愛莉はその中でも少し寒そうにしていたのが印象的だったのかもしれない。
駅を乗り継いでいった後、目的の駅を降りると、そこからしばらくバスに乗られていった。
バスに人はまばらに存在していて、家族連れ、というか母子の群れだったり、もしくは同年代の男女だったり、もしくはグループでつるむようなやつがいたり、もしかしたら俺と顔見知りかもしれないだけのやつもいた。
愛莉は特に視線を配ることはなく、ただただふらりと過ごしていく。俺たちは席に座ることもなく、ただぼうっとバスの慣性に揺られながら、目的地までを過ごしていく。
「遠かったな……」
交通費だけで財布の中身を吸い取られた感覚がする。中身については豊潤というわけでもなかったけれど、その中身が失われていく感覚は少しだけ寂しく感じた。……どうせ、ここで使わなければ参考書に消えるだけなのだが。
彼女は俺の声に適当に相槌を打つ。特に何も気にしていないというふうに。
遊園地のゲートを前にして、右隅の方に見える大きい遊園地の欠片が、いよいよ俺たちが到着した、ということを認識させてくる。
「ここでお約束をしましょう」
「約束?」
「うん、大事なお約束」
彼女は俺に向きなおって言葉を付け足す。
「いち! ここでは勉強のことを忘れること!」
「……あい」
「に! ここでは恋人として振る舞うこと!」
「……まあ、愛莉がいいならそれで」
「さん! 全力で楽しむこと!」
「……がんばります」
自分自身ではしゃぐ様子については想像することができないけれど、中にはいったら年齢相応に盛り上がることはできるかもしれない。そんな期待を抱いてみる。
「よし! それでは入場の時間だー! おー!」
「……オー」
……こんな調子になるかもしれないけれど、彼女はそんな俺に苦笑をする。
俺は、そんな彼女の優しさに甘えている。
そんな、彼女の優しさに報いることができればいい。
俺は、そんなことを心の片隅で反芻していた。