疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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◇◇◇

 

 彼女の言葉を咀嚼して、頭の中で感情を整理する。

 

 “付き合っちゃおっか”

 

 彼女は、そう俺に言葉を呟いた。

 

 確かな呼吸を混じらせた言葉、どこか妖艶にも感じてしまう仕草の中に、彼女の言葉があった。

 

 俺が吐くべきはずの、紡ぐべきはずだった言葉の残骸。愛情の示し合わせ、俺が行うべきだった行動の一つ。それを彼女は俺よりも先に成し遂げている。

 

 ──どうして、俺はいつも彼女より遅すぎるのだろう。

 

 行動に対しての億劫なんだろう。

 

 そうすることで、どれだけ彼女に負担をかけているのだろう。

 

 愛情を紡ぐべき相手に、どうして俺は愛情を紡がれているのだろう。

 

 どこまでも、憂いのような気持ちが、心を占有している。

 

 どうして、どうして俺は──。

 

「ねえ」

 

 彼女の声が、俺の耳元に響く。

 

 目の前に、彼女がいる。彼女がいない。身体だけがそこにある。顔がそこにはない。耳元に声が響く。視線を横に逸らす。彼女が右側にいる。吐息が耳に反芻する。背中をぞわりと撫でるような感覚がある。すべてが淫靡に感じられる。身体の熱が中心にある、どくどくと心臓の鼓動が重なっていく。止まらない、彼女に対する意識が止まらない。

 

 それでも、視線をそらすように憂いだけが心を占有している。灰色がある。灰色のような、曇天の感情がそこにはある。

 

 自分に対して、どうしようもなさを感じずにはいられない。それでも彼女は俺との距離感をつめていく。どこまでも、俺の憂いを無視して彼女は俺に踏み込んでくる。

 

 どこか、一方的だ。でも、それを一方的にするのは、俺自身が許せない。

 

 俺が彼女に吐くべき言葉、するべき言葉。彼女が俺に問いかけているさまに返すべき答え。

 

 本当なら、俺が行うべきだったすべての行動。でも、そこに憂いを抱いていてもしようがない。

 

 観覧車が止まる。風は吹いていない。停滞したような空気、時間さえも固着したような張り詰めた感覚。観覧車は頂上にある。視線をそらせば、そこには高みからの世界がある。

 

 呼吸を整える。覚束なくなっている肺の活動を意識して、そうして彼女に言葉を添える。

 

「──本当にいいのか」

 

 本当に、俺でいいのか。

 

 それを俺は彼女に問わなければいけない。

 

 俺が彼女に言葉を吐き出したかったのは、感情を紡ぎたかったのは、彼女に精査されたかったからだ。俺が恋愛感情を吐き出したかったのは、彼女にきちんと選ばれたい、という気持ちがあったからだ。

 

 それが、どこまでも拭えないからこそ、俺は彼女に言葉を紡ぎたかった。だから、俺から行動をしたかったのに。

 

「──翔也だからいいんだよ」

 

 彼女は、俺の耳元で、顔を見せないままで呟いた。

 

 今までに彼女が見せることはなかった仕草の一つ。

 

 彼女の声は震えている。いつもは気丈に振る舞っている彼女だからこそ、違和感を覚える要素の一つ。だが、それは、彼女がそれだけ勇気を振り絞って吐いてくれた一つの愛だろう。

 

 ここに来るまでの間、彼女は楽しそうに振る舞っていた。その中で彼女はここにある緊張感をもたないで、気丈に振る舞い続けていた。それが今の彼女とは乖離している。乖離しているからこその振る舞いだろう。俺は、彼女に向き合わなければいけない。

 

 “翔也だからいいんだよ”

 

 彼女の言葉、彼女が俺を受容してくれた言葉。彼女が俺のことを精査した上で吐き出された許容の言葉。

 

 それなら、俺が返すべき言葉は──。

 

 

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