疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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5/A Word to You.
5-1


 

「なあ、俺はどうするべきだったんだと思う?」

 

 俺は愛莉に言葉を吐いた。 

 

 長い話をした。本来なら話すべきではない、一番話すべきではない話を、彼女に言葉として伝えてしまった。

 

 吐き出せた瞬間に、心が妙に温かくなる感覚を覚えた。どこまでも、どこまでも。その熱が身体の節々を温めて、帯びていくような、鉄のような感覚がそこにはあった。

 

 声はかすれた。長い話だったから仕方がないだろう。咳が言葉の節々に混じる。どこか喉の奥にあるスポンジが乾いたような感覚がする。そんな俺の様子を見て、彼女は静かに麦茶をコップに注いで俺に手渡した。

 

 彼女は、言葉を発していない。まっすぐと俺の瞳を見つめたまま、会話の内容を吟味するだけで、それを続けている。居心地の悪さはない。視線を外す要素もない。俺は彼女の瞳に引き寄せられて、そのまま言葉を待つしかない。

 

 どれくらいの時間が経過をしているかはわからない。指の先が震える感覚がする。寒気がする。夏という季節を迎えようとしているのに、あの夏の日を思い出す温度をしているのに、どこまでもどこまでも寒気が止まらない。気色の悪い感覚だけが反芻する。その感覚を誤魔化すために、俺は手渡された麦茶を喉の奥に仕舞い込んだ。スポンジに染みわたるような心地のいい感覚がする。その心地はすぐに還元された。

 

 彼女はその様子を見て、それでも言葉を吐こうとはしない。いつまでも、ずっと俺の言葉を吟味するように言葉を咀嚼している。

 

 その間、俺は感情だけを反芻していた。

 

 罪悪感、禁忌を犯してしまった罪、皐を犯し、穢して、その上で暴力を働いてしまった自分の存在。どこまでも、それを反芻してしまう。

 

 俺はどうすればよかったのだろう。その答えは、一年ほど経過しても見つけることができずにいる。

 

 俺は、許されてはいけない。

 

 衝動的に行動した結果が、皐を傷つけることになった。皐が俺から距離をとるようなふるまいをするきっかけになった。そのどれもが、俺の理由を考えずに行動した結果につながっている。そんな俺が許されていいはずがない。

 

「……えっとさ」

 

 愛莉は、口を開いた。

 

 何か、躊躇うような、そんな雰囲気を感じる。言葉の節々に感じるのは、言葉を吐きだしていいのか迷っている、そんな声音が彼女の中には宿っている。

 

「──それって、翔也が悪いの?」

 

 愛莉は、そう呟いた。

 

 

 

 

「今の話、聞いている感じだと翔也は悪くないな、ってずっと思っちゃうんだけど」

 

 彼女は当たり前、といわんばかりに、それでも本当にそう言葉を発していいのかわからない、という雰囲気で言葉を紡ぐ。俺は呆気に取られてしまいそうになった。

 

「ええと、だって、翔也は夜這いにかけられただけでしょ」

 

「……夜這い、というか、なんというか」

 

「いや、夜這いでしょ。確実に。夜伽ともいえるかもしれないけれど」

 

 その表現はどちらでもいいと思った。

 

「翔也がさっちゃんと自らやってしまったのなら、そりゃあ翔也が悪いよ。でも、翔也は本当は被害者であるはずじゃないの?」

 

「……いや、でも」

 

 もし、俺が被害者だとしても、それを防衛したのは過剰防衛だ。物理的に、彼女の額に血を流したその姿を作り出したのは、確実に俺が原因となるものだ。どこまでも俺のせいでしかない。

 

 そんな気持ちを言葉に吐こうとしたけれど、紡ごうとした瞬間に口をふさがれる。指で。

 

「翔也は悪くないもん」

 

 どこか、子供のような口調だと思った。意固地になっているような、そんな幼児期を思わせる言葉だった。

 

「翔也は悪くない。さっちゃんが悪い……、って言ったら、なんか違うかもしれないけれど、ともかく翔也は悪くないよ」

 

「……」

 

 俺は沈黙を返すことしかできない。彼女の言葉を理解しようと頭を働かせている。俺の感情に納得をつけるために、何度もその言葉を咀嚼する。何度も、何度も。

 

「さっちゃんが妹だったのは、仕方のないことじゃん。それで翔也が悪いってなるのは、なんか違うじゃん。それで翔也が悪いってなるのは、なんか私が嫌だ」

 

 愛莉は言葉を紡ぐ。

 

「世の中にはいろんな愛があると思うよ。もちろん、近親における恋愛だってあると思う。でも、その愛がダメだって世界に示されているのに、さっちゃんは踏み込んだんでしょ。翔也はダメだって思っているから、さっちゃんにそんなことをしちゃったんでしょ。正当防衛じゃん。正当防衛だよ」

 

 俺の感情に納得をつけさせるために、彼女は何度も言葉を吐く。

 

「でも俺は──」

 

「うるさい、聞かない」

 

 愛莉は怒気を孕ませながら言葉を続けた。

 

「さっちゃんを庇うのも、なんとなくわかるような気がするけれど、それをすることで翔也が更に罪を被ることになるんだよ。それでいいの?」

 

 ──それは、そうだ。

 

 俺は、皐との共犯者であると思っているし、その上で皐に対しての犯罪者だ。だから、俺は許されては──。

 

「翔也が何を言っても、何を思っても、それでも翔也は悪くないよ。絶対に悪くない。絶対に悪くないもん。だから、悪いとか思っちゃダメだよ」

 

「……」

 

 彼女の言葉を感情に浸す。

 

 自罰感情は、拭えそうにない。それでも、俺は彼女の言葉を浸すことが今は一番大事だと思って、そうして言葉を呑み込むことしかできなかった。

 

 

 

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