疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 作:ひざぎ
◇
決意は定まった。
愛莉と言葉を交わしたことで、そうして俺の心は固まった。
これ以上に考えることはない。考えてはいけない。考えれば理由を求めてしまうから考えない。意識的に制御しなければいけない。
だから、俺はもう理由を求めない。
俺がしたいから、俺はそうするだけ。
正しさを求めず、理由を作り出すことはなく、俺がやりたいことを、俺が為したい結果のために行動をするだけ。
……それが理由となって、矛盾のウロボロスに食われる感覚はあるけれど、そんな感覚は捨て置いてしまえ。億劫さを持つひまがあったら何かをしなければいけない。何かを為さなければいけない。
それなら、俺は何を為すのか。
単純だ。
行動。
行動。
行動。
行動するだけだ。
ただ、それだけなのだ。
◇
「本当に、大丈夫なんですか?」
皐は俺の顔をしっかりと見つめながら、そう言った。
訝し気な雰囲気が、視線が俺を突き刺してくるような気がする。でも、彼女が俺を疑っているのとは異なって、俺の体調についてはだいぶマシだ。
愛莉が帰った後、心情がすっきりしたからか、ただひたすらに睡眠に励むことができた。睡眠に意識を浸せば、自然と体調についても軽くなってきた。俺の中に存在していた鉛のような重さは消えている。
それでもたまにせき込むことはあるけれど、それ以上に体調の悪さを感じる要素は俺の中にはない。それだけで、どれだけ世界が綺麗に見えることだろうか。
「大丈夫だよ、ほら」
そう言いながら、俺は大げさに体を動かしてみる。シャドーボクシングのような動きをして、口からシュッシュと音を出してみたり、走りこむような体勢をとって、その場で腿上げをしたり。
……恥ずかしさがわだかまる。少しだけ徒労な感じがする。ちょっとした運動だけで息苦しい感覚。でも、昨日よりも、それ以前よりも身体が気持ちよく動く感覚がする。きっとここでこの感覚に従わなければ、俺は波に乗りきることはできないかもしれない。
俺の大げさな動きを見て、更に俺を掘り下げるように視線を強く突き刺してくる。睨んでくる空気。
「本当に大丈夫なんだ」
心配はしなくていい、俺はそう付け足して彼女に笑顔を向けた。意識せずに行動している。その違和感を覚えて、どこか楽しい感情。
作り笑顔を彼女に向けていない。作り笑顔ではないから、心の底から心地のいい感覚がする。
素直さが俺の心の中に留まっている。これが素直さなのかはわからないけれど、それでも心が軽やかだ。重みがない。心臓が動いている、取り込むすべてに酸素がある。爽快さがある。視界の何もかもが綺麗に見えるような気がする。
「そ、そうですか……」
……心なしか引いているような彼女の声。でも、今はそれでいい。俺は前を向くのだから、いつもと違う雰囲気になるのは仕方がない。
これからは、これで生きるから、いい。
だから、これでいい。
「そうだ」
俺は彼女に言葉を吐きだした。
玄関を開ける直前、思い出したように俺は彼女に振り返る。
いつもだったらしない行動。
でも、ここでなければ行動をしない。
なら、ここで止めることはしない。
皐は呆けた表情をしている。俺が彼女に声をかけることなどありえない、そう捉えていたような、そんな表情。意外性を覚えた顔だった。
「夜、話したいことがあるんだ」
行動の前置き、約束をすることで逃げる理由を失わせる一つの縛り。彼女に対しても、俺に対しても、両者にとっての束縛のようなもの。
俺は逃げない、彼女も逃がさない。
彼女は俺の言葉をとらえて、呆けた表情から、俺の目をしっかりと見据えた芯のある表情に切り替わる。
俺たちは、今夜で決めなければいけない。今夜の会話を設けることで、関係性を改善しなければいけない。
……いけない? そうじゃない。俺がそうしたいのだ。
彼女の敬語も、敬語から感じる距離感も、そのすべてを変えたいのだ。
俺は、皐の兄に戻りたいのだ。
「──わかりました」
彼女は深く息を吸い込んで、その空気を肥えに孕ませて言葉を吐く。
重く重く、躊躇うような言葉。
でも、それでいい。
ここから俺たちは始めなければいけない。
俺はそんな彼女の表情を心に留めながら、そうして玄関のドアを開けた。