疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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 登校の道中、学校へと向けて歩く足取りについては、いつもより軽かった。朝の素直さを取り戻した感覚に自分自身が酔っている感覚がする。その酒気に溺れながらでも、なんとなく道を歩くことの自由さが手元にある。

 

 いつになく、気分が重くない。自分がそうしたいからそうしているだけ。スキップでもしたいような気分もある。ハイな状態とも言えるやつかもしれない。

 

 でも、そこまで明るさを体では演出しない。軽い足取りに身を任せて学校にだけ行く。それだけで、俺は救われるような気がする。

 

 太陽が燦燦と日射を募らせる様。どこかの家の窓ガラスが反射して直接に日光を知らせてくる感覚も、そのすべてが心地がいい。

 

 吐き出すことの大切さを身をもって知った。それが、どれだけ救われていることか。

 

 愛莉に、どれだけ俺が救われていることかを頭の中で反芻した。

 

 

 

 

 野暮かもしれない昨日のことを思い出す。一日経っても、彼女に吐き出した言葉の熱は俺から奪えそうにない。

 

 それだけ、俺にとっては大事な言葉だったからこそ、俺の中に、確かな記憶としてとどめておきたい。

 

 そんなことを思いながら振り返る昨日のこと。

 

 

 

 

「なあ」と俺は言葉を彼女に投げかけた。

 

 それが許される言葉だったのかはわからない。でも、あの瞬間でしか言葉を吐けない自分がいた。それを見逃すのだけは嫌だった。そうして更に自分が嫌いになることを加速させたくはなかった。

 

 だから、言葉を吐いた。彼女に。愛莉に。重い思い思いの考えを、ずっとつなぎとめていた感情を吐き出した。

 

「──もう一度、最初から始めてみないか」

 

 いつか、彼女が吐き出した言葉。

 

 俺が視線を逸らして、そうしてどこまでも呑み込むことができなかった想い。

 

 あらゆる感情を募らせて、限界を迎えて、それでも吐き出すことしかできない感情。

 

 溢れて止まらない感情。皐に対する罪を無視して思ってはいけない感情。許されてはいけない感情。

 

 でも、吐き出すことは止められない。そうすることでしか、俺は前を進めないのだ。

 

「何を最初から始めるの?」

 

 彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて、どこかくすぐるような声音で俺にそう聞いた。

 

「……ええと」

 

 いざ、言葉を吐きだすと、恥ずかしさがわだかまって仕方がない感覚がする。

 

 言葉がのどに詰まる。吐き出す言葉はわかっている。彼女に試されていることも分かっている。

 

 なんなら俺が俺自身に試練を課している。

 

 過るのは、遊園地でのこと。皐に対して罪を犯してしまったその日の事。

 

 あの時でさえ、俺は言葉を吐けなかった。彼女の言葉に身をゆだねてしまって、俺から言うべき言葉を吐けなかった。

 

 彼女は受容してくれる。俺はそのことをよく知っている。彼女はそれでも俺に踏み込むことができるのか、と聞いている。それを今試されている。

 

 悪戯っぽい空気で、熱っぽさを覚える身体感覚の中で、その上で呼吸が鬱陶しい喘鳴が身体から聞こえる、そんな状態の中で。

 

 あの時でさえ言葉を吐けなかったからこそ──。

 

「──好きなんだ」

 

 俺は言葉を吐きだした。

 

「俺は愛莉とやり直したい。俺は、愛莉のことが好きだから、最初から始めたいんだよ。

 

 どれだけ都合のいいことを言っているかなんてわかってる。それでも、俺は愛莉とやり直したい。散々目を逸らしたけれど、それでも愛莉とやり直したい。……ダメかな」

 

「……」

 

 愛莉は、俺の言葉を咀嚼する。

 

 上ずった声を自分で吐いていることに、どこか顔が紅潮する感覚がする。頬の熱がとどまっている。どこまでも、いつまでも。これは体調が悪いからではなかったはずだ。

 

「……うーん、どうしよっかなぁ」

 

 愛莉は更に悪戯っぽい表情を浮かべて、俺という存在を楽しむように言葉を紡ぐ。

 

「もっと愛の言葉を振りまいてくれたらいいよ」

 

「……これ以上に?」

 

 俺がそう言うと、愛莉はこらえきれないような表情をして、爆発したように笑いだす。俺もそれにつられて笑ってしまう。

 

 しばらく二人で笑いあった。いつぶりに心の底から笑ったのかを思い出すことはできない。いつもの俺は、笑うべきだから笑っていた。

 

 でも、今は違う。

 

 俺は、笑うことができている。確かな笑みを、作り笑顔ではない笑みを浮かべることができる。

 

 それを認識した瞬間に、素直さが心に宿ったような気がして、どうしようもなく心が温かくなる。

 

「──いいよ、それで許してあげる」

 

 愛莉は笑い切った後にそう呟いた。

 

 俺は、その言葉を呑み込んだ。

 

 受容して、受容してもらった。

 

 今度こそ、相互に恋人と言える関係性を始めるために、俺たちは受容しあった。

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