疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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 重たい煙が肺に淀んでいく。肺に淀んで、咳き込みそうになる衝動を、身体の中に抑え込む。それでも昨日までは体調不良だった俺には、どうしても咳き込むことしかできなかったけれど。

 

 咳き込んでくすぐる苦味の塊。舌をしびれさせる未知の味。辛さにも似ているような、そんな煙の味。

 

 咳き込んでいる俺を見て、ルトは楽しそうに笑った。

 

「落ち着いて吸い込むんだよ。口に煙を溜めて、深呼吸をするように」

 

 咳き込み終わった後、俺は彼の言うとおりにした。

 

 口の中に煙を溜める。この瞬間を誰かに見られないことを思いながら、これが正しさではないことを認識して、煙を吸いこんでいく。

 

 苦い、苦い、苦い。だが、これが正しくないということだ。俺はこれを呑み込まなければいけない。

 

 酸素が頭に回らない。眩んだ目の気配がする。身体に虚脱感が存在する。あらゆる箇所に力が入らない。倦怠感が身体を支配している。

 

 咳き込む、咳き込む、咳き込む。正しくないものを吸い込む。子供が大人になりきれない感覚を、肺で味わう。

 

 咳き込む喉の痛さ、自分自身の罪深さ、傍らに感じる果実のような匂い、そのすべてが、正しくない。正しくないからこそ、これでいい。

 

「これが、一つの正義なんだよ」

 

 ルトは、俺のそんな様子を見て笑いあげた。

 

 俺は、そうなんだな、と思うしかなかった。

 

 

 

 

「俺、生徒会には入らないことにしました」

 

 俺は煙草の火種を足元で消しながら、ルトを見据えてそう言った。

 

 俺がそう発言した後、ルトは「へえ」とニヤニヤした顔をしながら言葉を吐く。

 

「いいのか? 俺が科学部にいないと、また科学同好会に逆戻りだけど?」

 

「……きっと、ルト先輩はやめないでしょ。ずっと、俺を試すようなことをしていただけで、伊万里の邪魔をするとは、なんとなく思えないんですよね」

 

 俺がそう言うと、彼は嘲るように笑う。

 

「俺を買い被りすぎじゃないか? 俺は割とひどい人間だぞ?」

 

「それはそうかもしれませんが、ルト先輩は部活を辞めませんよ、きっと。なんとなくだけど、そんな感じがするんですよね」

 

 根拠はない。でも、ルトは科学部を辞める、というアクションについては取らない気がする。

 

 これは、なんとなくの感覚だ。

 

 彼は自分の中の正しさ、正しくなさを持っている。だが、それは自分という枠の中で収まる話であり、他人に関与することを良しとはしない。

 

 つまり、彼が他者と関わる上で、正しくないことはしないということだ。おそらく、きっと。たぶん。

 

 それであると推測するならば、他人に迷惑をかける行為につながる、科学部を辞退するということは、なんとなくしないと思う。

 

 それが、根拠と言えるのかはわからないけれど、きっと、そんなもんだろう。

 

 はあ、とルトは溜息を吐いた。でも、溜息の割には、彼の顔は重苦しいものでもない。いつだって飄々としている姿勢を崩さない。それがルトという象徴であるような気さえしてくる。俺は彼のそんな部分が好きなのかもしれない。

 

「まあ、お前がそう決めたのなら、別にいいや」

 

 彼は、そう言葉を残して、屋上から立ち去ろうとする。

 

「……あっ、でも、本当に手が必要な時には手を借りるからな。文化祭の時期は面倒くさいことが多いんだ」

 

 彼は笑いながらそう呟いて、そうして消えていく。

 

 残るのは、煙を吐き出さないフィルターの残骸、俺の苦い吐息、しびれる感覚、虚脱感。そのすべて。

 

 これが、きっと俺自身だということ。

 

 それを認識したうえで、俺は帰ることにした。

 

 

 

 

 吐くべき言葉は用意できていない。結局、その場面にたどり着かなければ、何も言葉を思いつきはしないだろう。そういうものだ、人の言葉なんて、その程度のものでしかないのだ。

 

 だから、俺は言葉を用意しない。用意するべきだけれど、用意するのが正しさなんだろうけれど、俺はもう用意しない。正しくなさも含めて自分自身なのだ。それが、俺だから。

 

 だから、用意する言葉は必要ない。言葉を見出さない。

 

 そうして、俺は帰路に着く。

 

 太陽は未だにオレンジ色を取り戻さない。夕焼けを景色に飾り立てない。

 

 夕焼けはどこに行ったのだろう。

 

 そんなことを考えながらでも、家はもう目の前にあった。

 

 

 

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