疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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 コンビニで適当なものを買った後、歩く道のりは皐に先導してもらった。行きたい場所があると言っていた彼女にしかわからない道のりだ、先導してもらうのは仕方がない。

 

 歩く道のりについては見覚えがあるものだった。

 

 子供の頃によく歩いた場所。……そんな風に区切らなくとも、高校への登下校で歩く場所。そんな道を皐と歩いていることに対しての違和感。

 

 そもそも彼女と一緒に同じ道を歩くなんて、同じ場所を共有するなんていつぶりなんだろう。

 

 きっと、あの禁忌以前でも歩くことは少なくなっていたはずだ。

 

 少なくなったのは、愛莉との関わりが増えていたから。

 

 その頃、皐とは家でしか関わることはできなかった。

 

 ……できなかった? 俺が自らでそうしていただけじゃないか。

 

 本来であれば紡がれたであろう適切な兄妹関係というものは、俺から手を切っていたのだ。

 

 だから、今さらこうして一緒に歩くことに違和感を覚えるのは、そもそもが違うという話だ。

 

 余計なことが頭の中にちらついていく。考えることはそれではないはずなのに、そんな思考が意識を反芻して仕方がない。 

 

 俺は皐に視線を向けた。

 

 皐は、俺がそんなことを考えていることを知ってか知らずか、とりあえずと言わんばかりに歩いている。

 

 コンビニからしばらくまっすぐに道なりに歩いて、左の方へ、またすぐに右へと行き、さらに真っすぐの方向。

 

 そんな道のりでも、視界に映る景色にはデジャブがある。デジャブも何も、見覚えしかない。そうしてたどり着いたのは──。

 

「──ここ?」

 

「……ここ」

 

 皐は俺にそう答えた。

 

 そこに敬語はない。返事にいちいちドギマギするのはおかしいのかもしれない。彼女にとっては普遍的な答えの一つだろうに、敬語が歩かないかだけで、俺の心は動いてしまう。

 

 たどり着いたのは、一つの公園。

 

 幼い頃に愛莉と皐で一緒に遊んだ場所。もしくはこの前、伊万里と何の気なしに寄った公園ともいえる。

 

 愛莉と皐は、よくここの公園の砂場で城なんかを作っていたはずだ。俺は手先が不器用だから、それを見ることしかできなかったけれど、彼女らが建築した砂の城を、それぞれ架空の住まいとして話していたのが懐かしい。大きそうな空間を取り合って、よく皐と愛莉が喧嘩に似た言葉をかけあっていたことを思い出す。

 

 皐は、そんな場所に俺を連れてきた。

 

 公園の中に入って、気づくのは子供の数。少ないながらも男女の子供らが、俺たちが昔遊んでいた砂場で遊んでいる。彼らは別に城を作っているわけではないけれど、どこかデジャブのような感覚を覚えずにはいられない。

 

 日射についてはまだ高い。時間帯はそろそろ五時を回ろうとしている。徐々に夕焼けで世界を染めようとしている空を見た。日射は目に痛かった。

 

 そんな眩しさから逃げるように、俺たちは公園を囲む林立の影に紛れたベンチまで移動して、そこに座り込む。片側には確かな日射がかかっている。俺は日射に向き合うように座り、影に紛れていた方に皐は座った。

 

 座り込んだタイミングで、俺は手に持っていたコンビニのレジ袋を広げる。皐には紅茶とバニラアイスを渡し、俺はサイダーだけをとりあえず取り出して、乾いた喉にそれを流し込む。強い刺激がする炭酸に眩暈を覚えそうになったけれど、長い時間感じていなかった清涼感を味わうだけで、なんとなく生きている心地さえあるような気がしてきた。

 

 胃から流れ出る炭酸の波をなんとか押し殺して、俺は公園の風景を見る。

 

 懐かしい雰囲気。以前に来た時には夜だったから、そこまで感じることはなかった郷愁のような何か。

 

「なんか、懐かしいな」

 

 俺は思いのままに言葉を紡いだ。

 

 目の前にある景色は同一ではなくとも、それでも過去とは遜色がないほどに綺麗なノスタルジーを演出している。夕焼けが味を出しているのかもしれない。いつもこんな時間帯まで彼女らと遊んで、そうして帰っていたから。

 

「そうだね」、と重苦しい雰囲気をぶら下げながら、皐はそう呟いた。

 

 やはり、敬語ではない彼女の言葉。またドギマギしそうになる自分の意識を殺す。俺は頷いて反応するしかできない。

 

 敬語ではない、だからと言って、まだ昔の関係性に戻れているわけではない。錯覚しそうになる。錯覚をすれば、俺はここから行動することができない。だから、意識で殺す。そんな錯覚を、考えを殺す。

 

 言葉を吐くべき場面は目の前にある。彼女が隣にいる。皐が隣にいるのだ。だから、俺は言葉を吐かなければいけない。

 

「……どうして、ここなんだ」

 

 とりあえずの話題という具合に俺は言葉を吐きだした。

 

 ……未だに吐くべき言葉をあぐねている。彼女に対して謝罪をするタイミングを作ろうとするために、適当な話題になった。

 

「昔、よく遊んだから」

 

 皐は俺にそう答えた。

 

 彼女は公園の真ん中を見るようにしている。だが、その景色の中をきちんと彼女は見ていない。

 

 どこか、遠ざけているような印象さえ覚える。俯瞰でそれを見つめているだけの、観客のような、そんな雰囲気。

 

 俺は、そんな彼女にどんな言葉を吐けばいいのだろう。謝罪する場面を用意するために、俺はどんな話題を振ればいい? 

 

 ……いや、違う。そうじゃない。それだけで関係性が戻るわけではない。謝罪をすれば、それだけでいいわけではない。そうじゃないはずだ。よく考えろ。

 

 そっと溜息を吐く。

 

 誰にも聞かれないように、静かに呼吸をしたはずなのに、皐は一瞬身体を弾ませた。俺の一挙一動を怖がっているようで、申し訳なさが募る。

 

 場面を考えろ、言葉を吐くべきでも、謝罪を吐くべきでも、そういうことから一度思考を逸らして、そうして彼女に言葉を紡げ。

 

 そうしなければ、そうでなければ、ここまで来た意味がないだろう。

 

 皐は俺に機会をくれている。どういう機会なのかはわからない。謝罪かもしれない、謝罪じゃないかもしれない。贖罪のためだと考えるな、それはあまりにも傲慢だろう。

 

 三度、息を重ね、俺は言葉を吐く。

 

「なんで、こうなったんだろうな」

 

 ──心の底から漏れた、俺の本音だった。

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