疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 作:ひざぎ
◇
コンビニで適当なものを買った後、歩く道のりは皐に先導してもらった。行きたい場所があると言っていた彼女にしかわからない道のりだ、先導してもらうのは仕方がない。
歩く道のりについては見覚えがあるものだった。
子供の頃によく歩いた場所。……そんな風に区切らなくとも、高校への登下校で歩く場所。そんな道を皐と歩いていることに対しての違和感。
そもそも彼女と一緒に同じ道を歩くなんて、同じ場所を共有するなんていつぶりなんだろう。
きっと、あの禁忌以前でも歩くことは少なくなっていたはずだ。
少なくなったのは、愛莉との関わりが増えていたから。
その頃、皐とは家でしか関わることはできなかった。
……できなかった? 俺が自らでそうしていただけじゃないか。
本来であれば紡がれたであろう適切な兄妹関係というものは、俺から手を切っていたのだ。
だから、今さらこうして一緒に歩くことに違和感を覚えるのは、そもそもが違うという話だ。
余計なことが頭の中にちらついていく。考えることはそれではないはずなのに、そんな思考が意識を反芻して仕方がない。
俺は皐に視線を向けた。
皐は、俺がそんなことを考えていることを知ってか知らずか、とりあえずと言わんばかりに歩いている。
コンビニからしばらくまっすぐに道なりに歩いて、左の方へ、またすぐに右へと行き、さらに真っすぐの方向。
そんな道のりでも、視界に映る景色にはデジャブがある。デジャブも何も、見覚えしかない。そうしてたどり着いたのは──。
「──ここ?」
「……ここ」
皐は俺にそう答えた。
そこに敬語はない。返事にいちいちドギマギするのはおかしいのかもしれない。彼女にとっては普遍的な答えの一つだろうに、敬語が歩かないかだけで、俺の心は動いてしまう。
たどり着いたのは、一つの公園。
幼い頃に愛莉と皐で一緒に遊んだ場所。もしくはこの前、伊万里と何の気なしに寄った公園ともいえる。
愛莉と皐は、よくここの公園の砂場で城なんかを作っていたはずだ。俺は手先が不器用だから、それを見ることしかできなかったけれど、彼女らが建築した砂の城を、それぞれ架空の住まいとして話していたのが懐かしい。大きそうな空間を取り合って、よく皐と愛莉が喧嘩に似た言葉をかけあっていたことを思い出す。
皐は、そんな場所に俺を連れてきた。
公園の中に入って、気づくのは子供の数。少ないながらも男女の子供らが、俺たちが昔遊んでいた砂場で遊んでいる。彼らは別に城を作っているわけではないけれど、どこかデジャブのような感覚を覚えずにはいられない。
日射についてはまだ高い。時間帯はそろそろ五時を回ろうとしている。徐々に夕焼けで世界を染めようとしている空を見た。日射は目に痛かった。
そんな眩しさから逃げるように、俺たちは公園を囲む林立の影に紛れたベンチまで移動して、そこに座り込む。片側には確かな日射がかかっている。俺は日射に向き合うように座り、影に紛れていた方に皐は座った。
座り込んだタイミングで、俺は手に持っていたコンビニのレジ袋を広げる。皐には紅茶とバニラアイスを渡し、俺はサイダーだけをとりあえず取り出して、乾いた喉にそれを流し込む。強い刺激がする炭酸に眩暈を覚えそうになったけれど、長い時間感じていなかった清涼感を味わうだけで、なんとなく生きている心地さえあるような気がしてきた。
胃から流れ出る炭酸の波をなんとか押し殺して、俺は公園の風景を見る。
懐かしい雰囲気。以前に来た時には夜だったから、そこまで感じることはなかった郷愁のような何か。
「なんか、懐かしいな」
俺は思いのままに言葉を紡いだ。
目の前にある景色は同一ではなくとも、それでも過去とは遜色がないほどに綺麗なノスタルジーを演出している。夕焼けが味を出しているのかもしれない。いつもこんな時間帯まで彼女らと遊んで、そうして帰っていたから。
「そうだね」、と重苦しい雰囲気をぶら下げながら、皐はそう呟いた。
やはり、敬語ではない彼女の言葉。またドギマギしそうになる自分の意識を殺す。俺は頷いて反応するしかできない。
敬語ではない、だからと言って、まだ昔の関係性に戻れているわけではない。錯覚しそうになる。錯覚をすれば、俺はここから行動することができない。だから、意識で殺す。そんな錯覚を、考えを殺す。
言葉を吐くべき場面は目の前にある。彼女が隣にいる。皐が隣にいるのだ。だから、俺は言葉を吐かなければいけない。
「……どうして、ここなんだ」
とりあえずの話題という具合に俺は言葉を吐きだした。
……未だに吐くべき言葉をあぐねている。彼女に対して謝罪をするタイミングを作ろうとするために、適当な話題になった。
「昔、よく遊んだから」
皐は俺にそう答えた。
彼女は公園の真ん中を見るようにしている。だが、その景色の中をきちんと彼女は見ていない。
どこか、遠ざけているような印象さえ覚える。俯瞰でそれを見つめているだけの、観客のような、そんな雰囲気。
俺は、そんな彼女にどんな言葉を吐けばいいのだろう。謝罪する場面を用意するために、俺はどんな話題を振ればいい?
……いや、違う。そうじゃない。それだけで関係性が戻るわけではない。謝罪をすれば、それだけでいいわけではない。そうじゃないはずだ。よく考えろ。
そっと溜息を吐く。
誰にも聞かれないように、静かに呼吸をしたはずなのに、皐は一瞬身体を弾ませた。俺の一挙一動を怖がっているようで、申し訳なさが募る。
場面を考えろ、言葉を吐くべきでも、謝罪を吐くべきでも、そういうことから一度思考を逸らして、そうして彼女に言葉を紡げ。
そうしなければ、そうでなければ、ここまで来た意味がないだろう。
皐は俺に機会をくれている。どういう機会なのかはわからない。謝罪かもしれない、謝罪じゃないかもしれない。贖罪のためだと考えるな、それはあまりにも傲慢だろう。
三度、息を重ね、俺は言葉を吐く。
「なんで、こうなったんだろうな」
──心の底から漏れた、俺の本音だった。