疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする   作:ひざぎ

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Fi-2

 

 俺は職員室に行くことにした。

 

 行くことにした、というべきか、行かなければいけない用事ができた、と言った方が正しいかもわからない。

 

 正直、期待半分ではあったものの、新入部員が来ることを想定して計画をまとめていたものだから、実際に来ない連中の活動分をどうしようか考えることになってしまった。

 

 その相談として、俺は一学年の職員室まで足を運ばせている。

 

 夏休みという学生の休み時期であっても変わらずに働いている姿を見せる教師を、職員室の外側で見つめる。どこか真剣な表情で会話をしている様子の教師もいるし、どこかだらけたような表情でパソコンを見つめている重松の姿もある。

 

 コンコン、と俺は職員室の戸を鳴らした。

 

 だいたいの教師がその音に反応せず、唯一重松だけが面倒くさそうな表情で俺の方をちらっと視線を移動させた。

 

 そして、溜息を吐いた。大概失礼な人だと思った。

 

 失礼します、と職員室に入るときの作法を一応丁寧にやって、俺は重松の方まで行く。重松は俺から視線を動かすことなく、ただ気だるそうな瞳をぶら下げている。俺のほうがため息をつきそうになった。

 

「なんだ」と重松は言った。俺は単刀直入に、新入部員が来ません、と伝えることにした。重松は「まあ、そうだろうな」とだけ返した。

 

「別にいいじゃないか。熱心なやつがいない証拠だ。お前だって、それは嫌だろう?」

 

「……まあ、そうですけど」

 

 それでも、新入部員の数ありきで天体観測を活動することを計画に含めていたから、この調子だと少しばかり面倒なことになる。

 

 といっても、単純に俺の手間が増えるというだけなのだが。そもそも人数が少なければ準備をする数も減るものだから、そこまで心配しなくてもいいものなんだけれど。

 

「……なんか、言いたいことでもありそうじゃねぇか」

 

「いや、ええと、なんていうか……」

 

 そうして、部員が少ない状況で頭に過ったことがある。

 

 その過った考えを、実際現実にするのはどうかと迷う自分がいる。

 

 そして、職員室に重松以外もいることも考えると、尚更それを口にすることは難しいかもしれない。

 

「……はあ」

 

 重松は何度目かわからない溜息を吐き出した。

 

「ちょっと外に出るぞ」

 

 

 

 

 そうして連れ出されたのは屋上だった。

 

 屋上、といっても、いつも通っている特別教室棟の屋上ではなく、普通教室棟の屋上。きちんと鍵で施錠されているタイプのものであり、重松はポケットからじゃらじゃらと鍵を鳴らすと、扉を開ける。新鮮な気持ちが反芻するけれど、景色については特別棟とそこまで変わらないくらいだ。

 

「……それで?」

 

 重松は胸ポケットから赤い煙草のケースを出して、ふうっと息をついた。

 

「……それで、というのは?」

 

「なんか話したいことがあるんだろ? 目を見ればなんとなくそんな感じがするぞ」

 

 重松は嘲るように笑う。嘲っているわけではないけれど、なんかそんな感じに捉えることができた。単純に、俺の性根が腐っているだけなのかもしれない。

 

 俺は言葉、考えを反芻する。本来であれば許されるかどうかわからない言葉。いや、十中八九許されない類の願いなんだろうけれど。そんな言葉を、そんな願いを吐いていいのか、と迷っている自分がいる。

 

 でも、ここで言わなければ、それをかなえることは難しいだろう。

 

 俺はそうっと息を吐いた。

 

「……新入部員、来ないと思うんですけど、代わりに俺の友達とか呼んじゃダメ、ですかね?」

 

「……えっ、お前友達いたの?」

 

「……」

 

 おい、と脊髄反射で答えそうになった言葉を押し殺して、俺は沈黙で答えた。教師という役職に対して、友達のような振る舞いをすることは間違っている。もしここで間違えたら、願いはかなわないかもしれない。

 

「……まあ、実際いたとしても、難しいだろうな。ほら、うちの高校の連中だったら別に何とかなるけれど、お前が言ってるのは、きっと他校の生徒とかだろう?」

 

「……まあ、そうですね」

 

「……うーん」

 

 重松は厳しそうな表情で悩んでいる。

 

 俺の頭の中に過ったのは、愛莉と皐の二人。それ以外にかかわりのある奴なんていないから、必然的にこの二人になるわけだが。

 

「ええと、その友達は、お前にとってはなんなんだ?」

 

 重松がそう聞くので、俺は無難に「幼馴染です」と答える。それを揶揄うように「お前、そいつ彼女だろ」と笑った。……俺は沈黙することにした。

 

「へー、お前、彼女とかいるんだな」

 

「黙秘権を行使します」

 

「……いや、それいるって言ってるもんじゃねえか」

 

 がはは、とこらえきれないように重松は笑う。その後、いつの間にか吸っていたタバコの煙で彼は咽せた。

 

 どこか、揶揄う表情の重松、なんか悔しい気持ちがわだかまる。

 

「わかった、こうしようか」

 

 重松は、口頭にそう置いて、一つの提案をするように言葉を続ける。

 

「お前が連れてくるのは別にいいことにする。だが、その責任を俺は持てないからな、隠し事にするってどうだ」

 

「……隠し事?」

 

「そうだ」と重松。

 

「夏休みの期間、だいたいの先生は定時に帰ってくれるからな。今日という日に特別に残るのは俺くらいのもんだから、隠してしまえば、学校側にばれることもない。だから、隠すんだよ」

 

「……いいんすか?」

 

「なんだ? お前は彼女呼びたくないのかよ?」

 

「……」

 

 いや、呼びたいけれども、本当にそれでいいのか、と言いたい気持ちにもなる。正しい手続きを踏んでいない、というだけで不安になる気持ちもある。

 

 ……いや、正しいかどうかなんて考える必要はないだろう。

 

 俺は息を吐いた。

 

「覚悟は決まったようだな」

 

 ニヤついた表情で俺を見る重松。威圧感があるような、無いような。なんというか、大人って感じだ。

 

 俺は一言、ありがとうございます、とだけ返して、普通教室の屋上から逃げるように駆け足で出ていく。

 

 煙草臭い空気が、扉から抜けていく感覚がした。

 

 

 

 

『人手が足りない』

 

『必要?』

 

『うん』

 

『わかった』

 

『あっ、皐も連れてきて』

 

『了解』

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