疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 作:ひざぎ
◇
「もう今日は眠れないです……」、と伊万里が呟いた後、重松は「それならまだ大量のホラーが……」と呟いた。伊万里は本気の声でそれを、大丈夫です! と拒絶する。
それだけでも面白いのに、愛莉と皐が抱き合いながら震えている様子が更に面白い。互いに、怖いよぉ、と呟きあいながら、互いの名前を呼んでいる。俺はそれだけで楽しかった。
「あれなんだな、ホラーとか大丈夫な口か?」と重松。
「なんというか、ホラーってわかった瞬間に心が準備できて怖くなくなるんですよね」と俺。
なるほどなぁ、と重松が呟くと、重松は物理室の部屋の明かりをつけた。
目に留まる部屋の明かり。少し眩しいと感じてしまう。
彼女らはそれを有難がっている様子だ。節々に、明かりだ……、と呟いている。その様子の方がホラーなような気がする。……どうだろう、そうでもないかもしれない。
明かりをつけて、改めて重松は物理室の前方に立ち、俺たちに声をかける。
「一応、この後の予定としては、焚火の準備とか、そんなくらいだ。高原は俺と一緒に木を燃やす、女子はサツマイモを諸々で包む作業をよろしく頼んだ」
そう大きな声で話した後、ちょいちょい、と重松は俺を指で呼び出す。俺は素直にそれに従った。
◇
物理室から下って、そうして外に出る。
外は夕焼けの頃合いだ。携帯で時間を確認すれば七時前の時間帯。これでもまだ外が明るいということに驚きを覚える感覚がする。
重松に連れてこられた場所は、校門の近くにある、花壇のある空間。花壇、とは言っても、今は特に何も植えられていない。今となっては科学部の活動の一つとなっているらしい花壇ではあるが、今のところ植えるものが思いつかない、ということで何も植えてないし、生やしていない。たまに、伊万里と俺で草取りをすることがあるくらいの空間。
その傍らには黒い木炭と、着火剤の入った容器、いろいろ焚火に必要なものがそろっている。
「これ、結構高くありませんでした?」
以前見たアウトドアの動画を思い出して俺が呟くと「いいや、俺の趣味だからそんなに」と重松は返す。答えになっていないような気もするが、単純に元から持っていた、ということらしい。
火をつけるときの注意事項、無暗に着火剤を入れ過ぎないことなどを重松が語る。その語りようから、本当にアウトドアについて詳しいのだろう、ということを察することができる。
とりあえずやってみろ、と言われたので、言われるがままに行動する。
手元に火があることが少し怖い。ホラー映画よりも。
その恐怖心を誤魔化しながら、言われた手順通りに火をつけていく。
火が付いたことを確認すると、重松はさらに傍らに置いてあった乾いた木材を入れる。だんだんと火が大きくなっていくのが目に見えてくる。
目に染みる炭の感覚。泣きたいわけじゃないのに涙が出る感覚が、少しばかり面白い。
「いやあ。こういうのって自分で体験しないと面白さって伝わらねぇからな。どうだ、面白いか?」
「そうですね、結構楽しいと思います」
「そうか」と重松は楽しそうに笑う。どこか家族のような微笑みがそこにある。
安心感があった。不和ではない、きちんとした安心感が。
◇
「女子たちの様子、見て来いよ」と重松に促されたので、俺はまた物理室に向かった。
学校の暗さが目立つような時間帯だ。そろそろ夕焼けでさえ消え入ろうとしているから、その暗さは尚更で、唯一灯っている職員室と、物理室の明るさが異様に思えて仕方がない。どこか非現実的だとも思うことができた。
物理室に入る。
物理室では、伊万里、愛莉、皐がそれぞれ分担をしてサツマイモに対して仕事をしている。伊万里はサツマイモの洗浄、愛莉はアルミホイルを巻いて、さらに皐はそこに濡らしておいてある新聞を巻きつけている。きちんと仕事をしているな、とそう思った。
「焚火、だいじょうぶそ?」
「ああ、しげちー……、先生が見てくれたおかげで」
しげちー、という言葉が出た瞬間に、愛莉は一瞬よくわからない顔をしたから、先生という言葉をつけ足した。彼女は納得をしたような顔をする。
「それにしても多いねぇ」
「それだけしげ……、先生が張り切ってたんだよ。六月くらいからずっとな」
「しげちーでわかるからしげちーでいいよ」
愛莉は苦笑した。
「あとどれくらいで終わりそうだ?」
「うーん、言っても五分ないくらいじゃない? 終わったら下に持ってくよ」
「了解」
俺は愛莉とやり取りを終わらせると、物理室から抜け出す。
……とりあえず、息を抜くことにしよう。