原石とよく言われますが興味はありません   作:鈴木颯手

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第一話「ハイスペックウマ娘、になった?」

 唐突だが俺は転生者だ。始まりはありきたりなものだ。横断歩道を歩っていたら信号無視をしてきたトラックに撥ねられて即死。そしたら神様が謝罪してきて転生させてくれるという話になったわけだ。

 とはいえ俺は異世界に興味はなかった。ぶっちゃけ現代レベルで生活水準が整っていないといやだったからだ。では現代に転生かと言われれば微妙なところだった。何しろその時思いついたのが時間軸的に半年ほどなのに犯罪に遭遇しまくっている探偵漫画や、主人公の家族が海産物系の日常アニメぐらいしか思いつかなかったのだ。

 別に後からならいろいろと思いついたがとっさにそれくらいしか思いつかなかった俺は神様に任せる事にした。特に行きたい世界があるわけでもなく、やりたいこともなかったために神様に任せるという事に特に抵抗はなかった。

 結果、俺はウマ娘の世界に転生することとなった。それも自らが選んだ事でこちらが不満に思わないようにするためか特典もかなりモリモリつけてくれた。

 

 そうして転生したわけだが正直に言ってありがたいと思う反面やりすぎでは?と思わなくもない。そもそも俺の性格的にウマ娘になったところで、な気もあるしな。まぁ、もらえるならありがたくもらっておくがな。

 

「フブキちゃんははしるのがすきじゃないの?」

「うん」

 

 そんなわけで第二の人生もといウマ生が始まったわけだが俺のふるまいは周囲の人間には奇異に映ったらしい。まぁ、それも仕方のない話だ。そもそも、俺は走るのが好きではない。具体的に言えばアウトドアに属する類の事は嫌いだ。ではここで前世の俺のルーティンを教えてあげよう。

 朝、日が昇ると同時にスマホゲームのログイン&デイリーミッション。リモートワークで日々のノルマをこなしつつ昼にはゲーム。午後の仕事を終わらせれば読書にゲームに絵描きとオタク的な活動を一通りこなす。そして日付が変わる前に就寝。休日には1時間程散歩や買い物をする以外は家に籠る。健康的なインドア派の生活を楽しんでいた。

 

「でもはしるのたのしいよ?」

「わたしはたのしくない」

 

 俺にとって走る事は健康に生きるための運動でしかない。必要最低限。週に合計1時間程やるだけのものでしかないのだ。むろん、ウマ娘という美人確定の存在になったからには前世のように堕落した体にするつもりはないがそれ以上の事はするつもりはない。

 程ほどに美人ならそれでいいと思っている。

 

「へんなの」

「変で良いよ」

 

 幸い、両親はそんな俺を尊重してくれる。母親はウマ娘だがレースに出走する目標を立てずにそれ以外の道で成功を収めたウマ娘だ。父とは仕事先で出会い、大恋愛の末に結婚したらしい。

 母の事を珍しいと思ったが軽く調べてみればそういう道を選ぶウマ娘は少なくないらしい。俺のように走るのが好きという本能すら消えている例はないに等しいようだがレースに出なくとも走れれば満足するウマ娘は一定数存在するようだ。そういった彼女たちはレースに関わる事のない仕事に就いたり、家庭に入ったりしているらしい。よくよく考えればそれも当然だ。全てのウマ娘が本能が強い個体しかいないわけではないのだから。

 

「でもフブキちゃんはやいからいっしょにはしりたいな」

「私は一週間に一時間だけ走れば十分だよ」

「ぶー」

 

 そんなわけで小学生までの私はレースとは無縁の生活を送る事が出来た。たまにクラスメイトのウマ娘からお誘いを受けたがそれらを丁重に断り、本を読みふけっていた。だが、それも中学になるころには激変する事となった。少なくとも、私が望みとは真逆の方向に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっかけは中学一年の時の体育祭だった。俺が通う学校にはウマ娘の生徒が3分の1近くいる為にウマ娘専用の競技、つまりレースが用意されていた。しかし、俺のクラスはなんとウマ娘が俺を含めて4人しかおらず、なんと全員がその日、風邪や骨折で出場できなくなってしまったのだ。仕方なく、俺が走る事となったのだが俺はそこで優勝してしまったのだ。それも他のクラスのウマ娘を大きく引き離して。

 後から知った事なのだが2位になったクラスのウマ娘はトレセン学園からスカウトの話が出る程の優秀なウマ娘だったらしい。実際、後から映像を見ても納得するだけの逸材に見えた。

 だが、そんな彼女は素人の俺に大敗した。そのことでその娘は挫折を味わい二度とレースの世界に出る事は無くなったという。それだけならその娘が可哀そう、悪いことをしたで済んだ。しかし、問題はここからだ。

 なんとそのレースをトレセン学園のトレーナーが見ていたらしい。本当はその娘の活躍を見るつもりだったが俺の走りを見て俺にもうアプローチを仕掛けてきたのだ。曰く、「君は光る原石だ! 君の努力次第では日本に、いや世界に名を刻むウマ娘になってもおかしくはない」との事だ。つまり、俺をスカウトしたいと言ってきたわけだ。

 もちろんだが俺は断った。理由は単純。態々努力してまで早く走りたいなんて思っていないからだ。そのことを正直に打ち明けたのだがそいつは中々しつこかった。やれ「君はレースで輝ける逸材だ!」だの「トレセン学園に入ればきっと走る事が楽しくなる」だの「このまま腐らせるにはもったいなさすぎる!」だの好き勝手に言ってくるもんだから苛立ちを覚えるようになっていくのに時間はかからなかった。

 確かにそれだけ言われれば悪い気はしないさ。もしかしたら走る事が好きになる可能性もあるだろう。そこまで言われる俺の脚を燻らせるのももったいないとも感じてくる。

 だがな、それ以上に俺はめんどくさいという気持ちの方が強くなってしまった。多分あまりにもしつこすぎたからレース自体に嫌悪感を感じてしまうようになってしまったほどだ。正直、万に一つの可能性として存在した、俺が出走する未来は潰えたと言っていいだろう。

 

「頼む! 俺と一緒にトレセン学園で歴史を刻もう!」

「貴方が刻むのは牢屋の中で犯罪者としてですよ」

 

 そんなわけでそのトレーナーをストーカーと付きまとい行為で通報させてもらったよ。証拠と証言はばっちりで、そいつはあっけなく御用となっていた。結果、そいつはトレーナーを続けられなくなり、トレセン学園から去っていったそうな。

 そんなわけで約半年にわたって続いたしつこいスカウトは終わった。しかし、これ以降俺は何かとトレーナーやウマ娘、そしてトレセン関係者に熱烈なアプローチを受けていくことになるとはこの時の俺は想像だにしていなかったのだった。

 

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