私には凄い幼馴染がいる。私と同じウマ娘の彼女は昔からその才能にあふれていた。
その幼馴染、フブキちゃんは変わった娘で走る事が好きじゃないと言っていた。それよりは漫画とかゲームとかをよく好んでいた。だからかフブキちゃんは私や他のウマ娘たちといるよりも男子とよく一緒にいた。私も幼馴染じゃなかったら関りを持たなかったかもしれない。
だけど、彼女の才能に最初に気づいたのは私たちが小学生の時だった。家が隣同士の私たちはある時かけっこ競争をした。どちらが家に早くたどり着けるかというほほえましいお遊びだ。だけど、遊びでも競争、それも走る事に関してだ。幼い私でも負けたくない! という気合に満ち溢れていた。
だから私は全力で走った。普段から全力で走るのは危ない、体が出来ていないから走るときはセーブしなさいと言われていたけど競争の前にそんなことは忘れていた。その時の私は恐らくそれまでで一番の速度を出していたと思う。
だけど、フブキちゃんはそんな私を余裕で追い抜いて見せた。それも汗なんてほとんどかかずに。「私のかちー」って無邪気に笑うフブキちゃんを私は直視できなかった。
悔しかった。
私だってウマ娘だ。体に負担が出ないようにだけどいっぱい走っていたし、クラスでは一番早く走れていた。
なのに、フブキちゃんは……、一週間で一時間程度しか走らないフブキちゃんは、私に余裕で勝ててしまう程早かった。
それがとても悔しかった。
その日、私は悔しさで一晩中泣いてしまった。初めて負けて悔しいと思った。勝ちたいとも。負けたくないとも。後でお母さんに聞いたらそれはウマ娘ならだれもが持っている本能らしい。フブキちゃんはその本能を一切持っていないみたいだったけど。
一晩中泣いた私は翌日からフブキちゃんに一緒に走ろうとアプローチをかける事にした。勿論、フブキちゃんが不快に思わない程度に軽く、だけど。フブキちゃんとの関係を断ちたくないと思った私はフブキちゃんが持っているゲームとか漫画とかをよく読むようになった。多分、私がオタクになったのはそれがきっかけだと思う。
そしてそうやってフブキちゃんと過ごして分かったのが本当に彼女は走る事をどうでもいいと、健康の為に少し走れればそれでいいと思っているという事だった。フブキちゃんを除くウマ娘ならだれもが憧れるトレセン学園の先輩方のレースを見た時があったけど、おそらくフブキちゃんが本気で走るようになれば彼女たちに負けないと思える程の才能を有していると思っている。それが分かってしまうからもったいないとは思うけど私はフブキちゃんに強要しようとは思えなかった。
ウマ娘だって十人十色。一人くらいそういうウマ娘がいてもいいじゃないか。
フブキちゃんと過ごすうちに私はそう考えるようになった。
そして、私たちが中学になり、あのフブキちゃんの才能が世間に知れ渡った後もフブキちゃんは変わらなかった。むしろストーカーのせいで若干だけどトレセン学園に嫌悪感を持つようになってしまったように思う。それがなければ一兆分の一の確率でフブキちゃんがトレセン学園に入学した未来があったかもしれないけど恐らくそんな未来は一生来ないだろう。
……フブキちゃんが走らないとなればきっと誹謗中傷が殺到するかもしれない。宝の持ち腐れ、才能をどぶに捨てている。持たない者達への当てつけ。既にそういった声が学校でも聞こえてくるほどだ。きっと世間ではもっとたくさんの声があるはずだ。
「へぇ、トレセン学園に行くんだ」
「うん。……答えは分かってるけどフブキちゃんもトレセン学園に……」
「行かない。走っているより今は私だけの栄光あるナインたちを育てる監督業で忙しいから」
ふと、中学の時の何気ない日常のーコマを思い出す。彼女は一切の迷いなくバッサリと切り捨てて野球ゲームを真剣にプレイしていた。きっと、彼女は今も変わらないのだろう。
……私は、所詮学校で早い方だっただけでトレセン学園で成功を収める事は出来ず、中退することとなった。そんな私は違う高校に入り直し、地元を出て就職、そして妻となった。
明日、10年ぶりに地元に帰る。親に愛する人を紹介するために。母の話ではフブキちゃんもお祝いをしに来てくれるそうだ。10年ぶりに再会する私の幼馴染。きっと私の婚約者は驚く事だろう。才能の原石と呼ばれながらそれを磨くことなく自分の道を進み続けた一人のウマ娘の話を聞けば。
最初は中学生で終わらすはずだったのに気づけばこうなっていた。