原石とよく言われますが興味はありません   作:鈴木颯手

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第三話「彼女の走りは見る者の目を焼き尽くす」

「ふぅ」

 

 今日も本能を満足させるべく走っていたがやはり1時間ほどで俺の中の本能は満足してくれたようであっという間に欲望が消えていく。まるで空気が抜けていく風船のように。これなら走るのは一週間後でも問題はないだろう。この体になった時から変わらない何時もの行為だ。

 

「さてと、今日は新作のゲーム発売日! 急いで買いに行かないと!」

 

 そして代わりに出てくるのはゲームをプレイしたいという欲求だ。今日は長年続くRPGの最新作が発売される日なのだ。日曜という事もあり、急いで買いに行かないといけない。

 

「よっと!」

 

 そんなわけで満足したばかりだが俺はまた走り出した。1時間も走っていると汗をかくし最終的に公園がゴール地点にしている。お洒落に興味があるわけではないし何ならその辺で全身の汗を拭いても良いのだが流石にそれは周りの人の目に毒だろう。中学生のこの肉体だが胸は膨らみ、腰は括れ、尻は安産型とナイスバディとなっている。元男の俺としてはそんな美少女が無防備に全身の汗を拭いていれば興奮してしまうだろう。手を出してはいけない以上男たちを無暗に刺激しないといけないからな。

 だけどゲームのためなら多少は……。いや、基本的に発売日に買いに来るのは女性との触れ合いがゲーム内だけとか言うオタクとか(※フブキちゃんの偏見です)、デュフフとか言い出しそうなデブとか(※フブキちゃんの偏見です)、転売ヤーくらいだろう。おのれ転売ヤー許すまじ。

 そんな彼らの前に汗だくで登場すれば? 中学生の汗の匂いで脳をやられ、襲い掛かられてしまうかもしれない。それは俺も嫌だし相手も嫌だろう。なのでエチケットは最低限しないといけない。ああ、でもゲームショップは既に開店しているし走っている途中で買えばよかったかな? いやそしたらゲームが気になって走る事に集中できないだろう。そうなったら本能が満足してくれない。

 くそ、やっぱり休みだからと言って朝までゲームをしているのは駄目だったな。今もちょっと眠いし。というかこんなに考えているのって眠いから……。

 

 そうやって無駄に考えていたせいだろう。俺はこの日自分が出せる最大速度を更新していた。まるでレースを走るウマ娘のように走っていただろう。

 

「っ!!?? 今のは……!!??」

 

 その結果、俺はまたしてもトレセン学園との関りを持つことになるのだが当然ながらこの時の俺は一切理解していなかったのだった。

 

 

 

 

 トレセン学園。日本ウマ娘トレーニングセンター学園と呼ばれるここはつい最近までとある事件の後処理に追われていた。

 その事件とはトレーナーによる他校の、それも中学生へのストーカー行為である。そのトレーナーはレースで優勝できるようなウマ娘を育成する事が出来ず、トレーナーとしての資質を疑われつつあった。そのせいで彼は土台がしっかりと出来ているウマ娘を探すことに躍起になっていた。

 そんな中で出会ったのが被害者の少女であった。少女はウマ娘でありながら走りたいという欲求が少ない人物であり、トレーナーからのスカウトを断っていた。しかし、トレーナーはその娘へのストーカー行為を開始。了承する返事をするまで付きまとうようになったのだ。結果、その娘はストーカーとして警察に相談。トレーナーは現行犯逮捕される事となり、トレセン学園を驚愕させた。何しろトレセン学園もそのような事になっているとは把握しておらず、最近よく外に出ていくなぁ程度でしか考えていなかったのだ。

 そして、その事件がニュースで報道されるとトレセン学園への批判が殺到した。何しろ、本来ならばウマ娘に寄り添い、良き理解者であり、パートナーであるべきトレーナーがウマ娘に一方的に迫っていたのだから。トレセン学園は何をしているんだ! と苦情が来てもおかしくはなかった。更にこの一件からお祭り騒ぎと勘違いした者達によっていたずら電話や学園の塀への落書きなどが多発。それらの対応に忙殺されるに至ったのだ。

 

 だが、事件より半年が経過し、漸く落ち着きを取り戻しつつあったのだ。トレセン学園関係者たちは漸く落ち着けると胸をなでおろしていた。

 無論、それはトレーナーの一人である沖野も同じだった。しかし、彼は椅子に深く腰掛けながらも考えている事は別の事だった。

 

「あの速さ……」

 

 彼がたまたまトレセン学園の外を歩いていた時にすれ違ったウマ娘。幼い外見とは裏腹に洗練されたフォームで一線級の速度で走り抜けた彼女の事が頭から離れないでいた。

 未だ知らないだけでトレセン学園の者だろうか、と調べてみてもトレセン学園の生徒欄にはおらず、幼い外見から中学生くらいと予測をしていた。

 だが、そうなると中学生でありながらその走りは高等部の生徒に引けを取らない能力を持っているという事になる。まさに才能の原石と言える人物であり、是非ともレースで活躍しているところを見たいと思わせてきたのだが……。

 

「スカウト禁止じゃ、しょうがねぇなぁ」

 

 そう、現在のトレセン学園は一切のスカウトを禁止していた。これは当たり前と言えば当り前であり、ストーカーの原因であるスカウト行為は来年度まで完全に禁止され、以降も状況を見て禁止か否かを決めると通知されていた。

 一応、ウマ娘の大半が入学を希望してくるがスカウトを受ければその入学試験で評価を得やすいという利点もあった。だが、今年度の入学試験は誰もが対等の状態で争う事になるだろう。

 

「せめてどこのだれか分かればいいんだけどなぁ……。待てよ?」

 

 トレーナーを狂わしてしまう才能の原石。沖野はそこまで考えて彼女が件の被害者ではないかと考えついた。成程、あれだけの才能なら強引にでもスカウトをしたくなる気持ちは分かると沖野は納得した。

 

「トレセンに、来てくれないかなぁ」

 

 そして、もしそうだとすればストーカーが勤めていた学校に入学なんてしたくはないだろう。沖野は入学してくれないだろうなぁと思いながら何時までも目に焼き付いて離れない彼女の走りを思い出すのだった。

 

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