The Room   作:犬屋小鳥本部

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二重瞼④~To the room

私は駆け出した。そこから逃げた。だって目の前で人が倒れたんだよ。恐くなった。

 

息を切らせながら近くの化粧室に逃げこんだ。洗面台の机の上に両手を着いた。水浸しなのも構わない。私は其所が穴場で人が来にくい場所だって知っていた。だから其所へ入った。

一人になりたかった。

ただ、一人になりたかった。

 

心臓の動悸は治まらない。頭の中では倒れる瞬間のあの顔が私を見て言ってくる。

「タスケテ」

私は逃げた。

 

彼は私を見てあんな顔をしたのか。何で。彼は本当に私を見ていたのか。彼は何を見ていたのか。

落ち着いてきた私の心に好奇心という欲が再び顔を出した。

 

だから見たの。あの瞬間を映した動画。

スマホはしっかりとその瞬間を見ていた。

 

アプリを起動して動画を再生した。

顔の見えないもう一人を隔てて、彼はさっきと同じように倒れていく。

酷い顔だ。いくらなんでも私を見てなる表情じゃなかった。じゃあ何を?

私は三回目を見た。四回目を見た。

その瞬間を繰り返し見た。

わからない。わからない。何を見ているのかわからない。

私は彼の顔を見続けた。

 

顔じゃ、ないのかもしれない。そう思ったのは突然だった。

彼がもし何かを見たなら、目で見る以外ない。そうじゃなかったら別のなにかで彼は倒れたことになる。私はそう結論付けた。

 

私は見た。

彼の目を、彼の目の中を見た。

彼の目に映っているかもしれない何かを、私は探した。

 

顔についている二つの目玉。その片方を見た。よく見て、よく見て、目を顔のパーツとしてじゃなくてガラスや鏡のように中に写り込む何かを探した。そして、それを見つけた。

 

目の中には私じゃない別の人が写っていた。きっと、間にいた人だろう。顔は見てないから、多分そうだと思った。

その人は普通の顔をしていた。何処にでもいるような地味な顔。笑っているような、いないような、何とも言えない表情でこっちを、彼を見ている。

そして、それは、目を、目を?

 

 

 

 

 

 

最初から言ってた心を読む妖怪の話。それは人に化ける。とても、とても、そっくりに化ける。

そういう妖怪だろうな。そう思っていた。

実際、そうなんだよ。

その「心を読む妖怪」は、とても上手に、本当に人そっくりに、化ける。それは、人の群れの中にいても自然に、違和感を全く感じさせない。

それは、人のすぐ側にいる。側にいた。

 

 

 

 

 

 

画面の中の、彼の目の中のその人は、目を、開いた。まぶたが上に上がった。その動きをした。

意味がわからなかった。だって始めからその人の目は開かれていたんだよ。それがまぶたの中に消えて、下からもう一つの目が出てきたんだ。

真っ黒だった。

白目がない。瞳孔も、ない。ただ真っ黒の目。

真っ黒な、闇がそこにはあった。

 

その闇が彼の目に写った瞬間、彼は崩れ落ちた。

 

 

 

あれは人じゃない。人の目じゃない。絶対、絶対、みんなが倒れたのはあれのせいだ。

私はあれの目を見ていない。助かった。助かったんだ。

 

そう思って洗面台の上に置いたスマホから目を離した。目の前の鏡を、見た。

鏡に写る私の後ろに誰かがいた。

邪魔かなと思って動こうとした。後ろを振り向いた。

そして、それの顔を見た。

 

上に人の目が描かれたまぶたが上がった。目が、開かれた。

 

 

 

私が見たのはそこまでです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交差点で信号が青になるのを待っている。周りは人で溢れ返っている。

ねえ、これを見た人。私、何か悪いことをしたかな。してないよ。悪くないよ。

 

私はこの文たちを投稿した。それだけ。それだけだよ。

あなただって見たでしょ?

 

 

 

 

 

 

ああ、信号が青になった。

もう行かなくちゃ。

 

 

 

他の人と一緒に私は歩き出す。誰かがこっちに向かって歩いてくる。

私は気づいた。なんとなく。なんとなく、そうだと思った。

 

それは私の目の前で目を開こうとした。

 

 

 

 

 

 

私は見たくなかった。もうあれを見たくなかった。見たくなかったの。

 

 

 

 

 

 

心を読む妖怪に恐怖するのは二つの理由がある。

一つ。人がいればそれもいるから。

二つ。読まれる中身じゃなくて、中身を閉ざしてる扉が開かれるのを恐れてる。扉が壊されるのを、怖がっている。

 

中に何を入れたのかなんて覚えてないよ。それは努めて忘れようとした結果でもあるんだろうけど。

でも、扉が開かれたら思い出してしまう。せっかく癒えた傷も血を吹き返す。それらが一気に溢れた時、私たちは耐えられない。

 

もう、見たくなかったの。

 

 

 

私は、目を閉じた。

 

車のブレーキ音が近づいてきた。

そしてそれは私の上を通り過ぎて行った。

 

 

 

目を閉じなきゃ。壁を作らなきゃ。

心の中を見たくない。見られたくない。

それでもその妖怪は油断させるように化けてくる。

まぶたの上は私たちをバカにするように笑っていた。

 

 

 

ねえ、これを見たあなた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなた、いい加減化けるのやめてよ。

 




あなたのポストに招待状が届きましたね?
封筒は白。絵も柄も文字さえない無垢な白。ただし宛先にはあなたの名前がしっかりと記されている。差出人は空の白。
これですよ、これ。まだ届いていないのですか?

××××××××××××××××××

届きますよ、あなたのところにも。
きっと届きますよ。
だからね、届いたらちゃんと参加してくださいね。
興味、あるでしょう?

××××××××××××××××××

招待状が届きます。あなたのところにも、ほら。
だってあなたは選ばれたのです。ステキなパーティーに呼ばれたのです。
だからちゃんと参加してください。忘れずに最後まで参加してください。

×××××××××××××

知っていますよ、あなたがどんな人か。
だからこそ招待状は贈られてくるのです。見られていますよ、あなた。
来てくれるのでしょう? せっかくのパーティーなんですから。きっと楽しくなりますよ。忘れられないことがきっと起こります。
これからのことなんて全部キャンセルしましょう。

××××××××××××






ああ、ほら。
あなたのための招待状が今、届いた。






用意はいいか。



開始の時間は迫っている。



全ての始まりはその招待状である。その招待状さえ開かなければ、その招待状さえ届かなければ、これから何も起こらないのだ。
あなたはきっと招待状を受け取り、開くだろう。






これは予言である。
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