公安部アカメリウム対策課 作:息抜き梓太郎
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男に案内され、二次島組の仕事について一通りの説明がなされた後、組長から話を聞くことが出来た。
しかし、常に案内役の男が目を光らせており、盗聴器を仕掛けることや組長から情報を引き出すことは出来なかった。
一応、九条も何か証拠となるものがないか、周りに目を光らせ探っていたのだが生憎分かったことと言えば、屋敷内もしっかり手入れがいき届いており、床や壁なども非常に丈夫で重い物を持ち運んでも、地震などがあったとしても屋敷に傷がつくことはないだろう、ということとだけだった。……強いて他に気づいたことを上げるなら、やたら高そうな掛け軸や壺が置かれているというのも付け加えても良いかもしれない。
因みに先達である杉宮に関してはそれ以前の問題として、敵拠点であるこの場所でお腹を壊し、トイレにこもるという事件があった。
そうして、特に何も収穫を得ることができず、終わりを迎える……そう九条自身も諦観していたのだが、その想いは言い意味か悪い意味か……破られることになった。
ドアを蹴破る音、九条達もその音が気になり、急いで、音の方へ向かう。
すると、ドアの先には怪しい緑の光を放つライダースーツとヘルメットを被った男が立っていた。
勿論そんな怪しい男を組の人間が野放しにするなんてあり得ない。
ライダースーツを着た不審者はたちまち組の人間に取り囲まれる。
そして、門を壊し入ってきた不届き者に天誅を下してやると言わんばかりに皆一様に武器を携えて襲いかかった。
普通であれば、この不審者は少しの抵抗をした末に良くてたこ殴り、悪ければ殺されていたことだろう。
しかし、侵入してきた男は異様なほど飛び抜けた身体スペックを活かし、手に持っている百センチはある鉄の筒を軽く振り回すだけで組の人間を一蹴する。
組の人間の中には日本刀や小太刀、果ては拳銃すら持ち出す者もいたのだが、それすら男には傷1つ与えることが出来ない。
日本刀や小太刀は刃部分を手で持ち、砕く。
銃に関しては目にも止まらぬ速さで射線から外れ、そのまま手に持つ鉄の筒で銃を持つ男達を殴り飛ばす。
正に一騎当千。
三国志から出てきた豪傑のような獅子奮迅だった。
自分たちと共に玄関に顔を出していた案内役の男は懐から拳銃を取り出す。
「お前、一体ここがどこか分かってんのか!」
言葉を言い切るよりも早く、躊躇無く銃を発砲。
いくら身体能力に優れる侵入者といえど、不意打ち気味に放たれた拳銃の弾を避けることは叶わず、胴体部分とヘルメットに直撃する。
弾丸の勢いに思わず体をくの字に曲げる侵入者。
そして、侵入者の懐から潰れた弾丸が落ちる。
「なに?」
案内役の男は思わずそう呟いていた。
弾丸は確実に男を捉えていたのだ。
なのに、それにも関わらず、男には然したる怪我は見受けられない。
それは頭部に関しても同様でヘルメットには傷1つついてはいなかった。
異常な程の頑強さ、あれは市販で売られているライダースーツとは一線を画す……いや、そもそもライダースーツと言える代物ではないのだと九条も察す。
「てッめぇ、何しにきた」
案内役の男は拳銃を捨てると、隠し持っていたのだろうナイフを取り出し、侵入者に突き立てようとする。
だが、侵入者はそれをいとも容易く取り上げると、案内役の男に膝蹴りを食らわせる。
案内役の男は地面に膝をつき、口から胃液を吐き出しながらも、侵入者の足にしがみつく。
「ま、まて!行かせねぇ」
そう言いながら懸命に侵入者の足止めをするものの、侵入者はまるで足の踏み場も無い程散らかった部屋で座るスペースを確保するためにゴミを足でよけるように男を軽く蹴り飛ばす。
案内役の男はその一撃によって軽トラックに轢かれたかのように数メートル吹き飛ばされた。
その一連の光景に侵入者を取り囲んでいた者達も気圧され、一同に距離を取る。
侵入者はこれ幸いにと地面を思い切り蹴り、全力疾走で屋敷の中へと侵入する。
ドアや壁が次々に壊されていく破砕音によって暫くの間、工事現場のような騒音が鳴り響く。
そんな中にあっても誰一人として侵入者を追う者はいない。
それだけの度胸のある者は既に侵入者によって倒されている。
あとに残ったのは戦いを苦手とする臆病な下っ端だけだったのだ。
九条は杉宮に目配せする。
どう考えても今の状況は普通ではない。
銃弾を弾く鋼の肉体、鬼人を思い浮かばせる程の卓越した膂力
自分たちが追っていたHCAの人間である可能性は十分にある。
むしろ、アカメリウムを使わないであれだけ常軌を逸した力を出せるとは到底思えない。
しかし、そう思っていたのは九条だけだったのか、隣いる杉宮は首を横に振るう。
何故、と九条は思う。
杉宮の考えが理解できない。
少なくとも暴行罪で現行犯逮捕をすることは出来るはずだ。
ここで様子を見る理由がない。
怪しい点があったとしても、捕まえたあとじっくりと取調室で話を聞くのが最も良い選択だろう。
とはいえ、九条はここに来てまだ一日と経っていない。
勝手な行動が取れる立場ではないのだ。
杉宮の判断に不満を抱きながらも様子を伺う。
そうして、様子を見ること暫く侵入者が屋敷の中から出てくる。
その両手に鉄の筒を持っているのは先ほどと同じだが、ライダースーツに赤い液体が付着している。
それを見た瞬間九条は自然と迎撃のための構えを取っていた。
しかし、侵入者は九条に見向きもせず、一目散に門から出て行く。
出て行く際、不思議な香りが九条と杉宮の鼻腔をくすぐる。
九条は反射的に男を追いかける。
後ろでは杉宮が九条を静止する声をかけているが、九条はそれを敢えて無視する。
今日一緒に仕事をして、もしかしたら杉宮はあまり頼りに出来ない上司なのではないかと疑念を抱いていた。
何よりも、このままではHCAの手がかりを持つ人間を取り逃がしてしまうかもしれない。
それ故に九条は走ったのだ。
高校や警察学校では言うに及ばず、刑事になってからも怠けること無く体を鍛えていたのだ。
そう簡単に引き離されたりはしない。
少なくとも九条はそう考えていた。
だが、
「いない?」
屋敷から外に出て、そのまま、相手を追いかけていた九条は相手が曲がり角を曲がったところで見失ってしまう。
周りは何の変哲も無い一軒家が建ち並ぶ住宅街だ。
犯人との距離も精々一五メートル程度しか空いていなかった筈。
恐らく、曲がった先にある新たな曲がり角に逃げ込んだのだろう。距離にして大体三〇メートル先にあるのが気になる所だが…
しかし、それ外に選択肢が考えられないのも事実。
九条もまた犯人を追い、曲がり角を曲がる。
「まて!!」
しかし、曲がり角を曲がったところで誰かに拘束されてしまう。
「待つのはお前だ」
関節を決められ、動きを止められる。
一体誰が!?九条は自身の後ろにいるであろう関節を決めた人間を見上げる。
すると、そこには九条は先ほどあった刑事が立っていた。
刑事は直ぐに九条の拘束を解くと、一度距離を取る。
また、遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてくる。
「おい、あんた
確か、二次島組の取材に来ていたな?
あそこの組長が殺されたと通報を受けた。少し署で話を聞かせて貰おうか?」
九条の前に立ちはだかる刑事。
今、時間を食われるのは不味い。
九条は急いで警察手帳を取り出そうとする。
したのだが、そこであることに気がつく。
そう、ここには着替えて直ぐ、杉宮に連れてこられたため九条は警察手帳を持ってきてはいなかったのだ。
その様子に刑事は眉間にしわを寄せ警戒心を上げる。
「あんた……。何しようとしてんだ?」
現状、警察手帳を持っていない以上九条が迅速に自分の身分を証明することは出来ない。
自分が警察だと伝えたとしても、警察を騙っていると受け取られ、逆にこちらの話を聞いてくれなくなる可能性もある。
九条は持ちかける話題を自分の身分に関することから、犯人について、にシフトする。
「実は、さっきまでその犯人らしき男を追っていたんです。だけど、丁度ここで見失ってしまったんです」
そう言う九条に刑事は尚も険しい表情を向ける。
あまり、こちらの話を信じてくれていないように見える。
恐らく、九条の先ほどの不審な行動が刑事に悪い印象を与えてしまったのだろう。
九条はそのまま、刑事に連れられて、近くに置いてあった車に乗せられる。
どうやら、この刑事が乗っている車のようだ。
折角、犯人を捕まえる3歩手前まで言ったにも関わらず取り逃がしてしまった。
そのことがどうしようもなく、悔しかった。
☆☆☆
九条が警察であるということは署に行けば直ぐに確認が取れたため、大した時間を取られずに解放された。
そして、上司である杉宮が直ぐに九条を迎えに来てくれる。
「災難だったね。東野君」
二時島組に向かう際に九条達が乗ってきた黒いワゴンの中から柔和な笑みを浮かべた杉宮が九条に缶コーヒーを差し出す。
コーヒーと言っても砂糖もミルクも入っているタイプでその甘さから子供に人気が高く、時々背伸びした子供が自動販売機で買っているのを見かけることがある。
(純粋に労ってくれているのか、遠回りに俺の行動を非難しているのか……いや、非難されても仕方がないことだよな)
九条は缶コーヒーを受け取りつつも、先ほど杉宮の制止を振り切り、犯人を追ってしまったため、気まずそうに目を逸らす。
それに対し、杉宮は本当に不思議そうに首を傾げる。
「もしかして、甘いのは嫌いだったかい?疲れているだろうから、糖分補給でも、と思ったんだけど……」
これ、僕の一押しだったんだけどなぁ、そういう杉宮は本当に残念そうに眉を下げていた。
また、その一言で気がついたのだが、確かに杉宮の席についているドリンクホルダーには自分が今渡されたコーヒーと全く同じものが置かれていた。
どうやら、遠回しな皮肉、否非難というのは九条の思い違いだったようだ。錯覚ということか
九条は杉宮に気づかれないように静かに息を吐く。
それと同時に杉宮が制止した理由はこのように警察に捕まるのを危惧してのものだったのかと疑問を抱き、投げかける。
「先ほどはすいません。それともしかしてさっき制止したのって警察に身柄を拘束されないように、ということでしょうか?」
その言葉に杉宮は眼鏡を直すと、静かに頷く。その際眼鏡が反射し、瞳の奥が良く見えなかったのだが、何故だか睨まれているようなそんな気がした。肺が麻痺したように息をすることを忘れ、「カヒっ」という声にならない悲鳴が漏れる。
「そうだね。僕らは基本的に警察手帳を持って動けないから他の警察に捕まらないように立ち回らないといけないんだ。」
そう言われれば、杉宮は常に刑事らしい大立ち回りをしないよう心がけていた様にも見えた。悪く言えば地味に、よく言えば相手の警戒心を刺激しない動きだった。
杉宮は腕に自信が無いというよりも最初から最後まで自身の役に徹していたのだ。公安警察としての仕事をしていたのだ。
そして、九条ははその役をかなぐり捨て犯人を追った結果杉宮に尻を拭って貰っている。
恥ずかしさののあまり、顔から炎を噴き出しそうだった。そして、ここに来てまた九条は公安警察の難しさというのを実感する。
「まぁ、話はあとで良いよ。取りあえず車に乗って」
杉宮は顔を真っ赤に染める九条を横目に先に運転席に乗ってしまう。
九条もまた項垂れながらも杉宮を追い、助手席へと座る。
すると、杉宮はそのままナビを弄り、目的地を警視庁南部庁舎の近くにある立体駐車場に設定する。
九条はもしかしてと思い、口を開く
「警視庁南部庁舎に戻るんですか?」
「うん、もう僕らに出来ることは殆ど無いからね。」
そう言いながらも杉宮はワゴンに取りつけられたタッチパネルを操作する。
すると、車内に会話の音声が響く。最初はラジオか何かだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
いや、それどころか、これは……。
『はい、こちら鬼瓦です。……え?二時島組の組長が殺された?記者に?どういうことですか
……切られたか』
『おい!おじき!返事しろ!クソっ、返事がねぇ。記者の奴らもいつの間にかいなくなってるし』
『あれって、多分アカメリウムの装備だよな。やっぱりおじきが殺されたのって……』
『やめろ、言うんじゃねぇ』
『え~、二時島組が殺される前、接触している人間はいないですね。
メールなども調べて貰っているのですが、そちらは時間がかかるようです。
鬼瓦刑事によるとここ最近不審なドローンが近くを飛んでいる、と、仰られていたようですが……ドローンは猫に何かを吹きかけたり、逆に餌を与えたりと……正直、誰かが悪戯もしくは鬱憤晴らしに操縦していると考えるのが妥当かと
…………。
ええ、そうですね今回の件とは関係ないかと』
次々と流れ出す、誰かの会話
「盗聴器?」
九条は思わず口にだす。
そうとしか考えられなかった。
しかも聞こえてくる声はそれぞれ全く別の物。
複数の盗聴器を使っているようだった。
そして、杉宮は九条の推測を肯定する。
「うん、そうだよ。
初めに流したのは二時島組の事務所に行く前に出会った鬼瓦刑事に取りつけたもの
丁度、事件が起きる少し前に電話がかかってきたみたいなんだ。
次に流したのが二時島組の組員に取りつけた盗聴器
そして、最後はパトカーに取りつけている物だよ」
九条は思わず頭を抱えてしまう。
いつの間に鬼瓦刑事や二時島組の組員に盗聴器を付けたのか、というのもあるし、パトカーに盗聴器を付けているというのも、同じ警察官に疑惑の目を向けているようで気が引けてしまう。
流石にこれを心にしまっておくことは出来ず口に出してしまう。
「盗聴器はどのタイミングで付けたんですか?それと、パトカーに盗聴器って大丈夫なんですか?」
「そうだね。先ず鬼瓦刑事と二時島組の組員に盗聴器を付けたタイミングはそれぞれ、鬼瓦刑事に触ったときと、二時島組の時はトイレに行ったタイミングだよ。
ノートパソコンに取りつけられている盗聴器、あれをあらかじめ、いくつか出してポケットとかにしまっておくんだ。
出来れば、名刺入れを入れているポケットが良いね。
そこで名刺を出すと同時にポケットから盗聴器を出し、タイミングを見計らって取りつける。
だから、一応、組を案内してくれた人にもつけてるんだよ。
次に盗聴器に関しては……まぁそもそもがグレーだけど、そこはスパイをあぶり出す役目も公安は担っているからね。
流石に軟禁とかは問題になるけどこのくらいならもみ消せる。」
あっけらかんと言ってのける杉宮に九条は微妙な表情を浮かべる。
(正直、グレーというか黒の様な気がする。
ただ、それだけ結果を出さなければいけないと言うことなんだろう。}
九条は自身にそう言い聞かせて無理矢理納得する。
そうしなければお世話になった刑事部捜査1課の人達を疑っているようで罪悪感に苛まれてしまいそうなのだ。
他者のプライバシーを踏みにじっている自身に対する嫌悪感で喉を掻きむしってしまいそうなのだ。
そんな九条の気持ちを知らないであろう杉宮は片手をハンドルから離し、再度、タッチパネルを操作する。
今度は録音ではなく写真のようだ。
1枚目は屋敷の中、それも侵入者がきたあとの写真だろう。
そう思った根拠として、九条達が入っていたときは綺麗だった廊下の一部が抜けているのだ。
そして、二枚目は組長が殺されている写真。胸の辺りに大きな穴が空いている。
3枚目は今までとは違い屋敷の中ではなく、九条が犯人を見失った路地裏だ。
特に変わった所は見受けられない。
両脇に一五〇センチほどの塀の極々自然な一軒家がそれぞれ建ち並んでいる。
四枚目、五枚目はそれぞれ、三枚目で移されている敷地の中が映されている。
四枚目の家屋の敷地にはコンクリート製の床に車が一台置かれている。
五枚目の家屋は玄関前に監視カメラが置かれており、地面はふかふかで花壇や幹や枝はまだ細く幼い木ではあるが町中にあることを踏まえると十分に背の高い木も設置されている。
地面には小さい生き物の足跡が残っているのが分かった。
六枚目は五枚目の写真の家屋の塀に開けられている穴だ。
しかし、大きさ自体は三〇センチほどで人間が通れる穴ではない。
一応監視カメラは反対側を映すように置かれているため、カメラに写ることはないが今回の事件には関係がなさそうだ。
「気づいたかい?東野君」