それでは第10話どうぞ!
あのあと、挽肉ミンチにされたネズミが完全に息の根を止めたことで人形兵も完全に沈黙した。
俺と師匠は血塗れになった人形兵を2人がかりでネズミの死骸から引き離し、ネズミの死骸からは黄金のルーンが3つ手に入った。合わせて600ルーンくらいだろうか?露天商の獣肉の香草焼きが一個しか買えない値段だ。2人分の夕飯にはちと足りない。
ワンコ君はネズミ丸ごと1匹を丸々食べて満足したのか、そのまま寝ついてしまった。
「この人形兵はの、わしが若い時分に旅をしていたときに護衛の供として連れていたものじゃ」
残された死骸を片付けることにした俺と師匠は、師匠の昔話を聞きながら作業に当たった。
師匠は魔術技師の家系に生まれたそうで師匠の実家はカーリア王家とも取引があるほどの名家だったが、若い師匠は魔術技師なんて古臭いものは大嫌いだったそうで、レアルカリアの魔術学院に憧れていたそうだ。
そして、家業を継がず魔術一辺倒にのめり込む師匠と家族は疎遠になり師匠が魔術学院に入学する頃には顔も合わせないような仲になってしまったそうだ。だが、入学祝いにと師匠の父、つまり俺にとって曾祖父さんになる人が送ったのがあの人形兵だったそうだ。
魔術学院では実力主義ではあるものの陰湿なイジメが横行する最悪な環境だったが、師匠が在校生にイジメられる度に人形兵が身代わりになり1本、また1本と腕を失ってしまったそうだ。でも、師匠は魔術一辺倒だったため人形兵を直す方法を知らず、そのままにするしかなかった。
以来みすぼらしい人形兵を引き連れる魔術師として更にイジメが苛烈になっていったそうで、師匠は何度も人形兵を疎ましく思ったが、何故か人形兵を捨てられずそのままにした。
そして魔術学院を去る日、あの悪名高い狭間の地最強の甲殻類であるザリガニの襲撃に遭い、人形兵はザリガニのみずでっぽうから師匠を庇うため身代わりになり右足を失ったのだという。
何とかザリガニは倒したが、壊れた人形兵をそのままにするのも忍びなく、この王都ローデイルに居を構えるまでは供として連れていたそうだ。
歩く分には棘棍を杖にして何とか歩けるので問題ないが、戦いになるとどうしても転ぶので膝立ちになって戦うので脚パーツの損傷が激しく、もう立って歩くのは出来ないそうだ。
俺は師匠の話を聞いて、どんなにボロボロになっても主人を守る為に戦うその忠誠心とパーツが駄目になったら膝立ちで戦うという発想をする高度な人工知能を搭載しているであろうあの人形兵に俺はブラボの人形ちゃん、或いはゲーム中のラニ様の姿に重ねて惹かれていた。そしてどうしても人形兵を直してやりたくなった。
俺は家の裏庭で死骸を燃やしながら人形兵を直すことを心に決めるのであった。
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「では改めて、おぬしの魔術の修行を執り行うとしよう」
日も暮れて夜となり、師匠と2人で露天商の獣肉の香草焼きを半分に分けてひもじい夕飯を済ませたのち、改めて魔術の修行を付けてもらうことになった。
「先日おぬしから聴いた"おぬしの世界"での星の知見、大変に参考になったわい。蒙が啓くとは正にあのことじゃいて。世が世なら新たな理論を構築できる程じゃ。じゃがわしにもおぬしにもその機会と術はない。先ずは基礎をしっかり学び、魔術の知見を深めようぞ。まず、最初の学びとは己が無知である事を識ることからじゃ…」
そう長々と云々云々と話出したので要件だけを掻い摘んで聴くとようはイメージと反証が大事、ようは思い込みの力が大事であるという。よく言えばイメージの力だ。
"自分はこういう事象をイメージする"と出力イメージをし、反証として
"何故ならばこういう理由でこういう事象が起こるからだ。"と理由付けをする。
その"反証"の部分に自分がどれだけ深く納得して確信することが魔術の成功するか否かに掛かってくるのだという。
何だか変な宗教や自己啓発のセミナーや毒電波を受信したツイートを聞かされているような気分だ。
でも思い込みが力になるというのなら、俺はこの世界はゲームの世界だと思い込んでいるので、俺もどっこいどっこいなのだろう。
とりあえず、魔術に対する心構えというか概要を聴いたのち、本格的な魔術の修行に取り掛かることになった。
先ずは基本の基である"輝石のつぶて"そして"星灯り"を習得する所から始めることとなった。
輝石のつぶてはレアルカリアの学院に由来する輝石魔術のひとつで魔術の探求は、皆ここから始まるとされている。見た目は菱形の青緑色に煌めく結晶が光の尾を引いて目標に向かって飛んでく魔術だ。
この魔術を構成する要素は2つ。先ずは輝石の結晶を発生させ、次に輝石の結晶を目標に向けて飛ばす動作だ。
この輝石の結晶を飛ばす運動エネルギーは杖を振る遠心力の他に輝石が目標に引き寄せられるような力、つまり引力の様な力が重要である。
正直これが基本とかどうかしてる。輝石を放つ力はどうやって生み出すのか、それはどの様にイメージするのか、わけがわからん。
若かれし時の師匠もそう思ったそうで、先ずは輝石の結晶、つまり魔力の塊を生み出す方の魔術を完璧に習得するのが先に必要だと考えたため星灯りの魔術を先に習得しようとしたのだという。
星灯りは小さな輝石の星を頭上に浮かべて周囲を照らす、学院を離れ旅立つ魔術師に与えられる魔術だ。
これならば簡単そうだと、早速訓練してみることにした。
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「・・んぁー!むずかしい!わっかんねぇ!師匠〜どうやって魔力を体外に出すイメージしてんのさ〜!力むだけで何も起きないよ!」
実践して30分くらいなっただろうか。一向に頭上には輝石の星は浮かばず、うんともすんとも言わずにただ時間だけが過ぎ去っていた。俺はもはや某野菜人が超野菜人に変身するときのように眉間に皺を寄せ汗水流して力みまくっていた。
「そうじゃろうてそうじゃろうて。魔術の探究は一長一短に行えるものじゃないわい。それに触媒もないからの。成功せんで当然じゃわい」
そんな俺に師匠は飄々と言い放ち答えた。そう言えば輝石の杖とか貰って無かったな。
「師匠、気付いてたんなら言ってくださいよ。今の時間無駄だったじゃないですか!」
「それは違うぞ弟子よ。魔術の探究に無駄な時間などないのじゃ。かけた時間があればあるほど、その後に啓く知見は大きいものじゃ。この時間のおかげで幾ら頑張ったとて触媒なしで魔術は発生せんのだと学べたじゃろう?己の無知を識る。これは大事な事じゃ」
「異議あり!それは教育者の怠慢だ!」
「何じゃと!生意気な弟子じゃて!あ〜あ〜やる気がなくなってしまったわい。今日の修行は終いじゃ、さっ良い子はさっさと寝るぞい寝るぞい…」
「ちょっ、待っ、待って師匠!俺の寝床は?地下室まだ血生臭くて寝れないから!俺もここに寝かせて!」
「知らん知らんわしは知らん。さぁ寝るぞい、星灯りも消したるからの」
師匠はそういうとふかふかの絨毯の上に寝転んでしまった。しかし絨毯は狭く1人分しかスペースはなく残るは冷たく硬い剥き出しの石畳しか残っていない。
「師匠!俺も!俺もそっちで寝かせて!ほら、可愛い孫の添い寝ですよ〜!ほら〜!」
「えぇい!喧しい!わしは男と同衾する趣味はないわい!ほりゃ、わしの犬と添い寝すると良いぞい。ふかふかで暖かいからの。じゃあの」
そういうと師匠の"星灯り"の明かりが消え部屋は真っ暗になる。
仕方なく、身につけていた市民の上服のマントを広げて首の木枷を枕に寝ることとした。寝心地は意外と良く、直ぐに眠気が来る。
(…あぁ、こんなに楽しい1日はこの世界に生まれて初めてだったなぁ。明日もこんだけ楽しければいいなぁ)
そんな事を思いながら俺は意識を手放したのだった。
如何でしたか?
次回もお楽しみに!