"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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R7:09/03追記
主人公のブルアカ公式風立ち絵を描いてみました。
多少は容姿のイメージが固まるかもしれません

【挿絵表示】



プロローグ
プロローグ


正午:トリニティ本校/廊下

 

「…………雨か」

 

窓の外から聞こえた小さな音に目を向ける。

ねずみ色に染まった窓の外では、しとしとと雨が降り始めていた。

 

……なかなかに厚い雲だ。

一度降り始めたのなら、しばらくは止みそうにない。

 

(……あの時も、こんな雨だったか……忌々しい)

 

だんだんと騒がしさを増していく雨音に物思いを馳せて、ぼうっと外を眺めていると……雨音に混じり、背後からどたどたと足音が近付いてきた。

 

「……?」

 

なにごとか、と振り返る。

そこには、ぜえぜえと息を切らした正義実現委員会の生徒が立っていた。

 

「はあっ、はあっ……! ルイさん! ハスミ先輩が演習の件で呼んでましたよ……!」

 

私を捜していたらしい彼女は、肩で息をしながらそう告げた。

 

(……呼び出しとは珍しい。明日の演習に何か変更があるのだろうか)

 

「わかった、すぐに向かう」

「手間をかけたようだな……すまなかった」

 

いまだ息を切らしている彼女にそう伝えて、私は正義実現委員会の部室へと向かった。

 

 


 

 

「────ふう」

 

"ぱたん"と部室のドアを閉め、一息つく。

ハスミとの会議は何事も無く終わり、またしばらく時間が空いた。

 

(予定は……今から1時間ほどあるか。ならば、問題ないだろう)

 

腕時計から視線を外して、自分の部室へと歩みを進めた。

 

 

昼:トリニティ本校/相談室

 

 

────それからしばらく。

携帯を黙々と操作していると、"こんこん"とノック音が響いた。

 

「……ルイさん? いらっしゃいますか?」

 

厚い扉越しながらも、透き通る声。

 

(この声は……)

 

そっとスマホをしまって、"どうぞ"と返事をする。

扉を開け、入室してきたのは……ティーパーティの一人にして、私の友人。桐藤ナギサだった。

 

「連絡もなしにすみません。……ルイさん、いまお時間よろしいですか?」

 

物腰は柔らかいが、その雰囲気はどこか重い。

……厄介な相談事があるのは、態度から明らかだった。

 

「ああ、時間はある。立ち話もなんだから座ってくれ」

「もし喉が渇いているようなら、紅茶を淹れようか?」

 

腰を据えて話そうとばかりに提案すると、ナギサは"いえ"と首を振った。

 

「そう長くなる話ではないので、お気遣いなく」

 

誘いを丁重に断り、ナギサはソファに腰かけた。

 

「そうか。それでは……話を聞こう」

 

私も椅子に座って、視線を合わせると……ナギサはゆっくりと話し始めた。

 

「近頃、"ブラックマーケットでトリニティの生徒が頻繁に目撃されている" という噂がありまして……ティーパーティとしては、調査の必要があると考えております」

 

「しかし、内容が内容のため……表立って調査するのも憚られるのです……」

 

ナギサは困ったように眉を下げて、ふうとため息を吐いた。

 

(……"ブラックマーケットにトリニティの生徒"、か)

 

「ふむ、それは穏やかではないな。……それで、私に調査を依頼したいという事でいいか?」

 

尋ねると、ナギサは淑やかに頷いた。

 

「その通りです。もちろん、我々にできる協力は惜しみません」

 

「……わかった、任せてくれ」

 

了承すると、ナギサは安心したように微笑んで、小さく頭を下げた。

 

「……ありがとうございます。いつもいつも、苦労を掛けますね」

 

「気にしなくていい、それが私の職務だからな。……君の助けになれて光栄だ」

 

微笑みを作って返答すると、ナギサも"ふふ"と笑みを返してくれる。

 

……こうして、私はブラックマーケットの調査を任されることとなった。

"さて" と話を区切り、詳細の聴取に入る。

 

「……ブラックマーケットと言っても、いくつかある」

「どこのブラックマーケットか分かるか?……それと、情報源に付いて聞きたい」

 

そう尋ねると、ナギサはつらつらと答えていく。

 

「場所はアビドス近郊にあるブラックマーケットです」

「情報源は先生ですが……彼も"他の生徒から目撃情報を聞いた"、という形ですので……」

 

(アビドス。これは……困ったな)

 

内心穏やかでないながらも、表情に出さずメモを取っていく。

ひと通り状況を把握したところで、"ぱたん"とメモを閉じた。

 

「よし……だいたいは了解した。私の方で調査してみよう」

 

「助かります。……ですが、ルイさん一人では危険なのでは? 他の人員も用意できますが……」

 

ナギサは心配そうに手を組んで、おずおずと尋ねた。

その問いに小さく首を振り、"いいや"と続ける。

 

「……あそこはアビドス生徒会の手が回らないのを良い事に、無法地帯と化している」

「下手に人員を増やしては、かえってリスクが上がるだけだ。調査の人員は私一人で十分だろう」

 

"心配してくれてありがとう"と付け加えると、ナギサはしぶしぶと頷いた。

 

「……わかりました、くれぐれもお気をつけて……何か必要な物があれば、連絡してくださいね」

 

「ああ、その時は遠慮なく頼らせてくれ」

 

そう返事をすると、ナギサはそっと立ち上がり……流麗な動作でこちらに一礼した。

 

「では、私はこの後に予定がありますので……少し早いですが、失礼いたします」

 

「わかった。また何かあったら相談してくれ」

 

"ええ"、と微笑んで私に背を向けたナギサは部屋の扉を開けようとして……ぴたり、と立ち止まる。

 

「……そういえば、本日の15時半ごろからミカさんやセイアさんを招いてお茶会をしようと思うのですが……折角ですので、ルイさんもいかがでしょう?」

 

そう言って、ナギサはにこやかに私を"お茶会"へと誘った。

 

時間的には、アフタヌーンティー。

つまり、正規の会合ではなく……ただ単純に"友人としてお茶会をしよう"という提案だろう。

 

……彼女達と話せるのは、私としても嬉しい。

"是非に"と反射で答える直前。今日は私の業務……"相談室"に予約が入っている事を思い出した。

 

「……すまない。嬉しい申し出だが、少し待ってくれ」

 

メモを開いて、急いで次の予定を確認する。

覚え通り、来客予定は17時30分から。

 

……書類仕事を後に回せば、時間には充分に余裕が作れる。

 

「よかった……予定は空いている。喜んで伺おう」

 

高揚感と共に声を弾ませると、ナギサはにこりと微笑んだ。

 

「ふふ、お二人も喜ぶでしょう。それではまたのちほど、お待ちしていますね」

 

「ああ、また後で。楽しみにしているよ」

 

ナギサは小さく手を振って、部屋を出て行った。

"ぱたん"という小さな音と共に、私は外界と隔絶され……ひとつ、ため息を吐き出す。

 

(……あまり、悠長に構えてはいられないか……)

 

私の胸中では、複雑な感情が渦を巻いていた。

"困ったな"と内心で呟きながらスマホを取り出し、画面に目を落とす。

 


 

[ 用意はできた、受け渡しはいつがいい? ]

 

画面に映るのは、"業者"から送られてきたチャット。

 

[ わかった、今日の24時前後に取りに行く ]

 

そう返信すると、1分も経たないうちに [ 了解した ] と短いメッセージが送られてくる。

 

 

……そう。ナギサの言った"ブラックマーケットに出入りしている生徒"とは、おそらく私の事だ。

現在私は、とある事情であらゆる手段を通じて物資調達を行っている。

 

それは、あの忌々しい "エデン条約事件" から準備してきた "計画" のため。

 

 

────"計画"。

 

それは、一言で語るのならば……"黙示録の回避"。

 

 

トリニティの聖典には、"黙示録"という予言がある。

おぞましい過程を経て、世界が滅び……神の元に再誕するという内容だ。

 

そこに記された予言は、"封印"を解いてしまった子羊……私達が辿る末路を示す。

 

 

"白き馬が勝利を重ねんと飛び出し。"

"火炎の如き赤き馬が戦争を齎し。"

"黒き馬が飢餓を齎す。"

"青褪めた馬が死を振り撒き。"

"殉教者が復讐を始める。"

 

 

私が観測する限り……黙示録の段階は既にここまで進んでいる。

予言に記された"白き馬"……勝利。和平を求め飛び出したミカの事とも取れる。

 

そして、アリウスの支配者、マダムと呼称された存在は真紅の体を持ち、争いを引き起こした。

 

その事実から、"白き馬"をエデン条約事件に当てはまるのなら……"赤き馬"も記述の通り現実になっている。

 

続く黒き馬はアリウス分校、青ざめた馬はミメシスなる異常存在。

続く殉教者は……ナギサか、ミカか。

 

偶然と片付けるには、あまりにも符合が多すぎた。

いくつもの事象が、"黙示録"との関連を示している。

 

……時間がない。

 

"黙示録"は既に始まり、進行している。

 

かの事件が大団円を迎えた後。偽りの平穏に気が付いた私は、訪れる破滅を超克するため、幾つもの計算、想定、思考を重ねた。

 

……結果、私は最も有効で、最も確実で、最も時間のかからない……ひとつの結論に行きついた。

 

それは……"トリニティとゲヘナの講和"。

 

三大校と呼ばれ、その名の通り圧倒的な力を持つ トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム。

その内の二校が対立していては、真の有事……"黙示録"が発生した際に、致命的な事態を招くだろう。

 

これを人に語れば夢物語と嗤われるだろうが……我々は既に、その光明を見ているのだ。

 

大聖堂に巡航ミサイルが撃ち込まれたあの日。

その場に集まっていたゲヘナとトリニティの生徒は手を取り合った。

"先生"を戦火より救出し、不明な勢力の撃退に尽力。

複雑な過程を経るも、結果的にあの事件は大団円を迎えた。

 

 

団結のため私達に必要なのは、"平和"などという綺麗ごとではなく、"共通の敵"。

あの事件は、それを如実に示している。

 

 

……今のままでは、キヴォトスは滅ぶ。

超克せねばならない、この危機を、試練を。

 

そのためなら……私はトリニティを裏切り、ゲヘナ共に討つべき"敵"となろう。

これは、誰でもない、私がやらなければならない事だ。

 

 

決意を固めて、拳を握る。

……しかし、長く準備してきた計画にも、ひとつの綻びが生まれてしまった。

 

(……秘匿も偽装も、上手くやってきたつもりだったが……)

 

ここに来て、尻尾を掴まれるとは。

 

都合よく私に調査依頼が来たおかげで、ある程度の遅延は見込める。

だが "トリニティの生徒"という所まで露見しているのなら、これ以上悠長に構えてはいられない。

 

疑われ、監視を付けられてしまえば、追及をごまかしきる自信はない。

 

(……こうなれば多少のリスクは割り切ってでも、計画を前倒す必要があるか……)

 

焦燥に頭を悩ませながら、私は苦慮に耽るのだった。

 

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