深夜:トリニティ/フィリウス分派寮:ナギサの部屋
side:ナギサ
"ビーッ! ビーッ! ビーッ!"
静謐なる夜を切り裂くように、甲高いアラート音が鳴り響く。
(……っ!?……はあ……夜中になんですか、一体……)
心臓が飛び跳ねるような不協和音に叩き起こされた私は、いまだ微睡みの中にある目を擦り、通話に応じる。
"ああよかった通じた!無事ですか!?ナギサ様!"
……様子がおかしい。
「……ええ。こちらは無事ですが……何事ですか?」
物々しい声で語る正義実現委員会の生徒からは、相当な混乱が感じられる。
……なにかがあったようだ。微睡は吹き飛び、がばりと身を起こす。
[サンクトゥスの寮にて襲撃があり、百合園セイア様が……拉致されました! ]
「はっ……?」
返ってきた言葉は、予想だにしない威力で起き抜けの頭を殴りつけた。
セイアさんが……?
そこで、思考が止まる。
[……ナギサ様! 大丈夫ですか!?]
急に押し黙った私を心配する相手の声で、現実に引き戻される。
「っ!ええ、大丈夫です……続けて、ください」
深く呼吸をしてそう伝えると、相手は"わかりました"と続ける。
[被害状況ですが……セイア様が拉致され、現場にいた正義実現委員会の生徒十数名と───セイア様の護衛に就いていた聖園ミカ氏が、負傷しました]
「っ……ミカさんがっ!?……げほっ!けほ……」
息が詰まる。
考えるより先に衝いて出た言葉は寝起きの喉には負荷が高く、むせてしまった。
[ 落ち着いてください!……幸い、ミカさんは軽傷です ]
[ 現在救護騎士団によって治療中ですが、救護された時も意識ははっきりしていました。ご安心を ]
「……そう、ですか」
僅かな安心が私を動揺より救い出し、ひとつ息を吐き出す。
「……わかりました。それで……犯人はいったい何者ですか?」
ミカさんとセイアさんをこんな目に遭わせた犯人を、私は許さない。
たとえどこまで逃げようと、地の果てまで─────
[ 2年生の……天城ルイです ]
「えっ?……は……?」
───ありえない。
しかし、その名はしっかりと耳に残っている。
吐き出したい言葉は喉で止まり、"ひゅう"と小さな音を奏でる。
だって、だってルイさんは───。
[……交戦した生徒からの証言と、ミカ様からの証言 ]
[そして、監視カメラの映像が一致しました。襲撃犯は天城ルイで間違いありません]
私の────!!
"……ナギサ様?"
「うっ……ぐ……」
ぐわん、ぐわんと視界が揺れ、こみ上げる熱に喉が灼ける。
ああ、だめだ。もう……なにも……わからない。
「っ……おえぇ……」
抑えきれず、ベッドに全てをぶちまける。
ツンとした酸の臭いが、混濁した意識をわずかに鮮明にさせた。
ああ……まただ。
……天城ルイ。
あの時間は、なんだったのだろう。
[─ギサ様!?大丈─で──!!]
端末からの音は、もう耳に入らない。
「うっ……うぅ……」
悲しみ、吐き気、怒り、後悔、耳鳴り。
「……ルイ……っ」
あらゆる感情が押し寄せ、全ての感覚がめちゃくちゃに歪む。
救いを求めるように虚空へ伸ばした手は、歪んだ意識と共に……闇へと沈んでいった。