朝:ミレニアム領内/地下通路
「────何だと……?」
ミレニアム領内へ帰ってきたルイとエイミは、アビドスより持ってきた荷物を持って地下を移動していた。
────そんな中、セイアより入ってきた緊急通信がルイを焦燥に突き落とした。
「……ルイさん、どうかしたの?」
心配そうに尋ねるエイミを片手で制し、セイアに聞き返す。
「……もう一度順を追って説明してくれ、すまない、飲み下すのに時間がかかりそうだ」
"……わかった、もう一度説明しよう。"
"……まず、結果から言うとナギサが倒れた。それと関係して、ミカが行方不明だ。"
"情報源はトリニティ内の会話や通信を傍受したものだ、推測が混ざる事に留意してくれ"
「……わかった」
"……ナギサは限界だったんだ、パテルもサンクトゥスも結局代理を立てないまま、仕事を回し続けていたらしい"
"そんな中、君がアビドスに現れたと聞いて……深夜に公示の書類を作成していた"
"……ストレスが溜まっていたんだろう、ナギサを休ませようと執務室に乱入したミカと口論になりヒートアップ、ミカに対して「裏切り者」、と……"
"ナギサにそんな意図は無かっただろうだが、それでもミカは深く傷付いたはずだ"
"その結果……ミカはトリニティを去り、更には先生からの連絡にも応答しない"
"ナギサはミカが去った直後に糸が切れたように倒れ、救護騎士団の医務室に運び込まれたそうだ"
「…………そうか、まずいな……」
努めて冷静に返答していたが、セイアからの報告内容はルイを酷く焦らせていた。
現状、最後のティーパーティーであるナギサが倒れたとなれば……他の派閥がどう動くかわからない。
良くて暗闘、悪くて動乱が起きる。
それよりも────ルイは親友が深く傷付き、倒れた事に焦りを感じていた。
"……幸いと言うべきか、この状況はまだトリニティ内に知られていない"
"その場にいた情報部の生徒たちが手を回したようだ。それでも、ナギサはしばらく動けないだろう"
"……いずれ、それは露見する。動ける時間は少ないと見るべきだ"
「それは、幸いと言うべきか……いや、私にそれを言う資格はない」
「……すまない」
誰に対してでもない、ただ沈痛な謝罪のみが口を衝く。
それに対し、セイアは言い聞かせるように口を開いた。
"……なあ、ルイ……こればかりは、君の責任だ"
"私も内心は荒れている、君が今、焦っているようにね"
"……どうするつもりだい、君が求めていたのはこんな事態じゃあないはずだ"
セイアは慟哭を言葉に、激しく問い詰める。
ナギサとミカは、彼女にとっても親友なのだ。
「……わかっている」
……この事態を招いた元凶であるルイは、彼女の慟哭を噛み締めるように返事を返す。
"……天城ルイ、君が目的と結果を重視しているのはよく理解している"
"だが、それは過程を蔑ろにしていい理由にはならない"
"よく考えるんだ、目的と結果だけ注視した結果が今この現状だ"
"────頼む。どうにかしてくれ、これ以上二人が君の犠牲になる所は見たくない"
通信越しでも伝わる彼女の哀しみが、ルイの表情を強張らせる。
「…………私としても、この現状は望ましくない」
「どうにかする……だが、今すぐにと言うのは難しい。少し時間を────」
"……言ったはずだ、時間がないと"
"シスターフッドは既に嗅ぎつけている、救護騎士団の一部にも知られた"
"……情報が漏れるのは時間の問題だ。何より、君にはこの事態を解決する責任がある"
"……とにかく、まずは二人を仲直りさせてやってくれ、あの二人が仲違いしたままというのは……嫌だ"
「……わかった、すぐにミカの捜索に向かう」
「何か情報があれば、教えて欲しい」
"……私も可能な限りミカの足取りを追ったが……ある地点で監視カメラの存在しないエリアに消えた"
"しかし彼女の向かった方向から推察するに……恐らく、ゲヘナへ向かったはずだ"
「ゲヘナへ?まさか妙な気を起こしていないだろうな……」
"その可能性が無いとは言えない。私も情報の収集を急ぐ、君も急いでくれ"
「……ああ、すぐに向かう」
そう返事をして一旦通信を切ると、エイミが心配そうにこちらを見ていた。
「ごめん、聞こえちゃったんだけど……私も行こうか?人手が多い方がよさそうじゃない?」
エイミはそう言って、私の答えを待つ。
少しの逡巡の後────私は首を振った。
「……いや、エイミは暫く表に出ない方がいい、アビドスでの交戦で私に協力者が居るのは知れた」
「この荷物を持って今すぐ帰り、ヒマリに頼んで自身のアリバイ工作を行ってくれ」
私の持っていたアタッシュケースをエイミに差し出すと、エイミは頷き、それを受け取った。
「……悪いが、アビドスで何が起きたかの説明も頼む、本来なら私がやるべきだが……その時間は無い」
「うん、わかった。じゃあ……気を付けて」
「ああ、すまないが……頼んだ」
エイミに頭を下げ、ルイは来た道を駆け戻った。
早朝:D.U地区/シャーレのオフィス
「……先生、いい加減にしてください」
外出用のコートを着ていた所をRABBIT小隊/月雪ミヤコに発見され、先生は椅子に拘束されていた。
「……ミヤコ、ごめんね。」
「それでも、今私にしか出来ない事があるんだ、お願いだから、拘束を外してほしい」
先生はあくまで優しい微笑みを崩さず、ミヤコに願う。
しかし彼女は眉を顰めるばかりで、一向に首を縦に振らない。
「……駄目です。先日ミレニアムへ勝手に行った件で私たちの愛想は尽きたと思ってください」
「……あれは極秘だったんだ、校区内ではC&Cの護衛が着いてくれてたし……」
「今のミカを放っておくわけにはいかないんだ、護衛も伴うから……お願いだから拘束を解いて欲しい」
「……いいえ、許可できません。そんなに行きたいのなら、私たちが代わりに向かいます」
「私とミユなら捜索や索敵の訓練を受けていますし、先生が向かうより余程安全かつ確実でしょう」
そう言い切ってミヤコはスマホを取り出し、RABBIT小隊の面々に向けてメッセージを送る。
「それでも……私自身が必要なんだ、わかってほしい。」
それでも諦めず、懇願し続ける先生に対しミヤコは大きくため息を吐く。
「……通信で話せばいいでしょう。」
「ミカさんでしたっけ?彼女の事はよく存じ上げませんが……普通の生徒なら、自分のせいで先生が表を出歩く事になったと考えますよ」
そう言って、ミヤコはことりとスマホをテーブルに置いた。
「……私たちが出ている間、モエとサキがシャーレ執務室の防衛及び先生の護衛を務めます」
「残りのメンバーが到着次第、二人の護衛を引き継いで私とミユは捜索に向かいますので……大人しくしていてください」
"決定事項"と言った様子で準備を始めたミヤコに流石の先生も諦めたのか、椅子に深く座り直した。
「……わかった、ごめんね。気を付けて。」
悲しげにそう俯いた先生に対して多少の罪悪感を感じながら、ミヤコは出撃の準備を進めるのだった。
早朝:D.U地区/シャーレ1F
シャーレの車両の前で装備の最終確認をしながら、ミヤコとミユは話し始めた。
「……軽いブリーフィングをしておきましょう」
「今回の作戦目標はトリニティよりだっそ……いえ、行方不明になった聖園ミカさんの捜索です」
「彼女を捜索して接触し、先生により説得を試み、トリニティに帰還させるのが最終目標です」
「先生によると……恐らくゲヘナに向かったものと考えられます。」
「つまり、今回のミッションは、実際のところ"迷子捜し"のような単純なものではなく……」
「聖園ミカさんがヤケを起こしてゲヘナに喧嘩を売り、戦争の火種になる事を阻止する事が最重要です」
そう言ってブリーフィングを締めくくったミヤコの言葉に、ミユは情けない声で返答する。
「……ふえぇ……私にできるかな……」
「索敵は得意でしょう……サキではなく貴方を連れてツーマンセルにしたのは、貴方の実力を信用しての事です」
「……さて、内容は移動中に詰めましょう、乗ってください、出発しますよ」
ミユの腕を引っ張り、助手席に乗せたミヤコは運転席に乗り込み、無線機の電源を入れる。
「あー……RABBIT3、応答してください」
"聞こえてるよー、通信や監視カメラの映像はこっちで確認してる、今のところ問題なーし"
モエの声が明瞭に聞こえ、助手席のミユがこくりと頷いた。
「こちらも問題ありません、では……RABBIT小隊、作戦開始!」
その言葉と同時にエンジンを吹かし、RABBIT小隊はゲヘナへと移動を始めた。