朝:ゲヘナ自治区/郊外区画
"バシュッ!!" "バシュッ!!" "ザアッ!!"
「────ここにもいないか」
建物の間を飛び移り、大きめなアパートの屋上から周囲を見渡す。
ミカのように可憐で、美しい髪色を持つ者ならば一目で判る。
高所より捜索するのが得策と判断したが……その成果は芳しくない。
「セイア、そちらは?」
"駄目だ、監視カメラには映らない"
"私も目を皿にして捜しているが……ミカらしき人物は見当たらないね"
「……そうか、私は引き続き郊外区画を捜索する」
"いや……待ってくれ。"
"監視カメラのないエリアで言うのなら、そこの北西に廃墟の立ち並ぶエリアがある"
"風紀委員のデータによると……そこは建造物の老朽化で区画ごと放棄されていて、今では不良も寄り付かないらしいが……ミカの事だ、そう言った場所に引きこもっているかもしれない。"
「わかった、一度そこを捜索してみよう。端末に座標を送っておいてくれ」
"ああ、既に送ってあるよ"
「ありがとう。では……移動を再開する」
"バシュッ!!" "バシュッ!!"
ルイは再び飛び立ち、セイアより指定されたエリアへと移動を始めた。
朝:ゲヘナ自治区/放棄された区画
"ダアンッ!!"
老朽化した建造物の崩壊を防ぐため地上に降り立ったルイは、周囲を一瞥し……ひとつの痕跡に気付く。
(……足跡。それも新しい)
砂埃に浮かぶ目新しい足跡、それは区画の奥へと続いており……最近誰かが通った事を示していた。
「……目新しい足跡を見つけた、ミカの物かもしれない」
"わかった、その近辺のカメラを重点的に見張ろう。何か見つけたらすぐに連絡する"
「ああ、了解した……」
通信を切って、ルイは足跡を追跡し始めた。
同時刻:ゲヘナ自治区/幹線道路
「……うう、見つからないよぉ……」
「ミヤコちゃん、そっちはぁ……?」
車内からドローンを使って捜索していたミユは、対照的に実地を駆け回って捜索しているミヤコに通信を送る。
"……はあ、作戦中私の事はRABBIT1と……まあいいでしょう、こちらも特に収穫はありませんが……それとは別に、不審な人物を発見しました"
「えぇ……?」
"魔王"、その名にミユは動揺する。
ここ最近の動乱、そのほぼ全てに関連する名前だ。
"屋上を飛び回る黒い人影です……かの魔王に類似した装備を着用していたので、念のため追跡しています"
「……大丈夫……?」
"……今のところは大丈夫ですが、念のため今から送る座標の近辺に移動してください"
"現状、その人影に害意は感じられませんでしたが……私の現在地より北西、放棄された区画へと向かって移動していきました。"
"まだ追い付けてはいませんが、もう少しでその区画へ着きます。"
"支援が必要だと判断すればすぐに要請しますので、速やかに移動してください。RABBIT4?"
「はぁい……」
呆れたように伝えてきたミヤコに小さく返事をして、ミユは急ぎ車を走らせた。
同時刻:ゲヘナ自治区/郊外区画
"ナギサ様が倒れました、至急帰還してください"
蒼い影は部下から届いたメッセージを確認して、手元のスマホを強く握り締めた。
「…………」
(……誰もが言うように、私は身勝手なのでしょう)
今、私の救護を待つ者が居る。私の助けを待つ者が居る。
伸ばされた手を、救いを待つ者の手を離さず、伸ばされずとも救いに行く。
……それが私の信条だ。
────それでも、これが最後のチャンスかもしれない。
空を見上げる。
青い、蒼い空。
ほんの数分前、その中を横切る黒い影が見えた。
……その背に見えた翼は、確かに私の捜し人の翼だった。
「……ふッ!!」 "ゴンッ!!"
"掲げた信条に背く"その決断と共に、彼女は自らの頬を殴りつけた。
「…………」
鈍い痛みと口端から流れ出す血が、彼女の罪を和らげる。
ぽたぽたと落ち、地に飲まれた血を踏み消してスマホに目を落とす。
"すぐには帰れませんが、必ず帰ります。"
"ご迷惑をおかけして申し訳ありません"
彼女はそう返信して、スマホをポケットにしまった。
「……ルイ。私が貴方を"救護"します」
小さなその呟きと共に蒼い影は地を蹴り、空へと飛び立った。
同時刻:ゲヘナ自治区/郊外区画
アルバイトの途中、移動する私の上を黒い影が横切った。
(……あれは)
見間違いでなければ、あの姿には……いや、あの装備には見覚えがある。
"先生暗殺未遂事件"、その主犯が身に着けていたものと瓜二つだった。
「……すまない、今日は先に上がらせてもらう!」
「えっ!?ちょっ待っ……!」
私を呼び止める声を振り切り、影の向かった方へ疾駆する。
(……私が言えた事ではないかもしれないが……彼を喪うのは何としても阻止しなければ)
彼に受けた恩は大きく、返し切れるようなものではない。
だからこそ、出来る事はやるべきだ。
キャップを深く被り、首からかけたアサルトライフルのグリップを強く握る。
(……絶対に逃がさん)
そう決意し、踏み込む速度を上げるのだった。