"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

106 / 172
偽装

 

────ルイが倒れてから3時間後。

 

 

手術を終えたミネはエイミに看護を任せ、通信機を片手に二人への報告を行っていた。

 

「……無事に、手術は済みました。もう命の危険はないでしょう。ですが……」

 

手術台の上で眠り続けるルイを横目に、ミネは報告する。

 

「……いつ目覚めるかまでは、わかりません」

 

"……そうか……"

 

セイアは沈痛な声色で返答し、小さく唸った。

 

"ルイがこうなってしまった以上、私達にも選択の時が来ています"

"……彼女の意志を引き継ぐか、あるいは……全て終わりにするか"

 

ヒマリはそう告げて、小さく息を吐いた。

 

通信機越しに二人の会話を聞いていたミネは疑念を抑えきれず、口を開いた。

 

「……ルイの目的を、私に聞かせて頂けないでしょうか」

「事情によっては……私が協力しましょう」

 

ミネは深い覚悟を持って伝える。

 

"…………ルイの判断以外で、誰かに伝えるべきではないと思っていたが……"

 

"ええ、ミネさんが居なければ……ルイは今頃どうなっていたかわかりません。"

 

"……そうだな、君には知る権利がある"

 

通信機越しに判るほど大きく深呼吸をして、セイアは話し始めた。

 

 

"まず、ルイの目的はゲヘナとトリニティの講和。それによる未来に来たる脅威への対抗だ"

 

"そのために両校の敵となり……連帯を強め、講和の道を拓く。"

 

"端的に説明するのなら、これが私達の行ってきた作戦の目的だ"

 

"ゲヘナへの攻撃も、トリニティに対する襲撃も……全ては、この目的を達成するためだ"

 

"……ミネ、君や君の周囲の生徒には大きな負担を掛けた"

 

"こんなことで許してもらえるとは思っていない、だが……謝罪させて欲しい"

 

"すまなかった"

 

セイアは深く謝罪する。

 

 

「……わかりました」

 

ミネは一つ深呼吸をして自らを律し、努めて冷静に続けた。

 

「お二人とも……ひとつ聞かせてください」

 

「何故、ルイに協力しようと思ったのですか?」

 

「……何故、止めなかったのですか……!?」

「こうなる事は想像できたはずです、なのにどうして……!!」

 

激情を抑えきれない様子で問い詰めるミネに数秒の沈黙の後、セイアは返答する。

 

「……すまない、順を追って、説明させてくれ」

 

「……まず、私が協力した理由は"未来に来たる脅威に対抗するため"という目的に共感したからだ」

 

「元々、ルイは一人でこれを実行するつもりだったらしい。しかし……サンクトゥスの寮が襲撃され、私がルイに拉致されて少しして……私は彼女の目的を見破った」

 

「……何度も諭したよ、"一人では無理だ"と。"こんな事は止めて、トリニティに帰ろう"と。」

 

「それでも、ルイの意志は固かった。曰く、"これは誰かがやらなければならない事だ"、と」

 

「……ならばせめて、彼女の計画が無事に成功するよう助力をしようと考えた」

 

「"私がかつて抱いた恐怖を打ち払うため、ルイを利用した"と言われれば……否定はできない」

 

「……その結果がこの現状なのだからね」

 

セイアはそう言って、声色を落とす。

 

「……私も、概ねは同じです」

 

セイアに続き、ヒマリが答える。

 

「私がルイに協力している理由はただ一つ、"私が彼女を想っているから"……」

 

「……何度止めても聞かない方です。ならば、無茶をする彼女の傍で助けようと思いまして」

 

ヒマリは簡潔に惚気た。

本人の性格を鑑みるのなら、恐らく真摯にミネの問いかけに答えただけなのだろう。

 

「なっ……」

 

先ほどまで激情に駆られていたミネも、唐突な惚気に声を詰まらせる。

それを何と捉えたのかはわからないが、ヒマリは補足を始めた。

 

「……この私なら、彼女を護れるという驕りがあった事は否定しません」

「ミネさん、このような状況になった事を深くお詫びすると同時に……感謝を」

 

「貴方が居なければ、ルイは命を落としていたでしょう」

 

ヒマリは通信機越しにもわかるほど、深い謝意を言葉にした。

 

「……いえ、私は義務を果たしただけです」

 

「それに……真に謝意を受け取るべきは、サオリさんです」

「ルイも私も、彼女に救われたようなものですから」

 

ヒマリの言葉にそう返して、ミネは一つ息を吸った。

 

「……何にせよ、お二人がルイに協力していた理由も、理解しました」

 

「……さて、では今後について話しましょうか」

 

ここからが本題、といった口調でミネは続ける。

 

「まず、先ほど言ったようにルイがいつ目覚めるかはわかりません」

 

「……そして、腹部の傷がある程度安定するまでは絶対安静。そちらに移送するのも傷が安定してからになります」

 

ミネがそう説明すると、ヒマリは困ったといった様子で口を開く。

 

「まずいですね……その間、追跡を躱し続けるのは厳しいでしょう。」

 

「……状況が状況でしたので、かなり強引な手段を用いました。」

 

「その痕跡を辿れば……ルイの居場所に気付かれるのは時間の問題でしょう」

 

ヒマリの説明を聞いて、セイアは小さく唸り……少しして、口を開いた。

 

「…………ひとつだけ、この状況を打開できる案がある」

 

「……ヒマリ、ミネ、君たちの協力が必要だ」

 

セイアはそう告げて、続ける。

 

「────"ルイは死んだ"、そういう事にしよう」

 

「ッ……はあ?いったい何を────」

 

「……ヒマリさん、落ち着いてください。」

 

反射的に声を上げたヒマリを、ミネは制する。

 

「……すみません、少し冷静さを欠いていたようです」

 

「……いや、私も言葉が悪かった。きちんと説明しよう」

 

「ルイを"死んだ事にする"。そうする事でルイに対する追跡は振り切れる」

 

「……私も一度、"死んだ"事がある」

「効果は覿面だったよ……敵どころか味方まで大混乱に陥れる事になってしまったがね」

 

セイアはかつて起こった事件を想起するように語り、続ける。

 

「……かつてのように伝聞での死ではなく、今回は本物の死を演出する必要がある」

 

「棺にホログラフを投影し、ルイの死体を作り上げ……それをトリニティに持ち込み、棺を燃やす……これが最も死を印象付けられるだろう」

 

「……幸いと言うべきか、棺に火を放たれても不自然ではない程にルイは憎まれている」

 

「キヴォトス中の憎悪と共に、偽の死体を燃やすんだ……そうするのが、現状のベストだと私は考える」

 

「作戦を実行するとして、ミネと私はトリニティでの工作を、ヒマリにはホログラフの作成を頼みたい……偽りとはいえ、ルイの死を作り上げるのは堪えるだろうが……頼む」

 

セイアはそう締めくくり、二人の回答を待つ。

 

最初に返答したのは……ミネ。

 

「……わかりました、そうする事でルイが安全に傷を癒せるというのなら、助力は惜しみません」

 

深い覚悟を滲ませ、はっきりと返事をしたミネに、ヒマリが続く。

 

「……お任せください、ミレニアムの誇る天才グラフィッカー兼CGクリエイターであるこの明星ヒマリが…………ううっ」

 

「……すみません、想像したら吐き気が……」

「……いえ、お任せください。完璧に仕上げて見せましょう」

 

ヒマリはえずきながらも、自信を滲ませてそう言った。

 

「……ありがとう」

 

「早速だが……ヒマリはホログラフ作りに取り掛かってほしい、ミネはルイの写真を何枚かヒマリに送り、その後は私と作戦会議だ」

 

────そうして、天城ルイは死を迎える事になった。

 

 


 

 

────ルイが倒れて7時間後

 

夕方:トリニティ自治区/シスターフッド管轄エリア

 

 

燃え盛る炎の前で、ミネは立ち尽くしていた。

 

……目論見通り、棺は炎に呑まれた。

 

ホログラフの亡骸は衆目に晒され、写真を撮る者さえ居た。

 

偽りの骸に投げ込まれた火が、夕暮れの陽と共に光を放つ。

 

彼女に向けられた憎悪を薪にしたように燃え盛る炎の、なんと猛々しい事か。

 

「………………」

 

 

棺が燃え尽きる前に、ミネはその場から去った。

 

 


 

夕方:シスターフッド管轄エリア/屋上

 

 

「……セイア様、これで……」

 

「……様は止めてくれ、堅苦しいのは好みではなくてね」

 

被っていたフードを取り、セイアは"ふぅ"と息を吐く。

 

「……まあ、そうだね……これで正真正銘、ルイは死んだと思われるだろう」

 

「しかし……この選択には大きな代償が伴う」

 

「整合性を取るための書類仕事や、ルイを慕っていた者たちへのケアは必須だろう」

 

「特に、ナギサは自分を責めるだろうね……しかし、彼女に真実を打ち明ける訳にはいかない」

 

「────ならば私たちは、嘘を吐き続ける他ないでしょう」

 

セイアの言葉を代弁するように、ミネが続ける。

 

「ああ、それが私たちの"責任"というものだ……」

 

「……可能なら、私もトリニティに戻りたいところですが……」

 

言い淀むミネを、セイアが手で制する。

 

「……ルイが安定するまでは、君が付く必要がある。仕方ないさ」

「まあ、こちらは任せてくれ……ルイの事は、君に任せたよ」

 

そう言って、セイアは時計台を見遣る。

それと同時に、"ゴオン"と日の入りを知らせる鐘が鳴った。

 

「……時間だ、君は戻ると良い」

「事情の説明は、こちらで済ませておくよ」

 

その言葉に、ミネは深く首肯する。

 

「……セイアさん、どうか無理はなさらぬよう」

 

「ああ、君もね」

 

そのやり取りを最後に、ミネはルイの眠る貸倉庫へと飛び去った。

 

 

────ひとり残されたセイアは、スマホに入った通知を確認する。

 

"魔王死す"と書かれた速報に、セイアは諦観にも似た溜め息を吐き出した。

 

「……また会おう、ルイ」

 

小さなつぶやきを残し、セイアはトリニティ本校へと歩み始めた。

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。