ルイが抱える秘密、それが記録されたフラッシュドライブ。
アビドス拠点の跡地より発掘された壁の中に隠されていた。
幾重もの電子セキュリティと物理的な障壁を乗り越えそれを手にした者には、その身に余る決断を迫られる。
《音声ファイル》
《再生》
「*ざらついたノイズ*────……まずは、再生してくれてありがとう」
「この後のデータはこの音声ファイルの再生が完了すれば閲覧できる」
「これを聞いている君がこのデータの中身を何だと思っているかは知らないが……」
「残念ながら、恐らくこの中身は君が考えているようなものじゃない」
「それに、この内容を知るという事は大きな責任が伴う」
「君がこのデータにアクセスしている時点で、私はその責任を果たすことに失敗したという事になる」
「────すまない」
「……この謝罪は君にではなく、全ての生徒に対して心からの謝罪だ」
「……前置きが長くなったが、一つ……君の名前を当てて見せようか」
「……やあ、コユキ。初めまして……ではないか。君は覚えているかわからないが……天城ルイだ」
「君は異能じみた力で電子セキュリティを突破できると聞いているし、遊び半分にこういったフラッシュドライブの中身を覗くのも容易だろう」
「あるいは誰かに頼まれたのかもしれないが……まあ、それはさほど重要じゃない」
「怖いもの見たさかもしれないし……期待に応えて、少し脅しをかけよう」
「まずは友人や先輩を思い浮かべてくれ、あるいは直近にすれ違った誰かでもいい」
「……いいか、この内容を漏らせば……お前が思い浮かべた全員が、言葉通りの死を迎える可能性がある」
「……お前に出来る事は三つだ、コユキ」
「一つ。内容を見て、このデータを破壊する。」
「二つ。内容を見ずに、このデータを破壊する。」
「……三つ。このデータの内容を外部に知らせる。」
「私としては、君が何も知らないまま、このデータを破壊してくれるよう願いたい」
「このデータは複製できない。このデータが入っているフラッシュドライブを今すぐに粉砕機に入れ、粉々にして海に撒け」
「そうすれば……君はキヴォトスを救った英雄だ」
「……当然ながら、他の誰も称賛してはくれないだろうが……私が、心からの称賛と敬意を表そう」
「────さて、脅しはこの程度にしよう」
「……中身を見るべきか、破壊するべきか……どうしても判断できないのなら、明星ヒマリに連絡を取れ」
「ヒマリなら、正しい判断を下すはずだ」
《再生終了》
「ごきげんよう……ミレニアム生徒会長、調月リオ。」
「貴方なら全てを無視し中身にアクセスする事も出来ただろうに。わざわざ聞いてくれてありがとう」
「……嫌味っぽかったな、すまない。そのような意図はなかった」
「さて……これからは中身について比喩的な説明と、警告を述べたい」
「先に述べたように、この中身には私の目的だとか真意だとかそういった物は入っていない」
「……中に入っているのは、とある設計図だ」
「どうしても迂遠な説明になるが、知識そのものが脅威となるような代物だ、どうか許して欲しい」
「……では、例え話だ」
「人の命を弾丸とする銃があるとしよう、威力は強力無比。それを使えばその辺りの一般生徒とて、空崎ヒナや剣先ツルギを倒す……あるいは、殺害せしめるかもしれない」
「しかし、それは命を代償とする……そして、それを一度使ったが最後、以後はそれを使う事が争いの前提となってしまう」
「例え抑えつけたとしても無駄だ、一部の過激な連中はそれを使い続けるだろう」
「紛争のエスカレーションという物は止めようがない、ましてや命を代価とする物など……復讐の連鎖となり、止めることは不可能だろうな」
「……言いたい事は分かる、だったら最初からこんなものを残すな、とそう言いたいんだろう」
「そういう訳にも行かなかったんだ、これは私の切り札でな」
「正確なデータなしでは扱えなかったんだ……出来る事なら、私もこの頭だけで扱いたかったんだが」
「────さて、説明と警告は済んだ」
「このデータを隠し続ける、あるいは葬る……その責任を果たせなかった事、心から謝罪する」
「……悪いが、これを貴方が聞いているという事は……今この瞬間、その責任は貴方に移った」
「このデータは複製できない、このフラッシュドライブを粉々に破壊すればデータは完全に消える」
「……貴方を信じよう、調月リオ」
《再生終了》
「……やあ、ヒマリ」
「久しぶりだな、あるいは……直近に会っているかもしれない」
「これを録ったのは *ノイズ*日、君がこれを聴いている時がいつかは分からないが……」
「恐らく、私は更生局にでも収監されているのだろう」
「まあ、それは置いておこう……」
「さて、このデータの中身だが……それを言う前に、少し頼みがある」
「────君が私を信じてくれるのなら、このフラッシュドライブを粉々に粉砕し……小分けにして捨ててくれ」
「このフラッシュドライブには複製出来ないよう、物理的なプロテクトをかけてある」
「今このデータを完全に消し去る事が出来るのは……君だ、ヒマリ」
「本来なら私が隠し続ける、あるいは葬るべきデータだった、君にこれを託すことになった事を謝罪する」
「……中身の説明をしよう」
「直接的な表現をするのなら、このデータの中身はキヴォトスを血濡れの戦場に変えかねない兵器の設計図だ」
「これが一度でも外部に漏れ、利用される事になれば……生徒が大勢死ぬだろう」
「パラダイムシフトが起こるんだ。紛争はエスカレーションを避けられず、大地は血で染まるだろう」
「……私は君を信じている、君になら、この中身を見られても構わない」
「……ヒマリ、どうか……賢明な選択を願う」
《再生終了》
*音声が再生される*
「……君がこの中身の脅威を正しく理解し、葬ってくれる事を願う」
*データファイルが開かれる*
[+]材料リスト]
[+]調合手順]
[+]作用機序]
[+]実験記録]
[-]概要]
抗気絶薬3HJ-HRLは山海経の秘薬"────"の効能、"時間の経過を限りなく遅く感じさせる"作用をヘイローによるダメージコントロール機能に対してのみ作用させ、気絶するダメージを負っても活動し続ける事を可能にする薬剤。
あくまでヘイローのダメージコントロールを限りなく鈍くしているだけのため、それを上回るような致命的なダメージ、あるいはそれに比肩しうる重篤なダメージを負えばヘイローが強制的に意識をシャットダウンする。
[-]所感]
・抗気絶薬に傷を癒す作用は無い。
戦傷医療技術を持つ者にのみ使用するべきだ。
加えて言うのなら、抗気絶薬を凌駕するダメージを受けて気絶した場合、高い確率で命を落とすだろう。
それに対処するため、何らかの対策を行うべきだ。
・材料の都合上、副作用として微々たる向精神作用と鎮痛作用が認められる。
被験者は私のみだが、これは他の人間に投与しても発生するだろう。
・結論として……この薬はあまりに危険だ。
他の誰にも知られるべきではない。
[-]閲覧者へ]
《音声ファイル》
《再生》
「*ノイズ音*────……ごきげんよう」
「ここまで閲覧したという事は、この薬の危険性も大方理解できただろう」
「……本来、この薬は感覚を鋭敏にし……戦闘に役立てるのを目的としていた」
「それがどういう訳か、ヘイローの機能を阻害する薬が出来上がった」
「一部の材料の状態が変質していたのが原因だ。元々はこんなものを作る気はなかった」
「……これは、奇跡という悪魔が生み出した薬だ」
「だが科学というのは恐ろしい物で……再現性という力を以って、その奇跡を自らの物にしてしまった」
「……幸い、この薬の製法に正攻法で気付く事が出来る者は居ないだろう」
「煩雑な調合手順に、材料の状態をほぼ誤差なく一致させなければこの薬の作成は失敗する」
「……そのせいで、このような記録を残さざるを得なかった訳だが」
「……さて、言い訳はこの辺りにしておこう」
「ヘイローに干渉し……気絶という安全装置を外す。」
「かの錬丹術研究会の問題児や、追放を受けた七囚人とて、このような薬を生み出し……まして扱おうなどとは考えないだろう」
「しかし万が一この薬の製法が私以外の手に渡り、一度でも使用されればどのような事が起こるかは言うまでもない」
「……全てを破棄し……存在を抹消する事もできた、だが私はそうしなかった」
「……私にはこの薬が必要だったからだ。」
「────悪魔に魅入られた者の末路など、知れているだろうに」
《再生終了》
ルイちゃんが毎度毎度ズタボロになる原因のお薬の解説回でした。
本編で詳細な説明なしに感想欄での返信と設定資料1で薄く触れてただけだったのは説明不足が過ぎるかと思ってちょっと掘り下げました。
ただでさえ死にかけてるから気絶してるのに更に電気ショックで無理やり立ち上がって作戦継続してたらそりゃあ大変な事になるよって話ですね。
ヒマリに会いに行った時にエイミに殴られて簡単に気絶してたのはまさかヒマリと戦闘になると思ってなくてこの薬使ってなかったのが原因です。
言ったら絶対取り上げられるしこんな薬の事を知られるわけにもいかないからルイちゃんはずっと黙ってたわけですが、そのせいで説明する機会を逃し続けてました、ごめん!