"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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尋問

 

深夜:トリニティ自治区/寮区画上空

side:ルイ

 

"バシュッ!!バシュッ!!"

"ギュルルルルルル!!"

 

サンクトゥスの寮から屋根伝いに飛び、最短距離でトリニティ自治区内から離脱する。

 

「…………」

 

……後方を確認するが、今のところ追撃の様子はない。

ドローン等の姿もなく、無事に引き離せたようだ。

 

胸の奥に、冷たい安堵が落ちた。

 

 

……この調子で行けば、2分程でこの区画から離脱できる。

そのまま抜けていけば……人の目も、監視も殆どないヴァルキューレ管轄エリアに着く。

 

そこまで到達すれば、もう逃げ切ったも同然だ。

 

 

……胸元で震えるセイアの呼吸が、直に伝わってくる。

当然だろう。高度十数メートルで彼女を固定しているのは……私の腕だけだ。

 

「……恐ろしいだろうが、暴れるな。落とすつもりはない」

 

彼女の大きな耳に向けてそう伝えて、私は前方、ジップラインの軌道に集中するのだった。

 


 

早朝:アビドス近郊/ルイのセーフハウス

 

 

砂に満ちた地上へ着地し、周囲を警戒する。

 

────よし、追手は居ないようだ。

 

ここはアビドス近郊の荒野、砂に呑まれた廃墟が立ち並ぶエリア。

当然、誰も来ないし気が付かない。そんな場所だ。

 

そんな場所の地下に、私のセーフハウスが存在する。

 

「……立てるか?」

 

数時間の空中機動中、ずっと抱えたままだったセイアを降ろす。

彼女はよろよろと両の脚で立つが、すぐに俯いて"はあはあ"と息を乱していた。

 

「ぅぐ……人を運ぶならもう少し、丁重に運んだらどうなんだい……?」

 

セイアはふらふらと歩きながら、憎らしげに不満を告げる。

彼女の文句を無視し、廃墟の壁に偽装された操作盤に手をかざすと、地下室へ続く階段が現れた。

 

「入れ」

 

「はぁ……」

 

有無を言わせぬ私の言葉にセイアは深いため息を吐き、ふらつきながらも大人しく階段を降りていく。

彼女の後ろに付いて私も階段を降りると……背後では音も立てずに、入り口が閉じた。

 


 

 

アビドス拠点。

 

ここは私が持っている拠点の中でも、トップクラスの設備を備えている。

 

セイアを安全に監禁するために用意した拠点だ。

数ヶ月は、誰にも干渉されずに籠城できる。

 

「……悪いが、しばらくここで大人しくしていてもらう」

 

監禁部屋のロックを解除し、セイアを部屋の中に連れ込むと……セイアは内装をきょろきょろと見回した。

 

「…………ここが、私の部屋かい?」

 

「そうだ。内装については今から説明する」

 

どんな劣悪な環境に放り込まれるやらと内心で戦々恐々としていたであろうセイアは、意外な内装に驚いた様子だった。

 

この部屋はあまり広くはないが、シャワー室にお手洗い、ベッドに椅子、テーブルなど一通りの設備や家具も揃っており、普通の生活を送るには何不自由ない部屋にしてある。

 

……外からでなければ開かない扉を除いて。

 

「……ああ……」

 

大人しく部屋に入ったセイアは、用意された椅子へと腰掛けた。

 

「キッチンは自由に使っていい。刃物や火気は安全性を考慮して置いていないが、レトルト食品を作る分には不足無いだろう」

「衛生用品はそこの棚だ。十分な量を用意したつもりだが、万が一不足した場合は私に言え」

 

「……最後に。そこのボタンは私に何か用事のある時に押せ、私の携帯に通じている」

「緊急時や何かあった場合は、これで連絡しろ」

 

そう伝え終わると、セイアは"ふむ"と唸った。

 

「……てっきり、牢屋にでも入れられる物だと思っていたが……随分、気を使ってくれているようだね?」

 

椅子に腰かけたまま私を見るセイアは、意図を探るような、じっとりとした目線を向ける。

 

「……お前を下手な環境に置いて、倒れられては困るからな」

「まあいい。説明は以上だ。不足があるのなら言え、可能なら用意しよう」

 

最後に、必要なものは無いかと問う。すると、セイアはふるふると首を振った。

 

「……いや、十分だ……人質の身で、これ以上は望むまいさ」

 

「……そうか」

 

そして、セイアは私の目を見る。

 

「……立ったままだとなんだ、君も座るといい」

 

「……君は背が高いから、目を見ると首が疲れるんだ」

 

────"話がある"。と言外に示すように。

 


 

 

ルイはゆっくりと椅子に座った。

お互いの視線が交差する。

 

「────どこまで視た?」

 

ルイが口火を切る。

それを聞いたセイアは"ふっ"と小さく息を吐き、目を閉じ………笑った。

 

「"どこまで視た"か……ああ、なるほど……」

「ふふ、君は知らなかったろうけどね……私はもう、予知夢を見ることはできないんだ」

 

「……なんだと?」

 

ルイは目を見開き、驚愕した様子で声を上げた。

動揺滲むその様子を見て、セイアは続ける。

 

「信じられないかい?……でも、本当のことさ」

「……"エデン条約事件"。まあ、色々あってね……結果、私は予知夢を失った……」

 

セイアはじっとりとルイを見つめ、続ける。

 

「これを知っているのは……その場にいたナギサとミカ、先生と……"クズノハ"くらいさ」

 

「……君が知らないのも、無理はないね?」

 

ルイは椅子へと深くもたれかかり、深くため息を吐く。

 

「クズノハ……? 以前、調査を依頼してきたな。……まあ、今はいい」

 

「……予知夢の喪失。それが事実だとしよう」

「だが、ならばなぜ……あの時ミカを護衛に据えて、私の襲撃に備えられた?」

 

「小手先の嘘はよせ。お互いのためにならん」

 

語気強く詰問するルイの言葉に小さくため息を吐いて、セイアはゆっくりと背もたれに身を預ける。

 

「まあ……代わりとばかりに唯一残された"直感"という奴さ」

「なんとなく、"襲撃がある"と……直前に、そんな気がしたんだ。まさか、君が来るとは思わなかったがね……」

 

「…………はあ」

 

「ご期待に添えなくてすまないね」

 

呆れたように吐き出されたルイの溜め息に、セイアは皮肉を返す。

それに対し、フッと鼻で笑うと──ルイは椅子に座り直し、セイアの目を射抜くように見つめた。

 

「それが真実だとして……ひとつ、質問がある」

 

「なんだい……」

 

「その直感……とやらはどこまで知ることができる?」

「……そして、直感、とやらで知ったこと、それを誰かに言ったか?」

 

あらゆる機微を逃すまいと、ルイはセイアの動作、視線、表情……全てに集中している。

 

「いいや……直感は直感さ、"なんとなく、そんな気がしたから" 備えたんだ」

「それは、"誰が、どうして"……という所までは及ばないよ」

 

張り詰めた空気を意にも介さず、セイアは諦観を滲ませるように、ため息交じりに語る。

 

「それに、ミカには襲撃される可能性があるとしか伝えていない」

「……実際に、君が私を攫った時……ミカは動揺して不意打ちを喰らっていただろう?」

 

「……ふむ……確かにな」

 

ルイはその言葉を信用に値すると感じたのか、緊張を解き、改めて背もたれに寄りかかる。

その様子を見たセイアは少し前傾し……尋ねた。

 

「────それで、私からも聞きたいことがある」

 

"本題"、といった声色で、セイアは口を開く。

 

「……なんだ」

 

ルイは椅子にもたれかかったまま、ぶっきらぼうに返答する。

 

「こんなことをして、君は何を求める?」

 

「…………」

 

彼女の問いに、ルイは瞑目し、沈黙で返す。

セイアは自らの状況を示すように両手を少し上げて見せ、おどけるように続けた。

 

「……見ての通り、私は君の盤面から"排除"されたんだ。他でもない、君の手でね……」

「そんな私にくらい、話してくれてもいいんじゃないかい?」

 

「……はぁ」

 

ルイは今日何度目かもわからないため息を吐く。

少しの思案の後、口を開いた。

 

「……聞かない方がいい……それがお前のためだ、セイア」

 

ルイは突き放すかのように言い切って、椅子から立ち上がる。

 

「……ルイ、友人として君を心配しているんだ……何か考えがあるのなら、力になろう」

 

「……もし、もし君が今、この状況を少しでも後悔しているのなら……」

「私がなんとかして、突発的な要人警護の演習だったということにしよう」

 

部屋を後にしようとするルイの背に、セイアは縋るように言葉を投げかける。

……ルイはぴたりと歩みを止めた。

 

「────セイア。私は後悔などしていない。……もう、私の心配はするな」

 

ただそれだけ、呟くように告げて、ルイは部屋を去った。

 

「…………………………」

 

ルイが去った後。セイアは重苦しい静寂の中、思案に耽る。

 

……椅子の肘置きに乗せられた指先は、わずかに震えていた。

 

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