"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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保護

 

昼:ゲヘナ自治区/ヒナの家

 

「……」

 

ヒナは今日も学校を休み、保護しているミカと共に自宅に居た。

書類仕事とチャットでの業務指示をする傍ら、ミカの様子を見る。

 

ミカはぼうっとした様子でソファに座って、時折思い出したかのように"ごめんね"と呟いて涙を流す。

そんな事が、ずっと続いていた。

 

「……ミカ、食事が喉を通らないのは仕方ないわ……でもせめて、水は飲んで欲しい」

 

優しく背を撫で、そっとコップを差し出す。

 

「……うん」

 

ミカは弱弱しく返事をしてコップを受け取り、勢いよく飲み干した。

 

「……ッうっ!」

 

……ミカは目を見開き、手で口元を抑える。

 

「!」

 

ヒナは咄嗟に支えたが、ミカは自力で吐き気を抑え込んだようで、大丈夫だと体を振った。

 

「……はあっ……はあっ……」

 

「……大丈夫?」

 

「……うん、もう大丈夫……ありがと」

 

(……とても大丈夫には見えないけれど……)

 

息を切らし、口元を拭うミカの背をさすっていると……ポケットに入れていたヒナ個人用の携帯が震え、着信を知らせた。

 

(……こんな時に。)

 

「ごめんなさい……少し外すわ、一応部屋の外に居るから……何かあったら、遠慮なく言って」

 

ミカにそう伝えて、部屋を出る。

 

(……なるべく早く済ませましょう)

 

着信が続いている事を確認し、ヒナは画面も見ずに応答した。

 

"────やあ、空崎ヒナの携帯でいいかな?"

 

聞こえたのは覚えの無い声。そして……相手は私をヒナだと知って掛けている。

 

「そうだけど、何?今は忙しいのだけれど……これは私用の携帯よ、何かあるのなら────」

 

"私はティーパーティの百合園セイアだ、すまないが……少しだけ、話がしたい"

 

「なっ……」

 

意外な名に驚く間もなく、セイアは続けた。

 

"まず、こちらに敵意はない。むしろ……感謝と謝罪をしたいんだ"

 

"……ミカを保護してくれているんだろう?その件でね"

 

電話口のセイアは、言葉通り申し訳なさそうな声色で、ヒナの応答を待つ。

 

「その前に……ひとつ聞かせて。百合園セイア……貴方、トリニティに戻ったの?」

 

百合園セイアは行方不明のはずだ。

トリニティからも、彼女が戻ったという公示は無い。

 

ならば……電話口の相手は、本当に信頼に足る相手なのか。

それを確かめる為、ヒナは尋ねた。

 

"ああ。ルイ……魔王は斃れる直前に、ミネに私の監禁場所を話したそうだ"

"それで、無事に救出されたという訳さ"

 

"君が疑うのもわかる。だが私が戻って来た事は公に伏せる事にしたんだ"

 

"君を信頼して、教えよう……実は今、ナギサはとても動ける状態じゃない"

"過労と精神的なダメージの積み重ねで……ミカと同じようにね。"

 

"……表向きはナギサが健在のように見せているが、現在、実務は私が担当している"

 

"急に頭がすげ変わる事程、混乱を生む事は無い。特にトリニティの現状を鑑みるなら……避けるべきだと判断し、私が指示した"

 

はっきりと語られたセイアの言葉に、虚偽は感じられない。

彼女の言葉は信頼に足るとして、ヒナは答えた。

 

「……わかったわ、貴方を信頼する」

「ミカの現状も把握済みの様だし……単刀直入に話しましょうか」

 

ヒナは一つ深呼吸をして、本題に入った。

 

「……それで、どうして欲しいの?ミカをトリニティへ連れ戻す気?」

「彼女の友人、空崎ヒナ個人として……それは認めがたい、というのが正直な所よ」

 

「……私が彼女を今ここに保護しているのは、彼女を今のトリニティに帰すべきではないと判断したから」

 

「それでも、彼女を連れ戻すというのなら────」

"それは私も十分に理解している、落ち着いて聞いてくれ"

 

セイアが割って入り、ヒナは自分が熱くなっていた事を自覚した。

 

「……ごめんなさい、続けて」

 

ヒナはひとつ息を吐いて、冷静さを引き戻す。

 

"まず、感謝させてくれ"

 

"君があの時引き返さずに、ミカをトリニティに帰していれば……今、トリニティは無事で済んだかわからない"

 

"ミカは元とはいえ最大派閥のうちの一つ、そのトップだ"

 

"それに……ミカは優しい。例えルイがどんな悪人だったとして、元友人の死を喜ぼうなどと素直に思えるはずが無い"

 

"そんな彼女が感情に任せて暴れていれば……低くない確率で、内乱が起きただろう"

"トリニティの内情は、それほどに荒れているんだ"

 

"君は多くの生徒を、ミカを救ってくれた。……本当に、ありがとう"

 

セイアが告げたのは電話口で判るほどに誠意と謝意に満ちた言葉。

 

あの時、私がミカを拾ったのは……ただ、彼女を通じて過去の自分を見たから。

先生に救われなかった自分を見ているようで、見捨てられなかったから。

 

ただそれだけ。それでも……その善意は、確かに多くの人を、友人を救った。

 

「……私はやりたい事をやっただけよ。それで……これからどうするの?」

 

"少しは彼のようになれたかな"と内心で考えながら、ヒナはセイアの答えを待つ。

 

"……君には迷惑を掛けるが、もう少しだけミカをそちらに置いて欲しい"

 

"必要な物があるのなら届けさせる。生活費用も当然こちらが持とう"

 

"……君の言う通り、今のトリニティは刺激が強すぎる"

"情けない話だが……現状私達にはそれを制御できるだけの力がないんだ"

 

"……ミカが落ち着くか、こちらが落ち着くまでの間、保護していて貰えないだろうか"

 

セイアはヒナの答えを待つ。

当然……ヒナの答えは決まっていた。

 

「……ええ、引き受けたわ……でも、一つ条件がある」

 

"……私に叶えられることなら、何でも言ってくれ"

 

「今からミカに代わるわ……"無事に帰った"、と言ってあげて。」

 

"……ああ、勿論だ。ありがとう"

 

セイアの答えを聞いたヒナは満足げに頷いてスマホを耳から話し、ミカの居るリビングまで歩いていく。

 

「……ミカ、セイアさんから電話よ」

 

「……セイアちゃん?」

 

セイアの名を聞いたミカは勢いよく顔を上げ、震える手でスマホを受け取った。

 

"……やあ、ミカ……私は無事に帰ってきたよ。今はトリニティに居る"

 

「……セイア、ちゃん……!」

 

セイアの声を聴いて感極まったのか、ミカの目に涙が浮かぶ。

 

"……そんなに声を枯らして、辛かっただろう"

 

セイアの言葉に、ミカは声を詰まらせた。

 

「ごめんっ、セイア、ちゃん……!ルイちゃ、し、死んじゃったよぉ……!」

 

ミカは溢れる涙を拭うが、しかし止まらず、ぽたぽたと床に落ちる。

その様子を横で見ていたヒナはハンカチでミカの目元をそっと拭った。

 

"謝らないでくれ……ルイの事は残念だった。私も……心を痛めている"

 

「ずずっ、ごめん、ごめんねぇ……!!」

 

感情がめちゃくちゃになったのか、セイアの言葉に答えず、ミカは涙を流しながら謝罪を繰り返す。

 

"……落ち着くまで、もうしばらくはヒナの元に居るといい"

"トリニティは、今の君には刺激が強いだろうから。"

 

その言葉を聞いたヒナは、そっとミカからスマホを取る。

 

スピーカーを解除して、ヒナはスマホを耳に当てた。

 

「……ヒナよ、じゃあ……ミカの事はもう暫くこちらで預かるわ」

 

"……ありがとう。私が思うより、ミカは傷付いていたようだ……刺激してしまった。すまない"

 

「……貴方の声を聴いて、思い出してしまったようね。……私も浅慮だったわ。」

 

"……何から何まで苦労を掛ける事になってすまない"

 

"トリニティの問題に巻き込んでしまったことを、心から申し訳なく思う。"

 

"それと共に、もう一度最大の感謝を君に贈ろう────ありがとう、ヒナ"

 

「……ええ」

 

「……私はミカの件があるから、一度切るわ……何かあったらこの番号に連絡していいかしら」

 

"ああ、これは私個人用の番号だ。取れる時は必ず取るし……取れなくとも、必ず折り返す"

 

「わかった、じゃあ……失礼するわ」

 

"ああ、では……"

 

そうして、セイアとの通話は切れた。

 

(……現状について、少し考えたいけれど……)

 

まずは、泣いている友達を落ち着かせねばと、ヒナはミカの傍に寄り添うのだった。

 

 

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