"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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覚醒

 

朝:ゲヘナ自治区/貸倉庫

 

 

「……おはようございます、ルイ」

 

夜間の警護をしていたエイミと交代したミネは、未だ眠っているルイに声をかける。

 

当然、返事は帰って来ない。

ミネは悲し気に瞑目し……作業に取り掛かった。

 

 

「…………」

 

 

ルイの身体を拭き、手際よく点滴を交換する。

 

その手つきは慣れた物で、ものの十数分で交換作業は終わった。

 

「…………ふう」

 

ミネは息を一つ吐き、ベッドの隣に置かれたパイプ椅子に腰掛けた。

 

無表情に眠っている彼女の顔をじっと見つめる。

 

その顔は青白く、生気が感じられない。

上下する胸がその命を示していなければ……とても、生きているようには見えない。

 

(…………)

 

ミネはふと心配になった。

"生きている"。そう頭では理解していても、一度浮かんだ不安は打ち払えない。

 

────気付けば、ミネはルイの患者衣に手を掛けていた。

 

衝動に任せ、腰紐をほどき……開かれた胸元に手を当てる。

 

肌を伝わって、微かな拍動を感じる。

 

……しかし、それだけではミネの不安を払うには足りなかった。

 

「…………」

 

ミネはそっと胸元に顔を寄せ、体重を掛けないよう、ぴたりと心臓の直上に耳を当てる。

 

彼女の命、その根源まで距離にしておよそ数㎝。

 

伝わってくる体温。

"とくん、とくん"と規則正しく、力強く命を刻む鼓動。

それは"天城ルイ"、彼女を象徴するかのようだった。

 

"ぽた"、とひとつ、雫が落ちる。

 

 

「……?」

 

 

ミネはふと、自分が涙を流している事に気が付いた。

 

(…………ルイ。)

 

 

────ミネはこうして眠る彼女を見るたびに、無力と後悔に苛まれていた。

 

"私が戦い方を教えたせいで、彼女は無謀な計画を実行に移したのではないか"、と。

 

失われた左腕を見るたびに、息が詰まった。

 

"あの時彼女を護った己が信条は、間違っていたのではないか"、と。

 

額に突き刺さった石が。羽の抜けた翼が。下腹部の裂傷が。銃痕が。

 

体を拭くたびに目に入る、彼女の体に刻まれた数多の傷が自分を責め立てているかのように思えた。

 

 

ただ、それでも彼女は────"生きている"。

 

 

募る悲哀は伝わる鼓動と共に薄まっていき……今はただ、安心だけがミネの中にあった。

 

「………………」

 

落ちる涙を拭う事もせず、ミネは静かに涙を流す。

 

ただ、生きてくれている事が何よりも嬉しい。

 

眠る彼女の身体に障らないよう、ゆっくりと優しく腕を添える。

彼女を護り、包み込むように……そっと優しく、翼を重ね合わせた。

 

 

 

────その背に、何かが触れた。

 

「────!」

 

顔を上げる。

 

「……み、ね」

 

弱く、たどたどしい。

とてもルイの物とは思えないその声は……しかし確かに、彼女の声。

 

閉じられていたはずのその双眸は僅かに開かれ、覗く瞳孔はしっかりとミネを捉えていた。

 


 

 

 

 

 

────────…………。

 

 

 

────意識を感じる。

 

 

……私は、生きているのか?

 

 

疑問に思考が追い付かない。

 

 

……瞼を開く。

 

 

霞む視界に映ったのは、私に覆い被さるような体勢で体を重ねるミネ。

 

ベッドの上。殺風景な部屋。繋がれた点滴。患者衣。

 

視界に入った物をひとつひとつ認識していく。

 

 

────私は、まだ生きている。

 

 

そう結論付け……数回、瞬きをする。

 

段々と、身体の感覚が戻ってきた。

 

痺れたような感覚の残る右腕を少しずつ動かし、私に抱き着いているミネの背に腕を回す。

 

そっと触れた瞬間、ミネは驚いたように顔を上げた。

その目元は赤く腫れており、彼女が泣いていた事に気付く。

 

「…………」

 

声が上手く出ない。

 

「……み、ね」

 

絞り出した微かな声は、確かにミネに届いたようだった。

 

 

「ッ────!!」

 

彼女は呻き声にも似た、詰まったような声を上げ、力強く私を抱きしめた。

 

「う゛……ッ」

 

回された腕が締まり、私の身体をぎりぎりと締め付ける。

 

(息、が……!!)

 

「…………!!」

 

ミネの背を"とんとん"と叩き、離すように伝えると……すぐに、彼女はその腕を解いた。

 

「……かは、けほ……は……っ」

 

「……!すみません、大丈夫ですか?」

 

ミネは私に覆い被さったまま、心配そうに私を見つめる。

 

「……だいじょうぶ、だ」

 

ゆっくりと返事をして、深呼吸する。

息を整え、全身の感覚を確かめる。

 

「すぅ……ふぅ…………」

 

瞼から足の指先まで……僅かにだが、確かに動かせる。

 

……痺れるような感覚も、薄れてきた。

 

(これなら……問題ないだろう。いつまでも臥せている訳にも行かない)

 

「……ミネ、一度、退いてくれ……それと、起こしてくれると、助かる。」

 

うまく回らない舌を律し、しっかりと言葉を発する。

 

それを聞いたミネは……心から安心したように、笑った。

 

ミネは私の上から退き、私の腕を引き起こす。

 

「……おはようございます、ルイ」

 

「ああ……おはよう」

 

交わした言葉には……その意味以上の、万感にも勝る思いが籠っていた。

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