"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

116 / 171
相談

 

朝:ゲヘナ自治区/貸倉庫

 

 

「……」

 

私が目覚めた後の事は既に決めてあったのか、ミネとエイミによってあっという間に支度が整えられ……私はすぐにヒマリの元に戻ることになった。

 

少し話そうかとも思ったが……ヒマリは私が戻るため、道中の監視の妨害に集中するらしい。

 

つまり……状況説明は帰ってから、という事のようだ。

 

(……今の私が考えても仕方がない、大人しくしているべきか)

 

ぼうっと横になりながらそんな事を考えている間に……車両の用意が出来たと、ミネが告げた。

 

────出発のようだ。

 

「……ほら、歩けますか?」

 

ミネが差し出した手を取り、身を起こす。

 

「……ああ、大丈夫だ……おっと!」

 

「ッ!」

 

ベッドから降り、立ち上がる際に足がもつれ、倒れかけたところをミネに抱き止められる。

 

「……無理をせず、私に掴まってください」

 

「……すまない、ありがとう」

 

ミネの肩を借り、点滴スタンドと共にゆっくりと歩く。

 

おぼつかない足取りで車の後部に乗り込むと、ミネは車の側面にスタンドを固定する。

 

ミネはスタンドが完全に固定されたことを確認したのち、車を降りた。

 

「……ミネ?」

 

共に行くものだと思っていた私は、困惑しつつ尋ねる。

すると、ミネは私と目を合わせ、名残惜しげに口を開いた。

 

「……ルイ、ここで一度お別れです」

「私はトリニティに戻り……セイアさんに連絡を取ります」

 

「……セイアと?セイアはトリニティに戻ったのか?」

 

「ええ、詳細はヒマリさんが話してくれるはずなので、今は差し控えますが……」

 

「とにかく、今はヒマリさんの元に行ってください」

 

そう言って、ミネはバックドアに手を掛ける。

 

「……わかった。では……また会おう、ミネ」

 

「ええ、また」

 

"ばたん"とバックドアが閉じられる。

 

それから数秒後……エンジンの駆動音と共に、車両が動き出した。

 

(……下手に動くのも危険か)

 

そう判断した私は座席に体を横たえ、目を閉じた。

 

 


 

 

 

昼:特異現象捜査部/ガレージ

 

 

「……おかえりなさい」

 

エイミに手を引かれ、車を降りた私の目の前には……物憂げな顔をしたヒマリが居た。

その表情は、一目で判るほどに陰っており……しかし、僅かに安堵が浮かぶ。

 

……私は、随分彼女を悲しませてしまったようだ。

 

「……心配をかけた。すまなかった」

 

頭を下げる。

 

「この結果は私の慢心が全ての────」

 

"ぐいっ"

「んっ……!」

 

エイミが私の顎に手を添えて、顔を上げさせた。

 

「そうじゃないでしょ。謝るよりも前にまず、言う事があるんじゃない?」

 

エイミはそう言って、軽く背を押し私をヒマリと向き合わせる。

 

言う事?────……ああ、そうか。

 

「……ただいま」

 

その言葉にヒマリは満足そうに頷いて、私の手を取る。

 

「……心配、したんですよ」

 

ヒマリは絡めた手にぎゅうと力を込め……そっと、離した。

 

「……言いたい事はいくらでもあります。ですが……」

 

「今は、生きていてくれた事に免じて、許しましょう」

 

ヒマリは車椅子を転回させ、私たちに背を向ける。

 

「……帰って来て早々で申し訳ありませんが……状況の説明と、各所への連絡が必要です。問題ありませんか?」

 

「ああ、大丈夫だ……あまり激しく動かなければ問題ないだろう。」

 

そうして、私はヒマリの後ろをついていくのだった。

 

 


 

 

昼:特異現象捜査部/サーバールーム

 

 

患者衣の上からブランケットを掛け、少し肌寒い部屋に腰かける。

 

エイミは通信機材の調整を、ヒマリはどこかへ連絡しているようで、"何もするな"と言われた私はぼうっと二人の背を見ていた。

 

「間もなくミネさんから連絡があるはずです、それから────」

 

"ピピピピピ"

 

ヒマリがそう言ったと同時に、電子音が鳴った。

 

「丁度の様ですね、では……」

 

ヒマリがボタンを押すと、通信が始まった。

 

"……ヒマリさん?聞こえていますか?"

 

聞こえてきたのはミネの声。

あの後、無事にトリニティに着いたようだ。

 

「ええ、聞こえています……こちらの音声は問題ありませんか?」

 

"ええ、問題ありません"

 

"……ルイはそこに居るのかい?"

 

「……セイア」

 

無意識に彼女の名を呟く。

私の言葉が聞こえたのか、セイアは話し始めた。

 

"……やあ、久しぶり……と言っても、君は眠っていたからそこまで久しぶりには感じないかもしれない"

 

セイアはそう言って、少しだけ声色を落とす。

 

"……話を始める前に、ひとつ謝らせて欲しい"

 

"君を無理やりミカの捜索に行かせるべきではなかった"

 

"……ミカに何かあれば、と頭に血が上っていた。君の言う通り、一度戻ってから状況を精査するべきだった"

 

"君がこうなってしまったのは私の責任だ。すまない"

 

セイアはその声に深い悲しみと、悲哀を滲ませる。

……セイアの責任?そんな訳はない。

 

「違う。この結果は私の判断ミスだ、補給や情報の有無は関係なかった」

「私は"状況を見誤った"。ただそれだけだ」

 

"……それでも、一度戻っていればこうはならなかっただろう。だから────"

「いいんだ、セイア」

 

セイアの言葉を遮る。

 

「私は傷を負った事に何も思っていないし……まして、君の責任だとも思っていない」

 

「既に起こった事にとやかく言っても仕方がない。だから……謝らないでくれ」

 

その言葉に、セイアは少しの沈黙の後……口を開いた。

 

"……そうか、わかった。この話は一度終わりにしよう"

 

変わらず哀しげな声色で、セイアは話を終わらせた。

 

……私は彼女を悲しませてしまったようだ。

その事実に胸がざわつくが、しかし……まずは、知るべきことがある。

 

「────では……話を進めよう、私が倒れてから……何が起きた?」

 

そう尋ねると、ヒマリが一つ咳払いをする。

 

「……ではこの私からある程度の概要を、という前に……ひとり、ご紹介したい方が居ます」

 

ヒマリはそう言って、部屋の天井の隅、監視カメラに目を向けた。

 

"────初めまして、天城ルイ"

 

聞き覚えの無い声。

 

"私は調月リオ。……まずは、貴方が無事に目覚めてよかったわ"

 

……その声は確かに、"調月リオ"と名乗った。

 

「……ヒマリ、まさか……」

 

「ええ、セミナーの会長にして、ミレニアムの"ビッグシスター"。調月リオその人です」

 

「……まあ、詳しい事は本人に話してもらいましょう」

 

"ええ、では……まず、天城ルイ。貴方に協力するわ"

 

そう前置きして、リオは話し始めた。

 

"……貴方のやってきた事と、おおよその目的は知っている。"

 

"トリニティとゲヘナの講和による、有事に対してのキヴォトス全体の連携強化。"

 

"……私はエデン条約に際する一連の事件により、最早それは不可能だと判断していたわ"

"けれど……貴方の行動で、状況は変わった"

 

"両校の上層部に再び繋がりができ、表立って協定を結ぶまでに至った"

"連邦生徒会長が失踪してから悪化の一途を辿り続けた情勢は、変わりつつある"

 

"……だけど、それは貴方……"魔王"の存在あっての事よ"

 

"道半ばで魔王が倒れてしまえば全ては徒労に終わる。"

"協力を決めた理由はこれよ。貴方はその脆弱な体に見合わない事を成そうとしている"

 

"それに、この計画は貴方に依存し過ぎているわ。その事を自覚し……自らの弱点を受け入れた上で行動しなさい"

 

リオはそう言って、ふぅと息を吐いた。

 

"……本当は貴方に全てを押し付けるような事はしたくないわ、だけど……私に出来る事には限りがある"

 

"だから、貴方が構想していた無人航空支援兵器の作成は私が代行する事にしたわ"

"貴方が眠っている間に、ヒマリから要件定義書は受け取った、あと数日もあれば用意できるはず"

 

"とはいえ、私は私で他にやる事があるから、あまり直接的な支援は出来ないけれど……この程度なら可能よ"

 

話し終え、リオは私の回答を無言で待つ。

 

(……"ビッグシスター"。)

 

ヒマリと並ぶ、ミレニアム最高の頭脳を持つ者だ。

彼女の前で虚偽や策謀は意味を為さない。

 

私の構想していた無人航空支援兵器。

その存在を知っている事からも彼女が"ビッグシスター"たる理由を物語っている。

 

ならば……。

 

「……感謝する。調月リオ」

「貴方が協力してくれるのなら、心強い」

 

"……ある意味、私は貴方を利用しているだけよ。"

"感謝は必要ないわ"

 

そう言って、リオは黙った。

……話を進めろ、という事だろう。

 

「……話は纏まった、という事でいいだろうか……では、ヒマリ、状況の説明を頼む」

 

私の言葉に、ヒマリは頷いて話し始める。

 

「……皆さんへの情報共有も兼ねて、今ここでお話ししましょう」

 

ヒマリは私に見えるように目の前のモニターに映像を投影した。

 

「まず、ルイさん……貴方は今、先のRABBIT小隊との戦闘で死亡した事になっています」

 

「……何だと?」

 

ヒマリが告げたのは、予想外の言葉。

 

しかし画面に映るのは、まごう事なき私の死体。

無論、私は辛うじてではあるが生きている。

ならばこの死体は……。

 

「……フェイクか」

 

「……ええ、セイアさんとミネさんの立案です」

「"貴方を公式に死亡したという扱いにして、追跡を中断させる"事を目的としています。」

 

「……なるほど、理解した。」

 

────しばし思考する。

私自身、死んだと思っていた。

この画像に映っている自分の死体こそが、現実に思える。

そう思わせる程に、その"フェイク"はリアルだった。

 

「……妙な事を聞くが、私はなぜ生きている」

「出血性ショックが原因の意識喪失。出血量を鑑みるに……意識喪失から数分もすれば私は死んでいたはずだ」

 

「……助けてもらっておいて失礼な話だが……私は自分が生きている実感が薄い」

「私が倒れてから……何があったのか、教えてくれ」

 

「それについては……ミネさん?」

 

ヒマリがミネに話を振ると、ミネは重苦しい口調で話し始めた。

 

"ええ、貴方が倒れた直後……まず現場に居た錠前サオリさんが貴方を発見、救命に当たりました"

 

"すぐそこで倒れていた私を叩き起こし……共に救命を開始"

"その結果、貴方は何とか一命をとりとめましたが……意識は戻りそうにありませんでした"

 

"その状況を踏まえ、私たちは……貴方を死亡した事にする。という偽装作戦を実行しました。"

 

"そして、その偽装は無事成功。それによってセイアさんは"救出された"という体で一度トリニティに戻り、内部工作及び……臥せているナギサさんの代わりに実務に当たっています"

 

「……待ってくれ、状況を整理する」

 

「……アリウスの錠前サオリ……それに、ナギサが臥せていると言ったか?」

 

"ええ、ナギサ様は今、身体を壊して病床に臥せています……他ならぬ、貴方が原因ですよ……ルイ"

 

ミネは冷たくそう言い切った。

 

"……ナギサは「君を殺してしまった」、と酷く混乱してね。"

"彼女の泣き声を何度聞いたかわからないくらいだ"

 

"……彼女自身の嘘の結果ではあるが、とはいえ……この仕打ちはやりすぎた"

 

"……これ以外に良い手段が無かったのかと問われると、私は否定しかねる。"

"しかし、私とミネはこれが現状の最善手だと判断した。……すまない"

 

「……そうか」

 

ぎり、と歯を食いしばる。

 

……ふと、もう一人の友人の事を思い出した。

 

「……そうだ、ミカはどうしている?無事に見つかったのか?」

 

その言葉の返答として、セイアの小さな唸り声をマイクが拾った。

 

"無事と言えば無事だ、そうでないともいえる。"

 

"……ミカも、相当にメンタルをやられているようだ。"

"ナギサと喧嘩した直後に君が死んだと聞いたんだ、そうもなろう"

 

"……今はゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナの元で匿われている"

 

紡がれたのは、予想だにしない言葉。

 

「……ヒナの元で?」

 

あのミカが、ゲヘナの……それも、風紀委員長の元に居る?

 

"ああ……過程を端的に説明するのなら、ゲヘナ領内に居たミカをヒナが保護した"

"ヒナはトリニティに帰す予定だったようだが、君が死亡した事を知ったミカは酷く錯乱したようでね"

 

"護送中だったヒナが今のトリニティに帰すのは危険だと判断し、引き返した"

 

"現状は彼女の自宅に匿われている……と言ったところだ"

 

疑問に疑問が続く。

 

「トリニティが危険?どういう事だ?」

 

ミカにとって、トリニティが一番安全であることは間違いない。

────そこに帰すのが危険だと判断する程の何かがあったのか?

 

"いや……トリニティは公式に君の死を"喜ばしい"、と表現したんだ"

 

"君の死を知って酷く混乱しているミカを、そんな場所には連れていけない、との判断だろう"

 

"……実際、ミカが戻れば確実に自棄になって暴れていただろう。私たちはヒナの判断に救われたと言える"

 

……納得した。

確かに、その状態のミカをトリニティに戻せば……自棄になるのは想像に難くない。

 

「なるほど……しかし、彼女にミカを預けて大丈夫なのか?」

 

空崎ヒナは疑いようのない善人ではあるが、一応はゲヘナの人間だ。

ミカのように敵対心を抑えきれない人間の近くに居ては────。

 

"安心してくれ……どうやら、ヒナとミカは友人になれたようだ"

 

「……本当なのか?あのミカが?」

 

"……ああ。"

"私たちは彼女の事を勘違いしていたのかもしれない"

 

"ゲヘナだからと言って全ての人間を憎むほど、彼女は幼くなかったようだ"

 

「……そうか」

 

彼女にゲヘナの友人が出来た。

これほど喜ばしい事もない。

 

「……とりあえず、現状は理解した……他に何かあるか?」

 

私がそう尋ねると、ヒマリが口を開いた。

 

「……もう一つあります。先生についてです」

 

「……先生に何かあったのか?」

 

私が尋ねると、隣に居たヒマリは小さく頷く。

 

「ええ……現在、先生は連邦生徒会の本部に軟禁状態にあると思われます」

 

「貴方の死を受けて、先生はその責任を果たすべく、自らの嘘を公表しようとしたのでしょう」

 

「……当然ながら、連邦生徒会はこの状況下で"先生"の信頼を失墜させるような真似はさせられないと、半ば強制的に口封じ……軟禁しました」

 

「……そのせいで各校の連携や、問題事に対する対応が遅れています」

 

ヒマリは言い切り、私の返答を待つ。

 

「連邦生徒会の行動は尤もだ、死人を顧みるより、今の現状を優先するのは当然」

 

「……とはいえ、そのせいで全体的に支障が発生しているのは容認できん」

 

(……本来なら、傷が感知するまで姿を隠し続けるのが正解だろう。だが……)

 

「明日にでもキヴォトス全体に、私が生きていると知らせよう」

 

「シンボリックな帰還とはいかないが……聞く限りは私の死で発生した問題は、可及的速やかに対処するべきであり……そして、それらは私の生存を知らせる事で大方の解決が見込めそうだと判断した」

 

「……異論あるか?」

 

私の問いに、沈黙が起きる。

当然だ。目覚めてすぐ、傷も治らぬ内ににこの判断を下すのは、あまりにも早急に思えるだろう。

 

「……残念ながら完全な復調を待つ時間は無い、先生の不在でキヴォトス全体に支障が出ているのは事実」

 

「私個人の為に、キヴォトス全体を脆弱な状態に陥らせ続けるのは、この計画の本意に反する」

 

私がそう補足して数秒、セイアが口を開いた。

 

"……異論はない。ナギサとミカをこれ以上苦しめたくはないからね"

 

"……セイア様に同じく、異論ありません。"

 

"異論ないわ"

 

「……私も、異論はありません」

 

「……感謝する。詳細は追って詰めるとしよう」

 

「さて……他に何か提案であったり、懸念点はあるか?」

 

私が問うと、隣に居たヒマリが口を開いた。

 

「……ミネさんやリオも居ますし、良い機会です」

「貴方の口から、目的やその理由を説明してください」

 

ヒマリはそう言って、私を見る。

その眼差しに含みがある事は明らかだったが、私にはその意図が読めなかった。

 

「…………わかった」

 

「さて……端的に説明しよう」

「まずは目的だが……トリニティとゲヘナ間の対立を解消し、講和に持ち込む事が現在の最終目標。」

 

「そのためには私を"共通の敵"とすることで連帯を生み、その過程で強硬派の立場を失墜させる。」

「この計画のためなら、私は傷を与える事も、得る事も厭わない」

 

そう言い切り、次の説明を始める。

 

「……では、この計画を実行した理由に映ろう」

 

「……"黙示録"。ミネはともかく、リオは聞きなじみが無いだろう」

 

「それはトリニティに存在する聖書……その章節の内の一つだ」

「来たる破滅の未来、その時に起きる一連の事象を総括し……"黙示録"と記載されている」

 

「要するのなら、"破滅的な過程を経て、最後には完全なる破滅を迎え、世界は神の元に再誕する"……という内容だ」

 

「まず、"子羊"……私たちが封印を解く事から、黙示録が始まる」

 

「そこから"勝利"、"戦争"、"飢饉"、"死"を象徴する存在が現れ、殉教者の復讐が始まる。」

「数多の天災が起き……地は焼け、海は枯れ、星が落ち、太陽は陰り……最後には、世界は"神"の物となる。」

 

「……それ以降も記述はあるが……置いておこう」

 

「私がそれを恐れる理由だが……予言の内容に酷似した事象が複数、エデン条約を巡る一連の事件では見られた」

「予言に照らし合わせるのなら……段階としては、"殉教者の復讐"。」

 

「……次の段階は、"天災"だが……これは我々には対処のしようがない。」

「しかし……戦争や死を象徴する存在は、いずれも人間やそれに類するものだった」

 

「名前を出すのなら……"聖園ミカ"、"ゲマトリア"、"アリウス"、"ミメシス"。」

 

「……それならば、天災も人間や、それに類する何かである可能性がある。」

 

「ならばとにかく、それらに対抗するため"出来る事をやろう"、というのが私が今こうしている理由だ」

 

「こじつけや妄想だと思ってくれていい……私としては、これが私の妄想であり結果として黙示録が起こらなかったのならそれでいい。」

 

「だが、黙示録が起こらなかったとして……異常機械群やゲマトリア、"過去の遺産"であったり……あるいはそのいずれでもない脅威が未だ存在する以上、我々には自助努力を止め、停滞に甘んじる事は許されない。」

 

「脅威の有無に関わらず、懸念は解決しておくべきだ。」

 

「トリニティとゲヘナのくだらない足の引っ張り合いのせいでキヴォトスが滅びた、などとつまらない話があってはならない。」

 

「……私としては、こう考えている」

 

「当初は私一人で全てどうにかするつもりだったが……今は、それが驕りであったと自覚している」

「……私一人では不可能だ。故に……力を貸して欲しい。」

 

言い終わり、私は皆の反応を待つ。

 

"…………黙示録。"

 

リオが呟く。

 

"それが起きるかはさておき、「起きない」選択肢を排除して対策に当たる、というのは……正しい判断よ"

 

"突飛に見える予言や記録が事実で、内容通りに破壊的な結果を齎しかけた、という案件には複数心当たりがあるわ"

 

"貴方のやり方は過激と言わざるを得ないけれど……現状が既に破滅の過程にあるとすれば、仕方のない事ね"

 

"目的は理解したわ。私の意志は変わらず……協力を惜しむつもりはない"

 

リオはそう言って、納得したように黙った。

 

"……ルイ"

 

ミネの声がする。

 

聞き慣れた……怒りを滲ませた声だ。

 

"やはり……貴方はつい先日命を落としかけたというのに、まだこのような事を続ける気なのですね"

 

怒号を嚙み潰したような声を上げ……ミネは大きく息を吐き出し、深呼吸の音がスピーカー越しに聞こえる。

 

"……私が、サオリさんが、ヒマリさんが、エイミさんが、セイアさんが辛うじて繋いだ命を……再び投げ出すつもりですか?"

 

怒りが極限に達したのか、ミネの怒気は蒼く燃える冷たい炎の如く、言葉に乗って私に突き刺さる。

 

"……ルイ、私は貴方の死を見ました。"

 

"本来なら、貴方はあの遺体のように棺に入れられていたでしょう"

"いいですか、貴方が今生きているのはただ「運が良かった」から。ただ、それだけなんです"

 

"……その意味をよく考えて、行動しなさい"

 

そう言ってミネは声色を落とし、ぽつぽつと続ける。

 

"……ルイ、私は貴方を止められません。"

"これまでがそうであったように、きっとこれからもそうなのでしょう"

 

"貴方の意図は理解しました、それが邪な物でない事も。"

"……ですから、私はもう何も言いません"

 

ミネはそう言って、沈黙した。

 

「………………すまない、ミネ」

 

絞り出すような謝罪が、空しく響く。

 

「……間違いなく、今私が生きているのは皆のお陰だ、心から感謝している」

 

「その命を再び投げ出すのか、と問われれば……私に返せる言葉は無い。」

 

「……それでも、この計画は私の命を賭すほどに意義あるものだと信じている。」

 

「事実として、トリニティとゲヘナ間の軋轢は計画の実行前より優和な物となってきている……計画続行を決断するには十分な成果だ。」

 

「……一度失敗し、死にかけた私の作戦遂行能力に疑問を抱くのは当然だが……どうか今一度、私を信じ────」

 

"パアンッ!!"

────何だ?

 

破裂音と共に揺れた視界に困惑する。

攻撃、というにはあまりに弱い。

 

視界を戻すと、ヒマリが私を睨んでいる。

 

────ああ、頬を叩かれたのか。

 

「……すみません、ルイは私がきつく叱りますので……どうか、許してあげてください」

 

「……ヒマリ、何を────」

 

「ルイ、誰も貴方に命を賭せだなんて言っていませんよ」

 

「……比喩表現の一つだ、私に死ぬつもりは無い」

 

「比喩表現……?そんな事の為にその言葉を軽々しく使ったと?」

 

「それに、"つもりは無い"……というだけですか?」

「仮にそうする必要があれば、貴方はそうするでしょう。そういう人だと知っています」

 

強い怒気を滲ませ、私を睨むヒマリと目を合わせる。

 

……ああ、私は彼女との約束を違えたのか。

 

("何があっても、命を懸けるような真似はしないでください")

 

それが、ヒマリが私に協力する際に提示した条件。

 

「……すまなかった」

「だが……今までも、これからも、君との約束を違える気は無い」

 

「先ほどの言葉は撤回する。許してくれ」

 

「……良いでしょう。口には気を付けてください」

 

そう言って、ヒマリは一つ溜め息を吐いた。

 

「……はあ、急に騒いでしまって申し訳ありません」

 

"……構わない、君が代わりに叱ってくれてよかった"

 

"……ありがとうございます、ヒマリさん"

 

セイアとミネはヒマリに礼を言って、再び沈黙が流れる。

 

「……皆にも、改めて謝罪する……すまなかった」

 

「……わかればいいのです、さて……」

 

「良い時間でしょう、連絡事項も共有しましたし……会議はこれで一度お開きという事でいいですか?」

 

"ええ"

 

"ああ、あまり長くこうしているのも怪しまれそうだしね"

 

"……ヒマリさん、ルイをお願いします"

 

「……お任せください、では、これで失礼いたします」

 

その言葉を最後に、通話は切れた。

 

「……ふう」

 

ひとつ息を吐き、背もたれに体を預けると、隣に居たヒマリが私に手を伸ばす。

 

「……言いたい事は多々ありますが……今は、明日の事を考えましょう」

 

重苦しい雰囲気を纏うヒマリに、私は無言で頷くしかなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。