"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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聴聞

 

トリニティ本校/議事堂

 

 

「…………」

 

ミネは両腕に拘束具を着けられ、証人台の前に立たされていた。

しかしその立ち振る舞いや眼差しに揺らぎは無く、議長や各派閥の首長らの席を堂々と見つめている。

 

「……ではミネ団長、先ほど魔王が行った声明に対しての説明をお願いします」

 

「彼女が言った事で全てです。あれ以上に説明する事はありません。」

 

議長の促しに対し、ミネは一切動じずにそう返答した。

その様子をティーパーティの座席で見ていたセイアは、困ったように眉を下げる。

 

「……ミネ、どういう経緯を経て彼女を助けるに至ったのか、という事を聞いているんだ」

「別に君をどうしようという訳ではない、これは一応の事情聴取のようなものだ」

 

「改めて、聞かせてくれないかい?」

 

セイアの言葉にミネは数秒瞑目し、小さく息を吐き出した。

 

「……わかりました」

 

「────ルイの捜索中、ゲヘナ自治区内で彼女に遭遇しました」

 

「交戦になりましたが、確保に失敗し……私は気絶。」

 

「その後……名前は伏せますが、ある生徒が私を起こし、出血性ショックにより意識障害を起こしていたルイの救命に協力するよう、目覚めた私に要請しました」

 

そこまで説明したところで、議席はざわつきだす。

 

「……ミネ団長、この場では名を伏せず、その者の名も含めて説明してください」

 

議長の言葉を皮切りに、野次が飛び始める。

 

「その生徒が魔王の協力者である可能性がある以上、伏せるべきではありません!」

 

「そうです!この聴聞会に於いて、一切の秘匿は許容されま────」

 

「……黙りなさい!!」

 

ミネは声を荒げ、荒れた議会を一喝した。

 

「……その者がルイの協力者ではない、という事は間違いありません。」

 

「だからこそ、私はその名を伏せているのです」

「貴方達が彼女にあらぬ嫌疑を掛けて、手を出そうとする事は予想できますから。」

 

「……どうしても気になるのなら先生に聞いてください。彼なら彼女の正体を知っています」

「そして、彼女がルイの協力者ではないという保証もしてくれるでしょう」

 

ミネがそう言い切ると、議事堂に十数秒の沈黙が流れ……セイアが口を開いた。

 

「……わかった。彼女の正体は私が責任を持って先生に問い合わせよう」

「プライバシーに配慮し、その件についての公示が無ければ、その者の疑いは晴れた、という事にしてくれ」

 

「それと……当然ながら、黙秘権は保障されている」

「逸る気持ちは理解するが、それを侵害するような発言は謹んでくれ」

 

「……失礼しました、セイア様」

 

セイアが諌めると、ヤジを飛ばした生徒はすごすごと着席し、再び議会に沈黙が戻る。

 

「遮って悪かったね、続けてくれ」

 

セイアがそう促すと、ミネは小さく頷いた。

 

 

「────その者に起こされた後、即座に救命を開始。」

 

「ルイが所持していた代用血液製剤キットを使用して時間を稼ぎ、近所の貸倉庫内にて手術を行いました」

 

「診断と処置の結果、内蔵の損傷及び出血性ショックによる意識混濁、そらに加えて予後悪化の可能性を鑑み、彼女から離れる訳にはいかないと判断し……状態が軽快するまで、具体的には、2日前まで彼女の傍に居ました。」

 

ミネが説明を終えると、再び議会がざわつき始める。

 

「……では何故、医療機関に連れ込まず……その場での治療を選択したのですか?」

 

シスターフッド所属の生徒の一人が、手を上げて質問する。

ミネはその者を一瞥し、はっきりと回答した。

 

「……誓いを経た医の道を歩む物として、患者の身分や過去、立場に依らず、患者にとって最善の策を以て助ける事が私の義務であり、使命です。」

 

「最初の手術時点で峠は越えており、後は経過を看つつ安全な場所で保護しておく事が最善だと判断しました。……故に、私は彼女の傍に居たのです。」

「弱り目に付け込み、良からぬ事を働こうとする輩が居るのは予想できますから」

 

「……回答に感謝します、ミネ団長」

 

ミネの説明に質問者はそう述べて、再び着席した。

 

「では……"指示を受けたミネによる偽装工作"だ、という旨の発言を魔王が行っていましたが……具体的にはどのような指示を受け、どのような偽装を行ったのですか?」

 

続き、ティーパーティ所属の生徒が尋ねる。

 

「……手術後一時的に意識を取り戻したルイの指示で、私は一度トリニティに戻りました」

 

「その際に彼女が用意していた偽装用の死体を持ち込み、一時的に衆目に晒した後、頃合いを見て火を放ち……その後すぐに、彼女の傍に戻りました」

 

ミネは淀みなくそう説明すると、質問者に対して視線を向ける。

 

「では、"脅されている"とも魔王が説明していましたが……どのような脅しを受けたのですか?」

 

質問者は矛盾点を捜しているのか、質問を小出しに、詳細に尋ねてくる。

 

「セイア様の監禁場所の情報と引き換えに、という条件でした。」

 

「ルイは"私が倒れれば、セイアは飢え死にする"と言っていました。」

「そして、"偽装工作が遂行された事を確認したら、セイアの監禁場所を教える"、と。」

 

「……それなら、セイア様を救出したのち、死は偽装だと説明すればよかった話でしょう。なぜそうしなかったんですか?」

 

「……先ほど言ったように、経過を看るにあたって……外部の攻撃から彼女を保護するため、一時的に死した事にしておく方が都合が良いと判断しました」

 

質問者の追撃に対し、ミネはつらつらと回答する。

 

質問者はついに諦めたのか、不貞腐れ気味に"ありがとうございます"と返して着席した。

 

議論も煮詰まってきたところで、開始から今までずっと黙していたナギサが口を開く。

 

「……ミネ団長、一つお聞かせ願います」

 

「ルイは何故、貴方の元を離れたのですか?」

「……そして、今のルイの状態は……大丈夫なのですか?」

 

そう尋ねたナギサの声は、あまりにもか細く……議会のざわめきに呑まれてしまいそうなほどだった。

 

しかしミネはその声を聞き逃さず、ナギサにぎろりとした眼差しを送り……ゆっくりと返答する。

 

「……逃げられました、二日前の事です。」

 

「まだまともに動けるような状態ではないと考えていましたが、気付いた時には部屋はもぬけの殻になっていました」

 

「……しかし、ルイは自らの状態を正確に把握していましたので……無茶な事はしないと判断し、しばらくは生存を隠しておくつもりでした。」

 

「彼女の負った傷は内蔵にまで及び、完治どころか寛解までも長い時間を要するような傷です。……とても"大丈夫"とは言えません」

 

「彼女の生存が知れてしまえば、今度こそ命を落とすような事態が起こりかねないと判断しました。それ故の選択です」

 

返答し、ミネはぽつぽつと続ける。

 

「……彼女の逃走を許した事は間違いなく私の責任であり、この件についてあらゆる誹りや裁きも覚悟しております」

 

「……しかし、彼女の命を救った事に関しては、一切の後悔はありません」

 

そう言い切って、ミネはナギサに視線を帰す。

 

……ナギサは悲し気に目を伏せ、例も言わぬまま着席した。

その様子を見たセイアが、代わりに立ち上がる。

 

「……事情と状況はおおよそ理解できた、ありがとう」

 

小さく頭を下げ、セイアは議長席に向き直る。

 

「さて、議長……聞きたい事はおおよそすべて聞けただろう。ティーパーティとしては、これ以上時間は取りたくない」

 

「……そろそろ議論の決定に映るべきじゃないかい?」

 

セイアがそう促すと、議長は議事堂内を見渡す。

 

「……そうですね、では……処遇の議論に映ります」

 

そう言って議長がガベルを振り下ろすと、議論の内容はミネの処遇へと移った。

 

 


 

 

「────では、蒼森ミネには魔王が確保されるまでの期間、ティーパーティとシスターフッドによる監視下に入り……それに加え、2か月間のトリニティからの出校停止処分に処します」

 

議長がそう宣言し、聴聞会は終了した。

 

ミネが監視の生徒に連れ添われて退室した事を確認し、セイアは小さく伸びをして、椅子にもたれかかった。

 

(ミネの処遇は想定内、カバーストーリーも打合せ通り。これなら問題ないだろう)

 

難局を一つ越え、一つ息を吐き出す。

その時、隣で俯いているナギサに気が付いた。

 

「……ナギサ、大丈夫かい?」

 

ぼうっとした様子のナギサに声をかけると……彼女はゆっくりと顔を上げる。

 

「……すみません、少し考え事をしていました。お気遣いありがとうございます」

 

そう言って苦々しく微笑んで見せたナギサは、無理をしているようにしか見えなかった。

 

(……そう簡単に、立ち直れはしないか)

 

「……急に連れ回してしまってすまないね」

 

セイアは小さく謝って、立ち上がる。

 

「とはいえ、ルイの対応の会議もある……すまないが、もう少しだけ付き合ってくれ」

 

そう言って手を差し出すと、ナギサはおずおずとその手を取り、立ち上がった。

 

「……では、行こうか」

 

「はい……」

 

そっと扉を押し開けると……開かれた扉の前で、見知った顔が待っていた。

 

「……ナギちゃん、久しぶり」

 


 

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