"黙示録"を回避しよう!   作:rezi

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過誤

夜:トリニティ本校/ナギサの部屋

 

 

────公示の会見を前にした夜。

 

ナギサはセイア達と共に会見を見る……事はせず、部屋で休んでいた。

 

……本心を言うのなら、セイアやミカと共に居たかった。

 

しかし、精神面での不調は容易に癒えるものではなく、臥せていた事で体が鈍っていた事もあいまってナギサは貧血を起こしてしまった。

 

それを見かねたセイアによって、"今日は休むと良い"、と部屋に贈られたのだ。

 

"ヴヴ……"

何とか落ち着こうと紅茶を口に運んでいると、唐突にナギサ私用のスマホが震え、通知を知らせた。

 

「……?」

 

私用のスマホがなる事は滅多になく、それを不思議に思いながらもスマホを手に取り、内容を確認する。

 

「……っ」

 

────その送り主は、"先生"だった。

 

"ごくり"、と溜まった唾液を飲み下す。

 

……先生を嘘に加担させておいて、"今更合わせる顔が無い"というのが正直なところだった。

 

ルイが死んだと知った日から先生とは話せていない。

 

……あの日来た着信は無視したまま、折り返す勇気はついぞ出なかった。

先生もそれを察したのか、それ以降電話を掛けてくることは無かった。

 

そして、自分の過ちから逃げ続けた今。

 

"会見の前に、少し話したいんだけどいいかな?"

 

送られてきたメッセージの隣には"既読"の二文字。

それは、私にもう逃げ場がない事を示していた。

 

(…………!)

 

どくどくと鼓動が早まり、視界が狭窄する。

乱れる息を抑えながらも、震える指で"わかりました"とだけ送る。

 

すると、すぐに"今から通話していいかな?"、と返信が来た。

 

通話。それは直接言葉を交わすと言う事。

本音を言うのなら、とてもじゃないが話せる気分ではない。

 

(……しかし、ここで逃げてしまっては……私は────)

 

 

────その瞬間。

ぶるぶると携帯が震え、着信を知らせた。

 

(……!!)

 

固く拳を握り、逃げたくなる自分を抑え込んで────私は応答ボタンに触れた。

 

 

"……久しぶりだね、ナギサ"

 

「……お久しぶりです、先生」

 

久しぶりに聞いた先生の声は、記憶に相違ない優しい声だった、

"すぅ"と揺れる意識を整えるように、深く息を吸う。

 

「……申し訳ありませんでした!」

 

意を決して、叫ぶように謝罪する。

 

「私があのような提案をしたせいで──"違うよ、ナギサ"

 

しかし、先生は私の言葉を遮って、はっきりと否定した。

 

"私がナギサの提案に乗ったから、こうなってしまったんだ"

"ナギサの責任じゃない、これは許可した私の責任だよ。"

 

「…………」

 

先生はそう言って、私から責任までもを取り上げた。

 

「……ちがう、違うんです……!」

 

────私は、赦しが欲しいのではない。

 

"……ナギサ?"

 

私が欲するのは────。

 

「……先生、お願いします……私を、叱ってください……!」

 

こぼれた言葉は、余りにも情けなく……恥知らずな欲望に満ちていた。

 

"……わかった。"

 

先生は少しだけ沈黙して……私の厚顔無恥な願いを了承した。

 

"……でも、これは確かに許可した私の責任なんだ"

"皆の先生として、大人として……私は許されない選択を下してしまった"

 

"……自分を棚に上げて、ナギサだけを叱る事は出来ない。"

 

"だから、自分にも言い聞かせるつもりで言うね"

 

先生はそう前置きして、続ける。

 

"……本当に彼女の事を想うなら、嘘を吐いて……それも、殺人に誤認させるような事を言うべきじゃなかった"

 

"そんな事をするくらいなら、私の……シャーレの力を、振るうべきだった。"

 

"……でも、私はそれを恐れていたんだ"

 

"……シャーレには文字通り無法な権限がある"

"その力を一人の生徒を追い詰める為に使う事は……先生として、できなかった。"

 

"ナギサのせいにする訳じゃない、けど……その点でナギサの作戦は都合がよかった"

 

"シャーレの力を振るわずに……わざとらしくとも、あくまで勘違いとして処理できれば、ルイの罪も重くならずに……禍根も殆ど残らない。"

 

"……今思えば、自分の愚かさに辟易とするよ。"

 

先生は沈痛な声色で、淡々と後悔を吐露する。

 

「……不可能だと判ずれば、諦めると思ったんです」

「現状のように、全てが敵に回ってしまえば……諦めて降伏するはずだと」

 

「万が一に諦めなかったとして……キヴォトス全体が敵に回れば、すぐに確保できると。」

 

"……私も、そう思ったんだ……だけど、そうはならなかった。"

"結果としてルイが諦める事はなく、私たちに煽り立てられた怒りは恐怖に代わって……彼女を死の寸前に追いやった。"

 

悲しげに言葉を紡ぐ先生の声は、僅かに震えている。

彼の怒り、悲しみ、やるせなさ、罪悪感。

言葉に乗った感情の全てが痛い程にナギサに伝わる。

 

"……ルイと交戦したRABBIT小隊の子は、本当に怯えていた"

 

"殺されると思った、ってね"

 

"私達が煽り立てたせいで、彼女は恐ろしい存在と認識されてしまった"

"人を殺すことを厭わず、無差別に襲撃を掛けてくるような……それこそ、魔王のように。"

 

"……当たり前だけど……殺されると思えば、殺すつもりで戦ってしまう。"

"そんな事を勘案せずに、彼女を止める為に。だなんて……浅慮が過ぎた。"

 

「……仰る通りです。私は……私たちは、選択を誤りました。」

 

"そうだね。私たちは、間違えてしまった。"

 

お互い沈黙し……罪を噛み締める。

 

そして……先生は意を決したように、話し始めた。

 

"……だけど、本当に、本当に幸運な事に……まだ、ルイは生きている"

 

「……はい」

 

"彼女のした事は許される事じゃない。でもそれは……私達も同じだ"

 

"彼女を止めよう。そして……二人で謝ろう。"

 

そうだ、ルイはまだ生きている。

一度彼女の死を見たからこそ……その意味をはっきりと理解できる。

 

ルイを止めて、お互いに謝って……元の生活に戻りたい。

その願いが、再びナギサの胸に灯った。

 

「はい、先生」

 

決意をもってそう返答すると、先生は嬉しそうに"うん"と答えた。

 

"そういえば……ナギサ、ルイの放送は見た?"

 

「……はい、セイアさんに起こされて……」

 

"気付いただろうけど、ルイは私の事を、あの時殺しておくべきだった……って"

 

"……私達が吐いた嘘を、彼女は真実として宣言した"

 

"つまり……利用された、あるいは……"

 

「……庇われた。」

 

"うん……その可能性もある"

 

"真意を知らない以上、私は本当の意味でルイの目線には立つことはできない"

 

"……だけど、どう考えてもあの放送は彼女にメリットが無さすぎる。"

 

"セイアから貰った議事録を見る限り、ルイはまだまともに動けるような状態じゃないようだし……今このタイミングで生存を知らせ、敵意を煽る事は危険だと分かっているはず"

 

"そもそもトリニティとゲヘナに対する宣戦布告なら、私に対して何かを言って……わざわざ敵を増やす意味が無い"

 

"それどころか私達の嘘を糾弾する、あるいは無言を貫くのがベストな判断だったはず。"

"皆から聞く限り、そんな迂闊な……言ってしまえば、自殺行為のような真似をする子じゃないよね"

 

「……はい」

 

そう返答して、脳裏を過った考えがナギサの胸をチクリと刺す。

 

「……ですが、私が知り、接していたルイが本物の……本心の彼女なのか、わからないんです」

「彼女はただ、演技をしていただけなんじゃないかって」

 

"……そうかもしれないね"

 

先生は私の言葉を否定せずに、続ける。

 

"……私は彼女の事を知らないから、何も言ってあげられない"

"でも……例えそれが本心じゃなかったとしても、天城ルイという人間の一部ではあったんじゃないかな"

 

「…………そう、でしょうか」

 

"うん、偽りの人格を数年演じ続ける事なんて、普通は出来ないよ。"

 

そう言って、先生は私を慰めた。

 

「……ありがとうございます……少しだけ、救われました」

 

"そっか、良かった……じゃあ、私達も頑張らないとね"

 

「……はい」

 

"っと……そろそろ会見の時間だ。話せて嬉しかったよ、ナギサ"

 

「私も、話せて嬉しかったです」

 

"うん、またね"

 

名残惜し気な言葉を最後に、先生との通話は切れた。

 

(……私も、ここに引きこもっている場合ではありませんね)

 

 

────ナギサはぐい、とカップの紅茶を飲み干して、部屋を出た。

 

 

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